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真偽官


「ルードだ」


「すまないが、冒険者カードを見せてくれるかね?」


 ランカースの求めに応じて、俺はポケットから冒険者カードを取り出した。


 ランクEを表す銅色のカードには、俺の名前、年齢、ギルドの定めたランクが記載されている。


 ギルドが冒険者としての身分を保障している証だ。


「提示、ありがとう。纏う雰囲気は違うが、確かに君はルードだな」


 俺もレベルが上がったからこそわかる。ランカースという男の強さが。


 元Aランク冒険者だったというのは伊達じゃないな。


 具体的な数値を【鑑定】で覗いてみたい気持ちに駆られるが、さすがに許可もなく見るのは失礼なのでやめておく。


「聞きたいんだが、俺は死んだことになっているのか?」


「ああ、アベリオ迷宮の四階層にてミノタウロスが出現し、ポーターとして同行された君は殺されたという報告を『緋色の剣』から受けている」


 なるほど。それでアベリオ迷宮に冒険者が潜らなくなったのか。


 ミノタウロスのような魔物が低階層をうろついていたら、ほとんどの冒険者はおちおち探索することもできないだろうからな。


 まあ、今はそんなことはいい。気になるのはバイエルたちが俺のことをどのように報告したかだ。


「具体的にどのように殺されたかは?」


「ミノタウロスと遭遇し、なすすべもなく殺されたとしか聞いていないな」


 やはり、バイエルたちは俺を見捨てて囮にしたことを報告していないみたいだ。


「へー、俺が実際に体験したこととは違いがあるなぁ」


「や、やあー! ルード君! 無事だったのか!」


 ランカースが口を開こうとした途端、バイエルが姿を現して声をかけてきた。


「ミノタウロスに襲われた時はダメかと思ったけど、まさか生きているとは思わなかったよ!」


「怪我はねえか? 俺たち心配してたんだぜ?」


「ルードを探しに行こうと思ったけど、アベリオ迷宮が閉鎖されちゃって中に入れなくなって……探しに行けなかったの」


 バイエルだけでなく、リック、サーシャが本当に俺の身を案じていたかのような顔をして近寄ってくる。


 こいつら俺を囮にして見捨てておきながら、よくそんな言葉をかけられるものだ。


「さあ、ルードの生還を祝おうじゃないか」


「いいレストランを知っているんだ。そっちで飯でも食おうぜ」


「賛成!」


 バイエルとリックが左右から挟み込むようにして肩を回してくる。


 なにげない風を装っているがかなり力が込められており、無理矢理にでも俺をランカースから引き離したいという気持ちが透けてわかった。


 レベルアップする前のステータスであれば、為すすべもなく連れていかれただろうが、今の俺はそうはいかない。


 俺は二人の力に抗って、その場に留まり続けた。


「生還祝いなんていらねえ。それよりも俺はギルドマスターに報告することがある」


「なにを言っているんだルード君。せっかく無事に帰ってこられたんだ――」


「――俺はお前たちに迷宮で捨て駒にされた」


 淡々とした俺の報告にギルド中がシーンとした静かさに包まれた。


 冒険者において、仲間を見捨てる行いは禁忌とされている。


 冒険者ギルドのルールでも仲間を殺すような行いや、見捨てるような行いは禁じられており、それらを破れば重い罰則が定められている。


 良くて冒険者資格の剥奪に重い罰金。最悪の場合は鉱山奴隷や死刑もあり得るほどだ。


 冒険者は助け合いだ。それなのに我が身大切さに率先して仲間を裏切るようなものがいれば、安心して背中を預けるようなことができなくなってしまう。


「見捨てられたとは、どのように?」


「バイエルに荷物を奪われ、背中から斬りつけられた。リックにはスキルを使ってミノタウロスを擦られ、その後はサーシャがヘイストを使って三人で逃げた」


 俺の声を聞いて、周囲で聞き耳を立てていた冒険者もドン引きといった顔だ。


「それが本当であれば由々しき事態だ」


「そんなことはしていない!」


「大体、ルードの背中には傷だってねえじゃねえか!」


「傷は治したからねえが、ざっくりと鎧が斬りつけられた痕があるだろう!」


「魔物に斬られた傷だろう? 僕たちのせいにしないでもらいたいね」


 などと主張してみるが、当然バイエルやリックは認めることはない。


 やった。やっていない水掛け論だ。


「そもそも、私たちがそんなことをした証拠なんてどこにあるのよ?」


 そう言われると、こちらの立場も微妙に弱い。


 なにせあの場所にいたのは、コイツらだけで他に目撃者はいなかった。


 真偽のほどを確かめるのは不可能に近い。


 所詮、迷宮でのトラブルは自己責任だ。


 俺が訴えかけることによってバイエルたちの評判は落ち、ギルドに目をつけられるがそれだけだ。


 またほとぼりが冷めた頃に同じことを繰り返すか、別の街で活動を再開するだろう。


 やるせない。


「ならば、真偽のほどを明らかにさせよう。真偽官」


 ランカースが声を上げると、奥から紫色の法衣を纏った少女が出てきた。


 その少女を見た瞬間にギルド内がざわつく。


 なぜならば、その紫の法衣は【真偽】スキルを所持している真偽官の証だからだ。


「ど、どうしてここに真偽官がいるんだ!?」


 真偽官の姿を見て、バイエルが驚きの声を上げる。


 人の嘘を見抜く【真偽】スキルは先天的なスキルであり、後天的に手に入れることができないとあってか所持している者は稀少だ。故にそのスキルを持った者の多くは国に召し上げられ、真偽官とし

ての職につく。


 真偽官は王族や貴族が住まう王都にいることがほとんどで、このような辺境の小さな都市にいるはずがないのが普通だ。


「……ここ最近妙にきな臭いことが多いからな。昔の伝手を頼って呼んでいたのさ」


 じろりとバイエルたちに視線を送るランカース。


 やけに手慣れた手口だった故にバイエルたちが今回のような事を繰り返しているのは明らかだ。


「真偽官、この冒険者たちはルードの主張を否定しているようだが、真偽のほどはいかがだった?」


「……『緋色の剣』のメンバーは嘘をついている。そこにいるルードという男の主張が真実」


 ランカースが尋ねると、真偽官が淡々とした口調で述べた。


「決まりだな」


「そ、そいつは嘘を言っているんだ! 僕たちはやっていない!」


「おいおい、見苦しいぞ。真偽官による判定だぞ? これ以上ない証拠だ」


【真偽】スキルによる判定は絶対だ。それは国によって正式に認められている。


「私たちは四階層でミノタウロスに遭遇したのよ? あんな化け物に遭遇すれば、誰だって命が惜しいに決まってるじゃない!」


「それだけなら情状酌量の余地もあったが、仲間を後ろから斬りつけ、擦り付けるのはやり過ぎだな。明確な悪意しかない。それ以外にもお前たちのパーティーに臨時で加入しているポーターがやけ

に死んでいる。他にも叩けば色々と出てきそうだな?」


 恐らく、冒険者ギルドはバイエルたちに目をつけていたのだろう。


 だからこそ、ランカースは王都に掛け合って真偽官を呼び寄せていたに違いない。


「余罪は後で確かめるとして冒険者資格剥奪の上、奴隷落ちになるのは間違いないだろうな」


「ね、ねえ、嘘よね? 私、奴隷なんて絶対嫌よ!」


「俺だってなりたくねえよ! こんなことで奴隷なんて冗談じゃねえ!」


 ランカースの言葉を聞いて、サーシャとリックが真っ青になって叫ぶ。


 こんなことと言っている辺り、本人たちがどれだけ悪質なことをしていたかの認識は薄そうだ。


 にしても、バイエルがやけに静かだ。


 不自然に思って視線を向けると、バイエルは俯きながら身体を震わせていた。


「ククク、僕が冒険者資格を剥奪……奴隷……こ、こんなこと認められるものかあああああああああ!」


 バイエルが剣を抜いて動き出す。


 俺に襲いかかってくるのかと思いきや、矛先は真偽官であった。


 さすがに見過ごせない動きだったために、俺はすぐに反応して真偽官とバイエルの間に割り込む。


「どけええええ! 瘴気漁り!」


「真偽官に手を出すのはダメだろうが」


 俺はがら空きになっているバイエルの顔面を殴って吹き飛ばした。


「あっ、やり過ぎちまった」


 手加減はしたつもりだったが、つい迷宮で捨て駒にされた怒りで力が入ってしまった。


「生きていれば構わんさ」


 白目を剥いてしまっているバイエルだが、ピクピクと身体は動いている。


 ちゃんと生きていることにひとまず安心だ。


 こいつらにはちゃんと生きて罪を償ってほしいからな。


「な、なんでレベル7なのにバイエルに勝てるんだよ!?」


「瘴気漁りの癖におかしいわよ!」


「なんでだろうな」


 本当はレベル42なのだが、それをこいつらに教える必要はない。


「で、お前たちもやるか?」


 殺気を放ちながら圧をかけるランカースにリックとサーシャは早くも戦意を喪失し、大人しく奥の部屋へと連れていかれるのだった。







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『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
[一言] ギルドまで腐ってなくてよかった
[一言] なんでルードのレベル知られてるんだろう たいして実力もなくいろいろ言われてる人物が自分で私は弱いですって公言するんだろうか。謎だ
[良い点] 見事な報復回★ 僕も職場で似たようなパワハラを幾度となく体験しているので ルード(主人公)の行為に胸がスカっとした! いいぞ!もっとやれwww [気になる点] 擦り付けパーティーの末路★ …
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