海鮮屋台料理
『南風亭』を出発すると、俺たちは中央市場の傍にある屋台通りへとやってきた。
中央市場の近くとあって大通りは多くの人で溢れかえっている。
観光客にも人気のようで、この大通りだけは様々な種族がいる 。
「うおおおおおお! どれも美味そうだな!」
「どれもバロナじゃお目にかかれない食材ばかりね」
屋台に視線を向けると、あちこちで魚や貝、蟹、海老などの海鮮食材の焼かれる匂いが漂っていて美味しそうだな。暴力的なまでの磯の匂いが胃袋に効く。
「あそこにある串焼きが食べたいのじゃ!」
アルミラが指さしたのは、大きな貝、海老、魚などが串に刺ささったものだ。
網の上で豪快に焼かれ、実に香ばしい匂いを放っている。
「いいぜ。あれを買うか」
「いいわね」
珍しい海鮮食材を食べるより、まずは王道的なものを味わいたかったからな。
「おやじ、三種類の串焼きを三本ずつ頼む」
「ホタテに大海老に紅魚だな。わかった。全部で二千レギンだ」
「安いな!」
「ははは、ここは港町だからな」
これだけの魚介類を他の町で頼んだら、この倍以上の値段は するだろう。
銀貨二枚を渡すと、店主のおやじは海鮮串を渡してくれた。
一本多いのは多く買ってくれたことへのサービスだろう。
「美味そうだな。早速、食うか!」
空腹だった俺たちは屋台を離れると、すぐに海鮮串を食べることにした。
ここは屋台が多く立ち並ぶ屋台街。明らかに邪魔な場所にいない限り、誰も食べ歩きを咎める者はいない。
まずはホタテと呼ばれる大きな貝から。これほど 大きな貝は初めてだ。
大きく口を開けて頬張る。
「うめえ!」
プリプリとした食感だ。噛み締める度に身がほぐれ、貝の旨みが口の中で広がる。
故郷の川や、バロナ周辺の川に棲息する沼貝などとは味の濃厚さが段違いだ。
変な臭みや泥臭さはまったくなく、磯の香りが鼻孔をくすぐる。
ホタテの次は大海老を味わう。
熱によって甲殻が 真っ赤になっており、とても美味しそうだ。
殻ごとそのまま食べられるとのことなので、頭から思いっきりかぶりつく。
パリパリッとした音が鳴り響き、中から赤模様の入った白い身 が出てくる。
甲殻の下にある身はとても柔らかく、独特な甘みがあった。
振りかけられた塩味との相性が絶妙で美味しい。
大海老を平らげると、次は紅魚だ。
しっかりと焼き目のついた皮はパリッとしており香ばしい。
中にある身はしっとりとしており、やや脂身の強い味わいだ。
「おー! どれも美味いのじゃ! 特に黒いソースとの相性が抜群じゃのう!」
「さすがはイスキアね!」
アルミラとエリシアも串焼きを頬張り、それぞれの感想を漏らしていた。
俺が気になったのはホタテにかけられた黒いソース。
甘くもあり、苦くもあり、香ばしくもある、この不思議なソースは一体なんなのか。
エリシアなら知っているかもしれないが、海鮮串を堪能しているみたいなので先ほどの屋台に戻って聞いてみることにした。
「それは醤油だぜ」
「醤油?」
「和国の調味料らしくてな。これが海鮮食材によく合うんだ」
おやじが足元にある大きな壺を見せてくれる。その中には真っ黒な液体が入っている。
これがホタテに塗られている醤油とやらの正体らしい。
すぐ傍の露店で売っているとのことなので、俺はすぐにその露店に移動して醤油を購入した。
一壺で銀貨五枚ほどと中々の値段がしたが、海を越えた先にある国から仕入れているので仕方がないだろう。
これだけ深い味わいが出るならば、炒め物や煮物に活用することができそうだ。
普通の料理だけでなく、魔物料理の幅も広がった気がする。
いい調味料を手に入れて気分はホクホクだ。
元の場所に戻ると、エリシアとアルミラが待ってくれていた。
待っている間にエリシアはエールを買い込んでおり、アルミラは海鮮串を追加で買って食べていた。
「どこに行ってたの?」
「すまん。ちょっと醤油を買っていた」
「あー、数年前に和国から輸入されるようになった調味料ね」
「エリシアは和国に行ったことがあるのか?」
「行ったことがないけど、仲間の一人の故郷 だったわね……」
どこか遠い目をするエリシア。
エーベルトからもらったメモには、かつての彼女の仲間の情報が記載されているが、伝えるべきなのだろうか。
いや、今はイスキアでのレベルアップと海底迷宮の攻略を 目的としている。
今の段階で告げたところで彼女に迷いを生じさせるだけで意味はないだろう。
伝えるにしてもここでの活動が落ち着いてからだな。
「見よ、ルード! すごい顔をした魚がいるのじゃ!」
気持ちを切り替えていると、アルミラが露店に並んでいる大きな魚を指さして言った。
「うお、すごい見た目だな」
真っ黒な鱗を纏っており、角ばった大きな顔をしている。
目玉も異様に大きく、口から覗いて見える牙もかなりデカい。
「……これ、魔物じゃないの?」
「ハハハ! そいつは大黒魚っていう普通の魚だぜ! 見た目のせいで忌避されがちだけど、普通に美味いぞ?」
エリシアが思わず呟くと、店主が笑いながら言った。
どうやらこの屋台では大黒魚から出汁を取ったスープを売っているらしい。
「せっかくだし食ってみるか」
「うむ!」
「え、ええ」
大黒魚のスープを三人前頼む。
大きな器の中にはタマネギ、ネギ、ニンジン、海藻の他に黒い魚の切り身が浮いていた。
スープ自体は割と透き通っており美味しそうだ。
「あ、普通に美味え」
「美味しいのじゃ」
大黒魚の切り身を食べると、口の中でほろりと溶けた。
「本当ね。想像よりも優しい味だわ」
奇怪な見た目をしているために味にも癖があるんじゃないかと思ったが、見た目とは裏腹にとてもあっさりとした味わいだった。
匙でスープを飲んでみると、出汁の旨みがしっかりと溶け込んでいる。
ニンジン、タマネギがしっかりと出汁の旨みを吸い込み、優しい甘みを吐き出していた。
「見慣れないものだからといって、食わず嫌いをしたら損ね」
「ああ、せっかく海にきたんだから色々なものを食べないとな!」
大黒魚の見た目にビビッていたら、この美味しさを味わうことができなかった。
見た目が変だからといって食わず嫌いをするのは勿体ない。ここでは積極的に色々な料理を食べることにしよう。
「二人ともまた面白い料理があったのじゃ!」
一足先に食べ終わったアルミラが近くにある屋台から皿を持ってやってきた。
「なんだそれ? 美味しいのか?」
丸い頭に八本の触手を生やした生き物。体表は真っ赤に染まっており、触手の裏側には吸盤みたいなものがついていた。
魚とも貝とも言えない、奇妙な生き物の丸焼きだ。
「タコの丸焼きというらしい。コリコリとしていて独特な甘みがあって美味いぞ?」
アルミラが触手を千切ってもぐもぐと食べてみせる。
周囲を見ると、アルミラ以外にも食べている人はいるし、ここでは普通の食材なのだろう。
俺も触手を一本千切って食べてみる。
むっちりプリッとした歯応えに濃厚な甘み。
魚とも貝とも違う旨みが噛めば噛むほどに染み出してくる。
醤油を何度も重ね塗りをして、丁寧に炭火で焼き上げたのがわかった。
「本当だ! 美味いな! エリシアも食べてみろよ!」
「ぎゃああああ! なにそれ!? 気持ち悪い! 近づいてこないで!」
皿を手渡そうとすると、エリシアが悲鳴を上げて後ずさった。
「無理無理! やめて! それを近づけないで!」
二歩ほど進むと、エリシアがさらに下がって真剣な表情で訴えた。
「……本当に無理なのか?」
「無理!」
「ついさっき食わず嫌いをしたら損と言っておったではないか」
「ものには限度っていうものがあるわよ! そんな歪な頭に触手を何本も生やした生き物なんて食べたくないわ!」
アルミラがタコの載った皿を持って追いかけると、エリシアがガチの悲鳴を上げて逃げ出す。
どうやら本当に苦手のようだ。
海底迷宮に類似した魔物が出没しないことを願おう。
そんな風に俺たちはイスキアの屋台街で食べ歩きを満喫した。
新作はじめました。
『異世界ではじめるキャンピングカー生活〜固有スキル【車両召喚】はとても有用でした〜』
異世界でキャンピングカー生活を送る話です。
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