メリット
「ルード、とんかつはもうないのか?」
「さっきので最後だ。これ以上は勘弁してくれ」
先日、豚鬼の群れの討伐で手に入れた豚鬼の肉は、かなりの量があったにもかかわらずすべて無くなってしまった。
「そうか。ならば仕方がない。これくらいにしておくか」
食材が切れたことを報告すると、アルミラは残念そうにしながらも頷いた。
その様子を見る限り、まだお腹がいっぱいというわけでもないようだ。
「どんだけ食べるのよ」
アルミラの果てしない食欲を見て、エリシアは胸やけしたかのような表情をしていた。
それだけの量を彼女は食べていたからな。
俺もずっととんかつを揚げ続けていたので、すっかりと衣服が油臭くなってしまっている。
当分はとんかつを見たくない。
とはいえ、これだけの量の魔物料理を食べたんだ。彼女も満足して、適当に帰ってくれるだろう。
「ルードといったか、お主のことが気に入った! しばらく は我も同行することにする!」
「「はあ!?」」
と思ったのだが、アルミラはなぜかそんなことを言いだした。
衝撃的過ぎて俺とエリシアから素っ頓狂な声が漏れる。
「俺たちに付いてくるって、一体なにが目的なんだ?」
「単純にお主らの行く末が気になったのと、ルードと一緒にいれば美味しい魔物料理がたくさん食べられると思ってな」
どうやら魔物料理を振る舞ったことが裏目に出てしまったらしい。
料理を気に入ってくれていたことはわかったが、まさかそんな事を言い出すとは。
「とはいうが、人間の中で生活することの大変さがわかってんのか?」
「今までもちょくちょくは人の街で暮らしていた。わずらわしさは理解しているつもりじゃよ」
現にこうして人の姿をとっている わけだし、仕草だって人間そのものだ。
人の街で暮らしていくこと自体は不可能ではないか。
「そう嫌そうな顔をするでない。我が冒険に同行することにもメリットはあるぞ」
「一応聞いておこうかしら?」
「一つ目は単純に戦力が増強することじゃ。今の我は事情があって魔素を大きく減らしてはいるが、そこらの冒険者よりは強いぞ?」
あれだけの魔素を宿しておきながら全盛期ほどではないというのか。つくづく災害竜という生き物は規格外だと思わされる。
「二つ目は?」
「ルードに魔素の扱いを教えてやれる」
「――ッ!」
「ルードは魔素を宿しているが後天的に手に入れた力のせいか魔素の扱いがなってない」
「なんでわかるんだ?」
「身体から魔素がだだ漏れじゃ」
どうやらアルミラには俺の宿している魔素がくっきりとわかるようだ。
彼女の言う通り、俺は魔素を制御することができていない。
「そのままにしていると無駄に魔素を消費するだけでなく、人の世で生活している時にいらぬいちゃもんをつけられそうじゃの? 特に神殿とか……」
神殿は創生の女神アルテナを主神として掲げており、魔物は悪しきもの といった教えを広めている。
ただ普通に生活していれば、うるさくしてくることはないが、人でありながら魔素を宿している者がいるとわかれば何をしてくるかわからない。
彼女の言う通り、平和に冒険者生活を過ごすためにも魔素の制御は最重要課題だ。
「あなたならルードに魔素の扱いを教えられるってわけ?」
「我は災害竜であり魔物。生まれながらにして魔素の扱いは心得ている」
先天的に魔素を身に着けているアルミラにとって、魔素の扱いはお手の物なのだろう。
「ど、どうする?」
アルミラの言うメリットはもっともであるが、災害竜という人外をパーティーに加えるのだ。即答することはできない。
「ルードが強くなる上で魔素を扱えるようになるのは外せないわ。魔素の扱いを教えてもらうのに彼女以上の適役はいないでしょうね」
災害竜をパーティーに加えるなんてゴメンなのだが、その大きな利点を考えると加えざるを得ないというのが俺とエリシアの共有認識であった。
「おお! メリットならばもう一つあったぞ!」
エリシアと話し合っていると、アルミラが急に立ち上がって言う。
「なんだ?」
「お主の夜の相手をしてやれる」
「却下!」
なにを言っているのかと言おうとすると、エリシアが強い声音で否定した。
「なんじゃ? エリシアと番であったか?」
「つ、つがいって、ルードとはそんな関係じゃないから!」
アルミラの直球な表現にエリシアが顔を真っ赤にする。
俺なんかがエリシアと釣り合うわけがないだろう。
「ぬ? ならば我とルードがまぐわおうと別にいいではないか?」
「ダメ! パーティー内でのふしだらな行為は禁止なんだから!」
「特にエリシアは潔癖でそういうのを嫌っているし、パーティー内での男女関係は冒険に支障をきたす可能性が大きいから俺も反対だな」
冒険者におけるパーティー瓦解の大きな原因は怪我、金銭の次に男女関係といった問題が挙げられる。長年冒険者をやってきたのでそういった男女関係のもつれが原因で解散するパーティーをいくつも見てきたので同じ轍を踏みたくはない。
今の関係が心地いいと思えるので猶更だ。
「ふむ。そこのエルフが潔癖のぉ……いや、お主がそう考えているのであれば別にいい。あくまで我はメリットの一つとして提示しただけじゃからな」
妙に含んだ言葉が気になるが、特に積極的にそういった関係を結びたいわけではないようだ。ちょっと安心した。
「で、我が同行することについてはどうじゃ?」
俺はエリシアと顔を見合わせる。
アルミラに対して思うところもあるが意見は同じのようだ。
「受け入れるぜ」
「ほお、そうかそうか!」
「ただし、私たちの言う事はしっかり聞いてよね?」
「過剰な期待をされるのは困るが、しっかりとパーティーの一員として見合う活躍はすると約束しよう」
こうして俺たちは災害竜アルミラをパーティーの一員として加えることにした。
新作はじめました。
『異世界ではじめるキャンピングカー生活〜固有スキル【車両召喚】はとても有用でした〜』
異世界でキャンピングカー生活を送る話です。
下記のURLあるいはリンクから飛べますのでよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n0763jx/




