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豚鬼のとんかつ

『魔物喰らいの冒険者』のコミック1巻が発売中!


「ルード、今日はこの辺りで野宿にしましょう」


「わかった」


 バロナを出て、三日後の夕方。


 エリシアの指示により、俺たちは少し開けた森の中で野宿をすることに決めた。


 馬車を魔物たちの目につきにくいように停車させる。


 馬の手綱を緩め、水と食料を与えていると、エリシアが土精霊を呼び出していた。


 エリシアの魔力を受け取ると、土精霊が土を生やして馬車を囲い、さらに植物が上に覆い被さることでカモフラージュしていた。


「やけに入念だな?」


 この三日間で二回ほど野宿は行ったが、エリシアがここまで入念に偽装を施しているところは見たことがなかった。


「この辺りにはちょっと危険な魔物がいるからね」


 エリシアがここまで警戒するということは、かなり危険な魔物なのだろう。


「なにがいるんだ?」


「災害竜よ」


「聞いたことがあるぜ。確か世界を創生したとかいう最強種の竜 だったよな? でも、あれは御伽噺の存在じゃねえのか?」


「いいえ、災害竜は存在するわ。私も過去に一度だけ遠目に見たことがあるもの。あれは私たちじゃ到底敵わない 存在だわ」


 あれは御伽噺で実際には存在しないと思っていたが、元Sランク冒険者であったエリシアが言うのであれば本当なのかもしれない。


 瘴気迷宮の隠し階層にだって竜はいたんだ。伝説の竜だって存在するに違いない。


「なんだかワクワクする話だな」


「災害竜の多くは縄張り争いによって数を減らしたと聞いているし、五十年の中でも目撃例は数えるほどしかないしね」


「へー、五十年か……」


「人の話から年齢を推測するなんてデリカシーが無いわよ」


 なんてことのない呟きだったが、エリシアには俺が何を考えていたかお見通しのようだ。


「……すまん」


 見た目は二十代なのに、その倍以上を生きているという のだから不思議なものだ。


「まあ、実際に災害竜なんて現れるはずもないけど、注意はしておくに越したことはないわ」


「わかった」


 元Sランクのエリシアでさえも、敵わないと評する相手だ。Sランクになっただけじゃ足りないかもしれないが、いつかは討伐して喰らってみたいものだ。


 そんなことを考えながら俺は野宿の準備を進めていく。


 馬の世話が終わり、テントの設営が終わる頃にはすっかりと空は薄暗くなっていた。


「夕食はなにかしら?」


「今日はとんかつだ」


 イスキアにたどり着いたら海鮮料理が中心となり、肉料理を食べる機会が減るので今のうちに堪能しようと思っている。


「とんかつ! いいわね! 私はヒレの部位でお願いするわ!」


「わかった」


 付け合わせのキャベツやトマトをエリシアにお願いすると、俺はマジックバッグから豚鬼の肉を取り出す。


 とんかつなので使う部位はロースにし、エリシアは普通の豚肉のヒレにした。


 それぞれの肉を用意すると、赤身と脂身の境目を包丁で筋切りをする。


 これをすることで加熱した際の反り返しが小さくなり、熱が均等に入って、見栄えがよくなるのだ。


 さらに棒で肉を叩き、形を整えたら、塩、胡椒を振って全体に味をつける。


 下味がついたら肉に薄力粉をつける。


 余分な薄力粉を払い落としたら、溶いた卵につける。


 もう一度薄力粉、溶いた卵につけてと繰り返す……こうすることでより衣がサクサクになるのだ。


 衣を馴染ませるために十分ほど放置。


 その間に二台の魔道コンロを用意し、それぞれのフライパンに大量の油を入れて加熱。


 少し衣を入れて高熱になったことを確認したら、それぞれの肉を油へ投入。


 ジュウウウウウッという音が鳴り、ボコボコと泡の音が鳴る。


「いい音ね」


 とんかつを揚げる様子をエリシアが傍から眺めてくる。


 既に付け合わせの調理は終わったようでお皿には千切りのキャベツとカットされたトマトが盛り付けられていた。


 四分ほど経過すると、とんかつが狐色になってきたのでトングで裏返す。


 さらに時間が経過すると衣が茶色に染まったので油から上げる。


 まな板の上で少し余熱を通すと、包丁で食べやすい大きさに切ってやる。


 後はお皿に盛り付けて塩を用意すれば。


「とんかつの完成だ!」


「美味しそう! 早速、いただきましょう!」


「ああ!」


 エリシアが魔法で椅子と長卓を用意すると、俺たちはそれぞれ席についた。


 フォーク に手を伸ばすと、早速とばかりにとんかつを口へ運んだ。


 カリッとした厚めの衣の表面を噛むと、肉の柔らかさとよい香りが口の中に広がった。


 豚鬼の力強い旨みと甘みが弾ける。


 中までしっかりと火が通りつつも 、お肉の水分が程よく残っていてジューシーだ。


「おお、豚鬼の肉も美味いな!」


 豚鬼王に比べると味のコクは低いが、味のバランスがよくまとまっている。


 これはこれで美味しい。


「衣がサクサクで中はジューシーね! キャベツと一緒に食べるとより旨みが引き立つわ!」


 あちらは普通の豚肉を使っているが、エリシアもとんかつを気に入ってくれたようだ。


 フォークでとんかつを突き刺して頬張りつつ、 千切りされたキャベツを口いっぱいに頬張った。それからエリシアは水を飲み、どこか物足りなさそうな顔をする。


「ねえ、ルード……」


「ダメだ」


「まだ何も言ってないんだけど?」


 だとしても、その表情から何を考えている かは手に取るようにわかる。


「どうせ酒が呑みたいから後で俺に【肩代わり】をしろとか言うんだろ?」


「せ、正解よ」


「ダメだ。ここは災害竜がいるかもしれねえんだろ?」


「だって、ルードがこんなにもお酒に合いそうな料理を作るのが悪いのよ! とんかつを前にして水って有り得ないわ! とんかつといったらエールでしょ!? それに災害竜なんて何十年も現れていないのよ!? 今更出てくるわけないわ!」


「知るか! あと六日ほどしたらイスキアに着くんだろう? それまで我慢しろ!」


「そんなにも飲まずに いたら気が狂っちゃうわ! ルードがいれば、お酒に酔うことはないんだからお願い!」


 エリシアが俺の傍に寄ってきて懇願してくる。


「一緒に装備集めも協力してあげたわよね?」


「ぬっ」


 そう言われると弱いところだ。


 エリシアには俺の装備費用を稼ぐためにかなり協力してもらったからな。


 お酒を飲んだとしても、すぐに俺が【肩代わり】して無効化できるんだ。


 彼女が飲んでいる間は俺がしっかりと警戒すればいいか。


「わかった。【肩代わり】してやるから飲んでいいぞ」


「やったー! ルードとパーティーを組めて最高だわ!」


 俺が許可をすると、エリシアは嬉しそうに笑みを浮かべてマジックバッグから大きな樽を取り出した。


 蛇口をひねって酒杯に黄金色の液体をなみなみと注ぐと、そのまま一気に呷る。


「ぷっはぁ! 美味しいー!」


 口の周りに泡をつけながらエリシアは豪快に息を吐いた。


 エリシアは樽から二杯目のエール を注ぎ入れて、とんかつを口にしながら 流し込んだ。


「やばいわ、ルード! 冒険中に呑むエールが最高に背徳的で美味しいんだけど! 私、これにハマりそう!」


 そりゃ 、冒険中に酒を飲むなんてありえない行いだからな。状況的背徳感もあって美味しさが倍増しているのだろう。


「絶対にやめてくれ」


 そんな酒の飲み方にハマって欲しくない。


 エーベルト、お前はエリシアを強くて聡明で優しいと評していたが、実際はこんなもんだぞ。


 頭がピンク色に染まっている彼に見せてやりたい現実だった。


 俺はそこまで酒に興味のあるタイプじゃないが、エリシアの飲みっぷりを見ていると俺もちょっと飲みたくなるな。


 いかんいかん。


 いくらスキルで無効化できるとはいえ、冒険中に二人してお酒を飲むなんてご法度だ。


 万が一のことがあ ったら死にきれない。


 むくむくと湧き上がってくる欲望を押さえて、俺は豚鬼のとんかつを食べ続けることにした。


 うん。塩と一緒に食べると、塩気のお陰で豚鬼の甘みが際立つな。


 瑞々しいキャベツと一緒に食べると、口の中がさっぱりとしていくらでも食べられそうだ 。


「なにやら美味しそうなものを食べておるなぁ」


 エリシアと共にとんかつを堪能していると、不意に見知らぬ少女の声が響いた。






新作はじめました。


『異世界ではじめるキャンピングカー生活〜固有スキル【車両召喚】はとても有用でした〜』


異世界でキャンピングカー生活を送る話です。

下記のURLあるきはリンクから飛べますのでよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n0763jx/




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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
ルードって お金とかお酒とか細かいところで言葉遣いが丁寧なんだよな。 そいいうのもあって好印象な主人公。
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