瘴気竜の装備
新しい迷宮に向かうことにした俺とエリシアは、イスキアに向かうための準備を進める。
そのために必要なのはお金だ。
ドエムが作ってくれた装備の代金を支払うために、俺とエリシアは討伐依頼を受けた。実入りのいい頼を率先して受けては、売値のいい素材を獲得するためにアベリオ新迷宮や瘴気迷宮に潜る。
そんな日々を一週間ほど過ごすと俺は防具に必要とされている金貨二百枚以上を用意することができたのでドエムの工房へと向かった。
「ドエムのおっさん、俺の防具はできてるか?」
「できとるわ。お前こそしっかり金は用意してきたんだろうな?」
工房に入ると、ドエムが工具の手入れをしながらしっかりと待ち受けていた。
「ああ、金貨二百枚以上はあるぜ」
「ならいいだろう」
自信を持って頷くと、ドエムは奥の部屋に引っ込む。
程なくして俺の装備を抱えてドエムがすぐに戻ってきた。
装備のシルエット自体は今と変わらないが、胸や肩といった部分に瘴気竜の鱗がふんだんに使われている。脇腹や関節の部分には伸縮性のある翼膜が使われており、鎧の内部には皮が使われていた。
「これが瘴気竜の装備か?」
「そうだ」
「なんだかちょっと悪人っぽいわね」
俺の心の声を代弁するかのようにエリシアが言った。
黒、紫を基調としているせいだろうな。それにちょっと凶悪なフォルムをしているし。
まあ、使っているのが凶悪な瘴気竜の素材だから仕方がないか。
「とりあえず、装備してみろ」
「わかった」
ドエムに促されて俺は古い防具を脱ぎ、新しい瘴気竜の防具へと着替えた。
「どうだ?」
腕を上に伸ばしてみても、肩を回してみてもまったく邪魔になることはない。
身体を捻ったり、腰を落としてみたりしても動きがまったく阻害されることはなかった。
「まったく違和感はねえな」
ドエムの作ってくれた防具は俺の身体にピッタリだった。
長年、俺の装備を作ってくれていただけあって調整もほとんどいらない。
「前よりも防具の重さは上がってるが平気か?」
「ああ、むしろちょうどいいくらいだぜ」
ドエムによると防具の重さは増しているようだが、LVが上がって各ステータスが上昇しているせいかまったくそのような影響は感じない。
「へー、冒険者らしくなったじゃない」
「そ、そうか?」
エリシアがまじまじとこちらを見つめながら褒めてくれる。
これで少しはDランク冒険者らしく見えるようになっただろうか? そうだと嬉しいものだ。
「全体的に防具の強度が上がっている上に瘴気竜の鱗も使っている。前のものとは防御力が桁違いになってるはずだ」
「いいものを作ってくれて感謝するぜ。金額はいくらだ?」
「二百三十四万レギンだ。少し足が出た」
「問題ねえ」
マジックバッグから金貨の入った革袋を取り出して、そこから金貨二百三十四枚を支払う。
「……ちゃんと二百枚以上稼いできたか」
「ドエムさんのおっさんは凝り性だからな」
あくまでドエムが前に伝えてくれたのは最低金額だ。
ドエムはとてもいいものを作るが凝り性なので、超過することを考えて多めに稼いでおいてよかった。
ドエムはしっかりと二百三十四枚ほど数えると、満足げに頷いて奥のカウンターへと置いた。それからドエムが懐から濃紫色の腕輪を取り出す。
「少し足が出ちまった詫びだ。嬢ちゃんにこれをやろう」
「これは?」
「瘴気竜の爪を使った腕輪だ。今の魔道具よりも瘴気を大きく軽減してくれるはずだ」
「ありがとう。とても助かるわ」
エリシアは俺と違って瘴気を無効化することができないので彼女にとっては大変ありがたい代物だろう。俺もエリシアのステータスを逐一気にする必要がなくなるので助かる。
「俺にはねえのか?」
「お前には必要のない代物だろうが」
それもそうだった。俺には無効化するスキルがあるので必要はまったくない。
「おっと」
「おいおい、ドエムのおっさん大丈夫か?」
なんて笑っていると、ドエムが急に身体をふらつかせたので俺は慌てて支えてやる。
「大丈夫だ。平気だ」
長い髪と髭のせいで見えにくかったが、ドエムの顔色が少し悪い。
念のために鑑定してみる。彼は軽度の瘴気状態に陥っていることがわかった。
「おい、おっさん。瘴気状態になってるじゃねえか?」
「ええ? どうして?」
「瘴気竜の素材のせいだと思う」
死して素材となっても瘴気竜の瘴気が宿っており、ドエムの身体をゆっくりと蝕んでいたのだろう。
軽度なのでゆっくりと休んでおけば自然回復するが、それでも数時間ほどは頭痛や倦怠感などに苛まれることになる。俺の持ち込んだ素材を加工してくれたドエムにそんな苦しみを味わってほしくない。
俺は【肩代わり】を発動し、ドエムの瘴気を受け入れる。
そして、俺の【状態異常無効化】が瘴気状態を瞬時に無効化した。
「な、なんだ? 急に俺の身体が軽くなったぞ」
「俺のスキルで肩代わりして、無効化したんだよ」
「お前、そんなことまでできるのか」
瘴気を無効化してやると、ドエムの身体から疲労が抜けたのか彼はむくりと起き上がった。
まだ少し顔色が悪いが、ほんの少し休めばすぐに健康状態になるはずだ。
「神殿の連中にバレたら面倒くさそうなスキルだな」
神殿勢力は人々の怪我や病気、状態異常などを治癒させることで資金を得ている。
どのような状態異常であろうと瞬時に治癒させてしまう俺は神殿にとって面白くない存在だろうな。だからといって大切な人のために使用をためらうようなことはしたくない。
「魔物を喰ってる時点で今更だ」
「それもそうか」
●
防具を新調した俺はエリシアと共に冒険者ギルドに寄ることにした。
イスキアに向かう準備が整ったので道中で片付けられる依頼がないかの確認だ。
「一応、イスキアに向かう商隊の護衛依頼もあるけど、ルードの食事のことを考えるとデメリットの方が多そうね」
「そうだな」
護衛を受けるということは商人や従業員だけでなく、他にも護衛として冒険者がいる可能性がある。
他人の目があっては倒した魔物を喰らうこともできず、スキルの獲得もできない。
スキルの獲得はまだ妥協できるのだが、俺にとって美味なる食事である魔物料理を一切味わえないというのが大きなストレスだ。
「他にめぼしい依頼もないし、今回は依頼を受けずに行きましょう」
「……すまんな」
普通の冒険者であれば、遠出する際は護衛依頼を受けてお金を稼いだりするものだ。
それが俺の都合でできないので単純に稼ぐ機会が減ってしまっているといえる。
「気にしないで。私もここ数年は追われることが多かったし、ゆったりできて嬉しいの」
五年ほどは呪いに身体を蝕まれ、冒険者狩りなどに追われては身を隠すことが多かったようなので彼女としてものんびりとした旅は歓迎のようだった。
よかった。彼女が気にしていないのであれば、俺も気が軽くなるというものだ。
俺たちは依頼を受けず、ギルドで馬車を借りるとそのままイスキアに向かうことにした。
乗り合い馬車にすれば安くはなるが、そちらも護衛依頼と同じデメリットが発生するので豪華に貸し切りだ。
壊したりすれば弁償費用がかかるので、できるだけ丁寧に使わないとな。
アイシャに頼んで満腹亭の部屋のキープはお願いしてもらっているし、必要なものは準備期間中に用意しておりマジックバッグに入っているので問題はない。
そんなわけで俺たちはギルドが手配してくれた馬車に乗って移動し、大通りを南下していく。
バロナの外に出ると、平原と整備された街道が視界に入る。
いつもなら北上するのであるが、今日の目的地は南なので反対側の道へと進む。
ここ最近は瘴気迷宮やアベリオ新迷宮にばかり行っていたので、他の道に進むのがかなり新鮮だ。
港町イスキアか……どんなところか楽しみだ。




