ドエムの大剣
『魔物喰らいの冒険者』がLINE漫画にてWEBTOONが連載開始されました。
縦読みカラーです! よろしくお願いします。
小さな路地を何度か曲がって突き進んでいくと、石造りの建物が見えてきた。
扉には『鉱人の槌』と書かれた看板がつるされている。
ここはドエムの工房だ。
瘴気竜の素材となると並大抵の鍛冶師では加工することができない。この街でそんな技量を持っている職人をドエム以外に俺は知らないからな。
「ここにルードがお世話になってる鍛冶師がいるの?」
「ああ、そうだ。気難しい性格したおっさんだけど適当に流してくれ」
気に入らない客はすぐに追い出すし、初対面の相手だろうと遠慮のない物言いをする。
言動をいちいち気にしていたら疲れてしまうからな。
「ドエムのおっさん、入るぞー」
声をかけながら木製の扉を開けて中に入る。
作業部屋から槌を振るう音は聞こえない。前回は武器の製作の途中だったために待たされるはめになったが今回はそうでもないようだ。
「ここにあるものすごく業物だわ」
「そうなのか?」
「さすがは高位の冒険者だけはある。Eランクで燻っていた奴とは見る目が違うな」
奥の部屋からドエムがやってくる。
見る目がないと言われているが、俺には実際にドエムの技量がどれくらいなのかも計れないので言い返せなかった。
「はじめまして、ルードの仲間のエリシアよ」
「……ドエムだ」
エリシアが手を差し伸ばすと、ドエムはぶっきらぼうな表情をしながらも応じる。
あまり友好的な態度を見せることの少ないドエムが握手に応じるとは驚きだ。
「こんな奴と組んでいいのか? お前さんならもっと他の奴とも組めるだろ?」
「……おい」
つい最近、散々言われてきた言葉だが自覚があるだけに胸に突き刺さる。
「ルードだから組みたいって思ったのよ」
「そうか」
屈託のない笑みを浮かべながらのエリシアの言葉に、ドエムは言葉は少ないものの満足そうに頷いた。
「ったく、おっさんはいつも余計なことを言いやがる」
「ルードのことを心配しているのよ」
「あれでか?」
さっきのドエムの言動のどこに俺を心配する要素があったのかわからない。
眉を顰めるとエリシアは答えることなくクスクスと笑った。
「おい。大剣なら試作品ができているぞ」
「おお、本当か?」
小首を傾げていると、ドエムが後ろにかけてある壁から漆黒の刀身をした大剣を持ってくる。
今は暴食剣グラムがあるので何とかなっているが、今のやり方が正しい用途だとは思えないし、場所によっては呪いの剣を持ち込めない事もある。グラム以外に魔素の使用に耐えられる武器を用意するのは俺にとって急務であり、ドエムに魔素の使用に耐えられる大剣の製作を依頼していたのだ。
防具の製作は一旦後にして、ドエムの作ってくれた試作品を確認する。
「エルディライト鉱石をベースにバオメットの爪、ミノタウロスの角を加工して混ぜた。魔素を宿した魔物素材を半分ほど使用しているから、魔素を流しても問題はないはずだ」
「少し魔素を流してみてもいいか?」
「ああ」
室内だと前回のように破損した場合危険なので工房の裏庭に出る。
ドエムとエリシアが少し離れたところから見守る中、俺は大剣を握りしめて魔素を纏わせてみる。前回の破損事故があって少な目に纏わせてみたのだが、今回は刀身に対する不安感はない。そのまま魔素を流し込んでみるも刀身にヒビが入ったり、不気味な音を立てるようなことはなかった。
ある程度流したところで大剣がブルブルと震え出した。
恐らく魔素の保有できる量が限界を迎えたのだろう。
このまま流し続けることは危険と判断して、俺は大剣を地面に叩きつけた。
地面がバターのようにあっさりと割れ、大剣の切っ先から衝撃波が生まれる。
解放された魔素が地面を荒れ狂い、深い谷を築いた。
舞い上がった砂煙をエリシアの魔法が散らしてくれる。
「どうだ?」
視界が晴れると、ドエムがこちらに近づいてくる。
柄を持ち上げてみると、刀身には傷一つついていない。
「問題ねえけど、魔素を込める量を手加減しねえと壊れそうだ」
「何割くらいだ?」
「三割ってところだ」
「予想よりも保有できる割合が少ないな」
魔素を込められる割合を告げると、ドエムが渋い顔をする。
彼の中ではもう少し多くの魔素を保有できる計算だったのだろう。
「あれからたくさんの魔物を倒して喰らったからな」
前回よりも保有する魔素の質と量が増えているのが何となくわかる。
「魔素の使用に耐えられるようにするには魔石を使用するのが一番なんだがなあ」
「できねえのか?」
「魔素の扱い方を知らねえ素人が迂闊にいじってみろ! 前に渡した大剣の二の舞になる!」
俺の脳裏に粉々に砕け散ったエルディライトの大剣が思い浮かんだ。
「それもそうだな」
「希望があるとすれば、お前さんが魔素の操作をやってのけることなんだが……」
「繊細な操作については無理だ」
なにせ魔法スキルを手に入れているにも関わらず、魔素の操作ができない故に使用することができないでいる。そんな状態で武器に対しての魔素の調整をするなんて無謀もいいところだろう。
「とりあえず、今は他の魔物素材を使っていくことで保有量を高める方向でいく。お前さんは魔素の扱いを練習しておけ」
「……わかった」
頷いたものの魔素の扱いを上達させるのは難しそうだな。
「それじゃあ、俺は製作に戻る」
「待ってくれ。今日は別の要件もあるんだ?」
「あん?」
工房に戻ろうとするドエムを引き留める。
「武器と平行になって悪いんだが、防具も作ってほしい」
「そっちも魔素を纏うとか言わねえだろうな?」
「こっちは普通の防具でいい」
先に取り掛かっている大剣でさえまだ未完成なのに、防具も魔素に耐えうるものを頼むのは鬼畜過ぎるだろう。魔素を纏う防御法は特に確立されていないし、今のところは普通の性能でいい。
「素材は?」
「瘴気竜の素材を使ってほしい」
マジックバッグから取り出した瘴気竜の鱗を渡すと、ドエムは真剣な表情で確認し始めた。
「お前さんのレベルと魔素が上昇した理由はコイツか。こんな化け物どこにいやがった?」
「瘴気迷宮に隠し階層があってな。そこにいた」
「そうか」
どこに存在するか気にはなってもドエムにはそれを言い触らす趣味もない。
「できるか?」
「誰に言ってやがる! 竜の素材の加工くらい当たり前にできるわい!」
思わず尋ねると、ドエムが大きな声で言い返してきた。
大剣の製作と平行して問題ないかという意味での問いなのだが、ドエムには逆効果だったようだ。
相変わらずこのおっさんは気難しい。
長い付き合いをしているが、未だに怒るポイントがよくわからない。
「じゃあ、任せたぜ」
「防具を先に作るが問題ないな?」
ドエムの言葉に俺は頷く。
試作品を一つ貰ったことだし、今は武器を作るよりも質のいい防具を作る方が先決だからな。
「他にも素材があるなら一通り出せ。大剣の方にも使えるかもしれん」
「わかった」
瘴気竜の鱗、爪、牙、翼膜、皮といった一通りの素材をドエムに渡した。
しかし、ドエムはなおも右手を差し出し、さらなる何かを要求してくるではないか。
まだ瘴気竜の素材があると思っているのか?
「瘴気竜の素材はひととおり渡したぜ?」
「違う。追加の研究費用じゃ」
「おいおい、前に百万レギンを渡したじゃねえか?」
「それが底を尽きそうだから要求してるんだ」
「…………」
ドエムの口から放たれた言葉に俺は絶句する。
あれだけの大金がそんなにもすぐに無くなってしまうものなのか。
「冒険者にとって一番お金がかかるのは装備だからね。頼んでいるものがものだし、高額なのは仕方がないわよ」
「お、おお」
一瞬、ドエムの無駄遣いや着服を疑いそうになるが、このおっさんは曲がったことが大嫌いだし、物作りにおいて妥協しないことを俺は知っている。
「……五十万レギンでいいか?」
「まあ、そんだけあれば大丈夫だな」
貨幣を数えながらのドエムの言葉にホッとする。
全然足りないなどと言われたらかなり困るからな。
「言っておくが防具の製作費用は別だ。そっちも用意しておけよ?」
「ちなみに金額は……?」
「二百万レギンだな」
おそるおそる尋ねると、ドエムがきっぱりと言った。
鋭い眼光からみるに、値切りでもしたら殺されそうだ。
俺も強くなってランクが上がったとはいえ、短期間にこれだけの出費が重なるのはきつい。
「大丈夫? お金なら余裕あるし、私が出してあげましょうか?」
「いや、自分の装備なんだ。自分の金から出す」
エリシアの気持ちは嬉しいが男として、一人の冒険者としてその提案を受け入れるわけにはいかなかった。
「嬢ちゃんのお金を借りたら蹴り飛ばしているところだ」
ついでに目の前のおっさんもそんな行いは許してくれない。
財布から五十万レギンを取り出して渡すと、ドエムは丁寧に数えてから頷いた。
「エリシアは――今の装備があるから大丈夫か」
「ええ。私にはこのローブがあるから大丈夫よ」
エリシアの纏っているローブは一見してかなり薄いのだが、その生地はそこらの魔物の攻撃を通さないことを知っている。
恐らく、俺なんかが見たこともない魔物の素材を使用しており、かなりの一級品なのだろう。
彼女の装備については当分の間は新調する必要はなさそうだ。




