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決闘


 監査官のエーベルトと戦うことになった俺は、冒険者ギルドの裏手へやってきていた。


 柵に囲まれ、綺麗に整地されているこの場所は冒険者が訓練をするための演習場である。


「ごめん! 私のせいでこんなことになって!」


 演習場にやってくるなり、エリシアが両手を合わせて謝ってくる。


 会話の流れから最初からエーベルトは決闘が狙いだったように思う。


 彼に挑発され、エリシアがそれに乗る形になってしまった。


 流れとしては相手の目論見通りといったところだろう。


「エリシアだけが悪いわけじゃねえよ。結局は俺が不甲斐ないからこうなっただけだ」


 俺が瘴気漁りなんて蔑まれていなければ、もっと実力があればエーベルトに寄生だのといちゃもんをつけられることはなかったのだ。一概にエリシアだけのせいとは言えない。


「でも……」


「要はあの監査官に勝って、エリシアとパーティーを組むのに相応しい実力を証明すればいいだけだろ?」


 ぐだぐだと冒険者としてのマナーやらを偉そうに説かれるよりも何倍もマシだ。


 強いからエリシアと一緒に組んでも問題ない。実にシンプルでいい。


「そうね! でも、エーベルトもそこそこ強いから気をつけてね!」


「……そこそこってどれくらいだ?」


「前に会った時がCランクだったかしら? あれから五年が経過しているし、ギルド本部の監査官になってるってことはBランクくらいあるかも?」


「マジか?」


 慌てて鑑定してみると、エーベルトのステータスが表記される。



 名前:エーベルト

 種族:エルフ族

 状態:通常

 LV56

 体力:235

 筋力:178

 魔力:290

 精神:277

 俊敏:156

 ユニークスキル:【付与魔法】

 スキル:【剣術】【細剣術】【体術】【弓術】【棒術】【遠視術】【採取】【演奏】【魔力微増回復】

 属性魔法:【風属性】【水属性】【土属性】【光属性】



「おいおい、ちょっと待ってくれ。俺のランクはDなんだが……」


 DランクがBランクに勝てる気がしないのだが。


 それにコイツ、付与魔法とかいうユニークスキルを持ってやがるし。


「ルードには魔物スキルがあるわ!」


 不安を露わにする俺にエリシアは大丈夫とばかりに拳を握る。


「いや、これだけ大勢の人に見られている中じゃ、魔物スキルは使えねえだろ……」


「あ」


 俺が突っ込みを入れると、エリシアが拳を握りしめたまま固まる。


 あっ、そのことを考えてなかったな。


 俺が所持する大量の魔物スキルは、格上の魔物や冒険者を相手に通じるだろうし、相手の虚をつくことができる。


 しかし、演習場には証人としてギルドマスターのランカースをはじめ、ギルドの職員が大勢いる。このような場所で魔物しか所持していないスキルを使えばどうなるか。


 今度は別の大きな問題が発生しそうである。


「そ、それでも、ルードのステータスはDランクの範疇に収まるものじゃないから!」


 仮にステータスが同じか上回っていたとしても、相手の方が知識や経験は何倍も上なんだよな。とはいえ、今更そのようなことをうじうじ言っても仕方がない。


「俺もエリシアを組めなくなるのは嫌だからな。やれるだけやってみる」


「……ッ! ええ!」


「エーベルトについて教えてもらっていいか?」


 戦闘をする前に情報を収集するのは冒険者の基本だ。


 決闘をする相手の情報を仕入れるのは何も恥ずかしいことではない。


 エリシアによると、エーベルトは魔法剣士らしい。


 細剣を使って前衛で戦ったり、時に中衛に回って魔法を放ったり、味方を援護したり。


 前衛、中衛、後衛として穴がなく、なんでも器用にこなせるようだ。


 ただエリシアが評すると彼は『器用貧乏』らしい。


 なんでもこなせるがどれも突出した領域には達していない。


 元Sランク冒険者からすると、エーベルトほどのステータスや実力があっても、そのような評価に落ち着いてしまうらしい。つくづくSランクの世界は格が違うと思いしらされる。


 俺はそんな彼女の横に並び立つために実力を証明し、これからついていかないといけないのか。大変だな。


 だけど、Sランク冒険者になるのは俺の夢でもある。


 エリシアと共に冒険を続ければ、その夢に近づくことができる。


 だから、ここで負けるわけにはいかない。


「準備はいいな? 冒険者ルード?」


 正面に位置するエーベルトが細剣を手にしながら声を張り上げる。


 俺の傍からエリシアは離れ、ランカースをはじめとするギルド職員たちが静かに見守っていた。


「ああ、いつでもいけるぜ」


「では、始めるぞ!」


 掛け声を上げたエーベルトは身を沈めると、一気に加速して彼我の距離を一気に潰した。


「――ッ!」


 想像以上の速度に驚きながらも、俺はエーベルトの繰り出した突きを大剣の腹で受け止めた。


「ほお? 俺の一撃に反応して受け止めるとはな」


 つばぜり合いをしながらエーベルトが驚いたように目を丸くする。


「これで実力は十分。なんて判断にはなったりはしねえか?」


「抜かせ!」


 この戦いの趣旨は俺に実力があるかどうか。別に監査官に勝たなくても問題はないはずだが、エーベルトの反応からちょっと実力を示すだけでは満足してくれなさそうだ。


 エーベルトは剣を薙ぎ払って距離を取ると、左手に魔力の光を灯しながら魔方陣を描き出す。


 ……魔法か? 


 なら、暴食魔剣グラムで喰らってやれば、俺の力になる。


「ルード! 攻撃魔法じゃない! 付与魔法よ!」


 いつでも魔法を吸収できるように大剣を構えていると、離れた場所にいるエリシアからそんな忠告の声が聞こえた。


「『速度上昇』『腕力上昇』」


 魔方陣が完成すると、エーベルトの身体を幾重もの光が包み込んだ。


 次の瞬間、エーベルトの姿が掻き消える。


 いや、そう見えるほどの高速で動いているのだ。


 視界では朧気にしか見えないので勘を頼りに大剣を右に振るう。


 響き渡る重い金属音。


 アベリオ新迷宮、瘴気迷宮で培われた俺の経験は裏切らなかったようだ。


 細剣とは思えない攻撃の重さだ。先ほどの一撃とは攻撃の重さが桁違いだ。


 付与魔法によって身体能力を強化したからだろう。


「……これも防ぐか。ならこれはどうだ!」


 エーベルトが切っ先をこちらに向けてくる。


 点としてか見えないために刀身の長さを計りづらい。


 上段からの攻撃を左からの切り払いで受け止める。


 火花、金属音と共にすさまじい衝撃が手に伝わる。


 跳ね戻された細剣をすぐに切り返すと、エーベルトは凄まじいスピードで攻撃を打ち込んでくる。


 零距離での連続攻撃に察知スキルを駆使しながら大剣を振るうが、大剣で斬り合いをするにはあまりにも分が悪い距離。


 俺の防御をすり抜けて、次々とエーベルトの剣尖が俺の身体を切り裂いていく。


「くっ……!」


「どうした! この程度か!? こんな実力でエリシアさんの隣に立とうなどとおこがましい! あの方は冒険者の頂点に上り詰めた英雄なのだ! お前のような薄汚い低ランク冒険者には相応しくな

い!」


 エリシアの昔の友人か何か知らないが、突然、現れて好き勝手に言ってくれるものだ。


「そんなことは俺が一番にわかっている。だから、隣に立ち続けるために俺はお前に勝たなきゃけないんだ」


 知識、剣技、ステータス、どれもが俺はエーベルトに劣っている。


 まともに正面から戦っては敵わない。だから、俺が勝てる土俵へと引きずり込む。


 エーベルトの猛攻撃を必死に堪えながら、挑発的な言葉を投げかける。


 全てを防ぎきる必要はない。致命傷になるものだけを優先して弾く。


「Dランク風情が生意気を! 『フレイムショット』」


 格下を相手に中々攻めきれない状況に焦れたのかエーベルトが距離を取りながら魔法を放った。


 短文詠唱による高速魔法。


 剣で斬り結びながら魔法による攻撃はかなり脅威であるが、グラムを持っている俺にとってはカモだった。


「それを待ってたぜ!」


 付与魔法ではなく、こちらに向けられた攻撃魔法なのであれば、俺の暴食魔剣で吸収することができる。


 大剣を水平に構えると、飛来してきた炎弾が刀身へと吸収した。


 敵の魔力を吸収したことでグラムが喜ぶように唸り声を漏らすのが聞こえた。


 エリシアの魔法ほど魔力は籠っていないが、グラムが十分に満足できるほどの魔力が込められていたらしい。


「なにっ! 魔剣か!?」


「いいや、呪いの剣だ」


 魔法を吸収されたことによってエーベルトが驚きの表情を見せた。


 相手の魔法を吸収したことによって、その分のステータスが俺に加算される。


 身体の内側から力が湧いてくる衝動に身を任せ、俺は地面を蹴ってエーベルトに斬りかかる。


 上段からの大剣を振りかぶると、エーベルトが慌てて細剣を掲げるようにして防ぐ。


「なっ!?」


 大剣の重みと加算されたステータスによる重みが加わったからかエーベルトが片膝をついてよろめいた。


 どうやら今の俺のステータスはエーベルトの腕力を僅かに上回っているらしい。


 エーベルトもそれに気づいたのか余裕が無くなる。


「お前……そのような忌まわしい剣を振るうなど正気か!?」


「俺に呪いは効かねえんだよ。俺の呼び名を知ってるならわかるだろ?」


 俺には【状態異常無効化】がある。だから、呪いの剣による呪いは受け付けない。


 このまま力で押し込もうとするが、エーベルトは地面を転がることで距離を取って回避した。体勢が崩れたところを追撃しようとすると、エーベルトが炎弾を放ってくる。


 こちらに向かってくるかと思いきや、炎弾は地面に当たって激しい土煙を上げた。


 咄嗟に大剣を前に掲げて砂煙から視界を守る。


 こちらに向けられた攻撃ならば吸収できるが、地面に放たれたものまでは吸収できない。


 グラムを持った相手には有効な魔法の使い方だといえるだろう。


「ちっ、どこだ!」


 視界が砂煙で埋め尽くされる。


 通常ならば何も見えない状況だが、俺には【熱源探査】があるのでエーベルトの姿は丸見えだ。


 しかし、それを奴に悟られないように大剣を構えて、明後日の方向を警戒してみせる。


 すると、熱源反応が俺の死角に当たる位置から回り込んでくるのがわかった。


「シッ!」


 短い呼気と共に振るわれる細剣。弓から撃ち出された矢のように鋭い突きは俺の喉元へ迫ってくる。だが、いくら速くても撃ち出されるタイミングと狙いがわかっていれば、対処のしようがあるも

のだ。


 迫りくる細剣を大剣で思いっきり横から叩いた。


「なっ!」


 完璧なる弾きによって、エーベルトの右手から細剣が飛んでいき、体勢が大きく崩れた。


「ま、待て!」


「歯を食いしばれよ、エーベルト監査官」


 俺は【身体強化(中)】によってさらにステータスを強化し、左拳を【硬身】によって拳の表面を強化すると、拳を思いっきり握りしめた。


 エーベルトの頬に強化された左拳がめり込み、大きく吹き飛ばされる。


 殴り飛ばされたエーベルトの身体は地面を何度も跳ね、二十メートルほど離れたエリシアの目の前まで吹き飛んだ。


 魔物スキルによって強化された俺の一撃をもろに受けたエーベルトは、頬に殴打の跡を残しており、立ち上がることはなかった。


 砂煙が完全に払われると、演習場には静寂が訪れる。


 まさか、Dランク冒険者がBランクの監査官に勝てるとは微塵も思っていなかったという表情。表情をあまり露わにしないイルミでさえ、目を丸くしているのが面白い。


「勝者はDランク冒険者のルードだな」


 ギルド職員たちが固まる中、ギルドマスターであるランカースだけは落ち着いた様子で勝敗を宣言した。


「さっすが私の相棒ね!」


 エリシアがご機嫌の表情で駆け寄ってきて背中をバシバシと叩いてくる。


「ぐっ! 痛え!」


 嬉しい気持ちはわかるが、戦闘が終わったばかりで全身が傷だらけだ。


「あ、ごめんなさい! 嬉しくてつい! すぐに治癒魔法をかけるわ!」


 痛みを訴えると、エリシアは今気づいたとばかりに治癒魔法をかけてくれる。


 エーベルトによって負傷させられた傷はあっという間に塞がり、焼けるような痛みがなくなった。


「正直、ちょっときつかったぞ」


 すべてにおいて上回っているエーベルトに勝つには魔物スキルを駆使するしかない。


 しかし、堂々と魔物のスキルを使ってしまえば、ランカースをはじめとするギルド職員に見られることになり面倒なことになる。


 穏便に終わらせるためにも魔物スキルの使用は見抜かれないように最小限にする必要があった。


 明らかに格上の相手に制限をかけながらの戦闘はかなりしんどかった。


「それでもルードならエーベルトを倒せるって私は信じてた」


 やや憔悴した様子を見せてみるも、エリシアは屈託のない笑みを見せる。


 パーティーの仲間にそこまで信頼されては悪い気はしないな。


「さて、肝心の嫌疑だが……」


 疑いをかけてきたエーベルト本人が完全に気絶していては裁定も何もなかった。


 中途半端な状態で終わりにしては、後日また絡まれる可能性もある。


「しょうがないわね」


 エリシアはため息を吐くと、エーベルトに近づいて治癒魔法をかけた。


 癒しの光によってエーベルトが頬の腫れが引いていく……が、エリシアは程よく治癒をしたところで魔法をストップさせた。


「完全に治してやらねえのか?」


「人の話を効かない人にはこれくらいで十分よ」


 どうやらエリシアもエーベルトの行動にご立腹のようだ。


 エリシアはそう言い放つと、水精霊を呼び出してエーベルトの顔に水を落とした。


「ごぶっ、げはっ、ごは! なにをする!?」


「お目覚めかしらエーベルト監査官?」


「え、エリシアさん……」


 怒気を露わにしていたエーベルトであるが、綺麗な笑みを浮かべつつも怒りを滲ませるというエリシアの器用な表情を前にして言葉を尻すぼみにさせた。


「エーベルト、あなたの負けよ」


「ば、バカな! Bランクの俺が! Dランクの冒険者の、しかも瘴気漁りに負けるなんておかしい! インチキだ! なにか卑怯な手を使ったんだ!」


「勝敗は私をはじめとするギルド職員が証人として立ち会っていた。ルードが決闘において卑怯な立ち回りをしたことは確認されていない。むしろ、公正な決闘において砂煙による目つぶしを行った監査官殿の行いの方がグレーだと思われるが?」


 事実を受け入れられないのかエーベルトが喚くが、決闘の様子はランカースをはじめとする多くのギルド職員が目にしている。


 これだけの証人がいる以上、言い逃れをするのは厳しいだろう。


 元高位の冒険者であるランカースだけは俺のスキルを見破っている可能性がある。気づいていないのか、気付いた上で黙っているのか。


 とにかく今、口にするつもりはないようだ。


「ぐっ、こんな事実はおかしい! 俺が、俺がDランクに負けるなど――」


 見苦しい言葉を吐き出すエーベルトであるが、エリシアが頬を叩いたことで止まった。


 しかも、俺が殴って腫れている方の頬を。


「これ以上、私の仲間を侮辱するなら私が相手をするわよ?」


「お、俺は……ただエリシアさんの力になりたかっただけなんです……! 今度こそ、エリシアさんと冒険に……」


 痛みに悶絶しながらのエーベルトの言葉。


 その言葉を聞いただけでエリシアのことを尊敬し、心から力になりたいのだと理解した。


「あなたの気持ちは嬉しいけど正直に言って迷惑なの。私は既に信頼できる仲間を見つけたから」


 俺を仲間に選んだ。だから、エーベルトは不要だとエリシアは残酷に言ってのけた。


「でも、心配してくれてありがとう。これからは一冒険者としてよろしくね」


 エリシアの笑みを浮かべながらの言葉にエーベルトは涙を流しながらこくりと頷いた。







新作はじめました!


『スキルツリーの解錠者~A級パーティーを追放されたので【解錠&施錠】を活かして、S級冒険者を目指す~』

https://ncode.syosetu.com/n2693io/


自信のスキルツリーを解錠してスキルを獲得したり、相手のスキルを施錠して無効化できたりしちゃう異世界冒険譚です。


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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
竜を倒した実力が有るならDから上がっててもおかしくないのでは?どうなったんだろ?
[良い点] 今回は決闘の場だったからあれだけど、インチキとか卑怯な手とはよく言うが 「お前それダンジョンでも同じこと言えんの?」とたまに思う。 使える手はすべて使うくらいの気構えでないと探索なんてでき…
[一言] 祝!ストーカー撃退! しかしこんなのが監査官で大丈夫なのかなあ。偏見でいろいろ歪んだ裁定を下しそう。
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