魔物スキルの獲得
内臓は怖いので食べられそうな腹の肉を切り出すと、赤身肉のように綺麗な赤色をしていた。
さすがに生で食べるのは怖いので火魔法を使用して肉を炙ってみる。
ミノタウロスの肉を焼いてみると、普通に香ばしい匂いがした。
「……なんか普通に美味しそうだな」
極度の空腹状態に陥っているせいだろうか?
いや、それを抜きにしてもミノタウロスの焼けた肉の香りは魅力的なものだった。
美味しそうならそれに越したことはない。
微かな期待を抱きながら俺は焼けたミノタウロスの肉を口にした。
「う、美味い……ッ!」
肉質は牛肉に似ており、噛めば噛むほどに肉の旨みや脂の味が染み出てくるようだった。
下処理がほとんどできていないせいか、やや野性っぽい風味が感じられるが、豪快な肉の味と相まってそれもいい。
「というか、今まで食べてきた肉の中で一番美味いぞ!」
足りない血肉を補うかのようにガツガツと食べ進めていると、不意に心臓がドクンッと鼓動した。
血管が脈動し、全身へと血が駆け巡る。それと同時に身体中にビリビリとした痛みとも苦しみともいえない衝撃が走った。
やっぱり、魔物の肉なんて食べない方がよかったか。
などと思うが知識で知っている吐き気や腹痛、酩酊感などに襲われるわけではなかった。
何となく自分の中にある力と、取り込まれた力がせめぎ合っている気がする。
気持ち悪い。いっそのこと吐いてしまった方が楽だが、それもできなかった。
いっそ意識を手放すことができれば、どれほど楽だろうか。
体内で渦巻く二つの嵐が過ぎ去ることをジッと待つことしかできなかった。
とてつもなく長く感じられる時間の中、ジッとしていると体内で渦巻く二つの力がスーッと混ざり合うのがわかった。
不快感が収まると同時に、身体の根本的な部分が作り替わっていくような感覚を覚える。
折れていた右腕の骨が繋がり、断裂した筋線維や皮膚が修復されていくのを感じた。
「なっ!? 右腕がッ!?」
視線を向けてみると、あらぬ方向に曲がっていた右腕は元通りの姿となっていた。
握ったり開いたりもできるし、折れる前のように動かすこともできる。
呼吸をする度に全身が痛みを訴えていたが今はそれもない。鉛のように重いと感じていた足も動かすことができ、普通に立ち上がることができた。
「……一体、どうなってるんだ?」
バイエルに斬り付けられた背中の傷も、ミノタウロスに受けた突進も、奈落へと落ちた衝撃もすべてがなかったかのようだ。
というより、前にも増して肉体そのものが強くなっているように思える。
渦巻くような不快感に襲われたものの、嘔吐、腹痛、発熱、痺れといった状態に陥ることもなく、魔化状態になっているわけでもない。
賭けには勝った。
まずは素直にそのことを喜ぼう。
しかし、ミノタウロスの肉を食べて無事だったことと、身体中に傷が治ったことの繋がりが不明だ。
気になった俺はポケットに入っていたギルドカートを取り出して、ステータスの確認をしてみる。
名前:ルード
種族:人間族
状態:通常
LV17
体力:66
筋力:45
頑強:38
魔力:22
精神:18
俊敏:37
ユニークスキル:【状態異常無効化】
スキル:【剣術】【体術】【咆哮】【戦斧術】【筋力強化(中)】
属性魔法:【火属性】
「なっ、なんだこれ!?」
自身のものとは思えないステータスの表記に目を疑う。
視線を逸らしてもう一度確認してみるも、ステータスの数値は変わらないままだった。
見間違いではない。
レベルが7から一気に17へと上がっているのは、格上であるミノタウロスを結果的に倒したことで莫大な経験値が入ったのだとわかる。
しかし、レベルアップによる恩恵があったとしてもステータスの上昇幅が大きかった。
いくらレベルが10上がろうが、こんなにも数値が上がることなどない。
それになにより気になるのが……
「なんでスキルが三つも増えてるんだ?」
そもそもスキルというのは生まれつき所持をしているか、後天的な努力で獲得するものだ。
俺のユニークスキルは生まれつき所持していたもので、残りの剣術、体術といったスキルは後天的な努力で獲得したものである。
だが、【咆哮】【戦斧術】【筋力強化(中)】についてはまったく見に覚えがない。
戦斧なんて使ったことすらないし、筋力強化のスキルを手に入れる方法なんて知らない。
そもそも咆哮なんてスキルは獣人族、あるいは魔物が先天的に所持しているスキルだ。人間族で所持している者など見たことがない。
手に入れた可能性を考えるとなると、それは俺の足元で亡骸と化しているミノタウロスだ。
このミノタウロスはこの戦斧を軽々と振るっていた。
ミノタウロスが戦斧術や筋力強化、咆哮などのスキルを持っていてもおかしくはない。
「もしかして、ミノタウロスの肉を食べたことによって、俺がそのスキルを取り込んだのか……?」
それが本当だとしたらとんでもないことだが、それが本当かどうかはわからない。
検証するにはもう一度何かしらの魔物を倒して、喰らう必要があるだろう。
周囲に魔物がいないのでそれは後回しにするとして、獲得したスキルが自分のものになっているかは確かめることができる。
俺はミノタウロスの遺骸の傍に落ちている戦斧を手にした。
自身の身長に匹敵するほどの戦斧。持ち上げるだけで精一杯だったが、筋力強化を意識して発動すると軽々と持ち上げることができた。
「おお」
戦斧を持ち上げると、試しに素振りを行ってみる。
使ったことのない武器だったが、どのように身体を使って振るえばいいかすぐに理解できた。
達人とはいかないが、それなりに扱えるといったレベルには習熟している。
使ったことのない武器にもかかわらずだ。こんなことは本来あり得ない。
これを可能としているのは間違いなくミノタウロスから獲得したスキルだ。
ステータスに追記されているスキルは間違いなく俺のものになっている。
凡庸なステータスをしている俺だが、このスキルの力があれば何とか生き残れるかもしれない。
とはいえ、ここは新迷宮の遥か底。他にどのような魔物が存在するかも不明だ。
さっきのミノタウロスよりも格上の魔物だってうじゃうじゃいるかもしれない。
まだ油断はできないが希望はある。
俺は新迷宮を脱出するため、ミノタウロスの僅かな肉と戦斧を手にしてここから動くことにした。
●
新迷宮のどこかもわからない階層の通路を歩いていると、天井が真っ赤に光っていることに気付いた。
目を凝らすとそこにはびっしりと蝙蝠が住み着いている。
「うげっ!」
「キキーッ!」
あまりの多さに声を上げると、蝙蝠たちが一斉に甲高い音を上げてこちらに襲いかかってくる。
手に戦斧、腰には剣を引っ提げているが、さすがにこれだけの数の蝙蝠を相手にするには分が悪い。
そういえば、蝙蝠は音に弱いと聞いた。
ミノタウロスから手に入れた【咆哮】をすれば一網打尽にできるかもしれない。
「ウオオオオオオオオオオオオオッ!」
スキル【咆哮】を駆使し、俺は腹の底から大声を上げると、襲い掛かってきた蝙蝠たちがバタバタと地面に落ちた。
もっとも近かった蝙蝠たちは気絶しているが、中にはまだ意識を保っているものたちがいる。
俺は戦斧を振るってそいつらを優先的に叩いた。
そして、残りの蝙蝠を警戒して顔を上げると、よろめきながら飛び去っていく後ろ姿が見えた。
相性の悪い相手だと認識して即座に撤退を決めたらしい。
思わぬスキルが役に立ったものだ。
さて、この蝙蝠たちだがどうしよう?
ミノタウロスと同じように食べたらスキルを奪うことができ、ステータスが上がるのだろうか?
蝙蝠自体は唐揚げやスープなどで食べたことがあるので忌避感はないが、ミノタウロスの肉を始めて食べた時のようにしばらく動けなくなってしまうのは困る。
だが、少しでも魔物を食べてスキルを獲得しステータスを上げておきたいのが正直な気持ちだ。
この蝙蝠は相性が良かったからあっさりと倒せただけで、ミノタウロスのようなパワー系の魔物と衝突することになったら目も当てられない。
どちらにせよ、強くならないと死ぬんだ。
俺は蝙蝠の一体を解体すると、火魔法で肉を焼いて食べた。
「これも美味いな!」
具体的な味についてはウサギの肉に近い淡泊な味わいだ。臭みもなく非常に美味しい。
欲をいうのであれば、なにかしらの味付けが欲しいところであるが、それを抜きにしても十分に美味い。食べるだけで不思議と力が湧いてくる。
前に食べた蝙蝠はこんなにも美味しくなかったのだが、魔物だとこんなにも味が違うのだろうか?
蝙蝠を一匹食べ終わって、しばらく待機してみると何も変化はない。
ミノタウロスを始めて食べた時のような体内で渦巻く不快感は襲ってこなかった。
怪訝に思ってステータスを確認してみる。
名前:ルード
種族:人間族
状態:通常
LV20
体力:80
筋力:51
頑強:41
魔力:30
精神:24
俊敏:40
ユニークスキル:【状態異常無効化】
スキル:【剣術】【体術】【咆哮】【戦斧術】【筋力強化(中)】【吸血】【音波感知】
属性魔法:【火属性】
「おお、スキルが増えてる!」
ステータスを確認してみるとレベルが上がってステータスが上昇している他に、【吸血】【音波感知】という二つのスキルが追加されていた。
この事実から、魔物を喰うことでその魔物が所持しているスキルを獲得できるのは本当のようだ。
にしても、今回は不快感で動けなくなるようなことはなかったな。
もしかして、最初に襲われた不快感は初めて魔物の肉を体内に取り込んだことにより、俺のユニークスキルと魔化状態がせめぎ合って起きたことなのかもしれない。
魔化状態にならず、魔物の肉を体内に取り込むための順応期間のような。
そう考えれば、順応できたが故に今回は不快感がないことにも納得できた。
その推測が正しいとすると、今後も魔物を喰らうことで動けなくなるといった心配はいらなさそうだ。
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