ハイポイズンラプトル
エリシアに案内してもらって移動すると、大きな沼地エリアにポイズンラプトルがいた。
鳥のような尖った嘴をしており、顔には襟巻がついている。
橙色の体表に黒い斑模様を浮かんでおり、発達した後ろ脚が特徴的だ。
「数が多いわね」
岩陰からこっそりと様子を窺うと、ざっと見ただけで三十体はいる。
ポイズンラプトル
LV27
体力:93
筋力:62
頑強:58
魔力:42
精神:37
俊敏:77
スキル:【毒爪】【毒液】【追跡】【瘴気耐性(中)】【毒耐性(小)】
レベルやステータスはソルジャーリザードたちとほとんど変わらないくらいだ。
「ボスの姿が見当たらないわね?」
周囲を見回してみるが、エリシアの言う通りボスらしき個体は見当たらなかった。
「どこか他の場所に行っているか、これ以上に大きな群れがあるんじゃねえか?」
「後者についてはあまり考えたくないけど、いないのであれば好都合ね」
ボスがやってくれば、それだけポイズンラプトルたちも勢いづく。
ボスが介入してくる前に仕掛けてしまった方が楽だろう。
幸いにしてポイズンラプトルはこちらに気付いている様子はないので、俺たちは仕掛けることにした。
「私が魔法を放つからそのタイミングでお願い」
「わかった」
こくりと頷くと、エリシアは風精霊たちを呼び出した。
風精霊たちはポイズンラプトルの群れの中心部に飛んでいく。
宙を浮かぶ風精霊を目にしてポイズンラプトルが反応する。
程々に個体が集まったところで風精霊たちを中心に竜巻が発生した。
「グアアッ!?」
小さな竜巻はポイズンラプトルたちの体をいとも簡単に持ち上げていく。
敵の注意が風精霊に向いている中、俺は【瞬歩】を発動して一番近くにいた二体のポイズンラプトルを斬り伏せた。
竜巻だけでなく冒険者の登場に、ポイズンラプトルたちが鳴き声を上げてこちらに突進してくる。
足元の悪い中、ポイズンラプトルたちは鋭角な動きで接近してくる。
一体目と二体目の突進をステップで回避すると、それを予測していたのか三体目が先回りするように飛びかかってくる。
スキルで迎撃しようと思ったが、それよりも早くに風刃が飛んできて三体目のポイズンラプトルは切り裂かれた。
どうやらエリシアが魔法でカバーしてくれたようだ。
魔法で仲間がやられたことによって足を止めてしまうポイズンラプトル。
その隙を俺は逃さず、大剣の面で叩きつけるように薙ぎ払った。
宙を舞ったポイズンラプトル二体は地面に落下すると、ピクリとも動かなくなる。
今の俺の筋力ならば、こうやって打撃武器として扱うだけでも十分な威力が出るものだ。
跳躍してきた新たなポイズンラプトルの一撃を大剣の腹で受け止めると、そのまま豪快に力で押し込んでやり、体勢が崩れたところを袈裟斬りにする。
横合いから現れたポイズンラプトルが大きく口を開けて毒液を飛ばしてきた。
ユニークスキルで無効化するとはいえ、毒液を被れば視界が遮られるし、身体が濡れることになるので回避。
ただし、回避運動は最小限にして斬り込む。
常人ならば毒が掠ったりしないように大きく回避をするのだが、俺はユニークスキルで無効化できるので多少かかるくらいなら問題はない。
最小の動きで躱すことができれば、それだけ次への動きが速くなる。
結果として俺の攻撃はすぐに相手へと届くわけだ。
ポイズンラプトルの攻撃力自体は高くない。
脅威になるのは集団でよってたかって体力が減った時になぶられることだ。
後ろには魔法使いであるエリシアがおり、遠くにいる敵を魔法で仕留めてくれている。
時折、俺が囲まれないように援護もしてくれているので、俺は思う存分に剣を振り回して敵を仕留めていけばいい。
「グアアアアンッ!!」
そうやって順調に二人でポイズンラプトルを倒していると、奥の岩からひと際大きなポイズンラプトルが姿を現した。
「どうやらボスのお出ましみたいね」
「しかも、ぞろぞろと部下を引き連れてるみてえだ」
ボスと思わしき個体の後ろにはたくさんのポイズンラプトルがいる。
ここにいた奴等よりも数が多い。
他にもっと大きな群れがあるという懸念の方が当たってしまったようだ。
ポイズンラプトルのボスは体をグッと屈めると、強く岩を蹴って俺たちの前に躍り出た。
驚異的な跳躍力だ。それにデカい。
さっきまで対峙していたポイズンラプトルが一メートルくらいだとすれば、ボスはその二倍以上はあるだろう。
襟巻も大きく、前脚や後ろ脚から生えている爪も長い。
こうして間近で見てみるとポイズンラプトルの方が随分と可愛い顔立ちをしているものだと思う。
ハイポイズンラプトル
LV34
体力:126
筋力:98
頑強:77
魔力:55
精神:66
俊敏:118
スキル:【統率】【猛毒液】【猛毒爪】【猛毒牙】【毒耐性(大)】【瘴気耐性(中)】
正式名称はハイポイズンラプトルだそうだが、長いのでボスでいいだろう。
レベルは34でジェネラルリザードと遜色ない。
大勢のポイズンラプトルを引き連れているので、レベル差があるとはいえ、油断すると足元をすくわれることになりそうだ。
「エリシア! 周りの奴等は任せた!」
「ええ!」
エリシアの返事を聞いて大剣を構えると、ボスが大きく口を開けて猛毒液を吐いてきた。
「グアッ!」
ポイズンラプトルよりも毒の範囲が広い。
横に回避したところでボスが首を伸ばして噛みついてきた。
俺は噛みつかれないように大剣の腹で受け止めた。
長く尖った犬歯からは毒液が漏れている。
少し噛みつかれようものなら猛毒を送り込まれ、あっという間にあの世行きだろうな。
俺には状態異常無効化があるので毒になることはないが、こんな鋭利な歯を見てしまえば噛みつかれたいとは思わない。
俺は大剣から力を抜いて刀身の角度を少しずらした。
すると、力を込めて噛みつこうとしたボスの顎が空を食んだ。
柄を短く持つと、そのままボスの体を袈裟斬りにした。
「ギャッ!?」
「ちっ、浅いか」
赤紫色の鮮血が舞い上がる。
咄嗟に体を捻られたせいで浅くしか斬ることができなかった。
ボスが悲鳴を上げて仰け反っている間に俺は踏み込み、その長い首を叩き落そうと振るった。
しかし、ボスが大きく後ろに跳んだことにより回避されてしまう。
大剣をすぐに持ち上げて視線を向ければ、ボスが着地した先は毒沼だった。
「あいつ毒沼に退避しやがった!」
【毒耐性(大)】があるために毒沼の中でも平気なのだろう。
ボスの顔が嘲笑するように歪んでいた。
「どこかで見たことのある光景だわ」
後ろでは仲間が変なことを言っているが気のせいだ。
俺は戦闘中に毒沼に退避するなんて卑怯なことはしない。
「だが残念だったな。俺にはその戦法は通じねえぜ」
一般の冒険者ならば毒沼に入るのを躊躇するかもしれないが、俺には【状態異常無効化】があるために躊躇はしない。
嬉々として大剣を引っ提げながら毒沼に突っ込むと、ボスが驚愕の表情を浮かべた。
遅れて繰り出された前脚の爪をかいくぐって胴体を斬りつける。
ボスが怯んだところを追撃しようとするが、視界の左端から鞭のようにしなった尻尾がやってきて直撃した。
「ルード! 大丈夫!?」
「咄嗟に【硬身】を使ったから平気だ!」
エリシアが心配の声をかけてくるので手を挙げて平気であることを伝える。
とはいえ、毒沼に頭から突っ込むことになったので体中がベトベトになってしまった。最悪だ
毒液を払って起き上がろうとすると不意に地面から硬い感触がした。
「……なんだこれ?」
触ってみると石ではなく、どちらかというと金属のような硬質な感触。
非常に気になるが今は戦闘中だ。意識を切り替えよう。
すくっと立ち上がるとボスが怪訝そうな顔を浮かべる。
今まで毒沼に入ったものは毒に苦しむか、顔を青いものにしていただろうが、俺にはそのような反応はまったくない。
なぜなら俺には効かないからだ。
大剣を構えて走り出すと、ボスは戸惑いながら前脚の爪を繰り出して応戦。
冷静にそれを弾いていくと、鞭のように尻尾がしなってくるので回避。
さすがに二回目は警戒しているので当たらない。
脅威なのは噛みつきと予測が難しい尻尾だ。逆に言えば、それ以外の攻撃は拙い。
それに長く戦っているとボスの戦い方や癖もわかるものだ。
身をかがめて尻尾を回避したタイミングで【瞬歩】を発動。
潜り込むのは死角となるボスの長い首の真下だ。
急所の塊である首が露わになっていたので俺は力を込めて大剣を振るった。
「グアアッ!?」
宙を舞うボスの顔には困惑の色が浮かんでいた。
一体どうして自分が宙を舞っているか最後まで理解できていなかったという様子。
一瞬の加速で死角に潜り込んだ故に、ボスからすれば俺の姿が掻き消えたように見えただろうな。
ドスンッとボスの体が崩れ落ちると、周囲に残っていたポイズンラプトルたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
これだけの数を纏めていたボスが倒されたことにより群れが崩壊したようだ。
中には継続して戦闘を続けようとする個体もいたが、それらはエリシアの精霊魔法によって一掃された。




