呪いの無効化
「悪いが魔法は無しで頼む」
エリシアが魔法を撃ち込むと、魔法を吸収してさらに強くなり、相手をするのが非常に厳しくなってしまう。
「そうした方が賢明ね」
シルフィードを引っ込めると、ロンドがエリシア目掛けて距離を詰めていく。
魔法使い故に相性がいいと判断したのだろう。
マズい。さすがのエリシアでも接近戦になると分が悪い。
慌てて走り出すが既にエリシアはロンドの間合いへと入っている間に合わない。
どうにか上手く躱してくれと願っていると、エリシアは腰を低くして杖を構え、ロンドの正面からの振り下ろしを滑らかな動きで回避。それと同時に下からすくいあげるように頬を強打。
「グガッ!?」
エリシアはすぐに杖を引くと、ロンドの顔面へと強烈な突きを放つ。
痛烈な二連撃。普通の人間であれば悶絶して動けなくなるところだが、狂化状態に陥っていること
で痛覚が鈍くなっているのかロンドは悶絶することなく無理矢理に剣を振りかぶる。
だが、それよりもエリシアの杖による突きの方が早く届いた。
「ガッ!」
杖の方が剣よりもリーチが長いからだ。
みぞおちを突かれて身体をくの字に折ったロンドにエリシアは接近すると右手をかざして風弾を撃ち込んだ。
ゼロ距離での魔法を受け、錐揉みしながら吹き飛んでいくロンド。
「剣に吸収されなければ魔法は通るみたいね」
「というか近接戦もできるんだな」
「近づかれたら終わりの魔法使いなんてお荷物でしかないもの」
さすがは元Sランク冒険者。そこらにいる魔法使いみたいな欠点は残していないようだ。
体捌きからして近接戦も俺より強そうな気がする。
今度、エリシアに稽古でもつけてもらおうかな。
なんてどうでもいいことは頭の隅に追いやっておくとして、吹き飛ばされたロンドがゆったりと起き上がる。
「まだ立ち上がるのか」
エリシアの杖に強打されたせいか鼻は骨折しており、魔法の直撃のせいか皮鎧は大きく破損して赤く染まっていた。まともな人間なら戦闘を継続することは難しい状態だが、ロンドは気にした様子も
なく立ち上がる。
そして、右手にある呪いの剣が赤黒く光ると、ロンドの身体を包み込むように流れる。
光がなくなる頃にはロンドの折れてしまった鼻は元の位置に戻り、裂傷を刻んでいた腹部が綺麗な皮膚を覗かせた。
「傷が元に戻りやがった!」
「どうやら吸収した魔力を利用して治癒することもできるみたいね。魔法使い殺しもいいところだわ」
まともな魔法使いが遭遇してしまえば、魔法を吸収され、強化されたステータスによって嬲り殺しだろう。
呪いの剣を持った者を目にするのは初めてだが、ここまで凶悪だとは思わなかった。
長期戦になると不利になるのはこちらかもしれない。
早めに決着をつけるために俺は【纏雷】を発動して、ロンドへと斬りかかる。
それに対してロンドは構えた様子もなく、呪いの剣に翡翠色の光を纏わせると虚空で振るった。
すると、風刃の嵐がこちらに向かって襲いかかってきた。
最初にシルフィードの放った魔法だと直感でわかった。
「土壁」
回避は不可能だと判断して俺はバフォメットから手に入れた魔法スキルを発動。
土魔法による五枚の土壁を前方に展開。
しかし、シルフィードの放った精霊魔法だとすれば、俺の魔法では完全に防ぐことはできない。
だが、それでもいい。
奴の気を引いて、俺がスキルを発動するための時間を稼ぐことができれば十分だ。
土壁が魔法を防いでいる間に俺は【瞬歩】を発動。
これは奈落にいる魔物から手に入れたスキルであり、瞬間的に爆発的な加速を得ることができる。
【瞬歩】の発動によって加速した俺はロンドの後ろへと回り、身体に触れることで【肩代わり】を発動した。
あらゆる状態異常を肩代わりすることのできるこのスキルであれば、ロンドの狂化を引き受けることで救えるかもしれない。
しかし、俺のスキルは弾かれた。
なぜかはわからないが、エリシアの時のように無効化することはできないと悟った。
遅れながら俺の存在に気付いたロンドが、勢いよく剣を振りかぶってくる。
咄嗟に俺はロンドの剣を回避し、そのまま首を跳ねた。
ロンドの首から血しぶきが舞い上がり、胴体が力なく地面に倒れ伏す。
「お疲れ様」
「ああ」
地面に落ちているロンドの生首は、死してなお殺意を孕んだ凶悪な顔のままだった。
「肩代わりはできなかったの?」
「なぜか弾かれた。ロンドに拒絶されたのか、剣によって拒絶されたのかはわからねえが……」
自分よりも弱いものを恐喝したり、罵ったりとロクでもない奴ではあったが、できれば救ってやりたかったな。
「あまり気にしない方がいいわ」
「ああ」
狂化状態に陥った者を元に戻すには高名な聖職者か、稀少な解呪スキルを持った者が必要だ。
そんな者たちはこの街にいないし、いたとしても呼びつけるまで時間がかかってしまって現実的ではない。故に狂化状態になってしまったものは討伐し、無力化するのが救いというものだ。
正当防衛であるが故にそれは法律でも認められており、非難されることはない。
わかってはいても気持ちがスッキリとはしないものだ。
ロンドの首から視線を逸らすと、禍々しいオーラを放った呪いの剣が視界に入る。
「……俺なら持っても問題はないな」
「そうでしょうけど」
エリシアが若干嫌そうな顔で返答する。
「大丈夫だ。俺にはユニークスキルがある」
「わかってても不安なんだけど……」
それもそうだ。ついさっきまで剣に呪われた奴が暴れていたのだから。
「でも、さっきの能力見ただろ? 呪いの武器を使いこなせるようになれば、もっと強くなれる気がするんだ」
【状態異常無効化】がある俺ならば狂化状態になることがない。
ということは、呪いの武器をリスク無しで扱えるということになる。
これは俺のユニークスキルを活かした強みになると考えている。
「本当に頼むわよ? 呪われたら知らないからね?」
抱きかかえるように杖を持ってエリシアが警戒する中、俺は呪いの剣を持ってみる。
すると、剣を通じて頭の中に怨嗟の声が轟いた。
コロセだのニクイだのクラエだの煩いことこの上ない。
剣を通じて赤黒いオーラが身体に流れ込んでくるが、俺のユニークスキルが無効化した。
「うるせえよ」
あまりにも怨嗟の声が鬱陶しいので止めるように言うと、ピタリとそれが止まった。
「ルード、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。ユニークスキルで無効化できたみてえだ」
おそるおそるエリシアが声をかけてくるので、俺は剣をマジックバッグへと仕舞った。
平気であることをアピールするために笑みを浮かべると、エリシアは心底ホッとしたように息を吐いた。
「ルードさん! エリシアさん、無事ですか!?」
なんてやり取りをしていると、遠くからアイラが駆け寄ってくる。
どうやら避難したアイラが増援を呼んでくれたらしく、後ろにはランカースをはじめとした職員や冒険者たちがいた。
「この状況を放置して帰るっていうのはできねえよな?」
「無理ね」
ちょっとした休日のはずが思わぬ騒ぎに巻き込まれてしまったものだ。
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