とある呪いの剣
ランクDの冒険者であるマグナス、ロンド、リグルドたちは瘴気迷宮での討伐依頼を終えた。
思いのほか目的の魔物が見つからなかったために探索が長引いてしまい、安全な平野で野宿をしてからバロナへと帰還するつもりだ。
冒険者にとって一つの依頼が長引くことは嬉しくない。
時間が長引くことになれば、他の稼ぎのいい依頼が受けられなくなる上に、野宿をすれば薪や携帯食料などの物資も減ってしまう。
物資を消費すれば、それだけ依頼で稼いだ黒字が減ってしまうこととなる。
いつもなら探索時間が長引いてしまった時は悪態をついていた三人だが、今日はとても機嫌が良かった。
「にしても、ついてたなぁ!」
「ああ、まさか瘴気迷宮の七階層に隠し部屋があるなんてよ!」
「あの剣はかなりの値打ちものだぜ! 見たところ魔力が宿っていたしよぉ。魔道具、あるいは魔剣の類に違いねえ!」
「それが呪いの剣って可能性はねえか?」
「ないだろ? 呪いの剣だったら触った瞬間に呪われてる」
「それもそうか!」
「魔道具か魔剣ならオークションにかければ、当分は遊んで暮らせるな!」
「わざわざ命をかけてまで働く必要なんてねえからな。最近はルードの奴を見かけることが減って楽に稼ぐことができなくなってきたからよぉ」
「ったく、瘴気漁りのせいで俺たちまで割を食うハメになったぜ。帰ったら、あいつ絞めとくか?」
「最近は超絶美人なエルフの姉ちゃんとつるんでるらしいぜ?」
「へえ、それは俺たちも是非お仲間に入れてもらわねえとなぁ?」
マグナスとリグルドが下種な会話をして盛り上がっているが、そんな中剣士のロンドだけが輪の中に入ってくることがなかった。
「おい、ロンド? どうした? 今日はやけに静かじゃねえか?」
「美人エルフだぞ? お前だって滾るだろ?」
マグナスとリグルドが茶化しながら会話を振る。
こういった女絡みの下世話な話はロンドの大好物だ。そんな話題にもかかわらず乗ってこないことに二人は少し心配していた。
「……ああ、悪い。どうも身体が怠くてなぁ」
ロンドは丸太に腰かけたまま怠そうに応えるだけで視線を向けることはない。
腕の隙間から覗く顔色は青白く、マグナスとリグルドから見ても体調がよさそうには見えなかった。
「風邪か?」
「そうかもしれねえ」
「ったくしょうがねえな。今日の見張りはやんなくていい。俺とリグルドが交代してやっとくから寝てろ」
「……すまん」
いつもなら帰ったら娼館でも奢るなどといった軽口を叩くロンドであるが、今日はまったくそのような余裕は見受けられない。
ロンドはふらついた足取りでテントへと戻る。
それから程なく時間が経過した深夜。
(コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ、コロセ)
剣を通じて、ロンドの脳内へと思念が流れ込んでくる。
瘴気迷宮で剣を拾ってからずっとだ。
剣を手から放しても、その怨嗟が途切れることはない。
強制的に思念を流されるこの感覚で不快でしかない。
「ああああああもう! 鬱陶しいんだよおッ!」
流れる怨嗟を振り払うように無我夢中で薙ぎ払うと、なにか分厚い肉と骨を切り裂いたような感触があった。
「あ?」
我に返ったロンドは自らがテントの中ではなく、外にいることに気付いた。
そして、足元には仲間である魔法使いのマグナスの首が転がり、胴体は焚火へと突っ込むように倒れており、焦げ臭い匂いを放っていた。
「お、おい? マグナス?」
確かめるまでもなく死んでいる。
そして、自分の右手には瘴気迷宮の隠し部屋で手に入れた剣が血塗れている。
誰がマグナスに手をかけたかは明白だった。
「ろ、ロンド……? お前、なんのつもりだよ?」
リグルドが警戒したように剣を抜いて、その切っ先をロンドへと向ける。
「ち、違う! これは! 俺はやってない!」
「なに言ってやがるんだよ! すぐ傍で見てたんだぞ!? お前がマグナスの首を跳ねたところを!」
自分はそんなつもりじゃなかった。
などと述べるが、ロンドの右手には血塗られた剣があり、マグナスを殺す姿をリグルドに目視されている。
言い訳をしようが信じてもらえるはずがない。
「ち、違う! お、俺は……俺はお前をコロス!」
現実を受け入れられずに頭を掻きむしったロンドの瞳には狂気の色が浮かんでいた。
「お前! まさか、呪いの剣なのか!?」
常人とは思えない言動、豹変具合を目にしてリグルドはマグナスが切り捨てた呪いの剣という可能性にたどり着いた。
しかし、今頃になって気付こうがリグルドにはどうすることもできない。
狂化状態によって身体能力を大幅に強化されたロンドの剣にリグルドは抗うことができず、なすすべもなく斬首遺体がもう一つ転がることになった。
「コロス、コロス、まだ足りない。喰い足りない」
呪いの剣を手にしたロンドは怨嗟の言葉を呟きながら夜道へと歩き出す。
彼の進行方向には多くの人が暮らしている辺境都市バロナがあった。
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