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バフォメット


 アベリオ新迷宮の十階層を超えると、階層の通路はより複雑さを増した。


 それに伴い遭遇する魔物のレベルや出現する頻度が上がったが、適性レベルよりも遥かに高い俺とエリシアの敵ではなく、あっという間に蹴散らして十五階層にやってきた。


 十五階層になると通路の道幅は広く、天井の高さも増していた。


「随分と広くなったな」


「全体的な階層の広さが増したのかもしれないわね」


 アベリオ新迷宮が踏破されているのは二十階層まで。ここ最近は到達階層の更新も緩やかになっているので、エリシアの言う通り階層自体が広くなっているのだろうな。


「灯りを用意するわね」


 エリシアがそう言うと、彼女の周りにいくつもの明るい光が灯り出した。


 その光はエリシアの周りを自由に動き回り始める。


「それも精霊か?」


「ええ、光精霊よ」


「シルフィードみたいに人型じゃないんだな」


 風精霊であるシルフィードは少女の姿をしていたが、目の前に浮かんでいる光精霊はただの光球にしか見えない。


「すべての精霊が人の姿をしているわけじゃないわ。不定形な光だったり、動物の姿を模していたりと様々よ。あと、単純に人の姿を模せるのは力の強い精霊に限られるわ」


 尋ねてみると、エリシアがスラスラと答えてくれる。


 なるほど、シルフィードは風精霊の中でも力の強い個体だったということか。


「ルードにも灯りを出すわね」


「いや、俺には【暗視】があるから大丈夫だ」


「……それって暗闇でも昼間のように見えているってこと?」


「そうなる」


 この薄暗い通路でも俺には昼間のように景色が見えているので、俺の視界を補佐してもらう必要はなかった。


「……ねえ、ルード。あなたがどんなスキルを持っているかを聞いてもいい?」


 エリシアがこちらを伺うように聞いてくる。


 冒険者において相手のスキルを尋ねるのは避けるべきこととされている。


 己のユニークスキルやスキルは切り札となり得るため、多くの冒険者が仲間内であっても明かさないことが多いからだ。とはいえ、もちろん仲間の実力がわからなければ連携も信頼もとれないために

ある程度は明かすものだが、すべてのスキル詳細を話さなかったり、ぼかして伝えたりすることがほとんど。


 俺は【鑑定】スキルを所持していることもあってエリシアの詳細なステータスやスキル構成を熟知しているが彼女はそうじゃない。


 人間とは違った数多くの魔物スキルを所持している俺はエリシアにとって未知数で、どのようなことができるかわからない。それではこれからパーティーとして戦っていくには不便だな。


 エリシアは俺のユニークスキルや魔物を喰らうことを知った上で仲間になってくれている。彼女になら何も隠すことはない。


「いいぜ」


「ありがとう」


 こくりと頷くと、エリシアは少し安堵のこもった嬉しそうな笑みを浮かべた。


「ただちょっと数が多いから俺のギルドカードを直接見てくれ」


 ギルドカードを取り出し、レベルだけでなくステータスの数値やスキルなども閲覧できるように設定すると、そのままエリシアへカードを渡した。


「……わかってはいたけど、見たことのないスキルばかりね」


「ほとんどが魔物から獲得したスキルだからな」


 人がよく所有しているスキルならともかく、魔物の所有しているスキルはそこまで詳細がわかっていないことが多い。


「Sランク冒険者や寿命の長いエルフでもこれだけの数のスキルは持っていないわね」


 スキルの数だけなら世界でも屈指なのではないだろうか? 


 まあ、スキルがいくらあっても使いこなせなければ意味はないのでスキルの数を誇る趣味はない。


「スキルを書き出してもいいかしら?」


 ちょっとのスキルなら脳で覚えろとなるが、これだけの数になるとすぐに記憶するのは難しい。


「いいけど、絶対に落としたりするなよ?」


「ええ、厳重に管理するわ」


 メモ帳に書き記す作業が終わると、エリシアがギルドカードを返却してくれたので懐に仕舞った。


「よし、バフォメットを探すか」


「感知系のスキルがいくつかあるようだけど、それで探せるかしら?」


「ああ、まずは【音波感知】で探ってみる」


「……私には何も聞こえないけど音波を放っているのよね?」


 スキルを発動させていると、エリシアが怪訝な顔をしながら聞いてくる。


 聴覚が優れているエルフ族でも音波を捉えることはできないようだ。


「ああ、音波の振動や反響で情報を拾うことができる」


「便利ね」


「外みたいな開けたところだと精度が下がるけどな」


「音波が拡散するから拾える情報が少なくなるってわけね」


 口数の少ない俺の説明でもエリシアは理解してくれたようだ。


 細かい説明をするのはあんまり得意ではないので助かる。


「……少し先に大型の魔物がいるな」


「バフォメットかもしれないわね。行ってみましょう」


 他に手がかりがあるわけでもないので、とりあえず俺たちは音波で掴んだ大型の魔物の方に向かっていく。


 すると、黒い翼を生やした大きな生き物が見えた。


 周囲には魔物らしき骨と魔石の破片が散らばっており、今も何かを貪っているようだ。


 エリシアの周囲にある光に気付いたのか、その生き物が振り返った。


 山羊の頭に薄い白布を羽織った巨躯の魔物。



 バフォメット

 LV27

 体力:122

 筋力:88

 頑強:95

 魔力:132

 精神:124

 俊敏:76

 スキル:【火魔法の理】【土魔法の理】【精神力強化(小)】【鋼爪】【魔力回復速度上昇(小)】



「バフォメットよ!」


 俺が【鑑定】して情報を拾うのと、エリシアが声を上げるのは同時だった。


 ソルジャーリザードと同じレベルにもかかわらず、ステータス値が違うのは魔物としてのポテンシャルが違うからだろう。


 バフォメットは口元に滴る血を拭うと、こちらに金色の瞳を向けて不思議な声色の絶叫を上げた。


「どう?」


「エリシアの推測通り、魔法スキルを持ってる!」


【火魔法の理】と【土魔法の理】。それらの詳細を見ることはできないが、名称からして魔法能力に関するスキルに違いない。


「そう! だったらルードのために倒さないとね!」


 バフォメットの周囲に魔法陣が展開され、真っ赤な炎の槍が四つ出現。狙いを定めるように矛先がこちらを向くと、勢いよく射出された。


 俺とエリシアは左右に飛び退いて反撃に移行。


 大剣を抜いて駆け出すと、バフォメットが魔法陣を輝かせる。


 二本の火槍をステップで回避して、そのまま斬りかかるとバフォメットの爪に阻まれた。


 ステータスの数値ではこちらの方が上回っているが、【鋼爪】というスキルがなにかしらの補正を与えているのだろう。


 そのまま力で押し込もうとすると、待機させていた魔法陣から二本の火槍が出現。


 俺は慌てて鍔迫り合いをやめて、その場から後退。俺の立っていた場所に火槍が突き刺さって爆発する。


 あれだけの至近距離で魔法を放てば術者にも被害がいくものだが、強靭な皮膚に守られているバフォメットには何のダメージもないようだ。


「ちっ、やりづれえな」


 このバフォメットは魔法を攻撃用だけでなく、防御用にも魔法を待機させているほどに用意が周到だ。


 それでいて近接戦もできるというのだからやりづらくてしょうがない。


 ゴブリンメイジやコボルドメイジといった魔物なんかは魔法の発動に時間がかかる上に、魔法一辺倒だから楽なんだけどな。


「魔法は私が処理するから任せて!」


 どう攻め込もうか悩んでいると、後ろにいるエリシアが言った。


 魔法を処理するというからには何らかの封じる手段があるのだろう。


 魔法をエリシアに任せることにした俺は、もう一度バフォメットへと突っ込む。


 バフォメットは先ほどと同じように魔法陣から火槍を飛ばしてくる。


 すると、俺の後ろから飛んできた水槍が火槍と衝突して空中で爆発した。


 バフォメットは待機させていた二本を射出させると、またしても水槍が衝突してきて無効化される。


 振り返ると、後ろには杖を掲げて得意げな顔をしているエリシアがいた。


 どうやらバフォメットの魔法に合わせて、反する属性魔法をぶつけているようだ。


 バフォメットが苛立った様子で次なる魔法陣を輝かせる。先ほどと異なる魔法陣からは大量の礫が出現し、俺とエリシアを射抜かんと射出される。


「行って!」


 エリシアの言葉を信じて、俺は押し寄せる礫に何の対策もせずに突っ込んだ。


 すると、後ろから礫を射出された。


 バフォメットによる礫の雨荒らしをことごとく相殺していく。


 口にするのは簡単だが、それを実行するにはあまりに難易度が高いに違いない。


 まさに神業だ。


 あっさりと接近することのできた地面をしっかりと踏みしめて大剣をスイング。


 バフォメットが慌てて爪を盾代わりにするが、俺の踏み込んだ一撃は爪ごとバフォメットの胴体を切り裂いた。


 よろめきながら後退するバフォメットだが、その胸には既に二本の火槍が突き刺さっていた。


 己の胸から生えた火槍に信じられないとばかりの視線を向けながらバフォメットは仰向けに倒れ込んだ。


「えげつねえことするな」


「今のステータスでどこまで魔法を操れるか試してみたかったのよ」


 バフォメットの魔法の威力に合わせて、寸分たがわない精度で魔法をぶつけていたのは、やはり意図があったようだ。


 彼女の魔力と精神で相殺という結果なんてあり得ないだろうからな。


 さすがは元Sランクの魔法使い。レベルが下がっても魔法の操作技術は健在のようだ。


 とはいえ、同じ種類の魔法を使っていたことや、とどめの魔法に相手の得意とする魔法を使ったのは彼女の性格の悪さを表しているのかもしれない。


「なにか失礼なこと考えなかった?」


「気のせいだ」


 エリシアに関する考え事をしていると何故か見抜かれる気がする。


【読心】スキルとか持っているんじゃないだろうかと思って【鑑定】してみたが、彼女にそんなスキルはなかった。不思議だ。



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『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
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