ゲルネイプの塩焼き
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「ねえ、魔物を食べるってそのまま生で食べるの?」
ゲルネイプを見て、エリシアが恐々とした表情で尋ねてくる。
「さすがにそれはねえよ。一般的な料理と同じで調理をする」
平地に移動すると、マジックバッグから調理に必要な道具を取り出していく。
「ちゃんとマジックバッグを持っているのね」
「そうしないと調理道具を持ち歩けないからな。エリシアも持ってはいるだろ?」
「ええ、かなり大容量のものをね!」
自らのマジックバッグを自慢げに叩いてみせるエリシア。
「それってどのくらい入るんだ?」
「うーん、満腹亭くらいの建物なら余裕で収まるわよ」
「とんでもねえな」
俺のマジックバッグなんて調理道具や必要な物資を入れるだけでパンパンなのだというのに、羨ましい限りだ。冒険に出る時はエリシアのバッグに物資を入れさせてもらおう。
ゲルネイプを水で洗ってみると、ぬめぬめとしていた。
表面にはぬめりがあるらしい。そのまままな板の上で捌くのは難しいので、頭を右にして目打ちすることによって固定。頭頂部から背骨まで包丁を入れると、背骨に沿って切り進める。
開くと綺麗な薄ピンクの身が露出した。
頭側の内臓の付け根を包丁で切ると、内臓を手で掴んで尾の方に引っ張りながらむしり取った。
内臓の処理が終わると、次は骨だ。
背骨の腹側に沿り、頭から尾の付け根まで切れ目を入れる。
すると、身から切り離された骨が浮いてくるので頭から背骨を切り離す。その切り口から背骨の下に刃先を差し込んで削ぐように身から背骨を切り離していく。
まだ切り離さずに尾の付け根で止めると、残した背骨と一緒に背びれの際まで切り落した。
左手で尾の部分を引っ張りながら包丁の先を背びれから頭の付け根まですすめ、背びれを切り取る。さらに尾びれを切り取ったら、しごくような感じで包丁を頭の付け根まで寄せて、寄せた内臓と
共に頭を切り落とした。
「よくこんなにテキパキと捌けるものね」
「基本的な身体の構造は魚と変わりねえからな」
捌いたことのある魚の知識を応用しているだけだ。
時間をかけて泥抜きすればすべて食べられるだろうが、そんな時間はないので内臓などは捨てる。
これが正しいやり方なのかは不明だが、食べ難い部分さえ取り除いておけば問題ないはずだ。
「後はこれを焼いたり、煮たりする感じ?」
「そうだがその前にぬめりをお湯で落としておきたい」
こういう魚のぬめりは臭みの元になることが多い。水で洗ってみたがまだ若干の臭さがあるのでしっかりとぬめりを落としておきたい。
「お湯なら魔法で出してあげるわ」
「おお、さすがは魔法使い!」
いつもならわざわざ鍋に水を入れて、火魔法で温めて沸騰させる必要があるのだが、水属性と火属性の魔法を使えるエリシアがいれば、お湯を作り出すことは造作もない。
思わず感激の声を上げるとエリシアが苦笑した。
まな板を少し傾けると、エリシアが出してくれたお湯を捌いたゲルネイプに流しかける。
「なんか白いものが見えたわね」
「多分、それがぬめりと臭みの原因だろう」
ゲルネイプの身を冷水に浸すと、白いものが浮き出してきたので包丁でしごいて取り除く。
「おお! 大分ぬめりがなくなった」
「臭みもほとんどなくなったわね」
やはりあのぬめりが臭みの原因のようだった。熱湯をかけてみて正解だな。
ぬめりと臭みがとれたところでゲルネイプを適度な大きさに切り分ける。
そこに薄く塩を振ると、油の敷いたフライパンに皮目から中火で焼いていく。
魚の脂の匂いが漂ってきて実に美味しそうだった。
火が通ってくると身が盛り上がってきて、皮に焦げ目がついたタイミングでひっくり返す。
そして、表面にも淡い狐色の焼き色がついたら皿へと盛り付けた。
「ゲルネイプの塩焼きの完成だ!」
「ねえ、普通に美味しそうなんだけど……」
完成した料理を見て、エリシアがごくりと喉を鳴らす。
「食うか?」
「魔物だから食べられないわよ!」
「魔化状態になったら俺が【肩代わり】してやるぞ?」
「魔化状態になるまでに身体にどんな異常が出るかわからないじゃないの! さすがに命を懸けてまで食べてみようとは思わないわ」
「それもそうだな」
俺だって食べられるかもしれないとわかっていても、命を落とすのが怖くてずっと試すことができなかった。
俺のようなユニークスキルを持っていないエリシアが怖がるのは当然か。俺の【肩代わり】もどこまで機能してくれるか不明だからな。
「じゃあ、これは俺一人で食べるとしよう」
「そうしてちょうだい」
口調の割にはちょっと羨ましそうな表情。
これだけ美味しそうな見た目と匂いを放っていれば仕方がない。
エリシアが見守る中、俺はゲルネイプの身をフォークで刺して口へ運んだ。
「美味い!」
「どんな感じの味なの?」
「ふっくらとしていて口の中で身が溶ける! それと共に広がるゲルネイプの脂身と旨みが堪らない!」
ゲルネイプの脂身の甘みがしっかりとしているので、これは余計な味付けはせずに塩で食べるのが正解だな。
濃いタレなどはゲルネイプの旨みを損なうだろう。
「こういう細い魚って小骨が多そうなイメージだけど、その辺りはどうなの?」
「確かに少し小さな骨があるがほとんど気にならないな。喉に刺さるような大きさも硬さもないし、普通に食べられる」
エリシアの懸念する食べ難さというものは一切なかった。
この骨の柔らかさであれば、焼いてみたりスープの出汁にしてみたりするのもアリだろうな。
ぬめりがしっかりと取れているお陰か懸念していた生臭さや泥臭さのようなものは一切なかった。
夢中になって食べ進めると、あっという間にゲルネイプを平らげていた。
「ふう、美味かった」
「本当に魔物を食べちゃったわね。身体は平気なの?」
「ああ、特になんともないな。むしろ、身体に力が漲っているくらいだ」
腕を回して絶好調であることをアピールすると、エリシアは珍妙な生き物を見るかのような視線を向けた。
世の中では魔物は食べてはいけないという認識が当たり前だから、エリシアの反応は当たり前だ。
「で、魔物を食べるとその魔物のスキルが手に入るのよね?」
「そうだ。ゲルネイプの持っていた【高速遊泳】【水弾】【狙撃】の三つのスキルが手に入っているな」
「へー、スキルを見たいからそこの沼で泳いでみてよ」
「さすがにそれは勘弁してくれ」
どれだけ早く泳げるのか試してみたい気持ちあるが、さすがに沼を泳いでみたいとは思わない。
普通に川とか綺麗な水場で試したい。
なんて主張すると、エリシアはコロコロと笑って冗談だと言ってくれた。
「泳ぐ方は無理だが【水弾】と【狙撃】ならイケそうだ」
「本当?」
エリシアが爛々とした瞳を見つめる中、俺は【水弾】を発動。
体内から生成された水を口元で留めると、遠くに生えている木を視認。
ただ木に放つだけではつまらないので、僅かに残っている葉っぱに狙いを定めて水弾を飛ばした。
俺の口から放たれた【水弾】は【狙撃】による補正によって見事葉っぱだけを撃ち抜いた。
すぐ傍からパチパチとした拍手の音が上がった。
「本当にゲルネイプのスキルが使えているのね。魔物を喰らって、スキルを手に入れるルードの力は破格だわ」
「魔物を食べる姿を見ても、本当に気持ちは変わらないか?」
「変わらないわよ。だからこれからは仲間としてよろしくね?」
「ああ、よろしく頼む」
こうして俺とエリシアは正式にパーティーを組むことになった。
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