酔い覚まし
翌朝、満腹亭の食堂で先に朝食を食べていると、フラフラとした足取りでエリシアがやってきた。
彼女は席に着くなり、青い顔をしながら呻いた。
「……気持ち悪い。頭が痛くて死にそう」
「だろうな」
久しぶりに憂いなく酒が呑めるのが嬉しかったのか、昨晩のエリシアは自重することなく酒を呑んでいた。
その結果、見事なまでの二日酔い状態となっているわけだ。
「朝食は食べられそうか?」
「……無理。吐く」
テーブルに突っ伏しながらエリシアが返答する。
「回復魔法でどうにかならないのか?」
「二日酔いには効果がないのよ」
「そうなのか」
絶妙にどうでもいい知識が増えた気がする。
「ああ、どこかの天才が二日酔いを何とかする魔法を発明してくれないかしら……うっぷ」
エリシアがどうでもいいことを呟きながらもえづく。
今日は俺の秘密を打ち明けるためにも冒険に出る予定だったのだが、このままではエリシアが動けなさそうだ。
名前:エリシア
種族:エルフ族
状態:二日酔い
LV43
【鑑定】してみると状態が二日酔いになっている。一応、これも状態異常に含まれるんだな。
状態異常であれば無効化できないものはない。
仕方なく俺はエリシアを対象にして、【肩代わり】を発動。状態異常がこちらに流れ込んでくるが、俺のユニークスキルが無効化してくれた。
すると、テーブルに突っ伏していたエリシアがすくっと上体を起こした。
「あれ? 急に頭痛とお腹の不快感がなくなったわ」
「二日酔いを俺が【肩代わり】して無効化してやった」
「ルード! あなたは神だわ!」
俺の右手をギュッと握りしめて感激の表情を浮かべるエリシア。
行いこそアレだがエリシアは美人のエルフだ。手を握られるとドキッとしてしまうのでやめてほしい。
「いいから早く朝食を食べろ」
「はーい!」
照れを隠すように促すと、エリシアは給仕をつかまえて朝食の注文をした。
程なくして運び込まれたメニューは俺と同じハムエッグにポトフに黒パンだ。
「ルード、私とんでもないことに気付いちゃった!」
「なんだ?」
「ルードがいれば、私は酔うことなく一生お酒を呑めるわ!」
食事中にエリシアが真面目な顔をするので尋ねてみれば、非常にくだらないスキル運用だった。
「次は酔っても肩代わりしてやらねえからな」
「ああ、ごめんなさい! 冗談だから!」
冗談だとはいっているが視線が虎視眈々と何かを狙っているような雰囲気だ。
このエルフ、もしかすると酒癖が悪いのかもしれないな。
次にまた酒を呑む時は注意することにしよう。
なんて朝の一幕がありながらも朝食を食べ終わると、俺たちは瘴気迷宮にやってきた。
別に街の外でも良かったんだが、エリシアの万全を期しておいた方がいいという気遣いによりこの場所になったわけである。
「で、ルードの秘密っていうのは何なの?」
周囲に人の気配がないことを確認すると、エリシアは本題を尋ねてくる。
「俺の秘密は魔物を食べることだ」
「ええ? 魔物を食べるの?」
「ああ、俺は魔物を喰う」
「いやいや、魔物を食べたりしたら普通にお腹を壊しちゃうし、最悪の場合は魔化状態になって――ああ」
突っ込みを入れている途中で気付いたのだろうエリシアがハッとした顔になる。
「そう俺には【状態異常無効化】っているユニークスキルがある。だから、魔化状態になることはねえんだ」
「理論的にはそうとはいえ、よく食べてみようと思ったわね」
答えると、エリシアがやや呆れをはらんだような声音で言う。
「俺も最初は怖くて試せなかったさ。だけど、そうもいっていられない状況に陥ってな。食べられることに気付いたのはつい最近だ」
「ルードがたくさんの魔物のスキルを持っているのって、もしかしてそれが関係しているの?」
「そうだ。魔物を喰べたことで俺はスキルを手に入れることができた。だから、俺は強くなるためにこの先も魔物を喰らうことをやめるつもりはない」
「それがルードの秘密ってわけね」
「そうだ」
「なーんだ、そんなことだったのね」
こくりと頷くと、エリシアがホッとしたような顔になる。
思っていた以上に軽いエリシアの態度を見て、告白したこちらが拍子抜けする思いだ。
「そんなことか? 魔物を食べているんだぞ?」
「別にちょっと人と変わったものを食べる趣味があってもいいじゃない。それが冒険者として強くなるための事だったら恥じることはないわよ。少なくとも私はそれを理由に気味悪く思ったり、パーテ
ィーを組むことをやめようとは思わないわ」
「そ、そうか」
「というわけで正式にパーティーを組むってことで問題ないかしら?」
「あ、ああ。よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
エリシアの差し出してきた手に応じるように重ねると、彼女は嬉しそうに笑った。
「ねえ、せっかくだしルードが魔物を食べる様子っていうのを見たいんだけど」
まるで見世物のようだが、エリシアの抱いている好奇心はわかる。
「ならあそこにいるゲルネイプでも倒して喰うか」
瘴気迷宮の外には沼地が広がっており、そこにも魔物は潜んでいる。
ちょうど沼を覗いてみると、ゲルネイプという魚型の魔物が何匹か泳いでいた。
ゲルネイプ
LV23
体力:46
筋力:29
頑強:28
魔力:32
精神:36
俊敏:48
スキル:【高速遊泳】【水弾】【狙撃】
【鑑定】してみると、それなりに使えそうなスキルを持っている。
喰らっておいて損はないな。
「沼の魚って大丈夫なの?」
ゲルネイプを見ながらエリシアが心配そうな声を上げる。
沼とあってか水面はお世辞にも綺麗とは言えない。
普通の感覚をしていれば、好んで手をつけたいとは思わないだろう。
「元から胃袋は強い方だしスキルもあるからな。生で食べるわけじゃねえし平気だろう」
単純に不衛生ということや寄生中の心配などがあるが、【強胃袋】【寄生耐性(大)】【健康体】というスキルがあるので問題ないだろう。
沼に近づくと、こちらの気配を察知したのかゲルネイプが水面から顔だけを出して勢いよく水弾を吐いてきた。
【鑑定】で事前にスキル構成を見抜いていたが故に、行動を予測していた俺は首を動かして正確な一撃を回避。
水弾は後ろにあった枯れ木の枝をへし折った。
一般人がまともに受けたら大人であっても吹き飛ばされそうな威力だな。
まあ、今の俺の頑強さなら直撃しても痛くも痒くもないだろうが攻撃は受けないに越したことはない。
次々と水面から顔を出したゲルネイプの水弾を避けながら近づいていく。
相手を間合いに捉えたので大剣を振り下ろそうとすると、ゲルネイプはすぐに水中へと引っ込んでいった。
「おいおい、卑怯だろ。それは」
「魚だもの。危なくなったら水中に逃げるわよね。というか、ファルザスたちと戦っていた時のルードもこんな感じだったわよ?」
そう言われると確かにそうだ。
きっとファルザスたちの気持ちはこんな感じだったんだろう。
そもそも俺の武器は大剣なので、こうやってちょこまかと動き回る相手とは相性が悪い。
思いっきり大剣を振り下ろせば仕留められる気はするが、衝撃でゲルネイプが粉々になってしまいそうだ。喰べてスキルを手に入れることが目的なのでそれは避けたい。
「私の魔法を使えば、綺麗に仕留められるけど?」
「いや、大丈夫だ。【纏雷】」
俺はスキルを発動して身体に雷を纏わせた。
沼にちょこんと指を入れて雷を流してやると、水中を泳いでいたゲルネイプたちはガクガクと震えた後にぷかーッと水面に浮かんできた。
「大漁だな」
感電死したゲルネイプたちを丁寧に引き上げる。
「サンダーウルフのスキルね! 使っている時は感電したりしないの?」
「ああ、別にそういうのはないな」
「便利ね」
まったくだ。攻防一体なだけでなく、こうやって漁にも使えるなんて【纏雷】が便利過ぎる。
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