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深淵魔物の呪い


 ファルザスたちを倒して一息つくと、エルフが杖を手にしながらこちらに歩み寄ってきた。


「色々と聞きたいことはあるけど、まずは助けてくれたことにお礼を言うわ。ありがとう」


「いや、気にするな。俺がやりたくてやったことだしな。それより身体は大丈夫か?」


「ええ、なんとか歩ける程度には」


 先程は歩くことすらできなかったようだが、俺が戦っている間にある程度の体力と魔力が回復したようだ。


 それでも迷宮に漂う瘴気症状は無効化できておらず、魔力も少ししかないせいで辛そうだ。


「ポーションはあるか?」


「マジックバッグはあるんだけど、あいつらにずっと追われていたせいで補給ができなくて」


「ならポーションを渡そう」


「本当!? 助かるわ! でも、お金はないから魔石で支払っていい?」


「それでいい」


 頷いて魔力回復ポーションを渡すと、彼女は大きな魔石を渡してきた。


「おい、これ明らかにポーションよりも高いぞ?」


 籠っている魔力も多く、サイズもかなり大きい。


 俺が買ったポーションの値段よりも遥かに高い。とても等価交換とはいえないだろう。


「助けてくれたお礼も兼ねているから」


「持ち金がなくて困っているんじゃないのか?」


「大丈夫。逃げながらも魔物は倒して魔石だけはたくさんあるから」


 ジャラジャラと良質な魔石を取り出して見せてくるエルフ。


 貨幣がないだけでお金になるものは大量にあるようだ。


 それなら無理に遠慮することもないか。彼女の気持ちを受け取っておくことにする。


「ハイヒール」


 エルフの女性は瓶に入った青色のポーションを口にすると、すぐに魔法を唱えた。


 彼女の身体を翡翠色の光が包み込み、身体にあったいくつもの傷が修復されていく。


 回復魔法はかなり高等な魔法だと聞いていたが、それを簡単に使えるとはさすがは魔法適性の高いエルフだ。


「事情を話したいのだけど場所が場所だから、ひとまずは外に出るっていうのはどうかしら?」


「わかった。そうしよう」


 俺は瘴気を完全に無効化できるが、このエルフはそうはいかないだろう。


 落ち着いて話すには向かないこともあり、ひとまずこの迷宮を出ることにした。


「その前にあれの処理をしておくわね。迷宮に取り込まれてアンデッド化する可能性もあるし」


 エルフはそう言うと、ファルザスたちの遺体へ近づく。


 ごくまれに死亡した人間が魔素の影響を受けてアンデッド化することがある。


 特に魔素に満ちている迷宮などでは確率も高く、余計な二次被害を生まないためにも処理をする必要があるのだ。


 エルフはぶつぶつと詠唱をすると、魔法で遺体に火を放った。


 ……人間を喰らえば、魔物と同じようにスキルが手に入るのだろうか? 


 という思考がふとチラついたが、さすがに同じ人間を食べるというのには嫌悪感が湧いた。


 スキルは魔物を喰らった時だけに獲得できるものだろう。


 仮に人間を喰らった時にもスキルが獲得できたとしても、そこだけは人として踏み込んではいけない領域だと思った。


「どうしたの?」


「なんでもない。早く外に出よう」


 怪訝な顔をしてくるエルフの問いに曖昧な返事をしながら階層を引き返した。




 ●




「ふう、やっぱり瘴気がない場所っていうのは気持ちがいいわね」


「そうだな」


 瘴気迷宮の外に出ると、エルフが新鮮な空気を取り込むように大きく深呼吸しながら言った。


 ユニークスキルのお陰で瘴気が平気とはいえ、不快なことに変わりはないので同意するように頷いた。


「さて、事情を説明する前に自己紹介をするわね。私はエリシア。今は活動していないけど、元冒険者よ」


「……もしかして、翠嵐のエリシアか?」


「あはは、私のこと知ってるんだ」


 思い当たる名前を挙げてみると、目の前のエルフが気恥ずかしそうに頬を指で掻いた。


「ルディアス王国でも有名なSランクパーティー『蒼穹の軌跡』に所属する冒険者だ。知らねえ奴はいないだろう」


「まあ、それは昔の話なんだけどね……」


 なんて言ってみると、エリシアの表情が若干暗いものになる。


 五年前にエリシアのパーティーは突如として解散した。


 数々の高難易度迷宮を踏破して財宝を持ち帰ったり、Sランクの魔物を討伐して街を救ったりと冒険者ならば誰もが憧れるような活躍をしていたパーティーだけに解散の知らせは大きな話題となって

いた。


「すまん。あまり聞かない方がいい話題だったな」


「いいえ、どちらにせよ今回のことに関係のあることだったから気にしないで」


「冒険者狩りに追われていたことと関係するのか?」


「ええ」


 こくりと頷くと、エリシアはゆっくりと語り出す。


「五年前、私たちがパーティーを解散することになったのは難易度Sの深淵迷宮の最深部に待ち受ける魔物を相手に半壊したからよ」


 難関迷宮の踏破に挑んだ後に解散したことから、なんとなくそうではないかと推測していた。


 深淵迷宮の最深部に巣食う化け物というのは、Sランク冒険者がパーティーを組んでも倒せない化け物らしい。頂上の世界過ぎてまったくイメージができない。


「半壊ってことは全滅したってわけじゃなかったんだな」


「ええ。だけど、リーダーが戦闘で死んじゃって、もう一人はその時の負傷で引退を余儀なくされ、もう一人は迷宮に取り込まれてしまった。全滅ではないけど壊滅したとはいえるわね」


 自嘲するような笑みを浮かべてエリシアが吐露する。


 確かに残っているのが一人だけとなってしまっては、パーティーとしては機能しない。


 文字通り、彼女のパーティーは深淵迷宮で壊滅したようだ。


「今の話を聞いて気になるところがある」


「なにかしら?」


「どうしてSランク冒険者であるエリシアが、さっきの奴等に追い詰められていたんだ?」


 ファルザスたちは、かなりレベルも高い上に対人戦闘の技術も高く強かった。


 俺が勝てたのは戦った場所が相手のステータスを減衰させる瘴気迷宮の中だったという要因が大きい。それがなければ、いくら魔物のスキルを宿していた俺でもファルザスたちには勝てなかっただろ

う。そう思えるくらいの強さであったが、それは俺レベルでの話だ。


 いくら一人とはいえ、Sランク冒険者であるエリシアであるならば、ファルザスたちを撃退することなど朝飯前だと思うのだが……。


「それは私が深淵の魔物に呪いをかけられたからよ」


「呪い?」


 首を傾げると、エリシアは突如胸元をはだけさせた。


「ちょっ、急になに出してんだ! 痴女かよ!」


「違うわよ! ここに呪いの痣があるんだってば!」


 慌てて視線を逸らそうとすると、エリシアが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


 おそるおそる視線を戻すと、エリシアの胸の中央には紫色の痣のようなものが広がっていた。


 それは毒々しく、エリシアの身体を蝕んでいるような不気味さがある。


「……いつまで見てるのよ」


「すまん」


 綺麗な膨らみをした胸元に少し視線が吸い寄せられたのは事実なので素直に謝った。


「ちなみにこれはどんな呪いなんだ?」


「……レベルがダウンする呪いよ」






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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
[気になる点] あっ…戦利品が… アレだけ高レベルの集団かつ 対魔物ではない対人向けの 装備構成してたろうから かなりの量の有用なブツをルーティングできただろうに…
[気になる点] 襲撃者のステータス隠蔽できるアイテムは主人公のスキル構成考えるなら、剥ぎ取りマストアイテムだと思ったのだが。 エルフの手持ちの魔石片っ端から食べればスキル取り放題じゃないか?厳密にどの…
[気になる点] 人肉食べるの嫌なら吸血スキル試せばいいのに、、、 持ってること忘れてるのか?
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