耐久
すみません。1話を間違って先に投稿してしまいました。
お手数をおかけしますが割り込み投稿をしました、前の話の『毒沼』の話を読んでもらえると幸いです。
男たちが剣を手にしてジリジリと寄ってくる。
細身の男が素早く切り込んでくるのを躱すと、もう一人の茶髪の男が後ろから剣を振りかぶるのが見えたので身体を投げ出すように転がって回避。
慌てて体勢を整えようとしたが、既に目の前にはファルザスがいた。
目の前に迫ってくる足を避けることができないと判断した俺は、咄嗟に【硬身】を発動。
「ぐっ!」
激しい衝撃が脳を揺さぶる。
危うく意識が遠のきそうになるが、意識を総動員して気絶は避けた。
蹴り飛ばされた俺は沼地をゴロゴロと転がるが、すぐに立ち上がった大剣を構え直す。
「……硬いな。今ので殺れたと思ったんだが……」
感触を確かめるようにトントンと地面を足で突くファルザス。
【硬身】を使わずにまともに受けていたら間違いなく首の骨が折れていた。
やはり、あのファルザスという男は三人の中で一番レベルが高いだけあって、ステータスもかなりのもののようだ。
「頑強が高いのか、はたまた何かの防御系スキルか……ステータスはそれなりにあるようだが、所詮対人戦闘は素人に毛が生えた程度に過ぎないな」
そりゃそうだ。こちとら魔物退治が専門の冒険者だ。
対人戦闘の訓練もそれなりに積んではいるが、こいつらのように専門としているわけではない。
戦闘技術で劣ってしまうのも当然だった。
大剣を構えると、再びファルザスたちがにじり寄ってくる。
囲まれてしまえば、俺の技量では捌き切ることができず、先ほどのように一撃を貰ってしまう。
斬りかかってきた細身の男の剣を弾くと、俺はすぐに囲まれないように動き回る。
「バカが! そっちは毒沼だぜ?」
細身の男の嘲笑する声が響き渡るが、ユニークスキルで無効化できる俺にはまったく問題はなかった。遠慮なく毒沼に足を踏み入れてやる。
「どうした? かかってこいよ?」
「ああ? 誰がわざわざ毒沼に入るってんだよ? 毒で死にたいなら一人で死んでおけ」
「わざわざ俺たちが手を下すまでもないな」
どんなに高い耐性スキルを持っていようと無効化できない以上は、その身を蝕むこととなる。
つまり、ファルザスたちは俺が毒沼から出ないように包囲するだけでいい。
しかし、それは俺のユニークスキルがなければの話だ。
一見ただの膠着状態のようだが、こちらにとって希望はある。
それは相手が完全に瘴気を無効化できていないことだ。
瘴気が無効化できていなければ、ジリジリとステータスはダウンし、体調も悪化していく。
つまり、今の状態では相手の方がステータスは上でも、時間が経過するにつれて勝手に下がってくれるわけだ。
相手が毒沼に入ってこない以上、俺はこうやって待っているだけでいい。
それだけで相手が勝手に弱ってくれる。
「‥‥あいつ、いつまで毒沼にいるんだよ」
毒沼に入ったまま三分ほどにらみ合っていると、細身の男が痺れを切らしたのかイラついたように言う。
「強い【毒耐性】でも持ってやがるのか? まったく顔色に変化がないぞ」
「どれだけ耐性があろうと完全に無効化できない以上、自分の首を絞めるのはあいつの方だ」
そのままさらに五分ほど待ってみると、瘴気の影響か俺よりも先にファルザスたちの体調に変化が起き始めた。
「くそっ! 頭痛てえし、気持ち悪い! 瘴気うぜえ!」
「我慢しろ」
三人とも顔色が見るからに悪くなり、額から冷や汗を流している。
強い瘴気を体内に取り込み続けた故の中度の瘴気症状だった。
【鑑定】を発動してみると、相変わらずステータスの詳細な数値は読み取れないが、しっかりと数値は変動している。瘴気状態によるステータスダウンが進行してくれているらしい。
「……おかしい。なぜお前は瘴気と毒に侵されて平然としている?」
そのままさらに五分ほど経過し、それでも平然としている俺を目にしてさすがにファルザスも違和感を抱いたようだ。
「俺はユニークスキル【状態異常無効化】を持っている。だから、俺に瘴気や毒といった状態異常は意味を為さない」
「――ッ!? 毒沼に入って、すぐに殺すぞ!」
「え? なんでだ?」
「あいつだけが瘴気を無効化できている。このまま時間をかければ、俺たちのステータスは下がる一方で不利になる!」
「くそ! そういうことかよ! 卑怯なことしやがって!」
俺が種明かしをしてやると、ファルザスたちが毒沼に足を踏み入れてきた。
細身の男が正面から剣を振りかぶってくるのを大剣で正面から受け止める。
先程は力で押し込まれてしまったが、今回はまったく力負けすることはなかった。
「く、くそ!」
今度は逆にこちらが力で押し込んでやると、細身の男は徐々に体勢を崩していく。
すると仲間をカバーするために茶髪の男が横から攻撃を仕掛けてくる。
胴体を薙ぎ払うかのような一撃を俺は回避することなくスキルを発動。
「【硬身】」
次の瞬間、カキンッと甲高い音を響かせて、俺の胴体が鋼鉄の剣を受け止めた。
ステータスが下がっている今なら攻撃も受け止め切れると思っていた。
「はぁっ!?」
まさか大剣ではなく身体で受け止められるとは思っていなかったのか、茶髪の男が驚愕の声を上げた。
「【纏雷】」
相手が動揺している隙に俺はさらなるスキルを発動。
バチバチと激しい音を立てて雷が俺の身体を覆い、武器と身体を通じて密着している二人の男に雷を流してやった。
「ぐ、がががががががががっ!?」
「あががががががっ!」
ガクガクと身を震わせると、細身の男はそのまま白目を剥いて倒れた。
茶髪の男はすぐに剣を離したせいで気絶を免れたが、負傷により大きな隙を晒している。
このまま留めといきたかったがファルザスが控えているので、右手をかざしてスキルを発動。
「【エアルスラッシュ】」
右手に収束した風の刃は、負傷した茶髪の男の胴体を綺麗に斬り飛ばした。
これで残りはファルザスだけだ。
「ポイズンフロッグ、アーマーベアー、サンダーウルフ、モルファスのスキルだと!? なぜ人間が魔物のスキルを扱える!?」
「さあな、それをお前に教えてやる義理はねえ」
問いかけを適当にはぐらかすと、俺は地面を蹴ってファルザスに斬り込んだ。
仲間がいない以上、囲まれないようにだとか小難しいことを考える必要はない。
自分の本能のままに大剣を振るっていく。
ファルザスはその技量を持ってなんとか躱そうとするが、身体が思うように動かないのかその身に着々と傷が刻まれることになる。
傷を負ったことで体勢を崩してしまったファルザスは反射的に俺の大剣を受け流そうとする。
だが、今の俺にとっては刃が密接するだけで十分だ。
身体に纏った雷を大剣からファルザスの剣へと流した。
「くががががっ!」
しかし、ファルザスの胸元にあるネックレスが光り輝くと、俺の流した雷を霧散させた。
雷攻撃を防ぐ魔道具だろう。
「おおおおおおおおおおっ!」
俺が驚く中、ファルザスが猛然と斬りかかってくる。
自己強化系のスキルを使用しているのか、ファルザスの全体的な動きが速くなる。
が、今となってはもう遅い。
元になるステータスがダウンしきった状態からブーストしたとしてもたかが知れていた。
今となってはファルザスの挙動や剣の動きを見極めるのはとても簡単で、対人戦闘が得意とはいえない俺でも容易に躱し、弾き、受け流すことが可能だった。
状況の悪さに焦りが生まれているのもあるだろうが、中度の瘴気症状が出ている上に毒にまで身体を蝕まれている。
ファルザスが俺に勝てる道理はない。
大振りとなった相手の剣を弾き飛ばすと、無防備になったファルザスの首をはねた。
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