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毒沼


 瘴気迷宮の二十五階層に足を踏み入れると、地形が石造りの通路から沼地に変化していた。


 大きな地形の変化に俺は驚く。


 それと同時にまた一層と漂う瘴気が強くなったように感じる。


「まあ、瘴気が強くなろうが俺には関係ないけどな」


 ユニークスキルで完全に無効化できる俺にとっては意味のないことだ。


 瘴気が強かろうと弱かろうと影響はない。


 濃い瘴気が漂う中、俺は散歩するかのように軽い足取りで歩く。


 沼地なせいか歩くだけでパシャパシャと水面を叩く音が響く。


 地面がぬかるんでいる場所があるので足を取られないようにだけ注意しないといけないな。


「なんだ? あの紫色の沼は?」


 地面に気を付けながら歩いていると、先の道を塞ぐように毒々しい色合いをした沼地が見えた。


【鑑定】で確かめてみると、毒沼であることがわかった。


 どうやらあそこに足を踏み入れただけで問答無用で毒状態になるらしい。


「うわ、えげつねえ」


 だけど、俺のユニークスキルは【状態異常無効化】だ。


 当然、毒状態も無効化できる。ということは、毒沼の中をそのまま突っ切ることができるんじゃないだろうか? 


 一応、【熱源探査】で毒沼の中に魔物がいないことを確認すると、俺はそーっと毒沼の中に足を踏み入れた。


 名前:ルード 

 種族:人間族

 状態:通常

 LV45



 毒沼から足を戻してステータスを確認すると、特に毒に犯されている様子はない。


 体調にも異変はなかった。


「おお! 毒沼の中でも平気だ!」


 どうやら俺のユニークスキルが毒をしっかりと無効化しているようだ。


 こういった恩恵を確認すると、本当に地味だがユニークスキルなんだと思える。


 このスキルのお陰で魔物を喰らうことができる。


 強くなれた今となっては邪見にすることはないが、ちょっと複雑な気持ちだな。


 瘴気が強くなり、足場も悪くなって毒沼も出現する。


 これだけの変化要素を鑑みると、瘴気迷宮は二十五階層から急激に難度が上がっていくのかもしれない。


 思考を整理して気を引きしめていると、前方から俺の行く手を阻むように魔物が現れた。



 ポイズンフロッグ

 LV30

 体力:105

 筋力:90

 頑強:72

 魔力:45

 精神:55

 俊敏:99

 スキル:【毒液】【変温】【毒耐性(中)】【瘴気耐性(中)】


 モルファス

 LV32

 体力:122

 筋力:98

 頑強:77

 魔力:89

 精神:84

 俊敏:78

 スキル:【毒の鱗粉】【麻痺の鱗粉】【毒耐性(中)】【瘴気耐性(中)】【エアルスラッシュ】




 毒々しい色合いをした大きな蛙と、これまた毒々しい羽を広げた大きな蝶――いや、蛾だな。


 どちらも毒を使った攻撃が得意らしく、状態異常による攻撃スキルを所持しているようだ。


 滞空しているモルファスが翼をはためかせて風の刃を飛ばしてくる。


「「ゲゴッ!」」


 ステップで回避すると、今度はポイズンフロッグたちが口を開けて毒液を吐いてくる。


 いやらしいのが敢えて毒液を回避できように毒沼の所だけ空けているところだ。


 毒液にかかって毒状態になるか、毒沼に足を踏み入れることによる毒状態になる。


 どちらにせよこちらは毒状態となり、魔物たちが有利となる。


 打開する手段はいくつもあったが、俺は油断を誘うために敢えて魔物の目論見に乗ってやることに

した。


 とはいえ、【状態異常無効化】で毒を無効化できるとはいえ、ドロドロとした液体を被りたいとは思わない。必然的に毒沼に足を踏み入れる形での回避を選択する。


「ゲゴゲゴッ!」


 自分たちの目論見通りになったことが嬉しいのか、ポイズンフロッグが嬉しそうな声を出した。


 ポイズンフロッグたちは俺を取り囲むように着地すると、それぞれが長い舌を伸ばして手足を絡め取ってくる。


 抗っていますという程度の反抗を見せると、舌がさらにギュッと巻き付いてきた。


 伸縮した舌は意外と力がこもっており、一般人が拘束から抜け出すのは困難だろう。


 拘束された俺の姿を見て、モルファスが悠々と近づいてきて黄色い鱗粉を浴びせてくる。


 ポイズンフロッグが毒沼へと相手を追い込み、拘束したところでモルファスによる麻痺の鱗粉。なんという凶悪な魔物の取り合わせだろうか。


 一般的な冒険者であれば、このコンボで詰みになってもおかしくはない。


 だが、残念ながら俺には【状態異常無効化】がある。他の冒険者には通用する即死コンボでも俺には無意味だ。


「【纏雷】」


 己の中にあるスキルを発動させると、俺の身体から雷が発生。


 帯電した雷は俺の手足に巻き付いている舌からポイズンフロッグ本体へと伝わる。


「ゲゴオオッ!?」


 濁った声を上げたポイズンフロッグは体を焼き焦がして毒沼に倒れ伏した。


 それに伴い俺の手足を拘束していた舌がするりと落ちていく。


 このスキルは奈落にいたサンダーウルフを喰らって獲得したスキルだ。


 発動すれば、相手を寄せ付けることのない雷を纏うことができるのだ。


 麻痺の鱗粉を浴びせたのにピンピンとしている俺にモルファスは驚きながら慌てて距離を取ろうとするが、既にそこは俺の大剣の範囲内。


 纏っている雷を大剣に纏わせると、そのまま跳躍してモルファスの頭を横薙ぎに両断した。


「相手が悪かったな」


 俺がこのユニークスキルを持っていなければ苦労していたかもしれないが、現実はこんなもの。


 状態異常攻撃に特化している魔物は俺にとってはカモだった。


 スキルで周囲を索敵して他に魔物が現れる気配がないことを確認した俺は、毒沼に入って討伐したポイズンフロッグとモルファスを解体する。


「……俺のユニークスキルなら、こいつらも一応食えるってことだよな?」


 毒や麻痺を宿している魔物なんて普通は食べようとも思えないが、俺には【状態異常無効化】がある。


 つまり、毒や麻痺の元になるものを体内に取り込んでも問題はないわけだ。


 一般的な料理でも毒となるモノは専門の料理人が処理し、提供されることだってある。それと変わらないだろう。


 そんなわけで俺はポイズンフロッグとモルファスも喰べることにした。


「唐揚げにするか」


 二体で別々の調理をするのも面倒なので、どちらも同じ食べ方でいいだろう。


 いつものように火を起こすと、大きな鍋にたっぷりの油を入れて加熱。油を温めている間にポイズンフロッグの下処理だ。


 遺骸の中でもあまり体が焼け焦げていない綺麗なものを選別し、すぐに絞める。


 締め終わると首からナイフを入れ、体内にある内臓を取り除いていく。


 その中に見慣れない紫色の袋のようなものが入っており、覗いてみると毒液が詰まっていた。


 無効化できるとはいえ、毒をそのまま食べる趣味はないのでこちらも捨ててしまう。


 ナイフで切れ目を入れて毒々しい皮を剥いでしまうと、綺麗なピンク色の身が露出した。


 味付けへと移る前に俺はポイズンフロッグの大腿二頭筋の筋と、アキレス腱を切っておく。


 油で揚げることによって筋肉が収縮し、脚がピンと伸びてしまうと鍋に収まらない可能性があるからだ。


 筋と腱を切り終わると、ポイズンフロッグをボウルに入れる。


 それから塩、胡椒、片栗粉を入れて手で混ぜる。


 ポイズンフロッグの処理を終えると、次はモルファスだ。


 羽が広がっていると大きく見えるが、胴体はそれほど大きくない。


 とはいっても、一般的な蝶や蛾と比べると遥かに大きいのだが、十分鍋に収まる範疇だな。


「……一旦、羽は落とすか」


 羽があると鍋に収まらない。


 モルファスの羽を掴んで引っ張ると、ブチブチッという音がして胴体から外れた。


「意外と綺麗だな」


 遠目に見た際は、毒々しい色合いだと思ったが、広げてじっくりと模様を観察してみると綺麗だ。


 不気味なほどに整った二枚の羽の色合いは、芸術品のようである。


 そのまま持って帰って部屋にでも飾ってしまいたい綺麗さだが、鑑賞することよりも羽の味を食べる欲求が勝ったので手ではたいて鱗粉を落としていく。


 俺のようなユニークスキルを持っていない人は絶対に真似しないように。


 モルファスの羽を処理すると、次は胴体に生えている毛を抜いていく。


 そのままでも食べられるだろうが、さすがにフサフサとした毛があると食べ難いだろうしな。


 すべての毛を毟り終えると、丸々としたモルファスの胴体が露出した。


 こうして胴体だけを見ると、芋虫のようだ。まあ、芋虫から成長して蝶になるので基本構造が芋虫に近いのは当然なのだろう。


 筋肉が多いのか触るとぷにぷにとしている。意外と気持ちがいい。


 鱗粉をはたいて丁寧に落とすと、ポイズンフロッグと同じように塩、胡椒で味付けをして片栗粉を纏わせる。


「よし、揚げていくか」


 下処理が済むと、ポイズンフロッグとモルファスを熱せられた油に投入。


 ジュワアアアッと油が弾ける。


 どちらもサイズがデカいせいかひっくり返すのが大変だ。


 なんとか鍋の中で転がしながらもじっくりと両方に火を通していく。


 しばらくすると弾ける油の量が少なくなり、纏っている衣が良い感じの色合いになってきた。


 十分に加熱されたと判断した俺は油の中からポイズンフロッグとモルファスを引き上げた。


 皿には乗り切らないために木板を取り出して、二体の魔物を鎮座させた。


 見た目のインパクトが半端ない。


「まずはポイズンフロッグから食うか」


 ポイズンフロッグを持ち上げると、ぷりぷりとしたモモ肉に齧り付いた。


「あつっ……! だけど、うめえ!」


 表面の衣はパリッとしており、中にある身はとても柔らかくてジューシーだ。


 しっかりと加熱したために臭みはまったくない。


 普通の蛙は鶏肉をさっぱりとさせたような感じだが、ポイズンフロッグの肉は鶏肉を遥かに超えるほどの旨みだ。


 胸元や腕回りの肉はモモに比べると、柔らかくてあっさりとしていた。


 これはこれでいいが、やっぱり美味いのは全体的に脚だな。


 特に発達している部位だからかモモ肉は弾力がある上に、ひと際旨みも強いように感じられる。


 やっぱり、普通の動物よりも魔物の方が美味いな。


「……麦酒が欲しくなる」


 ユニークスキルがあるので酒で酔うことはないが、それでも迷宮探索中に呑むというのは不純なようで躊躇われた。


 罪悪感のある中で呑んでも美味しくないだろうし、お酒と一緒に食べるのは今度でいいだろう。


 今は食べることに集中しよう。


 ポイズンフロッグの唐揚げを食べ終わると、次はモルファスの唐揚げだ。


 丸ごと食べるには食べづらいのでナイフで切り分けて、食べてみる。


 衣だけでなく中までサクサクだ。


 そして、食べた瞬間に鼻孔を突き抜ける独特な風味。


 三葉やセロリのような爽やかな風味をしており、どこかほろ苦く酸っぱく感じる。


「……こっちは独特な味だな」


 胸部から腹部へと移行して食べると、こちらは身が詰まっており、若干のクリーミーさがあるように感じた。


 ジューシーな肉料理を食べ終わった後なので、これはこれでアリだろう。


 口の中がスッキリとした。


 追加で羽を揚げて食べてみると、パリパリとした食感が心地いい。


「あっ、羽の方がうめえかも」


 本体に似てふんわりと三葉のような味はするが、苦さや酸味といったものはない。


 塩、胡椒を振りかけて食べると、ちょうどいいお酒のつまみになる。


 まあ、今はお酒を呑めないんだけどな。


「ふう、食った食った」



 名前:ルード 

 種族:人間族

 状態:通常

 LV47

 体力:239

 筋力:199

 頑強:161

 魔力:148

 精神:123

 俊敏:148

 ユニークスキル:【状態異常無効化】

 スキル:【剣術】【体術】【咆哮】【戦斧術】【筋力強化(中)】【吸血】【音波感知】【熱源探査】【麻痺吐息】【操糸】【槍術】【隠密】【硬身】【棘皮】【強胃袋】【健康体】【威圧】【暗視】【敏捷強化(小)】【頑強強化(小)】【打撃耐性(小)】【気配遮断】【火炎】【火耐性(大)】【大剣術】【棍棒術】【纏雷】【遠見】【鑑定】【片手剣術】【指揮】【盾術】【肩代わり】【瘴気耐性(中)】【瞬歩】【毒液】【変温】【毒耐性(中)】【毒の鱗粉】【麻痺の鱗粉】【エアルスラッシュ】

 属性魔法:【火属性】



 ステータスを確認してみると、無事にスキルを獲得することができていた。


 いよいよ俺も状態異常を無効化するだけでなく、状態異常攻撃ができるようになったらしい。


 ちょっと【毒液】を試してみたい気持ちはあるが、料理を食べた後に使いたいスキルじゃないな。


 残りの状態異常攻撃に関しても、相手がいなければ効果のほどを確かめる術はないので、戦闘の時に確かめるしかないだろう。


【変温】に関しては体温を調節するスキルなので、今は使っても意味はないだろう。


 残りの【エアルスラッシュ】はモルファスが繰り出した風の刃だろうか。


「【エアルスラッシュ】」


 本能に従って右手をかざすと、風の力が収束して刃となって放たれた。


 射出された風の刃は沼地に鎮座している大きな岩に裂傷を刻んだ。


「おー、風魔法みたいだ!」


 風属性の魔法には風刃【ウインドスラッシュ】という風の刃を射出するものがある。


 モルファスのスキルはそれに似ていた。


 なんだか自分が風魔法を使えるようになったみたいで嬉しいものだ。


 俺には火属性魔法の素養こそあるものの、使えるのは生活に使用する程度。


 大規模な火魔法で魔物を殲滅できるような知識も力もないので使うことはできない。


 なので、魔法を生かして戦闘をすることは無理だと諦めていたので、こうやって魔法のような遠距離攻撃スキルが得られるのはとても嬉しかった。


「俺はまだまだ強くなれる」


 調理道具を片付けると、俺は瘴気迷宮のさらに深い階層へ潜っていくのだった。




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