急上昇した稼ぎ
「……これって本当にあなたが討伐した魔物なの?」
瘴気迷宮での探索を終えて、ギルドで魔石や素材の換金を頼むと、カウンターにいる受付嬢が怪しむような視線を向けてくる。
レベル7だった俺が、それよりも高レベルの魔石や素材を持ち込んでいるんだ。
怪しまれるのは当然かもしれない。
素直にレベルが46なのでと説明すると、こんな短期間でどのようにしてレベルを上げたのかと根掘り葉掘り聞かれることになって面倒だ。
信用もしていない相手に魔物を喰らって強くなりました。なんて説明したいとも思わない。
そんなわけで俺の対応はそのままゴリ押すだけになる。
「そうだが?」
「いや、あり得ないでしょ? だってあなたのランクはE。ソルジャーリザードやケイブバット、インセクトスパイダーなんて倒せるはずがないじゃない」
本当はジェネラルリザードやソルジャーリザードも倒しています。なんて言ったら発狂しそうだ。
「新迷宮で置いてけぼりにされて、一人で頑張ったからな。前よりも少しは強くなったんだ」
「置いてけぼりにされるような人が倒せるとは思えないけどねえ?」
「頑張って倒したんだよ。魔石や素材がその証拠だ」
「どうだか。他人のマジックバッグでも盗んできたんじゃないのー?」
受付嬢があざ笑うような口調で言ってくる。
よりによって俺のことをよく思っていない受付嬢が担当か……。
素直にレベル46なので余裕で倒せますと告げたところで、この態度を見れば信じるかどうかも怪しいな。
「いや、他人のマジックバッグは勝手に開けられない仕様だろうが」
マジックバッグは最初の使用者が魔力を込めることで本人登録がされるので、他人がバッグを奪ったとしても道具を取り出すことはできない。それを打開するユニークスキルやスキル、魔法技術があ
れば別だが、そんな能力があるものがマジックバッグを奪うようなみみっちい真似はしないだろう。
「うるさいわね!」
そんな初歩的な指摘をすると、この受付嬢は知らなかったのか顔を真っ赤にして叫んだ。
「なにを騒いでいるんだ。お前たちは」
すると、ちょうど階段から降りてきたランカースがやってきた。
ランカースが現れると、受付嬢はバツが悪そうな顔をしたが、すぐに表情を取り繕って毅然とした態度になる。
「この冒険者が身の丈に合わない素材を持ち込んでいたので事情を聞いていただけです」
「事情を聞いていたという割には、無駄な会話が多かったように思えるがな?」
どうやらランカースは俺たちの会話を事前に聞いていたようだ。
となると、先ほどからずっと繰り返していたネチネチとした皮肉も聞いていただろうな。
事情を確かめていたといえば聞こえはいいが、先ほどの彼女の言葉は明らかに冒険者に接する態度ではない。
「そ、それは……」
「もういい。お前はもう下がれ」
ランカースはため息を吐くと、口ごもる受付嬢をカウンターから追い出した。
受付嬢がこちらをキッと睨むと、苛立たしそうな足取りで奥の職員フロアに引っ込んでいった。
「前々から思っていたんですが、受付嬢たちのあの態度はなんとかなりませんか?」
「すまない。俺もこんな露骨な態度の者がいるとは思わなくてな……他の者たちも大体こうなのか?」
「半分くらいはあんな感じです」
はっきりと告げてやると、ランカースは困ったように眉を寄せた、
「それは申し訳ないことした。俺からも改めて指導することにする」
「そうしてもらえると助かります」
受付嬢に選ばれる者は容姿も良く、愛想もいいので、基本的に冒険者からの評判はいい。
だからこそ、裏でこのような態度をしているとは思わなかったのだろう。
ギルドマスターとはいえ、ランカースだってすべての職員の実態を把握しているわけじゃない。
先日の件からランカースには便宜を図ってもらっているので、強く責める気にもならなかった。
「奥のフロアで態度に問題のない奴はいるか?」
「あそこの端っこにいる眼鏡をかけた女性は普通でした」
俺が指さしたのはフロアの端っこで黙々と書類に何かを書き込んでいる職員。
ブラウンの髪を肩口で切り揃えた比較的真面目っぽい雰囲気のした女性だ。
あの人は俺が瘴気漁りと知っていても、露骨な態度を見せることなく普通に対応してくれたのを覚えている。
「そうか!」
俺の言葉を聞いてランカースは顔を綻ばせると、奥のフロアにいる眼鏡の女性をこちらに呼んだ。
「そういうわけで、イルミ。後は任せた」
「なにがそういうわけかはわかりませんが、査定カウンターに入ればいいのですね。かしこまりました」
ランカースは忙しいのか、眼鏡をかけた職員を呼びつけると去っていった。
「先程は同僚の者が失礼をいたしました。対応を代わらせていただきますギルド職員のイルミと申します」
心無しランカースに呆れていた職員だったが、カウンターに入るなりぺこりと頭を下げて謝罪をし、自己紹介をしてくれた。
他の受付嬢と比べると態度が雲泥の差だ。
「Eランク冒険者のルードだ。よろしく頼む」
「魔石や素材の買い取り査定ですね。鑑定いたしますので少しお待ちください」
改めて提出した素材を鑑定していくイルミ。
「すべての魔石と素材を合わせると、買い取り額は五十万レギンとなります」
「お、おう」
査定の結果、一日の稼ぎ額がバカみたいな金額になった。
「こちらの査定で問題はありませんでしょうか?」
「ない。換金を頼む」
金額に驚いて硬直しながらも頷くと、イルミは淡々と魔石と素材を回収し、貨幣の準備をする。
カウンターに差し出された金貨の数に驚きながらも、俺はそれらを丁寧にマジックバッグに仕舞った。
たった一日で五十万レギン。
これまでは何日も迷宮に潜って成果がゼロということもザラにあったし、瘴気草の群生地を見つけた時でも一日八千から一万が精々だった。
過去の俺の努力がバカらしくなるが、これがレベルによる差というものなのだろう。
冒険者稼業は残酷だな。
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。