推理よりも花びらの保護がしたい
図書室の司書の方が使っていた本を補強する巨大な粘着テープを購入するために町へ出た。さすがに普通のセロテープなどは違う気がしていた。
文房具屋に行くべきか画材屋に行くべきか迷った。
画材屋の方が近かったので、まず画材屋に行く。
入口にレジン用のUVライトが千円未満で売っていた。
レジンは最近流行りの手芸らしい。レジン液の中に好きな物を入れてUV(紫外線)に当てるとレジン液が固まってアクセサリーなどが作れる。
それを見て、レジンで桜の花びらが入ったペンダントなどが作れるかもしれないと思った。
かなりとても魅力的に感じられた。
この少しだけ前にレジンはやったことがあった。
誰かが準備万端な状態にしてくれているところでお手伝い程度でやっただけだったが、もしもこのUVライトがあればできるのではないか。
画材店ではUVランプよりもレジン液の方が高かったので、レジン液は百円ショップで買うことにして、レジに向かう。
UVライトをお兄さんに渡し、
「押し花を貼り付けるようなシールみたいな物はありませんか?」と、一応聞いてみた。
するとやっぱり本をコーティングする大きな粘着テープを勧められた。
この店では雑誌などを保護するのに使う人が多いらしい。
一度貼りつけたら取れないそうだ。
その言葉にやや恐怖を覚えた。失敗は許されないということだった。
はじめはそれを買おうとしていた。
家にあるはずで見つかっていなかったのと同じ物も売っていた。
それよりも小さなサイズがあったので小さい方を買った。
それにはラミネートフィルムと書いてあった。セロテープだか粘着テープだかと名前がなんだか面倒くさい。
UVライトよりも少しだけ安い。
それに、使うのはほんの少しだから、しおりの方がずっと安上りだった。
それから百円ショップでレジン液やシリコン型やピンセットなどを買い、家に帰ってレジンを試してみた。例の花びらで試すのは怖かったので、探して見つけた今年の花びらでやってみた。
あまり上手にできなかった。
はじめて全部自分でやったからかもしれない。
透明なレジンの中央に薄紅色の綺麗な形をした桜の花びらが燦然と、半永久的に封じ込められる様子を想像していたのだが、何かが違った。
自分は手先が器用な方だと思っていたが、それは自分の傲慢だったのかもしれない。
はみ出したり、十分な量が行き届かない感じのへこみがあったりした上に、ボロボロな花びらがレジンの中に封じ込められた。
桜の花びらは、人が扱おうとするとここまで儚く、簡単に破壊される。
やはり桜の木から舞い散る花びらを観るのが人にできる限界なのかもしれない。
あの幻想的な景色を一部だけでも切り取って手元に置くことは不可能なのだろうか。
風に舞い散る桜は、人智を越えた何かの意思で動いていたのかもしれない。
レジンに奇跡の桜の花びらを封入するのはやめた。
とりあえずラミネートフィルムは退色を防止してくれるみたいなので、お気に入りのカレンダーの切れ端にでも桜の花びらを貼り付けてしおりにしてみよう。
いろいろ試してわかったことは、自然の力は偉大で、偶然が必然のように振る舞うことがあるのかもしれないということだった。
花の命は短いからこそ
美しいのかもしれない。