どうして花びらが
それからしばらくして、そういえばあの花びらはどうなっただろうと部屋を探した。
ごちゃごちゃに物が散らばる畳の上を見るが見つからない。
はっきりとは覚えていなかったが、ここだったはずと思うがない。
記憶違いはよくあることだった。
そして、少し視線を移すとシップ薬を保護していたプラスチックが落ちていた。細長い2㎝×5㎝程度の透明な薄い板である。肩こりがひどいので整形外科に出してもらったシップ薬の残骸。
掃除は苦手である。
それは、要らなくなった物を床に放置するクセのせいであろう。
気が向いたら掃除をするというのが良くない習性であることは否めない。
しかし、それが功を奏したのか、その薄くてペラペラなプラスチックの上に桜の花びらが乗っていた。
こんなことが起こるのか?
青い太線が書かれた透明なプラスチックの上に桜の花びらが乗っているのを見て思った。
自室に出入りするのは自分だけである。
しかし、自分には畳に貼りついた桜の花びらをプラスチックの上に乗せた記憶が全くない。
でも薄いプラスチックで畳の上から桜の花びらを取るのは妙案だった。
実際、花びらは傷ひとつなく畳からはがされていた。
風で飛ばされてプラスチックシートの上に乗ったのだろうか?
けれど私は花びらが畳にしっかりとくっついていることを確認していた。破けるのを恐れて少し触れただけだったが。
手の指だけで繊細な花びらを無傷で拾うのを諦めたので、もしかしたらべったりと畳にくっついていたわけではなかったのかもしれない。もしもべったりとくっついていなかったのなら、花びらを畳からはがすのに風は有効である。
でもそんな私に都合よすぎることが、こんなに都合よくおきるのだろうか?
そんなことを考えながら、プラスチックシートを拾い、その上の桜の花びらをチャック付きの収納パックにしまおうと思った。
しおりにするための材料として保存するつもりだった。
このまま放置すれば、確実になくなる。掃除は苦手だったがそれはわかった。
周囲を見回すと都合よく手ごろな大きさの収納パックがあったので、1枚取り出して花びらを入れようとした。
すると、プラスチックシートの上からひらひらと花びらが畳の上に舞い落ちる。
そうなることを恐れてそっとそっとやっていたのに、片手で作業していたためか元の状態になってしまった。でも、今は薄いプラスチックシートという強い味方がある。
今までその上に乗っていて、畳には乗ったばかり。
圧がかけられたわけではなく、目の前で畳の上に落ちたのだ。
すぐにはがせると思って、ペラペラだが意外としっかりしたプラスチックシートの上に花びらを乗せようとした。
そして、上に乗せようとプラスチックをスーッと動かして、乗ったと思ったがその時のスーが良くなかったのか、花びらがスーッと切れた。
奇跡の桜の花びらが……。
桜の花びらにとって、ペラペラなプラスチックの板は、それを切断するのに十分な強度があったようだ。力などほとんど入れずにスーッと動かしただけだったのに。
大丈夫、テープで補強してしおりとして保存するから……。
そう、自分に言い聞かせ、チャック付きのパックにしまった。
儚い自然物は、儚いまま幻想の世界にあるのがいいのかもしれない。
その片鱗と言えど、保存しようと考えてはいけないのだと、桜に言われたような気がした。