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鏡映した覚真の羽~アライヴ・ウィング~  作者: 四神夏菊
一幕目『Apfel(アプフル)』
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08 波乱な魔法のサイエトク

そんなフィドルとの昼食を終えると、ライゼは職務に戻る相手の背中を見送った後、勧めてくれた地へと向かうべく東方へと向かって歩き出した。出発し始めた時こそ褐色の色彩が強い人工物の背景であったが、次第にその間隔はまばらに成り、気付けば彼の眼の前には広がる空へと向かうべく積まれた、石畳の階段が姿を現しだしていた。

すれ違う人々も気付けば薄くなり始めていた事に気付いた後、ライゼは階段を一段ずつ登り、目的地へとやって来た。


「おぉー すっげえ良い景色。フィドルさ……フィドル、本当にいい所教えてくれたんだ………」


彼の眼の前に広がっていた光景、それは小高い丘に設けられた木枠の柵で囲われた『コーヒーショップ』のみが顕在する、綺麗な緑色の続く場所。正確には彼の左側に店が有る以外には城塞区域を囲う壁しか視えず、壁そのものも天井付近と更に外に広がる山々の景色しかなかった。

心地よくも適度に吹いてくる風が清々しい、住宅街とは最も無縁に等しい光景が有るのだった。


青空の広がる丘の上の景色を堪能してか、ライゼはその場で周囲の空気を取り込む様に深呼吸をしだした。元より鳩胸に近く吸い込んだ空気で胸筋周囲の胸囲が広がるも、彼は目一杯その場の空気を堪能したかったのだろう。

吸えるだけ吸い込んだ後に一度呼吸を止め、そして一気に空気を吐き出した、その直後。


「よしっ、やるぞっ!!」


気合いのこもった力強い発声と共に、彼は右手で作った拳を天高く突き上げ意気込みを露わにするのだった。ちなみに余談を挟むと、周囲の人々の目が集まり正気に戻ったライゼは地味に恥ずかしい想いしたそうだ。




『まずは【複製の魔法】の方だな。あの人は確か【素体をベースに具現する力】って言ってたし、何かモデルとなる物が居るよな。何が良いかなぁ………』


しかしそんな赤っ恥くらいでは、今のライゼを止める事は出来ないのだろう。正気に戻り適当な緑の元へと向かうと、彼は手荷物を下ろしつつ自身の所有物を確認しだした。


彼がまず行おうとした事、それは複製する物体の『サンプル』を決める事だ。適当かつ何でも創る事が出来るくらいならば、わざわざ彼が独学で資料を読み漁る必要など、初めから存在しない。何事も『デザイン』が決まった状態の方が、迷う事が無いのである。


「………うん、とりあえず水晶コレで行こう。必要ならまた具現しなおす練習をすれば良いもんなっ」


そんな彼が選び取った品物、それは彼が図書館を利用していた際に使用していた『水晶体』だ。見た目は彼の掌に収まる程の透き通った水色の綺麗な物体に過ぎないが、所有者の意図を汲んで情報板を展開し、そこに幾多もの情報を記録する事が出来るのだ。

簡易的な『記録媒体』に近いモノが、実際に使ってみるとそれ以上の機能が備わっている為、細かい部分は省略しておこう。


その後ライゼは水晶体を一度しっかり目視して現物を確認すると、一度地面に置きその場に腰を下ろしだした。そして本腰を入れて頑張ろうと気合いを入れなおした後、両手の指をそれぞれ添え、周囲の空気を掌に集約する様に空気の波を集わせ始めたのだ。


自らの魔法に必要なだけの魔力元素をその場に構成し、そしてその分子を練り合わせ可視化出来る物体に創り換える事。


それが、今のライゼに求められている魔法の第一ステップだった。



しかし、



「………で、出来ねぇ…… マジか、予想以上に難しいぞコレ……」


練習を始めて数時間が経過したものの、彼は全く手ごたえがない様子でその場にのけ反り乱れた息を整えだした。気付けば無心に成って手技を繰り返していたが故なのだろう、呼吸そのものも地味に忘れていた瞬間があった様だ。おまけに額と手元には汗の雫すら出ている程であり、単純な運動以上に身体は力を行使していたことが良く解る。


ちなみに現状の出来栄えを言えば、創り出そうとしていた『魔力元素テノルメ』が出来た感覚は有れど、練る手前で霧散している状態だった。


『魔法と違って、こんなにも難しいもんだったのか魔術って……… リアナスって人達、よくポンポンと出せるよなぁ………クローバーがあるからなのかもだけど。』


一度深呼吸し休憩を挟みつつ、ライゼは目には視えぬも創り出していたであろう元素の気配を辿る様に手を動かし、周囲の空気を漁りだした。只人からすれば酸素を始めとした元素の集合体を撫でているだけに過ぎないが、今の彼が手元に集約させた力を頼りに撫でれば、違和感を感じる部分が何処かに存在している事くらい解った。

それこそが彼が創りだした魔力元素であり、それを如何にして素早く練り合わせるかが課題であった。


「理論上は『テノルメ』っていう合成物質に近い元素を創り出せれば、後は素体を練って形にするだけなんだけど……… ……そもそも元素から理解と成ると、そっちに身を投じない限り速攻で出来ねえかぁ……… 当然っちゃ当然かぁ。」


しかし今と成っては簡単に魔法を発動する事そのものが困難な為、小難しい上に手技の多過ぎる魔法を会得する事は難儀と言えよう。軽く溜息に近い一息を彼はその場で付いた後、ふと空を見上げある事を考えだした。


『……そういや、俺の使ってた『風唄ふうかの魔法』も【風を対象に集めて放つ魔法】だったっけ……… ……何か疑似的に纏わせる練習をした方が、良いのかも。』


彼が考えていたのは以前まで使えていた自身の魔法であり、あの時はどうやって魔法を放っていたのかを少しだけ考える気に成った様だ。綺麗に生え揃った緑の大地の上で仰向けに成りながら彼は空を視つつ、一度導き出せた解に近い行いをしようと、再びその場に起き上がり周囲を見渡しだした。


すると近くに茂みに近い生垣を目にし近づくと、そこには流水を抑える為に置かれたのであろう『砂利』が点々と大地に置かれているのに気づいたのだ。彼はその中から一つだけ適当な小石を目にすると、手を伸ばし石を掴みだした。


大きさは彼の掌に収まる上に拳を作った際には姿を消せるくらいのモノであったが、可視化出来る上に解りやすい感触が今の彼には丁度良かった様だ。


「手頃な石発見っ コレで行ってみっか。」


彼はその石に創った魔力元素を纏わせる練習を、開始するのだった。



ライゼが機転を利かせ判断した結果、それはあながち間違った方法ではなかったのだろう。掌に置かれた小石に対して、周囲の空気から構成した魔力元素を纏わせるのは左程難儀な行いでは無かった。おまけに『確実にその場に集約している』事が解る程に石の色は変化しており、鼠色に近かった色が徐々に褐色を帯びた石帯に変わっていた事が彼にとっても嬉しかったのだろう。

「もっと…もっと…!」と言わんばかりに元素を次々とその場に合わせた結果、その場には一種の鉱石を疑う代物が出来上がるのだった。


ちなみに出来上がったモノを例えるならば『カンテラオパール』が一番近いが、彩りは疎らかつ光沢は全くと言って良いほどに『石』である。


「………よ、よしっ 翼を使わなくても……集わせる感覚は解って来た。身一つだと……割と難しかったのか……知らなかった……… ぜぇ……ゼぇ………」


とはいえ息切れする程に集中していたのは、やはり変わりなかった様子。再びくたびれた様子でライゼは背面に仰け反り息を整えだすも、ココで有る事に気付いた。


そう、既に美しかった青空は黄昏色に変わっていたのだ。


「……ん、もうこんな時間か。続きは明日だな。」


偶然にもキリが良かったのもあったのだろう、ライゼはその場に立ち上がり一度背伸びをする様に両手を天高く突き上げだした。そして周囲の空気を吸い込みながらゆっくりと深呼吸すると、勢いよく両手を下ろし肩の力を抜いた後、手荷物を纏め再び宿泊先へと戻るのだった。


先程出来上がった疑似カンテラオパールも、彼はその日の記念にと持って帰るのだった。


次回の更新は『7月21日』を予定しています。どうぞお楽しみにっ

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