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鏡映した覚真の羽~アライヴ・ウィング~  作者: 四神夏菊
一幕目『Apfel(アプフル)』
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06 創成に導きしメルキュリーク

ライゼを含む獣人達『エリナス』とは異なる存在。異世界に存在せし民達の総称『リアナス』

それは古の時代に獣人との行動を共に有した存在達の事であり、彼等が住んでいる『クーオリアス』とは異なる世界に今も存在し生活している。だが実際の所、切欠が無ければ獣人達ですら決して出会う事の存在でもあった。


そんなリアナス達は、エリナス達の使う力が『魔法』ならば『魔術』に近いモノを使っていた。クローバーと呼ばれる媒体を介して自らの創造を具現化、そして行使するのがベースと成る為、彼等の魔法の概念とは根本的に異なる理論で現象を起こしていた。その為『素体』さえあれば現象を行使出来るため、魔法とは異なり『自然界の法則には縛られない』という点では有利だった。


反して、エリナス達の使う魔法は『媒体』そのものは存在せず、大気の力を集約し魔力へと変え現象を行使するモノ。自然界の法則性に縛られる一方、例え身一つと成ったとしてもそれを行える事が一番の強みと言えるだろう。



根本的な理論が違う為、魔導士と魔術士という単語さえも分かれるこの力。それを勧めてくれたあのヒトは、一体何者なのだろう。



ライゼの疑念が幾多も増えていく中、彼は一生懸命に『魔術』の概念から学ぶ事を始めていた。今まで使っていた魔法とは異なる原理を知り、それを行使するための手技を学んで行く。どんな些細な事でも構わない、得られる情報で使えそうなモノは全てしらみつぶしに調べていきたい。


だがそれだけでは出来やしない、自身は『エリナス』であって『リアナス』じゃないから。


仮にクローバーと呼ばれるモノがあったとしても、きっと自身では使う事は出来ないだろう。物体が有れば、必ず最後に『モノの崩壊』が待っている。それではただの付け焼刃に近いから、そうではない新たな概念の構築が必須。


故に、今の彼に必要なのは【魔術の行使を魔法へと鏡映させる事】だった。




『……普通に考えたら、学び直しよりも酷な事をしてるよな。俺って……』


魔法書と共に魔術書を見比べる日々を開始して、しばしの日数が経過した頃。ライゼはそんな事を考えながら、山積みになって居た本の隙間から外の景色に目を移しだした。


そこには青く広がる空と雲が浮かび、そして風に運ばれた花弁が時折空を舞っている。自由な様でそうでない花弁が向かう場所は明日か明後日か、はたまたそれ以外の場所か空間だろう。彼が今まで得られていた世界を断たれた時、その感覚を二度と味わえない事を知った時、自身の心に潜む魔法への闇を感じる瞬間が現れる日が、幾度となく来る事を気にしなかったわけではない。


今までは両親が周りから護ってくれていたけれど、そうなる未来を俺が拒み違う未来を築くために外へと飛び出した。自由な風を愛する鳥人らしいと言えばそれまでだが、翼の無い彼には『らしい』という表現そのものが失礼に値するかもしれない。


仮にもしそうであったとしても、今の彼が未来へ対する兆しを先刻に得られたのもまた事実。この努力そのものを、放棄する事なんてあり得ない。あってはならない。

それは彼にも解っていた、しかし………


『……偶には言いたいなぁ。愚痴っぽい事………』


本と閉鎖的な空間に馴れつつあった彼はそんな事を心の中でぼやいた後、一度本を適当な場所へとまとめだした。そして周りの迷惑にならない様に配慮しながら蔵書達をキープした後、受付の人に一言断り外へと出て行った。



そんな彼が目指した場所、それは城塞区域内にある小高い丘の上の教会。外壁は白く煌びやかな金の十字架が印象的なその場にやって来ると、彼は静かに扉を開け礼拝堂の中へと入って行く。鮮やかな彩りで装飾が施されたステンドグラスを抜けて、外の光は優しく堂内の中へと入り神秘的な空間が創られていた。

やがて礼拝堂の一番奥に位置する『祈りの場』に到着すると、彼はその場に飾られた彫刻に目を配った。


そこには石膏で創られた人間の女性を模した像が台座の上に鎮座しており、静かに右手を上げ流れるような曲線を身に着けていた装束で象られていた。空からの光を下界に卸すかのような仕草をした女性の足元には、優々とした口元に首を上げた龍と、凛とした風格を醸し出す狼の姿もあった。


「………メルキュリーク様。」


その場にいた彫刻に対し彼は心の中でそう呟くと、静かに膝を折りその場で祈りを捧げる体制を取り出した。左膝を地面に着き右足を傍に添える形で彼は配置すると、両手の指を静かに絡ませ大きな拳を造り、静かに目を瞑る。

風の音さえも聞こえない無音の空間で彼は無心に成った後、こう呟き出した。



「俺達を導きこの場に世界を創り出してくれた、創造神メルキュリーク様。……どうか、翼を失ったこの哀れな鷹鳥人の言葉を聞いて下さい。


俺には未来栄光、その身に得る事の出来なくなった力を有するべく、新たな世界へと飛び立ちました。しかしその行いそのものは予想を大きく上回る努力と苦労を有する上、その身に刻まれた人生の時間がどれだけ多かったとしても、割愛するに等しい諸行しょぎょうと言えましょう。……俺には許される事と許されない事が何かは解りません。

ですがそんな俺でも、許されるのであれば……


あの方が導いて下さった言葉に応えられる様、この身に再び魔法の力を有する事を許して頂きたく想います。


俺は無力で翼を持たない、他の鳥人族から見れば劣等種……下賤の民。蔑まれる未来も落とされる未来も、はたまた地獄に匹敵する未来も存在しましょう。そうであったとしても……俺は何時か、両親が見送ってくれたあの瞬間を無下にしない、誰かを護る事が出来る存在に成りたいと想って居ます。

切欠そのものが何処に堕ちているのかも解りません、それを俺が生涯見つけられるかも解りません。そうであったとしても……例え、儚い夢であったとしても……!!



俺に、再び魔法の力を有させて下さい………!!!」



彼が告げた言葉は次第に大きく、気付けば堂内に響き渡る程の声量に成って居た。しかしそんな事実を気にする事なく彼はそう告げるた時、自身を卑下する恥じらいなど微塵も感じない、清々しい表情をその場で見せていた。


神はそこに居ないかもしれない、今言った言葉を聞いてすらいないかもしれない。仮にそうであったとしても構わない、今の彼が言いたい事を告げられる場を創ってくれた。


ただそれだけを感謝する様にライゼは心の中で抱えていた事を全て吐き出すと、再びその場でこうべを垂れお辞儀をすると、その場に立ちあがり再度お辞儀をするのだった。


『……大丈夫、翼を失った時から苦労する事は解ってたんだ。父上と母上の悲しい表情を視るくらいなら、俺は何だって挑んでみせる……! 魔術に近い魔法を、使えるようになってみせる!』


再び意気込みを強く持てた様子で、彼はその場を離れるのだった。


次回の更新は『6月26日』を予定しています。どうぞお楽しみにっ

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