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「レベルが上がるっていいなぁ…」



お昼休み、職場でお弁当を食べながらドラクエを進めていたところ、丁度主人公のレベルが上がったところ。男の子の主人公に『スバル』という名前を付けていたので、『スバル』は今レベル7になった。あまり特徴のないキャラクターに思えるけれど、レベルが上がれば当然ながら強くなるし魔法も覚える。段々と作業と化してくる戦闘で、キャラクター達は『確実に』成長する。わたしの人生に置き換えると日々のノルマだったり、プレゼンだったり、取引先で交渉するとかそういう事に当たるのだろうか?でも弱い敵とばかり戦っているとあるところからは経験値の関係で伸び悩みというか、成長のスピードが緩慢になってしまう。前にFMラジオを聞いていた時に、いわゆる「ふつおた」で誕生日を迎えて「レベル〇〇になりました」と報告するリスナーがいたりするけれど、年齢をそのままレベルに置き換えるならわたしはゲームの中盤に差し掛かっても良い頃合いなのかも知れない。



「真理さん今日もお弁当ですか?」



後輩の皆川さんがわたしの様子を見て声を掛けてくれる。コンビニのお弁当がマンネリ気味だったから数日前からお弁当を作ってみている。どうしても卵焼きだけは入れたいので頑張って作るのだけれど、半分は冷凍食品。最近のは美味しいし種類が一杯あって迷ってしまうくらいだけれど、野菜も入れないといけないかもと思い始めている。



「女子力高いですね!」



そう褒めてくれる皆川さんは相変わらずの『パン』。近所に美味しいパン屋さんがあるらしく、昼はパンと決めているとの事。しかも結構な量を食べる。



「女子力っていうか、健康の事考えると自然とそうなってくかもね」



「なるほど…ところで真理さんもしかして今ゲームやってますか?」



「あ…分かった?実はドラクエやってるの。アプリのやつ」



「ほほぅ…それは興味ありますな。リサーチリサーチ…」



そう言って皆川はわたしがプレイするドラクエの画面をじっと見つめ始める。まだ全然序盤だし、目が疲れてしまって中々長時間はできないのだけれど昼休みにコツコツやってみようかなという計画で、それを彼女に説明すると、



「わたしのお兄ちゃん、ドラクエめっちゃ好きなんですよ。徹夜でやりますからね」



「徹夜…?そんな苦行は…」



「でもあんな風に没頭出来たら人生楽しいだろうなって思う事ありますよ」



「確かに…」



「なんでドラクエやってみようと思ったんですか?」



「えっと…」



その皆川さんの質問に素直に昴君の事を説明しようかとも思ったけれど、そうすると何となく自分がミーハーっぽく思えてしまって恥ずかしさが勝る。



「アプリで見掛けた時に懐かしいし、弟はクリアしたけどわたしはクリアしてなかったなぁって思って。こういうのって『思い残し』ってあるでしょ?」



あながち嘘でもない理由を伝えると皆川が猛烈に共感して、



「分かります!めっちゃ分かります!子供の頃に買ってもらえなかった玩具とか、大人になって欲しくなっちゃったりして自分で買っちゃう、みたいな」



と実体験っぽい話をしてくれた。気になったので、



「どういう玩具だったの?」



と訊ねてみると、



「某人形…ですね。女の子が欲しいやつです」



「あ…了解。わかった」



「うち、お兄ちゃんが居たからって事もあるんですけど子供の頃はもっと男の子っぽい性格で、買ってもらえなかったわけじゃなくて、自分のキャラクターに合わなそうだなって思って別なのを買ってもらってたら、いつの間にか大きくなっちゃってて…」



「え…?皆川さんが男の子っぽかったの?意外だね」



「完全に大人になって反動が出ました」



照れ臭そうにしている彼女を見ていて、わたしはある事を納得した。皆川さんは基本的に嫌みのない性格で異性に好かれ易い性格をしているとは思っていたけれど同性から見ていても『やり過ぎていない』と感じるところが多くて、そこにわたしは好感を持っていた。彼女は事あるごとに「真理さんはわたしの憧れです!」と言ってくれるけれど、わたしみたいに可愛げのない女よりは皆川さんのようにあるべきなのかもと思っていたりすることもある。人は自分にないものを求めてしまう生き物なのかも知れない。とその辺りで別のキャラクターが…このキャラクターは途中で抜けてしまうと分かっているので『タネ』は与えないようにしていたのだけれど、またレベルアップして更に強くなる。何故か成長のスピードが早いので主人公よりも強くて、完全に『主役』という感じ。それを見せつけられた時にわたしはこんな感想を隣の子にもらしていた。



「なんかこの主人公って地味だよね」



「えっと…『スバル』ですか?」



「そうそう。格好もそうだけど、なんだか寡黙っぽいし、女の子にイヤミ言われるし…」



「お兄ちゃんがその女の子好きみたいですよ。『ツンデレ』だって」



「今はあんまり聞かなくなったよね。わたしなんかは『性格悪そう』って感じるけど…」



「たしかにそうかも…」



お互いに微妙そうな顔で見つめ合う。プレイしているうちに段々とこの『スバル』が可愛そうに感じられてきたり。




☆☆☆☆☆☆☆☆





帰宅後、動画をチェック。昴君の最新作が30分前に投稿されている。動画では字幕と供に冒頭こんな説明、



『どうも昴です。以前にもお話した通り僕は今大学生なんですけど、実はテスト期間に入りまして、単位を落とさないように勉強もしつつ、地味に時間に追われながら編集したりしています』



<え…?大丈夫なの?>



ちょっと心配になってくるけれどネットの動画についてはどうあっても『継続』が大事なので、昴君も時間をやり繰りしながら動画を作成しているみたい。



『今回はちょっと時間は短くなりましたが、なるべくこのペースを保って投稿していきたいと思っています』



たかが趣味という人もいるかも知れないけれど、それを楽しみにしている人がいるのもまた事実。仕事という枠内ではなく、純粋に誰かを楽しませようと思って一生懸命何かを作ってくれる事は本来感謝すべきことだと思っている。でも、現実の視聴者というものはシビアだし、『自分の時間』を一番大事に思っているのかも知れない。そういう視聴者を振り向かせ、満足させるにはとんでもない努力と情熱が必要だと感じてしまうのはブロガーとしての経験からなのだろうか。わたしは昴君を応援しているし、彼が楽しんでゲームをしている姿を見たいし、報われて欲しい。




一方でこうも思う。その姿を他の人にも見てもらいたいと感じる、誰かのコメントだったり、何かバズらせる要素がなければゲームのレベリングと同じように、何処かで伸びが緩慢になってしまうのではないだろうか。そんな風に見てしまうのは昴君にしたら『ただのお節介』なのかも知れないけれど、もしかしたら一ブロガーとして出来る範囲で応援してゆく事は正当化されてもいいような気がするのだ。




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とある理由から『ばるすちゃんねる』という動画チャンネルを見るようになった。ゲーム実況系の配信者で、実況なのに雰囲気が『癒し』に近い。最近ドラクエのアプリで配信を始めたのに影響されてわたしもアプリをダウンロードした。



自分の好きなことを楽しんでいる姿は見ていて大事なことを思い出させてくれるし、自分より若い世代の人も色んな事をやろうとしていて、その姿勢は見習うべきだと感じる。今というよりも『これから』どんな風に発展させてゆくのか見守ってゆこうと思う。



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自分よりドラクエのストーリーを進めている昴君の攻略の要点を記憶ししつつブログを更新する。昴君の主人公の名前は『バルス』で、狙ったわけではないけれどストーリーの要所要所で他のキャラクターがその名前で呼ぶたびに某宮崎アニメの呪文として解釈する流れがコメント欄に出来つつある。



<みんなそんなにあのシーンが好きなのか…>



こういった『お約束』というのは分かっていても笑ってしまう魔力がある。みんな何だかんだで『ベタ』な展開は好きだし、大喜利のようなコメントは喜ばれる。そして何故か昴君のドラクエでは主人公の幼馴染の女の子が戦闘中に『死亡』するシーンが多く、やたらボスから狙い撃ちを受けてしまうという偶然に昴君は、



『ああ…可哀そうに…やめてくれ!!』



と切なそうな声で言うけれど、それがなんだか愛らしい。切なそうだけれど、昴君も『美味しい』という事が分かっているのだろう、いつも微妙なレベルでボスに挑戦している。



『もっとレベリングしよう!テストも頑張って!』



そんなコメントを残しておいた。

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