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最近のちょっとしたマイブーム。仕事終わりにほろ酔い加減でゲーム実況系の動画を見ている。人間何がきっかけで新しい趣味を見つけるか分からないものだけれど、人気のある動画はやっぱりなにかしら「見どころ」を持っている。
上から目線で偉そうに言っているのではなくて、素人が見ても思わず惹きつけられてしまうそんな魅力を配信者に感じたり、プレイしているゲームが本当に好きだという事、楽しんでプレイしているという事が伝わってくると久しぶりに自分も何かゲームをやってみたい気持ちになってくる。
わたしはへたっぴなんだけど。
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内容通りに自宅で『昴君』の実況動画をタブレットで見ながら更新したブログ。彼のプレイするゲームの内容は正直分かったり分からなかったりで、その動画では主にアクションがメインのゲーム。素人目からはプレイは上手な方だと思われるけれど、やっぱり昴君の声が聴き心地がよいのと、時々テンションが上がっているのが分かるシーンが動画の中にあったりして、まったりしながら視聴できるコンテンツになっている。過去の投稿数は50を超えていて、一本当たりの時間が30分程であることが多いから、『最新作』が公開されれば優先して見ているけれど過去作を辿るのも結構楽しい。
同じゲームをしていて再生回数の一番多い動画がおススメに表示されるようになるので、興味をもったゲームについては時々それもチェックしてみたり。再生数や高評価が多い作品と彼の動画の違いは、案外知名度の差に思えてきてしまうのは贔屓目だからかも知れないけれど、確かに神がかったプレイ動画は見ていて高揚感がある。
<たかがゲームと思っちゃいけないな…>
その日は思わずそんな感想が浮かんできてしまった。ちょっとした偏見のようなもので、わたしが昔よく漁っていたボーカロイド曲のようにはっきりとした『作品』ではないという理由で、いくら盛り上がっていても価値はよく分からないという印象を持っていた。でも今みたいに自分が仕事終わりで、とにかく何かに身を委ねていたい時間の時は偶に雑談のような展開になる動画を見ていると、
『なんか、いいなぁ』
という気持ちになる。…もしかしたらちょっと『飢えていた』のかも知れない。
プレイする人があってゲームは成り立つ。どんなに素晴らしいゲームでも誰も遊ばないのだとしたらそれは無いのと一緒なのかも知れない。翻って、自分がこうして更新しているブログも、本来なら読まれなければ意味がないと言えばそう。動画にしてもそう。見る人がいなければ成り立たない。そんな単純な事なのに、わたしは時々見る側に立つ時間を惜しんでしまう。労力という程のものではないはずなのに、青春時代のように寝る間を惜しんでまでという事も少なくなってきたと思う。
乾いた洗濯物を畳みながら、タブレットに一瞬ちょっとした絶叫が響いたので「何事か?」と思って、シークしてその場面を見直すわたし。昴君の操作しているキャラクターが競争相手に不意打ちを喰らってゲームオーバーになった瞬間だった。
「そんなに絶叫しなくても…ふふふ」
絶叫しなくてもと言いつつ、実はそういう場面を本能的に求めている事に気付き始めたわたし。タブレットから再生される音声が音割れしてしまうのは本来良くない事なのに、実況系に限って言えば音割れして「うるせえ」というコメントが入るほうがむしろ喜ばれている節もある。『鼓膜が壊れました』という秀逸な表現は本当だったら困るけれど、思わず笑ってしまう絶叫だったらみんな待ち構えてさえいる。
昴君はカラオケ店では『喉が弱い』と言っていたけれど、確かに絶叫後に一瞬『咽る』時間があって、常連さんの間ではその咽せ方も『芸』のようなものとして見ているらしい。確かに絶叫後に咽る展開がお約束のようになっていると、視聴者として期待してしまう。そしたら最新作で昴君がこんな発言をしていた。
『あの、僕ちょっと喉が弱いので咽てしまうお聞き苦しい場面があると思うんですが最近喉を鍛えようと思っていて、何かアドバイスがあったらコメントに書き込んでもらえるとうれしいです』
するとコメント欄で、本当に喉を鍛えるアドバイスをしてくれる人が現れて昴君がそのコメントに事後に「高評価」を与えたらしいことが分かった。こういうゲームの内容以外のコミュニケーションがある動画はなんとなく評価され易いような気がする。わたしも何かコメントをしたいという気持ちがあるのだけれど、一体何を書き込めばいいのか分からなくなってしまう。これはわたしの悪い部分だという事は分かっている。やっぱり自分のブログ運営と同じように、『塩対応』というわけではないけれど元来気の利いた事を言えない質なので、どうしてもコメントのやり取りは苦手で、その点、ネット空間でこれだけ会った事もない人とうまくやり取り出来ている様子を見ると羨ましくもなる。
でも、出会った時の昴君の姿を思い浮かべてみるとそれが何かとても自然で気取ったところが無いという事が常連さんにも動画という媒体で十分に伝わっているような気がする。
「見倣わなくっちゃな…」
一人そんなことを思った。
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翌日、職場で同僚の男性からこんなことを言われた。
「佐川さん、最近何か良い事ありました?」
「え…?どうして?」
「なんか最近元気だなって思って」
「そうかな?自分では分からないけど…」
戸惑い気味に返答したら今度は女の子から、
「あ、わたしも感じてました。最近の佐川さん、なんかキラキラしてます」
「へ…?キラキラ」
<いや…キラキラってどんなだよ>と心の中で思ったけれど、感じているのが一人ではないからもしかしたら何か違うのかも知れないと思うわたし。男性は『山内』くんという名前でわたしと同い年なので気兼ねなく話せる相手なのだけれどこの日は、
「最近、テンションが上がる話題が無くて…というか好きなバンドが活動休止って情報が入ってきて、ちょいショックなんですよねぇ…何かいい話題は無いものか」
と悩まし気な様子。これにわたしは、
「何かゲームすると良いかもよ」
と提案するとまた意外そうな顔。
「え…?佐川さんってゲームする人なんですか?」
「わたしはあんまりしないけど、人がゲームするのを見るのは嫌いじゃないよ」
「あ、わかります!それ!」
女の子、『皆川』さんが猛烈な勢いで同意してくれて、これがわたしにとっては意外だった。わたしよりも3歳ほど年下の女性で、何となくここでもわたしがお姉さんポジだったり。そこで皆川さんが最近プレイしているというゲームの話になる。
「へぇ…なるほどなぁ…」
感心しながら聞いていた山内くんはもしかしたら何かアクションがあるかも知れないなと思ったり。




