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「そっかぁ。昴が言ってた協力者は貴女だったんですね。正直想像もしてなかったです。」
わたしが昴君と知り合った場所であるあのカラオケ店での話から、直後の偶然の再会、そして動画のチャンネルを紹介されてからの事を自分でも思い返すように友人の『K君』に話すと確かに彼の言う通り最初はここまでの話になるなんて想像できていなかったと思う。なんとなくそこで、
「どんな人を想像していたの?」
と訊ねてみたらこんな答え。
「同年代の人なのかなって。たぶん、男だろうなって」
その素直な表現に思わず頬が緩んで、<一番意外なのは『女』って事なんだろうな>と心の中で思ってしまった。物怖じしないタイプの昴君とは違って目の前に居る子はわたしのような人間と話すのにあまり慣れていない様子がときどき窺えて、話す時にも少し視線を逸らしてたりしているのが年頃の男の子らしい。そう思ってしまうのは失礼なのかも知れないけれど、彼も彼で「あーまあ確かに…」とか一人で呟いて納得しているようなのでわたしに対して何かを考えているように感じる。
周囲に建物が無く、一本の樹木と小さな礼拝所があるだけの場所。わたし達の他には誰も来ないだろうという事が分かっているからなのか、出会ってから相当話し込んでいる事に気付いた。
「すっかり立ち話になっちゃったね。とりあえず移動しようか?」
そう提案すると相手は了承して、特に目的地を決めていたわけではないけれど車の停めてあるふるさと村の方に足が向かう。その途中でK君の方がはっとして、
「そういえば俺名前名乗ってなかったですよね。久保田友って言います。久保田だから昴は動画で「K」って呼んでましたけど」
「そうなんだ。友人の友ね」
「それ何度も言われます」
友君はそこで苦笑い。
「わたしは佐川真理。『真理』を追求する、の真理の漢字」
「あ、それも何度も言われてそう…」
今度はニヤついていて、名前にはっきりした意味がある同士で面白い組み合わせになっているのはこういう状況では思いのほかよい効果を発揮したようで、そこから友君も徐々に心を開き始めて色んな事を話してくれるようになった印象。そこでわたしが以前昴君から聞かされていたように、震災直後誰のせいというわけではないけれど家庭の雰囲気が淀んでしまって、友君自身も暗い顔をしていた時に昴君からガチャの景品であるガンダムの小さなフィギュアをプレゼントしてもらったという話とか、それ以来高校も一緒だったという事を彼の目線から伝えてもらうとやっぱり思った通りの子なんだなと実感する。特に『ガチャの能力』についてわたしが言及すると友君は目を輝かせて、
「凄いですよね!友人の目から見てもあいつは『持っている』んですよ。俺が思うにガチャの能力だけじゃなくて本当に必要とした時に何かを引き当てるというか、そういう能力なんじゃないかって。本人は認めてないけど」
「そうなんだ…」
これはわたしが持っている情報には無かった事なのでとても意外で、本当に彼の言う通りなのか一瞬疑わしく思えてしまったほど。そして好天の中、駐車場が視界に入ってきた辺りで彼がこんなことを口にする。
「今回の『謎の発光』も、昴が引き当てたんじゃないかなって思ってるんです。こう、『何か』を」
「君はそう考えるんだ…」
当初のクールな印象からは打って変わって情熱さえ感じる話し方は『若さ』とも言えるし、性格とも言えるのかも知れない。とにかくその少しオカルト要素の混ざる『解釈』に対して、やっぱりわたしは保留の考えに至る。
「わたしはいきなりそこまでは考えられないんだけど、とにかくあの現象があの場所で何度も起こる事なのか調べられないかなって思って、今日ここに来てみたの」
「そうだったんですか。言われてみれば、過去にもああいう現象の記録がある可能性は無いとは言えませんもんね」
実際現場に立ち返ってみて様子を確認してみて、そういう記録として何かに残っている可能性は著しく低いだろうなという感想がすぐ浮かんだ。そもそも人気の少ないあの辺りで空を見上げるという行為自体、住民でも稀だと思うし、動画撮影時のわたし達でも気付かなかったのだ。何だかんだで駐車場まで戻って来てしまっていたけれど、手掛かりらしい手掛かりは得られていない。得られるのかどうなのかも分からない。
「俺の車あれです」
友君が指さしたのはワゴンタイプの軽自動車。
「昴君と動画撮る時にあれで移動してるんだね」
「もし真理さんがよければ、これから車で『現場』の方にもっと接近してみませんか?」
それは予想外の提案だった。言葉から推論するに、友君は車で発光現象があった現場に近付けるところまで近付いてみようという提案をしているらしい。
「たしかに、あの車なら移動し易いね。わたしは父親の車借りてきて、ちょっとそっちは大きいの」
初対面とは言っても昴君を通じて自然に接することができていたのでここは彼の言うとおりにしてみた。車の助手席に座らせてもらうと、
「あ…やべあんまり意識しないようにしないと…」
と呟いた友君に何となく同情していた。でもそこでちょっと悪戯気を起こたわたしは、
「付き合ってる子とかはいないの?」
と訊ねる。
「昴も俺も奥手なんです…」
その返事で意図せず昴君にも彼女がいないことを知ったわたしの心境はいかに、という感じだったが意識するでも意識しないでもないというのが本音。車を発進させた友君の運転がかなり丁寧なものであることに安心し、とりあえず地図アプリを見ながら近寄れそうな道を彼に伝えてゆく。そんな時、彼が不意にこんな風に切り出す。
「真理さんに話してもいいのかどうか分からなったんですが、昴の口からは絶対言わないだろうなって事で」
「うん?」
前後のつながりが無かったので少し戸惑っていたのだけれどその後彼の放った言葉はしっかり私に届いた。
「昴、母親いないんです」




