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仙台市内、とある居酒屋さんにて。日が暮れて賑わいを見せる通りの様子だけでなんだかウキウキしてきて、少し照明の抑えられた個室で待ち構えていた智広、『加藤智広』の姿を認めてからもそれは変わらないでいた。


「なんだか荷物が結構あるようだけど」



亜季と学生時代の気分でショッピングを楽しんでいた事を示す手荷物を見た智広が微笑みながら言う。「そうね」と言ったわたしは紙袋の中からあるものを取り出して彼に差し出す。



「え?」



「一応、お土産」



意外だったのか結構驚いているらしい智広に勘違いさせないように念のため、



「ままどおるです。福島駅で買いました」



と付け加える。自分の中で何故かこれを買っておけば問題ないという感覚になりつつある銘菓の事は流石に彼も存じ上げていたようで、「あ、うまいやつだ!」と喜んでいた。亜季はそのやり取りを見て笑いをこらえられないといった様子。各々既に着席して最初のオーダーも済んでいるけれど、場の切り出しとしては悪くないやり方だと思う。むしろ、想定してたかも。



「みなさんは連休どうでしたか?わたしは充実して…させてましたね。『推し』と」



亜季が独特の言い回しで相変わらずの伊達政宗公愛を語り始めようとしているけれど、以前は仰々しい言葉だと感じていた『推し』が、案外しっくりくる事がこの世に存在していると気付いてそこそこ日が経っている。「へぇ~」と頷いているわたしに智広が、



「『推し』って、アイドルとか?」



と一瞬話について行けなくなりかけたらしく亜季が苦笑して、



「いや、政宗様ですよ。まあある意味『アイドル』で合っているかも」



という風にネタ晴らしすると、



「まったく酒井は相変わらずトリッキーだなぁ」



と軽くため息を吐いた。



<そういう智広は相変わらず…>



そんな風に智広らしさを実感していた時に、わたしは『相変わらず』の後に続く表現が上手く探し出せない事に気付いた。『鈍い』とは少し違う。ただ亜季の事をトリッキーと思うくらいには本人が『普通』という感じで、良くも悪くもそういう『普通』と思われる何かを自然に求めるタイプの人なんだなと感じる。まさか本人にそれを言うわけにもいかないし、この場に相応しい話題をどこからか捻りだそうとしていたわたし。けれど、一瞬場の朗らかな雰囲気で意識しなくなっていたけれど、わたしには間違いなく『あるホットな話題』が存在することを思い出す。



「俺は連休中、旅行に出掛けたよ。友達と」



「「へぇ~いいなぁ…」」



「あ、俺もお土産があったんですよ」



とその流れで手渡された『八つ橋』を見て色々と察するわたし達。



「これじゃ行き先伝える前に場所分かっちゃうよね」



「あ、確かにそうだった。いや高校の頃の修学旅行とかで行けなかったから、行きたくなったんだよ」



「わたしも修学旅行京都じゃなかったなぁ。進学校だから受験の神様、天満宮が目的地みたいな旅行だった」



「沖縄です…」



亜季がわたしを見て申し訳なさそうに呟いた。ある意味バリエーションがあって良いことだとは思う。続けて亜季が、



「真理はどうしてたの?実家に居たんだよね?」



とわたしに振ってくれる。「それがね…」と話を始めようとした時、「失礼します」と店員さんがビールを運んできてくれたので、そちらを優先。ひとまず乾杯をして、仕切り直すように話し始める。



「わたしは友達と猪苗代湖に行ったんですけど、」



連休中の外出の事実から説明したところで、やはり弓枝の時と同じように『昴君』に関係する話をどういう風に穏便に伝えられるか悩み始めた。一応、弓枝と出掛けた事を中心に述べてしまうと二人は満足したようで、話が自然とその他の近況報告とか大学時代の同級生の話題とかに切り替わってゆく。料理が運ばれてきて相槌を打ちつつ旧交を温めるように色んな話に脱線しながら、お互いこれからやりたい事とか、年相応の話題だとかためになりそうな話ができたと思う。何よりほっとしたのが、智広が前に仙台で会った時に話していた「良い雰囲気」になってきたという相手と連休中に出掛けたりして、実質的に交際関係になっているという事だった。



「いやー、実は真理と智広君の三人で話す時に気まずくならないかなって思っちゃったりしてたんだけど、智広君の話で『もう大丈夫かなぁ』って」



「まあ、俺も正直酒井頼みだったのはある。俺から電話したら断られるかもって思ったんだ」



「なるほどねぇ」



そういうところはよく分かってらっしゃると思うのだけれど…まあその辺りはそれでよしという事にしておいた。むしろわたしはカクテルが2杯目になったところで、



<そろそろ『あの話題』を切り出したい>



とタイミングを伺い始めていた。人によっては変な目で見てくる話題だけれど、偏見で亜季は大丈夫だろうし、智広は戸惑いながらも一応真面目に考えてくれそうな気がする。何よりこの場にいるみんなが『理系』であるという事が一つのチャンスであるのは間違いない。



「あ、あのさ、実は二人に見てもらいたい動画があって…」



なるべく控えめに不自然にならないよう努めたつもりだったけれど、『動画』というこのメンツでは聞きなれない単語に二人は興味津々という感じになった。『ばるすちゃんねる』の例の動画をスマホで再生して、ある所までシークする。場面は丁度、お寺の様子を写し終えて画面が「恋衣地蔵」のある場所に切り替わるところ。



「これ、わたしの地元の人が撮った動画で、場所も地元のとある場所なんだけど…」



と解説しながら『問題のシーン』でわたしは動画をストップさせる。映し出されたままになる『発光現象』。色は緑のような青のようにも見えるけれど、やっぱり異様な光。それを見た二人は、



「え…?なんだこれ?」



「なになに?」



という反応。特に智広の方は目を丸くして、かなり驚いている様子。



「これってどういう現象だと思う?なんか『プラズマ』っていう現象があるらしいんだけど…」



「え…わかんないや…でもカメラのせいではなさそうだよ。俺もこういうカメラ持ってるから、こんな風にはっきりと変なノイズは入らないよ」



「やっぱりそうだよね…亜季はどう思う?」



すると亜季の方がより真剣な表情になっていた事に気付く。しばし無言で画面を見つめていたあと、ちょっと重々しく



「これは…」



と言ってから、



「少なくとも『悪いモノ』ではないようだよ」



と一言。<それはどういう意味なんだろうか>と思っているわたしに、亜季が話してくれたのは霊感のあるという祖母の話だった。友人の話とは言え、失礼ながらどうにも信用できないわたしに亜季がかぶりを振って、



「わたしは全然霊感とか無いんだけどというか霊を素直に信じているってわけじゃないんだけど、あくまで可能性の話として、仮にこれが心霊現象の類だった場合にもこの光から感じる印象が決して不快なものではないって事が大事だと思うんだよ。感覚的な事だけど、柔らかい印象を受ける。だから、そっちの心配はしないでいい…ってことだけですね」



「そういう事か。でも確かに、色んな可能性を一つづつ検証していって残るのが真実だからね。そういう考え方は大事かも」



「まあ心霊現象とか呼び方は色々あるけれど、物理的には動画とかで『観測』されちゃって証拠として残ってると『何かが生じている』のは確かだと言えるんじゃないかな」



すこし赤ら顔になった智広もやはりこういう話題になると明晰だ。逆にわたしは当事者になってしまったようなものだから冷静に分析できない部分もあるんだなとそこで感じた。



「俺も詳しく調べないと分からないとは思うんだけど、仮に『その場』で起こる現象なのだとしたら気象条件とか、立地条件とか、様々な事が重なって偶然生じているという仮説を立てるのは悪くないと思う。その場合大事なのは…」



智広が決めようとしたところで亜季が、



「『再現性』だね」



と断言した。お株を取られたようなカタチになる智広は「あっ」と呟いた。これには思わず吹き出してしまった。なんとなく方針が見えたわたしは、



「そうだよね。これがもう一回起こるか起こらないかは結構大事だよね」



と二人に言った。友人からの力強い同意があるので、『何か』を取り戻したような気がする。すると智広が、



「その動画最初から見せてくれない?もしかしたら他にも何か手掛かりがあるかも」



と言ったので一度スマホを渡す。その後は亜季と普通のテンションで、



「でもこういう事も起こるんだねぇ。不思議だねぇ」



「そうだねぇ」



などと言い合って何となく元の雰囲気に戻ってきた。一人動画を確認しながら「うーん」と唸っている智広を見て、



「智広も変わらないんだね」



と感慨深い感じで言ったら、



「変わらずに、少し変わってゆこう」



と微笑を湛えていた亜季。なんだかんだでいい夜だ。

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