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こちらから休憩スペースに誘導しておいてどうかと思うのだけれど、明らかに年下の初対面の男の子と二人で並んで座っていると不思議な感覚になる。しかもよくよく考えてみると補充やメンテナンスの時間は経験上、それなりに掛かったりするものだからわざわざここで直るのを待っているより一旦それぞれの部屋に戻った方が都合が良い場合がある。
<今『戻りましょうか』って言ったらタイミングが悪すぎる…>
そんな事がすぐに浮かんで、ここはせめて今二人で並んでいる『理由』を創出…若しくはでっちあげなければいけないなと考えた。わたしは『少年』方に顔を向けながらこんな風に言った。
「地元の人なの?」
辻褄を合わせる為に出てきた質問は何故かとても自然に響いて、自分でも本当はそう訊ねたい気持ちがあったんじゃないかという気さえした。『少年』も特に不自然に感じなかったようで。
「あ、はい。一応地元です。お姉さんは?」
と会話が続く。この辺りでこの『少年』は声が特徴的だなと感じた。どう特徴的なのか表現するのは難しいけれど、同じ年代の子よりも落ち着いた雰囲気が感じられる。
「わたしも地元。でも今は別の県に居るよ」
「へぇ~。あ、そうか今は帰省してくるんですもんね」
「そういうこと。ところで『一応地元』ってところが気になったんだけど?」
『少年』はここで静かに「ふっ」と吹き出して、
「引っ越してきたんですよ。でも小さな頃だから『実質』地元です」
「そうか!なるほどね!」
わたしもその言葉に何だかおかしみ感じてしまった。多分だけれど『少年』の記憶はこの二本松の風景を中心に占められているだろうし、ややひねくれた人は『何を以て地元民と呼ぶか!』なんて議論を吹っかけて来るかも知れない。大真面目な顔をして。多分、この『少年』とは初対面ながらウマが合うとか波長が合っていそうな予感があって、ちょうどその時に定員さんが戻って来て「もうしばらくお待ちくださいね」と声を掛けてくれたところだったのに、
「大丈夫ですよ!」
とあたかもそこで普通に待っていることにしたような言葉を発していた。わたしはもう少しこの『少年』と話してみたい気持ちになっていたのだ。すると今度は『少年』の方から、
「お姉さんは結構カラオケに来るんですか?」
という質問。これにわたしは、
「今日みたいに地元に戻ってきたときとかね。友達と来るよ」
と答える。「そっかぁ」と少年。そして右手を顎に当て何かを考えているような表情で、
「僕、歌は好きなんですけど、友達が歌うまいから聴いている方が好きなんです。一曲は歌いたい曲があって、それ歌うと声が枯れちゃうんです」
と教えてくれた。
「なんていう曲?」
思わず訊いてしまったのだけれど、
「『マカロニえんぴつ』の「洗濯機と君とラヂオ」という曲です」
と言われて「え…分からない」と素の反応をしてしまった。後で調べてみたところ結構有名なアーティストだった。あまり良くない意味で『年齢』という言葉が咄嗟に浮かんできてしまう。ついて行けているつもりでも自分の知らないアーティストの曲名を出されると知らない事は一杯あるんだなと感じてしまう。とりあえずは気を取り直して、
「その曲って難しいの?」
と確認してみるとこんな答え。
「テンションが高いんです」
その時は『絶叫系』の曲なのかなと思ったけれど、後でネットでMVをチェックしてみたら「なるほど」と思うようなエネルギッシュさが感じられる曲だった。『テンション』というキーワードが出てきたので改めて『少年』について考えてみるとどちらかというとインドア派というか、少なくともカテゴリー的に『肉食系』ではないだろうなと思われた。実に勝手な想像だけど。
「わたしもテンション高い曲好きなんだよねぇ。パスピエって知ってる?凄くキーが高いの」
「え…?パスピエ…?あ…あぁ…」
何故か微妙そうな表情をする『少年』。
「え…?なんか変だった?」
と不安になっていたのだけれど、彼は苦笑いをしながらこんな風に言った。
「いえ…僕等の部屋にもなんか声が聞こえてきてて、友達と『凄いね!』って言い合ってたんです」
「あ…そゆこと」
いくらカラオケに慣れているとはいえ、離れた部屋で聞かれた感想を伝えられると恥ずかしくなってしまう。<教えなきゃよかったかも>と思っていたら、
「でも凄く楽しそうだなって感じました。僕ももっと喉を強くしたいなぁ…」
「今は結構乾燥してるもんね」
冬場は特に乾燥に気を付けた方がいいというのは知識としては知っているけれど、喉の強さというのは人それぞれでケアの仕方も色々な工夫がある。ただ一方で自分のように学生時代に歌いまくった結果声が出るようになったタイプの人もいるから先ずは声を出す練習が必要なのかも知れない。
「お客様。直りました!どうぞお使いください」
そこで再び機械が使えるようになった事を店員さんが丁寧に教えてくれる。それは会話の流れ的にも丁度良い頃合いと言えた。
「じゃあ、行きましょうか。ありがとね」
「いえ、こちらこそ」
そうして『少年』がホットの機械でコーンボタージュのボタンを押したのを見守りながら、わたしは隣でアイスティーを注ぐ。
<アイスティーに拘っていたわけではないけど…ま、いっか>
「じゃあね」と『少年』の方に手を振り部屋に移動する。一瞬遅れて『少年』が移動したらしく、自分の部屋に入室したらしい事が扉が閉まる音で分かった。わたしが部屋に戻ると弓枝が、
「遅かったね?なんかあったのかって心配しちゃったよ」
と迎えてくれたのでさっきあった一件を説明する。弓枝が感心した様子で、
「へぇ~。なんか『いいエピソード』じゃない?」
と言ってくれた。確かにこういうほんわかしたエピソードなら毎日あっても歓迎だ。あまり見ていて快いとは思わないニュースは遠ざけるようになったし、SNSなどでも身近にあるこういうエピソードを探すように心掛けたいなと思う。
…とその時わたしには再び「『ブログ』を読みたい」という呟きが思い出された。基本的に彩がないわたしの「innocently」ではあるけれど、確かにこういう具体的なエピソードを記す場所としては相応しいのかも知れない。密かに文面を考えながら、カラオケを続行する。やはりハイテンションで。
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あっという間に二時間が経過。店を出て弓枝の車で自宅まで送ってもらい、名残惜しくも彼女と別れる。
「また今度!」
「うん」
ルームでは弓枝から数年来付き合っているという彼氏の話を聞き出したのだけれど、半分愚痴と半分惚気話という感じ。親友の幸せエピソードは聞いていてこちらも幸せになってくるのだけれど、心の何処かでダメージを受けるのがちょっとした難点である。大学時代に一瞬試しに付き合ってみて、相手の期待に添えていない微妙な空気を察してしまって別れたという、わたしの中では『なかったこと』になっている交際はある。察しの良い『弟』とは違って、まったく赤の他人の異性と価値観の事で議論になってしまうような当時の自分には恋愛は「早過ぎた」のかも知れない。『リケジョ』なんて言葉が持てはやされ始めた頃だったし、男性には負けないようにと研究に勤しんでいた事も影響している。社会人になって、勿論男女の待遇の差を感じられる場面もあるけれど、どちらかというといろんな場面で『社会人』である事の大変さに気付かされて、後は色んな論調に扇動されたように反応してゆくのがめんどくさくなってきたというか、あまり考えなくなってきたかも知れない。ちょっと話が逸れてしまったけれど、わたしは弓枝を羨ましく思う反面、
<あんな風にはできないなぁ>
と思う。ダメージの部分を緩和させる為にそうしているかのように最近の自分にとっては異例な事であるその日二度目のブログ更新。
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本日二度目の更新。
親友とカラオケに。親友、元気でやっているようで一安心。
それはそれとして店内でちょっとしたエピソード。初対面の『少年』から優しくしてもらってちょっとした交流。『少年』から『マカロニえんぴつ』というアーティストを教えてもらう。なんとなく誰かの声に似ているように感じるのはわたしだけ?
明日の夕方には帰省から自宅に戻る予定。4日は仕事で、56と休みなのが色々惜しかった。
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