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「みなさんこんにちは!今回のばるすちゃんねるは地元紹介動画という事で本日は『鬼婆伝説』で有名な『安達ケ原ふるさと村』にやって来ました!」



ふるさと村入り口の前で昴君がカメラを起動させて『収録』を始める。わたしは少し離れて後方から見守るカタチで、先程まで一緒に話をしていたトーンよりも数段高いところで昴君の丁寧な声が辺りに響く。このふるさと村は入り口が薄暗いトンネルになっているのもあって、動画の導入としては最善に思えて、実際昴君がカメラを手にトンネルの中に入って行った時に壁中電飾でビカビカと照らされているのが独特な趣に見えた。前進しながらカメラを回している彼の後を音をなるべく立てないように着いて行ってトンネルを抜けたところで、昴君は再び立ち止まり、



「内部はこのようになっています。前もって調べた情報によりますと、あちらが『先人館』と呼ばれる施設で、二本松に関係する人のアートなどが展示されているそうです。有料なので今日は外からの様子だけ」



と話した。先ほど「ふるさと館」にて二人で軽く打ち合わせのような事をして、どういう手順で動画を撮ってゆくかをスマホでふるさと村の情報を検索しながら確認していたので明らかにスムースに進んでいるのが分かる。『先人館』の様子を少し離れた位置から撮影する間があり、そこで一旦カメラをオフに。昴君がわたしの方に駆け寄って来て、



「まずは最初の編集点で、今度は反対側に『五重塔』があるのでそちらに向かってみます」



と報告してくれたのでわたしはそれに対して、



「流石に慣れてるね。よく台詞嚙まないで言えるねぇ」



と感想を伝える。彼は少し照れ臭そうにこう言った。



「『活舌』は正直そこまで良くないですし、『訛り』とか標準語じゃないアクセントがあるので出ないようにするのが大変ですけど、真理さんの話を聞いて多少変でも親しみやすければいいのかなって思いました」



わたしが彼に伝えた事が参考になっているんだったら地味に責任重大だなと思うのだけれど、一般論としてもそこまで間違ってはいないと思うので『大丈夫』と自分に言い聞かせる。その流れのまま五重塔のある丘のような所を目指して歩き始めて、坂の途中で再びカメラを起動させて収録が始まる。



「『五重塔』は結構遠くからも見えて、子供の頃『あれは何だろう?』って思っていた記憶があります。園内のシンボルなんだそうです」



五重塔の側に来て先ほどと同じように全景が映る位置からカメラを上下左右に動かしながら「いやー」や「ああー」という声を漏らしていたのがちょっと面白かった。どうでもいい話かも知れないけれど昴君は上を見上げる時に口が開いてしまうタイプらしい。その特徴は前世が女性とかそういう話をどこかで聞いた事があり、何かを思わなくもない。カメラを切って、



「さてここからまた下の方に戻ります」



と次のポイントへの移動。恐らく現在は多くの来園者にとってのメインの施設になっていると思われる『げんきキッズパーク』が紹介される。親子で来園した子供がその施設を利用して室内の遊具である時間内遊ぶことが出来る。この日も結構な人が利用しているようで、カメラに人を写さないように心掛けながら施設を紹介するというテクニックが必要だった模様。念のため、施設内の受付で事情を説明して撮影の許可を貰ったのだけれど、係員の人はちょっと物珍しそうにわたし達の様子を伺っていた。子供達が楽しそうに遊んでいる声が響く中で、



「ここはサラっとですね」



と言ってキッズパークの紹介を終えてから園内の奥の方に繋がるドアに向かおうとした時、わたしの瞳はある物体を捉える。



「昴君、ここにもガチャあったよ!」



「あ…ありましたね」



並んでいるものを見渡すと主に子供向けのガチャであることが分かったのだけれど、わたしは先程『ふるさと館』で彼に話したことを本当に試してみたくなった。



「ねえ、動画の編集はできるんだったらさ、試しに『ガチャ』やってみない?」



「え…?」



突然の提案に目を丸くして戸惑う昴君。ただわたしにはただ施設を紹介するだけよりも動画のアクセントしてそういうチャレンジを入れた方が面白いような気がしたのだ。わたしの視線から昴君が何かを感じ取ってくれたみたいで、



「そうですね。じゃあ、チャレンジするとしたらどのガチャが良いですか?」



と答えてくれた。この言葉にはある意味が込められていて、昴君の『能力』を信じるのだとしたら誰かに何かをプレゼントしたいという気持ちがある時だけ、それが引ける…というか引く時にはそういう『巡り合わせになっている』という事なのだ。この場面でのその誰かはわたし、つまりここに立ち会っている佐川真理という人間なので、昴君はわたしが欲しいものを引くというチャレンジにする必要がある。並んでいるガチャの中で目に留まったのはアンパンマンのキャラクターのガチャ。その一つの景品を見たわたしは昴君にこんな話をしていた。



「わたしね、子供の頃アンパンマンの中では『しょくぱんまん』が今でいうところの『推し』だったの。スマートで格好いいから」



「あ!分かります。イメージ通りかも知れない…」



「今見るとそんなにハンサムでもないような…気もするけど声は今でも好きかも…」



「じゃあ、この『しょくぱんまん』が当たればチャレンジ成功って事ですね」



「うん」



そして再び動画の撮影が始まる。わたしの事は伏せる形で、



「ここでちょっとしたチャレンジで狙ったものを一発で出すことが出来るかどうかをやってみます。今回は『しょくぱんまん』が出れば成功です」



と趣旨を伝えてからコインを投入してハンドルを数回回す。





緊張の一瞬…





回収口にコロンと落ちてきたもの…それは…




「よし!!出ました。狙っていた『しょくぱんまん』のフィギュアです。実は知り合いに『しょくぱんまん』が好きな子がいまして、その人にプレゼントしたいなと思っていたんです。僕実は誰かにプレゼントしようと思うと引き当てられるんですよ!」




見事に狙ったものが一発で出てきて、この『試行』も成功したという事実に分かっていても結構驚くわたし。単純な驚きともう一つ研究者としての驚きがある。



<証拠として残る場合にも昴君の能力が発揮されているという事。『偶然』と考えるにしても2回とも成功されると…>



そんな思考が頭の中で高速で駆け回り、ちょっとの間昴君がわたしに「しょくぱんまん」をプレゼントしようとしている仕草に気付けずいた。



「あ、ごめん。ちょっと驚いてたからさ。ありがとね」



「いえ。こちらの方こそ。これで動画ちょっと面白くなるのは確かかも知れませんね!」



昴君は本当に嬉しそうで、失礼な気もするけど子犬が尻尾を振って喜んでいる姿に見えてきたのはここだけの話。そんな彼とキッズパークから和風の趣がある『園内』に向かうドアを抜けてから、周囲をぐるっと一回りしながら動画の撮影が続いた。天気もその頃には何となく良くなってきて庭園を歩くような感じで、気持ちも爽やかになる。一番奥にある武家屋敷のような建物を紹介する際に、慣れていない言葉を使おうとした昴君が台詞を噛みまくって録画をやり直したりする事もあったけれど、編集した時にどんな感じになるか楽しみに思えてくる。



一通り撮影が終わってから昴君がこんな事を呟く。



「そういえば『鬼婆』って出てこなかったですよね」



「そういえばそうだよね。昔はキャラクターがいたとかいう噂を聞くんだけど…」



不確かな情報なのでお互いに自信が無くなってきた為、



「ちょっと調べてみましょう」



とその場で検索して調べてみる事にしたわたし達。そこで意外な事実が判明する。



「あれ…?鬼婆で調べると『黒塚』ってありますね。でも…もしかして」



「園内から離れている場所?というか、『ふるさと館』の側まで戻るの?」



そう、お目当ての『鬼婆伝説』にまつわる場所は少なくともこの『園内』には存在しなかったのだ。

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