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「ナビの設定はこれでよし」


<よし…あとはギアをドライブに入れて…>


カラオケ店を後にして、そのまま昴君を車の助手席に乗せた。助手席に人が座っていると安心するものだと思っていたのに実際は緊張感と責任が増す割合の方が大きいという事を思い知らされて少し計算が狂っている。ただでさえ運転慣れしてないのに、初めての場所に人を乗せてこれから運転しなければならないなんて誰が決めたんだろうと思ったけど、紛れもなく「佐川真理」なので逃げ場がない。



「大丈夫ですか?」



発進までちょっとした間があったので昴君も流石に不安になってきた模様。



「うん。大丈夫だよ」



本当はほとんど余裕はないけれど、車のナビと昴君のスマホの地図アプリという文明の利器の力を信用すれば計算上は辿り着ける筈なので、自分のその言葉を心の中で反芻してそれ以降はあまり考えないようにした。



「真理さん、そこ右です」



「うん。一旦家の方面に戻るからね大丈夫だよ」



幸い助手席からの的確なサポートで道に迷う事は無さそう。ふるさと村までの道のりは実家の方面から道が続いている少し離れたコンビニを目印にそこから直進すればいいという事が分かっていて、そのコンビニへは帰省した際に弟の車で一緒にお酒とかお菓子とかを買いに行った事があるからイメージはあった。



「真理さんの家ってこっち側にあったんですね」



「そうなの。だから運転は大丈夫だと思います」



年下の男の子の前で強がって口ではそう言っているけれど、実家までの帰路に相当する道のりにも不安なポイントはいくつかあって運よく対向車が来なかったので事なきを得たけれど、むしろ助手席で前方確認を手伝ってもらった方が色々都合が良いという事に気付いた。実家方面に戻って来てからは記憶を辿りながら外れの方に向かって橋を渡り、信号を左に曲がってからその先の半分森のような雰囲気の道をひた走る。



「…」



わたしの事を気遣ってか昴君はナビに集中してくれている。記憶とルートが一致していることで母親が設定したと思われる落ち着いた雰囲気の少し古めの洋楽の曲名が浮かんでくるくらいには余裕が出てきていて、もう少しで目印のコンビニがある通りに行きつく。



「ここを曲がれば…あった!」



「ありましたね」



コンビニを横目に正面の信号が赤になったので停車。いいタイミングだったのでナビを確認してみる。



「このまま真っすぐ行けばいいんですね」



「わたしにとっては『未知のエリア』ってやつだけど、直進だからね」



「その先にも同じコンビニあるみたいですね」



「へぇ…」



その情報は正しかった。直線の途中まで少し不安だったものの、そのコンビニが見えると車のナビから言ってもゴールは目と鼻の先という感じ。そこからはT字路を右に、そしてすぐに駐車場の側に方向指示器を出したりだとか必死な感じで何とか駐車スペースまでこぎ着けて、広々とした場所の誰も止まって無さそうな場所まで敢えて進んでから車を停めた。



「ふう…」



ただ『安心』というしかない。体感で物凄い長時間の運転だったような気もするけれど、実際はそこまでではないという事実を昴君が教えてくれた到着時刻で思い知る。帰りも同じコースを運転するという事を考え始めると気が気でないので一旦忘れる事にする。ちょっと自信のない仕事の時もそうだけど『なんとかなるだろう』という神頼みに近いような事が上手になってきたような気がする。



「お疲れ様です。連休だけあってお客さん結構来てるみたいですね」



「そうだね。わたしここに来たのいつ以来だろう…子供の頃連れてきてもらったような」



「僕は中学生の時、一回だけ自転車で来てみたことあります」



「そうなんだ!じゃあ場所分かってたんだね」



「その時は通った道も違いますし凄く遠く感じましたけど、今来てみると新鮮ですね」



そんな話をしながら車を降りて、正面に見える物産館のような建物を見つめる。そこを指さして、



「まずはあそこに行ってみる」



と訊ねてみると、



「そうですね。ちょっと待っててください、今カメラ準備するので」



とグレーのポーチの中から茶色いハンディータイプのビデオカメラを取り出した。結構いい値段がしそうだけど動画配信者としては必需品だろうなと想像された。



「準備ばっちりだね」



「何かあると思って念のため用意しておいたんです。というか普段から持ち歩いてたりします」



「さすが」



昴君の発言に感心しつつ、建物「ふるさと館」に向かうわたし達。駐車場から同じくそちらに向かう人を見つけた時に、



<あの人から『わたし達』はどんな風に見られているんだろう?>



という事を一瞬思いかけたけれど、後で考えれば昴君とわたしがそれほど身長も違わない事もあり傍目には『兄弟』という感じだたと思う。ただわたしの個人的な感覚で、わたしの不慣れな運転にも付き合ってもらった人という意味では彼はかなり『レア』な存在、一種の『同士』にも思えてくる。そんな二人の不思議な関係のまま「ふるさと館」の中で昔懐かしい駄菓子のコーナーとか、地元の菜とかお土産とか、お互いにとって更なる『未知のエリア』を経験してゆくといっそう絆は深まる。



「あ、こういう駄菓子いいですね!確か市内にも駄菓子屋さんあったような」



「へぇ…色々知ってるんだね。わたしもこのタバコのような形のお菓子好きだよ」



「ネタは転がってそうな気がしますね。あ…ガチャもあった…」



「あったね。というかこういう場所には必ずあるような気がする」



その場面では琴線に触れるものが無かったのでチャレンジはしなかったけれど、わたしの脳裏にある事がひらめく。



「もしかしたら昴君、ガチャを動画にしてみればいいんじゃないの?」



「え…?ソシャゲ配信でよくやっているやつですか?」



「ううんそうじゃなくてそれだとお金掛かり過ぎると思うから、『現物』のガチャで狙ったのを引いてみるの」



「あ…考えた事も無かったですね。というか僕の能力は自分の為には使えないから」



「そういえばそうだったね」



この時の会話はそれまでだったけど、探求心から動画として「証拠を残す」という条件を付け加えた場合でも同じように能力が発揮されるのかどうかはちょっと気になったりした。それはそうと、わたしはその場所で地元の銘菓のとあるお菓子を発見して二つほど購入した。その一つを昴君に手渡す。



「はい。これ」



「『霞の天地』…。そっか、どこかで見た事があると思ったらこの絵の少年隊の漫画があるんですよ」



「あ、そうなんだ。知らなかった」



「友達に借りて読ませてもらった事があるんです。二本松少年隊の隊員の姿が漫画になるとなんか壮絶で。そうか、こういうのも動画のネタに出来るかも。ありがとうございます!」




わたしは物珍しさで前の「ままどおる」と同じ気持ちで昴君にあげたつもりだったので、ちょっとビックリしていた。ここで学んだことは、こうやって実際に動いてみるとネタになりそうなことが転がっているという事。後日、その漫画について検索してみて確かに二本松少年隊を題材にしたものだと確認。

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