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アプリ、ドラゴンクエストⅦは気持ちを折りに来ていると感じる事がある。3Dの画面の回転を駆使しなければ見つけ出せないような所にアイテム…石板が隠されていたり、昴君みたいにレベリングをサボると新しいマップに入った途端敵が強くなってピンチに陥ったり。昴君の動画を始めとした攻略情報が無ければ途中で挫折しているかも知れないけれど、途中で『転職』が出来るようになって楽しみが増えてモチベーションが回復。それからは情報を検索しながらどの職業を選んでみようかとか、他にはどういう職業があるのかみたいな興味も出てきたりして結構楽しい。



「『転職』か…」



ゲームの『転職』と現実の転職は重みが違うのでそんなことを考えるのも変なのだけれど、仕事で感じる閉塞感で何回かその言葉は頭を過ったりする。でもすぐに現実的な判断がやってきて今の職場は人間関係には恵まれているとか、待遇も悪くないとか、そういうポジティブな面を意識する。今の環境でやれる事を模索してゆくのが最善、と判断してしまうのは悪い事ではないと思う。




時刻は19時、テレビを付けNHKのニュースを見る。有名な人物が逮捕されたニュースの続報は世の中的にはセンセーショナルなのだけれど、ワクワクするような話題は最近あまり見つからない印象。2019年も「311」という日付が近付いてきて、なんとなくソワソワしてしまう心境で何事もなく過ぎて欲しいと願う気持ちが強まっている。科学的に言えば統計的にその日に地震が多いとかそういう話はないだろうし、SNSなどでオカルト気味な発言が広まったりする事にわたしは個人的に、



『無責任だ』



と感じてしまう。その人も何かを思って発言したのかも知れないけれど、いわゆる風評被害から学んだことは殆どがはっきりした証拠もないのに不安だけを煽って後は知らんぷりという事が多いという事だ。根気よく誤った情報を取り除いてゆけば自ずと最後には真実が残る。その真実が自分の主義主張にそぐわないと認めようとしない、という認知的な歪みがあるのだとしてそれも『人間』の性なのだとしても、それを理由に許されるという事でもないような気がする。




こういう大分強い主張は、でも案外自分から公の場に表現することは躊躇われる。大体において、意味合いは全然違うけれど昴君が見せた『引きの強さ』を素朴に受け入れてしまいそうな時もある事とか、理由なく「311」という日を不安に感じてしまう心の動きとか、それらは決して科学的な態度に則ったものではない。そもそも自然災害はいつ生じてもおかしくない確率的な事象だし、常にリスクが存在しているなら安心できる時間なんて存在しないんじゃないだろうか。それなのに、実際上は普通に仕事に行っていつも通り仕事をこなしてゆく精神状態になる自分がいる。




<これを矛盾と言わずになんと表現しよう>




なんて、色々考えた末に自分を納得させて再びゲームでレベリングに勤しむ。職業の熟練度で覚えられる『特技』の事を考えると早くキャラクターに習得させたいと思うようになっていて、心なしか前よりもスマホのバッテリーの消耗が早い。攻略情報を見る限りだとここでもまだ序盤から中盤の間らしく、クリアまでにどの位時間が掛かるか分からない。つまり昴君の動画も『失踪』しなければ大作になる算段で、彼も長期戦を覚悟という心境なのだろうと推測する。今日の動画の更新は無かったけれど、いちばん最新の動画では概ね好評と見てよい二本松の名所巡りの「おまけ」もしっかり含まれていて、そこではわたしも知らなかった『粟の須古戦場』という史跡が紹介されていた。



『ここは伊達政宗が関係している場所です。父親の輝宗が畠山に捕らわれてここで亡くなったと言われていて、殺された話には諸説あるそうです。二本松では伊達家の印象ってほとんど無い人が多いんですが、伊達家の方は因縁の場所と表現できるかも知れませんね』




歴史を学んでいるK君という昴君の友人の解説のお陰で、地元でも知らなかった事を実感することができる。伊達政宗なんて仙台に行った時には絶対に思い出す人物だし、それこそ知り合いにはゲームで政宗公を好きになってオタクになってしまった人もいる。その知り合いこそ、今仙台で働いている友人の『酒井亜季』なのだ。もしかしたら彼女だったら『粟の須古戦場』の話も知っているかもなと思ったりしたので、今度会った時に聞いてみようと決めた。




ところで動画では『粟の須古戦場』の周囲の様子もばっちり映っていたのだけれど、その「何もなさ」具合に地元のありふれた場所まで思い出されてちょっとばかり地元が恋しくなってきた。弟からするとわたしは地元愛が強いらしく、弟がそれほど頻繁には実家に戻らないのと比べるとわたしは「戻り過ぎ」だそう。




心が無意識に地元の空気を求めていたからなのかは不明だけれど、ゲームをしていたスマホに突然母から電話が掛かってきた。急に画面が切り替わった事に驚いて一瞬思考停止状態になりながら慌ててボタンをタップする。



『もしもし?今大丈夫だった?』



『えっと大丈夫だったけど、何?』



『貴女5月の連休どうするのかなって思って』



『え?5月ってまだ先じゃない?』



『そうなんだけど、今年の大型連休って長いでしょ?改元で』



『あ…確かにそうだった』



そう2019年の5月には新しい元号、その当時はまだどんな元号になるのか分からなかったけれど、5月に改元してから休日の関係で連休が凄く長くなるという話は職場でも結構話題になっていたのだ。年度末のあれこれで実感が無かったのだけれど、予定を考えると早く連絡しておいた方がよかったとそこで気付いた。



『そうだね。連休はそっちで過ごすよ。友達も結構帰省すると思うし』



その場で母はそう伝えたのは昴君の動画を見ていたせいかも知れない。まだ2回しか会った事のない相手なのにもう十分知っているような気がする彼に、もしかしたらどこかで『遭遇』出来るかも知れない。遭遇どころか全然悪い事をしているわけではないので、連絡を取ってどこかで話したりするのも良いのかも知れない。




『連絡』という事を考えると一つネックになる事がある。それはわたしが昴君の連絡先を知らないという事である。『動画』のチャンネルを知っているだけなので連絡は取れないかも、と思いかけたところでピンと来る事があってググってみる。



「あ…やっぱりメッセージ機能あったんだ」



やはり最近のサービスによくあるように直接プライベートなメッセージを配信者に送る機能があるらしく、昴君がそのメッセージを読んでくれればなんとかなりそうな気配。



<でも…なんか変な感じ…>



そこからしばらくの期間、わたしはメッセージを送るか送らないかで逡巡があった。正直に言えば昴君の動画のチャンネル登録者…『ファン』という立場はとても気楽で、コメント欄のやり取りでももしかしたら昴君はわたしのアカウントである『まり』がわたしであるという事に気付いているかも知れない。そういう関係性はブログを続けている自分にはとても自然で、むしろネットとリアルが一緒になるような事の方に抵抗を感じている部分があるのだから、無理にそれを破る必要はない。




後で思えば『無理に』という言葉は言い得て妙だなと思う。そもそも迷っている自分の気持ちを無理に押さえつける事が出来たのか?実際、夜ごと『送ってしまおう』、『いや待て』の気持ちの波で悶々とし続ける事はそれ自体が『無理』に当たるような気がする。




無理だと思う。

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