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智広と再会してからはっきりとした理由があるわけではないけれど日常生活でちょっと考え込んでしまうような場面が多くなって、自分でも少しそれに戸惑っている。別れた時の事は自分では引きずっていたとは思わないけれど、再会したことで胸のつっかえが取れているのかも知れない。その反面、あの時の事に殊更拘泥しなくてもよくなるから、結果的にこれからどう生きていったらいいか悩み始めてしまったのかも知れない。



ポッドに沸かしたお湯をティーバッグの紅茶を置いたカップに注ぎ、しばらくそのままカップの中の褐色を見つめる。休日特に何もする事が思い浮かばないけれど、余計な事まで考えそうになるからスーパーへ買い物に出掛けようとは思っている。壁時計が9時半を指していて、部屋は妙に静かだ。何となく誰かにこの心情を理解してもらいたいような気がするけれど、内容的に同僚には話し難い。話し難いと思うのはわたしの性格とか職場でのイメージが理由で、人によっては気にせず話してしまうのかも知れない。こういう時に、どうしても文章を書きたくなってしまう。




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元彼との再会…という表現がこの場合適切なのかどうか。とにかく付き合ってた人ととある場所で再会して、全然話しづらさは感じなかった。何か呆気ないもので、気まずくなるとか色々込み入った感情は洗い流されてしまっていて、ただ懐かしくて、お互い元気でいれて良かったなとという感じ。



そんなものなのだろうか。年齢を重ねるにつれて色んな体験談を聞くようになっているし、ヘビーな体験は世の中に結構あるという事も知っている。それに比べれば本当に何でもない話で。



今の自分だったら…。なんてことは、どうなんだろう。



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最後の文章はまるで自分に問いかけているかのよう。今の自分だったら相手が求めるものを与える事ができる、としたら?ただそれは智広にという事ではないと感じるのも、凄く本当の部分で、だったらじゃあ誰に?という問いがやってくる。そもそもわたしは恋愛がしたいのか?次から次に浮かんでくる言葉に対して正直今すぐに解答(回答)を与える事ができる気はしない。だけど、ずっとそのままにしておけるような内容でもないのかも知れない。



「あー、ダメだ!」



と紅茶を一口飲んで息を吐く。さっさと出掛ける準備をしてしまおうと考えた。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆




スーパーで買い物をした帰り、エコバッグにそこそこ詰まった野菜のせいで自転車はちょっと不安定。幸いこの年は雪がほとんど降らなかった年で、雪国山形では色々と都合が良かった。昼はパスタにでもしようなどと考えながら自転車をこいでいたら、ポケットのスマホに振動があったような気がして一旦停止する。



「あ、アプリの通知か」



最近、チャンネル登録した動画アプリの通知がスマホに結構入る。好きなアーティスト…『パスピエ』のチャンネルだとか、人気配信者のチャンネルを思いつく限り登録し続けた為に一時通知だらけになったので少し解除していった結果、基本的には通知は昴君の「ばるすちゃんねる」に動きがあった時のものになっていた。この時も、昴君が動画を新しく投稿したらしい事が分かったのだけれど、わたしはちょっとした違和感を覚えた。



<今日はちょっと『早い』?>



そう、いつもは夕方から夜にかけて動画は投稿されていて、この日はまだ昼前。そして動画のタイトルも『地元で友人と…』というものになっていて様子が違う。タイトルからしてもとても気になったのでその場で視聴…は流石にマズいので急いで家に帰る事にしたわたし。不安定な自転車で急ぐのはちょっとハードだった。




家に戻って冷凍、冷蔵庫に入れなければならないものだけをしまって、他のものは一旦テーブルに放置。タブレットを起動して先ほどの動画を再生する。



『本日の動画は地元の友人と実家にて録画しました』



最初にテロップが入る。『地元』という事はつまりわたしの地元でもある『二本松』なのだけれど、昴君とカラオケ店で会話したときの『地元』という言葉を思い出してわたしはちょっとニヤついていた。動画にはいつも通りゲーム画面が表示され始めたのだけれど、すぐに昴君の実況の声と、そして友人…もしかしたら一緒にカラオケに来ていた子かも知れないけれど、その人の声が聞こえてくる。字幕はこんな風に二人の会話を伝えていた。



『やあ、今日はね友人K君と協力プレイでやってみようと思いましてね』



『ですね。初めてだけど頑張ります』



『このゲームも初めてでしょ?』



『あ…全然分かりません。これってシューティング?』



『いわゆるFPSです』



『FPSですか。よくやっている人いるよね』



『協力プレイだと盛り上がるかもなって思って。動画も協力してもらいます』



『面白い事言えませんけど大丈夫か?』



『多分…』



かなり『ゆるい』テンションでスタートした動画は、二人だからなのか不思議な『安心感』のようなものを感じ、K君という友人も昴君に負けず劣らず癒しボイスなので、ゲーム自体は世紀末のような世界観なのに動画自体はほのぼのとしている。



『大学の後期が終わってですね春休みで地元に戻って来たんですけど、今回の動画の「おまけ」として二人で地元の観光名所の紹介動画っぽいものを最後に組み込む予定です』



ゲームとしては特に何もない場面で昴君が告知した内容にわたしは少し驚いた。



<もしかしたら顔出しとかするの?>




とか思ってしまったからである。気になってシークバーを動かしてその場面から視聴する事に決めた。するとわたしを含めて二本松市民にはよく見慣れた場所…そこにある有名な銅像が最初にパッと映し出されていた。



『まだちょっと寒いので、人はほ僕達以外には居ないようですがやってきました!』



『え…?今始まったの?』



続いて昴君とK君の声が流れる。心配は杞憂におわったらしく、お城山と呼ばれている「霞ヶ城公園」の様子だけが流れる。



『今日はK君が車を運転してくれたんですが、K君がそこそこ歴史が好きで戦国武将とか結構好きなんです』



『一応大学では歴史を学んでいます』



あの眼鏡を掛けてパワフルな歌声で歌っていた子が歴史を学んでいるというのも中々ギャップを感じるけれど、動画視聴者はそのことを知らない筈。K君の解説でお城山と丹羽家、少年隊と戊辰戦争などの事が手短に解説されながら動画は進んで行く。



『何でこの動画を撮ろうと思ったのかについて説明しますと、結構『ニッチ』だなって思ったんです』



『ニッチですか』



いい塩梅で友人K君の相槌などが入るので動画としてまとまりがいいと感じる。



『生物学の用語らしいんですが、隙間産業とかの意味で使われる事もありますね』



『なるほど』



『二本松で検索して動画探すんですけど、意外と少なくて撮り方によっては斬新になるかも知れないなと思いました』



『シリーズ化すれば需要はあるかも。色んな所巡ってさ』



『あ、でもこれ「おまけ」のつもりだから』



『え…?そうなの』



『んだ』



何故か最後に方言が出た昴君の声でふきだしてしまった。一つ評する事ができる事があるとすれば、昴君とK君のやり取りが『そのまま』過ぎて、途中からいい意味で<何を見せられているんだろう?>と思うようになっていたくらい自然だったという事だ。多分、仕事としてPR動画を作ろうと思ったら『この味』は出ないんだろうなと思う。わたしはそこそこ地元に帰っている方だけれど、こうして二本松を別な場所から見ることが出来ると何か面白いというか、発見があるような気がする。



「問題は再生数なんだよね…」




この頃には昴君の動画の伸びについて日々の関心事になり始めていた。『地元』を取り上げた動画という事もあり、その日は再生数を何度も確認してみたりしているうちに過ぎてしまった。結果は…



「半日で500はゲームのお陰だろうか…どうなんだろう?」




普段よりも気持ち多いような気がするけれど『誤差』の範囲のような。とにかく見守るつもり。

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