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伝えようのないものだとしても胸の中でそれは。



時々気紛れに文章を綴っていることは誰にも言わないでいる。いつの頃からか『ブログ』というメディアも時代から取り残されているような気も。それはそれで波風の立たない平穏を好ましく思うわたしにとっては好都合なのかも知れない。



…なんて。



観察者の視点で『自分は世間とは無関係』で、起こりようがないと感じていることと自分の心を切り離すようにただ淡々と。そんな風に見てゆくとそこまで疲れたりはしない。だからそれでいいのだと思っていた。




そう、多分『あの時』までは。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




お正月。久しぶりに実家に帰省して相変わらず要領よくやっているらしい弟とも再会して、何となく一安心の姉の姿に一瞬戻っていた。父も母もわたしにはそこまで色々言ってこないのは諦められているからなのか、弟に期待を掛けているからなのか、よく分からないけれど『うち』はそれが正常という暗黙の了解がある。理系の大学を出て女性には珍しい感じの進路に進んで、その後も事あるごとに理系特有の科学的知見を交えて現状を報告し続けてきた『佐川真理』という人間を咎めるものがあるとすれば『情』でしかないのかも知れない。




自分の名前の一部である『真理』という言葉に、わたしはずっと魅力を感じてきた。科学的な真理、哲学的な真理が言うところによれば私達人間は脳内物質や生体のホルモンによって判断を大きく影響され、「わたし」と思っているその意識も既にして自由意志とは限らないと考えるのは現在では素直な解釈と言える。



<わたしは『本当に』それを選びたいと思っているのか?>




そう反省的に選んでゆけば一時の気の迷いからくるものを取り除くことが出来る。そうやって辿り着いた現在の地点にわたしが不満を感じようはずもない。




…とやや過剰に考え過ぎていた若気の至りが残された過去の文章を黒歴史と呼ぶべきなのか、今では極端に単純化された知識が大分『人間』というものの本質に近付いてきたと評価すべきなのか迷うには迷うけれど、簡単に言えばわたしも年相応に丸くなってきたのである。




『情に絆される』という言葉がある通り、合理的であると分かっていても心情的には選べない事も色々経験した。実家は無事やり過ごした震災、そして震災後の様々なニュースを見聞きしているうちに理不尽の中にあって前向きに進もうとするなら、どうあっても心の行き場は必要と感じられた。




『神様が居るとしたら』




その人…人ではないのかも知れないれど、その神様は出来るならすり減らされた心を温かく包み込むような存在であってほしい。一人過でごしているとそんなことを考える事もある。実家に帰って来た時に最初に感じたのはやっぱり変わらない家族の温かさだ。定年が近付き、厳しさよりは優しさを感じるようになった父にも、あまり多くを求めないでいてくれる母にも親孝行をしたくなってきたのも当然と言えば当然なのかも知れない。そこに神様が存在する余地など感じられない程に、親の愛というものは深い。





と言いつつ2日になると家族で初詣に出掛け、きっちり二礼二拍手一礼で御両社の『神様』にお参りをしてきたのは、やはり両親もどこかに願掛けをしたくなる気持ちがあるからなのだろう。支える方も何処かで支えられている。わたしだって支えられつつも、何かを支えている。その日はこんなブログを書いた。




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例年通り初詣。この日は地元にもこんなに人がいるんだなって実感できる。もしかしたら地元以外の人も来ているのかも知れない。無病息災を願う。破魔矢くらいは買った方がいいような気がしたので購入。



お御籤は…【凶】が出そうな気がしたので控える。わたしは何故か『引き』が弱い事に定評があって半分オカルトなんじゃないかと思ってあるゲームで統計を取ってみた事もある。



結果は平均からやや下くらい。具体的には下位30%に当たる数値。微妙。



神社の入り口の赤赤しい出店もいつも通り。猫があしらわれた縁起物がそそるけれど何処に飾るのかを考えて止めた。



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後で見返しても可愛げのない文章だ。けれどコツコツと続けてきた甲斐もあり、アクセスだけは一定の数字を保てている。ほとんど備忘録になってきてはいるけれど、自分の変化を感じ取る事も出来たり色々なメリットがある。以前、某SNSの呟きに、



『昔ながらのブログ少なくなってきてるけど、ああいうのが今読みたいんだよな』



という文章を見つけそこそこ同意の「いいね」がついていたのを確認した時以来、わたしは自分のこういう「何でもない文章」にも価値を見出す人が居るのかもと思い至り、淡々とでも書き続けていればいいんだなと思うようになった。一方で、このブログを好き好んで読むような人が『何故』読みたいのかについてはまだ分析できていない。時代に適応した熱心なブロガーのようにアクセス数を稼ぎたいわけではないから、全然これで良くて、単純に人間心理の研究者としての視点から理由を知りたいのだ。




けれど『アクセスだけ』のブログ『innocently』には読者からのコメントが寄せられる事は無い。現実世界でぶっきらぼうに報告してくるだけの人間に好意的な言葉を贈る人の方が稀だと思うし、思うに読者も『生存報告』だと思って毎回目を通しているだけなのだと考えた方が自然だし、変な期待もしないで済む。




でも…そうじゃないとしたら?わたしは毎回そこで思考が途切れる。思考と言うよりはむしろ想像の世界で、何かぼんやりしたイメージの誰かがわたしに向かって何かを言おうとしている場面が浮かんでくる。その人は女の人?それとも…




スマホでブログを更新してから午後には友人と会う約束になっていたので弟に車で送迎してもらって『猫』のマークでお馴染みのカラオケ店へ。到着した頃には店の前に友人の『菅原弓枝』がソワソワしながら待ちわびていたのが見えた。



「ありがとう。帰りは多分弓枝の車で送ってもらうと思う」



「うん。じゃあ楽しんできて」



そんな言葉を交わして車から降りて、年甲斐もなくワクワクしている心境を弓枝に悟られないように職場と同じポーカーフェイスを意識しながら店の入り口に近づいてゆく。既にこちらをじっと見ている弓枝が、



「真理、真理ぃぃいい!!!!」



と相変わらずのテンションで子犬が尻尾を振っている姿を幻視してしまうくらい。



「弓枝。お待たせ」



「あ、そうだ。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」



そこで畏まる。



「あけましておめでとうございます。以下略」



「そこは略すべきじゃないよね。まあ相変わらずだね真理も」



二人だと何故か漫才コンビのようになってしまうこの関係も相変わらず。そもそも弓枝が時々アニメキャラクターのような性格だからこっちまで調子が狂わされてしまうのだ。流石に中学、高校と一緒に過ごしてきた時間が長いのでこの人の前だとわたしも心を許してしまう。彼女にもブログの事は言っていない。ブログを始めたのは大学時代からで見せようとは思ったけれど、一瞬闇に落ちかけた時期の文章は見せたくないし彼女の前では『相変わらずの真理』でいたいと願っている。



「『も』って事は弓枝も相変わらずって事ね。今の彼と何年目だっけ?」



「ま…その話は中に入ってからしようよ」



自分の事は棚に上げて友人の事にはお節介なきらいがある。少し反省しつつ入店するとカウンターの前に既に並んでいる『若者』の姿が。男性客が二人、一人はいかにも地元の子だなという感じの大学生くらいに見える眼鏡を掛けた人。もう一人が…



「僕は今日はあんまり歌わないよ」



入室の手続きを進めている眼鏡男子の隣でか細い声で不安そうに言った、『大学生』と言うには少し幼い印象の…男の子。髪は無造作に膨らんでいて、くせっ毛なのかも知れない。色がやや茶色で、肌の色も白い。そして冬なのにやや上着も薄いような気がする。



<この子の場合は『少年』と呼んだ方が相応しいかも知れない>



何てことを考えたのだけれど、明らかにこの場では…いやこの二本松ではそのビジュアルと良い浮いてしまう要素が沢山ある、その『少年』に『何か』を感じたのはわたしだけだったのだろうか。

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