由美とけいどろ
「ふーっ」
僕は自分のベッドに横たわり息を吐いた。
(美海に告白されちまった)
彼女の好意を薄々感じていたが、いざ告白されるとむず痒いものだ。
──あのね要。私、貴方のことが好き、大好き
何を考えても頭の中でその言葉が反芻し、他のことが思いつかない。
(参ったな~、これ)
僕は仕方なく考えるのを止め漫画を読むことにした。
しばらくすると階段を上がる単数の音がして、僕の部屋を由美が開けた。
「やっほー」
「おぉ、由美か」
「あれ? どうしたのお兄ちゃん。元気ない声ね」
「元気ないというか考えが纏まらないというか」
「へー、悩み事? どうしたの?」
「いやまぁ高校生にもなると色々あるよ」
彼女はふーんと言いながら僕の方をちらちらと見てくる。どうやらそれで納得していないようだ。
はてどうしたものかと思っていると、
「ま、人になかなか言えない秘密は一つや二つあるよね」
由美は意外とすんなり受け入れてくれたので僕は少し拍子抜けした。
「それよりさゲームしようゲーム」
「なんのゲームする?」
「そうね。懐かしのボードゲームとか」
「例えば?」
「『けいどろ』とか」
「おぉ、良いねやろうやろう」
僕達は二人で遊べる『けいどろ』をやった。
『けいどろ』を簡単に説明すると、警察官三体の人形と泥棒三体の人形をマス目の中で移動し捕まえるゲームだ。警察側が財宝を何個かある建物の中に隠し、泥棒が探す。財宝を全部取れば泥棒の勝ちで、泥棒を三体逮捕出来れば警察の勝ちである。
そして僕が警察で由美が泥棒だ。
僕はそれぞれの建物の中に3つの財宝を隠し、順にサイコロを振ってマス目に沿って動かしていく。
「うーん。3か」
「私は5ね」
そしてとりあえず二体の泥棒が建物に近づいて行く。
(早いスピードでマスを進んでいくなっ)
僕は焦った。サイコロで良い目がなかなか出ないから、あまり進まない。
「お兄ちゃんはどこに隠しているかな~♪」
「くっ」
彼女は一つずつだが建物に近づく。
「それ! ……ちっ。入ってないか……」
僕は何も喋れない。喋ると何か財宝の場所をバラしてしまいそうで。
由美はどんどんマスを進めて別の建物に近づいて行く。
「で、お兄ちゃんさぁ」
「? どうした?」
「4月も終盤に差し掛かって来たけど、高校生活は慣れた?」
「うーん。まだそんなに早くは慣れないよ」
「そっかーっ、私もそろそろ受験でさ。勉強しないとだよ」
「そうだな~。遊んでなくて勉強しなくていいのか?」
「いやいや、その前にまずは総体かな」
「あぁ、そうか。総体だな」
話ながらも由美は順調にマスを進んでいく。
(どんだけサイコロ運強いんだ。4、5、6しか出してないぞ)
僕は財宝を取られないか、はらはらどきどきしていた。
由美を見ると余裕の表情で僕の方を見たりしてニコニコしている。
「もう、お兄ちゃん。余裕ないんだから~。ゲームなんだから気楽にいかないと」
「まぁ、そりゃあそうだが、どうせやるなら勝ちたいからさ」
「ふーん」
(しかし由美の言う通りだな。勝ち負けにこだわらず少し力を抜くか)
少し気楽にすると、すかさず由美が話しかけてくる。
「で、お兄ちゃん高校生活で困ったことはない?」
「困ったこと?」
「うん」
「そうだなぁ。あー、麻美姉や美海が僕に積極的なところかな?」
「へー、あの姉ちゃんがね~」
「え? あー……」
そして僕ははっとした。
(危うく色々言いそうにならなかったか?)
由美を見ると、相変わらずにこにこしていた。
(全く。油断も隙もない……)
まぁ、けど僕達二人だけでボードゲームをしていると、当然だが静寂になったり盛り上がったりする。
そうなるのは由美がゲーム好きというのもあるが、普段の生活の環境が違うので、違う話題が出来る楽しさがある。
それは彼女の姉達とはまた違う楽しさだ。
また年下で特に彼女と会えるのは朝と夜のみだから、一定の距離感がある。
まぁけど由美はそんなことを気にせずぐいぐい来るが……。
ゲームの話に戻すと結局僕が負けた。
(これじゃあ年上の威厳がないな)
「よし勝ったーー」
僕はとほほとなっていると、
「お兄ちゃん。土曜日の件忘れないでね」
「え? うん」
「デートよ。デート」
「分かってるよ」
由美は相変わらず純真無垢な笑顔をする。
その無垢な表情に僕は明るくなる。
ドタドタと階段の上がる複数の音がして、彼女の二人の姉が現れた。
「ちょっと由美! なに要 (ちゃん)と楽しんでいるのよ!」
ずるいずるいと二人は騒ぐ。てへっと由美は笑う。
(全く、この三人がいると騒がしいな)
僕はこの三姉妹が一斉に同じ場所でやかましく集まることにほとほと参った。
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