告白
さて昼休みになり弁当を鞄から取り出すと、かつかつと近づいて来る音がした。
見ると美海だった。
「あ、あのさ……い、一緒に食べない?」
「え?」
「貴方がどうしてもと言うのなら」
「えと……山本君達と食べようかなと」
「! ……」
彼女はかなり眉を垂らして、目を潤していた。
「え!? ちょっ、美海?」
こんな顔になる彼女を初めてみて、僕はかなり戸惑った。
(あの美海が? 一体どうした? けどそんな顔されては……)
はぁとため息をはいて、
「分かった。一緒に食べよう」
美海はぱあと明るくなり、
「あ、貴方が一緒に食べたいというなら仕方ないわね。一緒に食べてあげる」
「その前に山本君達に断りを言ってからだ」
「えぇ、分かったわ♪」
そして彼らに断りを入れてから美海達のグループに入った。
そうすると早川さんが、来たのねと淡白に言った。
「え? うん」
「そ」
「何~紗和ちゃん、岩田君のこと気になってるの~?」
「!?」
「それは私じゃなくて菊地さんがでしょ?」
美海は急に赤面し、
「ちょ、そんなことないわ! こいつはただの幼馴染み!」
「はいはい、そうね」
「もう、素直じゃないんだから~」
だから違うと美海はあたふたしながら言う。
彼女達が騒いでいる横で僕は静かに食べる。
「要。あんたも何か喋りなさいよ」
「何って何をだよ?」
「何でも良いわよ?」
「何でもって言われても……」
急に美海が言うものだから困った。
「共通の話題がないと」
「岩田君はどんな趣味があるの?」
ニコニコしながら水島さんは訊いてくる。
「マンガや小説かな」
「へぇ。どんなの読むの?」
「歴史小説や推理小説かな?」
「マンガの方は?」
「マンガはラブコメかなぁ」
「へぇ! どんなの読むの?」
こんなのとかあんなのとかと言うと、彼女は熱心に聞く。
「へぇその名前は知ってる~。けど男子向けだね。女子向けのは読まないの?」
「ラブストーリー系は苦手でさ」
「どうしてどうして?」
「やっぱりプラトニックな恋愛は読んでて恥ずかしいから」
「えー、ああいう純愛な話が良いのに~」
「そ、そうなのかな?」
「まぁ、要にそういう恋愛は似合わないわ」
「まぁ、確かに」
「大体誰かと恋愛してることが違和感ね」
美海は鼻で笑うものだからついムッときて、
「僕だって女子と恋愛ぐらいしたいさ!!」
美海に強い口調で言ってしまったから黙った。
いかんと思って僕も静かにいると、
「じゃあ……そんなこと言うなら私と恋愛してよ……」
「え?」
「姉さんや由美じゃなく私と恋愛してよ!」
「!」
「私をもっと好きになってよ!!」
「美海!?!?」
「二人ばかりずるいわ……」
感極まったのか美海は立ちながら涙をぽろぽろと流し始めて、周りは少しザワついた。
「まぁ美海。今は落ち着けって」
クラスで昼休みの真っ只中に泣かれたらどう対応して良いか分からないが、僕は穏やかになだめたら、気が収まってきたのか、
「……グズッ……ゴメン。私ちょっと保健室行ってくるから」
「付いていこうか?」
早川さんが優しく言う。
「ううん。大丈夫、ありがとう……」
そうして美海はクラスから出て行った。僕はどうすることも出来ずに自分の席に戻った。
5限目始まる前に彼女は目を少し赤くしてだが戻ってきた。
放課後。部活の時間だが文芸部は週に1回なので休みだ。
だから僕は図書室に行って本を読んでから暫くして校門の前で待っていると部活終わりの美海が来た。
「よ」
僕は彼女に声をかけると、少しビクッとしたが、一緒に自宅に向かった。
「あの時はごめんなさい。感極まってしまって」
「あぁ、大丈夫だよ」
暫く無言が続く。
「けど父さんも父さんよね。いきなり許嫁を決めろだなんて、一生一緒にいる相手を直ぐになかなか決めれるものじゃないのに」
「まぁな」
「そして姉さんも由美も気合い入りまくりだから困りものね」
「本当にそうだな」
僕達は楽しく笑った。
「ねぇ、覚えてる? 子供の頃私が迷子になったことあるの」
「え? あぁ何となくだがな」
「その時貴方が一番最初に見つけてくれた」
「……」
「あの時は嬉しかったなぁ。今でも忘れない」
「……」
「あれ以来よ。貴方を意識するようになったのは」
「……」
「あのね要。私、貴方のことが好き、大好き」
「……」
「けどいきなり私を許嫁にしろだなんて言わない。姉さんも由美もそれぞれ魅力的だから」
「……」
「だけど私は二人に負けない。だから私を見ててね」
「分かった」
「じっくり考えてちゃんと選んでね」
「そうだな」
まだ明かりが残っている夜空に笑顔になっている彼女は僕の心を温かくした。
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