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菊地家裁判法廷

「実希ちゃん、優ちゃん!」


 由美が彼女達に声をかけた。知り合いみたいだ。友達か?


「市内に二人で遊びに来たの?」

「そうそう。ショッピングしにね~」

「へぇ、そうなんだーっ♪」

「けど中々品揃えが良くないの。不景気かしら?」


 今どきの中学生ってそういうこと言うの?


「何買ったの?」

「服よ服~♪」

「私も買ったんだっ」

「どんなの?」

「黒のシャツ♪!」

「私もーっ!」

「そうなんだーっ」


 彼女達が楽しく盛り上がって僕は由美の隣でぽつねんと立っていると、実希と呼ばれた娘が、


「ところで……彼は、どなた?」

「え? 僕は……」


 答えようとした時、由美はすっと僕の唇に指を持ってきて押さえた。

 由美?


「彼は私にとって大切な人よ」


 彼女は臆面もなくそう言うもんだから、ドキッとした空気になった。


「……この人が噂の彼?」


 優ちゃんと呼ばれた娘が由美に訊いて、意味深に笑って何も言わず首を縦に振った。そして彼女達は声を潜めながら喋り合って、


「じゃあ二人の邪魔しちゃ悪いから行くね」

「じゃあね、由美ちゃん」

「うん」


 こうして二人は去って行った。由美の方を見ると彼女達を見ながら表情はにこにこしていた。


「……あれで良かったのか?」

「何が?」

「いや、だからあんな返事の仕方では彼氏と受け取られないか?」

「そうね」

「訂正はしないのか?」

「これでいいの」

「え?」

「私達の関係は中々他人には伝わりにくいわ」

「……」

「それにどうせ正しい事実を言っても、それが周りに正しく伝わる保証はないでしょ?」


 確かに……。直接聞いた人間はまだしも、聞いてない人間が噂をすると、話に尾びれがついていくから。


「けどそれで良いのか?」

「良いの」

「……」

「それより遊ぶ時間がなくなっちゃう。18:00までには家に帰らないとお姉ちゃん達に怪しまれちゃう」

「あ、あぁ……」


 こうして二人で1時間だけボウリングをした。楽しかったがそれにしても由美の奴強い。150を出しやがった。僕も年上としての沽券を守るため集中してボウリングに取り組んだが92だった。

(由美……年上にはもう少し配慮をだな……)

 そう思ってしまう時点で情けないのだが……。そして時間も良い頃合になって駅に向かった時、お兄ちゃんと由美が僕に声をかける。


「どうした?」

「あのね。初めてのデート記念にね、何か欲しいな~って」

「え?」

「駄目?」

「……高いのは買えないぞ?」

「分かってるよーっ」


 彼女は少しむくれたが、僕はキョロキョロと周りを見てスマホ用のストラップを買ってあげた。


「ありがとう♪!」


 彼女のはち切れんばかりの笑顔に僕の心は明るくなった。そして自分の家に帰り、ご飯を食べ自分の部屋に行き、ベッドに横になった。


──彼は私にとって大切な人よ


 なんか……気になる言い回しだな。果たして彼女達はその言葉を正しく受け取っただろうか。まぁ、なかなか真実を彼女達が理解するのは難しかろう。

 考え事をしながらのんびりしていると、外に自転車が止まる音が聞こえたと思ったら、家に入ってきて、どたどたどたと力強く階段を複数人が上がってくる。

(な、なんだ?)

 部屋のドアをバンと開けて、凄い形相で麻美姉と美海が萎れた由美を連れて入って来た。


「な、何事!?」

「何事じゃないわ要ちゃん! 由美のスマホに付いているこのストラップは何!?」

「え? それは……」


 なんか気まずいな。誤魔化すか……いや、由美も弱っているし、この二人の状態から逃げるのは無理だ……。


「……僕が買いました」

「!」

「!!」

「ど、どうして……!?」

「そうよ、なんでよ要……」

「えーっと実は……」


 内容を少し割愛しながら話すと二人は始め呆然とした表情になっていたが、みるみる顔が紅くなった。


「デート……」

「デート!」


 特に二人はデートいう言葉に引っかかるみたいだ。


「ズルイ! 由美と二人だけでデートするなんて! 私だって17年生きて一度も二人きりでデートしたことないのに!!」

「そうよ! 私は16年だけど右に同じ!」

「そういう話だったから仕方ないだろ?」

「まさか由美が気づかない間に要ちゃんとそういう話をしていたなんて……迂闊、迂闊だわ!!」

「右に同じ!」

「ゲームに勝ったくらいでそんな羨ま約束が出来るなんて……」

「右に同じ……」

「ちょっと美海! 真似しないでよ!?」

「仕方ないじゃない! 同じ気持ちなんだから!」

「ところで……」

「何よ!?」

「……どうしてそのストラップが僕が買っただろうと推測出来たんだ?」

「それは由美が自慢そうに言ってたからよっ」


 由美……。


「要ちゃんとデートなんて、夜な夜な布団の中で妄想するぐらいしか出来ないのにーっ!!」


 そんな事してるんだ……。


「僕も初めてだったから、ちょっと緊張しちゃったっ」

「!」

「!!」

「これは……」

「これは裁判沙汰よ! 裁判長!」

「そうね! 裁判にかける必要があるわね!」

「え?」


 由美を僕の左側に連れて来た。上から見て麻美姉を基準に左に美海、右に僕、正面に由美が座る。こ、これは……、


「被告人は要の初めて(のデート)を奪いました。これは有罪ではないでしょうか」

「ふむ」

「待て美海、それは言い過ぎでは……」

「検察官と呼びなさい!」

「……検察官、それは少し言い過ぎでは?」

「なぜ?」

「確かに被告人はぼ、被害者(僕)の初めてを奪いましたが、かと言って別に嫌なデートだった訳では……」

「では何!? 満更でもなかったと!?」

「え、まぁそういう証言者(僕)もいます」

「貴方は被告人の肩を持つのか!!?」

「そりゃあ弁護士は被告人の肩を持つでしょ!?」


 パンパン。裁判長は机を叩く。


「裁判長!!」

「裁判長」

「被告人は菊地家刑法4条13項9号の罪により終身刑」

「え~、そんなーっ」

「異議無し!!」

「え? 裁判長! それは検察側に寄りすぎでは!?」

「ふん。だって羨ましいんだもん」


 裁判長……それは私情入りすぎです。

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