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暁の機動天使《プシュコマキア》  作者: 憂木 ヒロ
第四章 落日

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第八十五話 夢を追う者 ―Admiration to the ability―

『月居カグヤ氏、入院か。5日、急遽職務休む』

『「レジスタンス」はこの件に関してノーコメント』

『月居氏の病状については未だ確証を得られていないが、おそらくは心労による症状か』

『現在は退院しているが、職務は減らしている模様』


 机上に放った新聞や週刊誌の見出しを眺め、矢神キョウジは紫煙とともに溜め息を吐き出した。

 後期中間試験を目前にした十一月半ばの昼下がり。

 その日の授業を終えて職員室に戻ってくるなりコンビニで買ったそれらを見る男の憂鬱は、深まるばかりだった。


「あら、矢神先生。……心配ですね、月居司令」

「沢咲先生……すまないな、いつも」


 ちょうどそのとき職員室にやって来た養護教諭の沢咲アズサは、二本買ってきた缶コーヒーの一本をキョウジに手渡す。

 すっかり恒例になったコーヒーのお裾分けをありがたく受けつつ、キョウジは煙草を灰皿に押し付け、よく冷えた苦味を口に含んだ。

 彼の心情をそのまま反映したような味を舌で感じ、溜め息を重ねる。


「司令とは最近どうなんですか、先生? 以前のようにお会いになられたりは……?」

「めっきり会えなくなってしまいましたよ。俺のほうから誘いをかけてもなかなか応えてもらえませんでね。単に俺に飽きただけなら良いのですが……やはり、男遊びに耽る余裕もなくなったというのが実情でしょうな」


 色情多き女性であるカグヤだが、ここ最近はそういった噂も全く聞かなくなった。

 それも当然といえば当然だ。『レジスタンス』及び月居司令は『福岡プラント奪還作戦』を失敗したことにより信用を落としており、追い打ちをかけるようなスキャンダルは御免だという考えなのだろう。

 だがそれ以上に、カナタが再起の難しい精神的ダメージを受けたことはカグヤの心に影を落としてしまったのかもしれない。

 彼女に会えていないキョウジには明確なことは言えないが、カグヤが人々の思う冷血な女ではないことを彼は知っている。

 カナタを道具のように扱う部分があったとはいえ、彼女も一人の母親だ。息子が傷ついてしまったことに心を痛めたとしても、何もおかしくはない。

 

「……『レジスタンス』が置かれている状況は決して良いとはいえません。来年度の政府の予算案も『レジスタンス』への割り当ては例年より減るとの噂もある。それに、『尊皇派』の勢力が力を増してきているのも無視できない。司令にとってはこれから苦難が続くでしょうな」


 眼鏡を外してレンズを拭きながら、キョウジは淡々と呟いた。

 その言葉にアズサは静かに頷く。司令や『レジスタンス』の苦境は、彼女ら学園の教師にとって他人事ではなかった。


「『学園』もその煽りを受けてしまうのも確実でしょうね。その……現金な話ですが、お給料とか減ったら嫌だなーって思っちゃいますね」


 冗談めかして笑うアズサだったが、キョウジは表情筋をぴくりとも動かさなかった。

 空笑いする養護教諭は一度咳払いして空気を切り替え、自分の席へ戻ってある資料を持ってくる。


「……それは?」

「A組の各生徒のバイタルと、保健室に来た生徒の記録です。前期までより保健室に来る子が増えたのは少し気になりますね」


 アズサから受け取った紙面を捲って流し見て、キョウジは唇を引き結んだ。

 犬塚シバマルや刘雨萓、冬萌ユキエ、風縫カオルといったクラスの中心メンバーの調子はむしろ上がっているのだが、それ以外の生徒の状態は正直良いとはいえない。

 やはり精神的なストレスや疲労が色濃く出ている。それは全生徒が同じであるが、上手く向き合って解消できている子とそうでない子で二極化していた。


「もうそろそろ実戦試験です。戦闘に響いてもいけませんから、私のほうからも生徒たちへ出来る限りのケアは当然します。ですが矢神先生のほうからもどうか、普段以上に気配りをお願いします。精神的なショックは受けた直後はもちろんですが、後からじわじわと影響を及ぼすことも多々ありますので」


 念押ししてくるアズサに「了解しました」と神妙な面持ちで答えるキョウジ。

 資料にある状態の悪い生徒たちについて、彼はこれまで深く思いを致したことがなかった。心配するのはいつだって、カナタやレイ、マナカら「出来る子」たち。彼らを特別視し他の子たちのことは軽く見ていた――そのつけがこうして出てしまったのだ、と今さら後悔しても遅いかもしれない。

 だが、何か働きかけることは出来るはずだ。

 湊アオイのように子供たちと正面から向き合い、思いを伝えれば、良い方向に変えられる可能性はある。

 人生の半分を研究室に閉じこもって過ごした男にやれることは、たかが知れているだろうが――それでも。



 その日の訓練の様子に、普段と変わったところはなかった。

 ユキエやユイ、カオルが指導役として、他の生徒たちの練習に付き合う。クラスを三つのグループに分け、それぞれの苦手を潰すために組み上げられたメニューをこなしていく。

 先ほどの資料で調子の悪そうだった子どもたちの様子を、監督のキョウジは入念に観察した。

 平均的に出来てはいるが、やる気がいまいち見られない女子生徒。全体的に動きのぎこちない男子生徒。銃撃の成功率が著しく落ちている者や、そもそも訓練をサボっている者も何人かいる。

 試験日までに果たして全員にアプローチをかけられるだろうか――そう考えて、キョウジは激しく頭を振った。

 かけられるか、ではない。かけるのだ。優秀な者が優遇される研究室とは違い、ここは学校。生徒たちに等しく接するのが教師として求められることだ。


(クラス全体の前で色々言うのは、晒し者にするようで良くないかもな。放課後、個々人に声をかけてみるほかないか)


 腕組みするキョウジは内心でそう呟き、意識を引き締めた。

 その日のうちに、彼はすぐに動きだす。

 まず対応したのは、気だるそうにしていた一人の女子生徒だった。

『VRダイブ室』のエントランスホールに出たところを呼び止めると、その女子生徒は胡散臭そうな半眼でキョウジを睥睨した。


「……何の用、先生?」


 靴底を床に擦って歩いていた足を止め、緩慢な動作で振り返る背の高いスレンダーな少女。

 青みがかった黒髪をポニーテールにした彼女の名は、石田サキといった。

 薄い唇を曲げて訊いてくるサキに、キョウジは尻込みせずに確認する。


「担任として最近の君の様子が少し心配でね。何か俺にできることがあれば、と思ったんだが……」

「そんなのないよ。あたし、だるいからもう帰っていい? 今日のノルマはちゃんとこなしたんだから、いいでしょ?」


 確かに石田サキはユキエらが設定した最低ラインはこなせている。だが、彼女の実力ならば模擬戦でもう少し多くの第三級【異形】を討てたはずなのに、手を抜いていたのだ。

 ユキエら他の生徒が全力で頑張っているというのに、どういうわけか――キョウジが熱のこもった口調でそう言うと、サキは鼻で笑った。


「自分は自分、他人は他人。あたしは『レジスタンス』を目指しちゃいるけど、必要以上に頑張って疲れたくなんかないの。……それに、心配するなら他に相手がいるんじゃないの? 引きこもりを部屋から引っ張り出すとかさ、それが教師ってやつの仕事でしょ?」

「石田くん……!」

「じゃね、先生。これがあたしのスタイルだから、もう口出ししないでね」


 冷めた声音で言ってくるサキにキョウジは言い返そうとして、被せ気味な彼女の言葉にそれを封じられた。

 ひらひらと手を振って去っていく長身の女子生徒の背中を見送り、男は唇を噛む。

 彼はサキの台詞に一瞬でもカッとなりかけた自分を殴りたい気分だった。それは教師という立場から自分の考えを押し付けるだけの行為だ。自分が学生だった頃、そんな独善的な教師のことを内心で馬鹿にしていたのを思い出し、キョウジは反省する。

 

(石田サキについては、やはり本人のやる気次第か。彼女に影響されて訓練の手を抜く生徒が他に出ないかが懸念点だが……俺が直接言ってダメなら、外堀を埋めるやり方に切り替えればいけるか?)


 クラスという狭いコミュニティの中では、一人が醸す「空気」というものが瞬く間に全体に影響を及ぼすこともありうるものだ。石田サキは友人も少なく目立たないほうの生徒であるため、そこまで警戒することでもないのかもしれないが――綻びは、どんなものであっても修正するべきだろう。

 支柱をなくしたA組の形を懸命に保とうとしているユキエやカオルの努力を無駄にしないためにも、キョウジが動かなければならない。


(次は……宮島だな)


 キョウジが次に視線を向けたのは、宮島タイチという背が低く小太りな男子生徒。

 彼は一言でいうと「落ちこぼれ」。

 クラスの中でもあらゆる分野でユキエらトップ層に遠く及ばない、前期の試験でも真っ先に「死亡」扱いとなった生徒であった。

 A組はカナタやレイをはじめ才能ある者の血縁者が多く集められたクラスではあるが、中にはタイチのような子もいた。そういった子の多くは試験を放棄し、前期終了時には既に退学処分となっていたものの、タイチは辞めずにここまで食らいついてきた。つまり、やる気はあるのだ。

 実力があるのに手を抜くサキとは真逆で、やる気があるのに実力が伴っていない。


「せ、先生……おれ、なんかしましたか?」


 最初から叱られると思い込んでいるあたり、かなり卑屈になってしまっているようだ。実力がモノを言う世界に身を置いていれば、仕方のないことではあるが。

 

「いや、少し話したいことがあってね。肩の力は抜いてもらっていい。ここじゃあれだし、ちょっとついてきてくれるか?」

「は、はい……」


 そう言ってキョウジがタイチを連れて行ったのは、彼のお気に入りの屋上だった。

 以前カナタやアオイ、アズサと話したフェンス脇のベンチに腰を下ろし、キョウジは煙草に火をつける。

 所在なさげに斜陽を背後に立ち尽くすタイチに視線を遣り、キョウジは隣の空いたスペースを軽く叩いて座るよう促した。

 少年がおそるおそるそこに掛けると、男は茫洋と広がる茜色の空を眺めながら話し始める。


「使命、理想、金、世間体、義務感……『レジスタンス』入隊を目指す者たちの理由は様々だ。宮島くん、君が努力している原動力は何だ? 率直な言葉で、正直に教えてほしい。教師と生徒としてではなく、君と俺という個人として話したいんだ」


 常に俯きがちな少年の本音を引き出すべく、キョウジはまず問いの内容と、それに伴う自他の立場を明らかにした。

 教師として接するとどうしても警戒させてしまう。まあそもそもキョウジという人物が多くの者に胡散臭く思われている節はあるのだが、それでも多少は効果があるだろう。

 

「……お、おれは……」


 宮島タイチという少年自身も、何か変化のきっかけを望んでいたところがあったのかもしれない。

 彼はぼそぼそとした小声ではあったが口を開き、自分の戦う理由を打ち明けた。


「……その、恥ずかしい話かもしれないんですけど。お、おれ、ロボットアニメが大好きで……憧れ、てたんです。ロボットに乗って敵と戦って、ヒーローになる――なんて、子供じみた夢だって分かってはいるんですけど……」

 

 少年の言葉にキョウジは瞠目した。

 思わぬ共通点を自分と彼の中に見出し、笑みをこぼす。

 キョウジはロボットを『作る』ことを夢見た。タイチはその作られしものに『乗って戦う』ことを夢見た。前者の願いは月居博士らの協力もあって叶った。だが、後者の願いは未だ途上だ。

「ロボットに乗る」夢は仮想空間とはいえ実現した。しかし、「敵と戦ってヒーローになる」という点は叶っていない。


「宮島くん、君は――」

「分かってます、分かってるんです。おれがヒーローになんかなれないってことくらい。おれには月居くんや早乙女くんみたいな才能がないから。おれなんて所詮、敵に倒されるだけのモブ兵士だって、自覚はしてるんです」


 キョウジの言葉を遮って、タイチはそうまくし立てた。

 自分自身が見下ろす、「非力で無力な自分」。彼は自らを俯瞰視できる賢さを有していながら、それでも、憧れという酔いから覚めることを拒み続けていた。

 固く握って震える少年の拳に、キョウジは自らの手を重ねた。そして、力強く握り込む。


「俺にも気持ちは分かる。俺もロボットのロマンに魅入られて、SAM開発に携わった者の一人だからな」


 タイチが夢を手放せない理由が、キョウジには分かる気がした。

 彼のそばには目に見える「ヒーロー」であるカナタやレイがいた。彼らとタイチは特別仲が良いわけではなかったが、寮で隣室ということもあって会えば軽く会話を交わす程度の付き合いはあった。

 彼はカナタやレイが努力する姿を陰で見守ってきた。だから、知っていたのだ。「ヒーロー」は決して才能だけでなれる存在ではないのだと。たゆまぬ努力があってこそ、皆に認められるヒーローになれるのだと。

 もしカナタらが遠い存在であったなら、タイチはすぐに諦めていただろう。圧倒的な才能に自分などが追い縋れるわけがないと、そう気持ちに折り合いが付けられたはずだ。

 だが、幸か不幸か彼はカナタらと同じクラスになってしまった。そして、彼らと同じように努力して実力を高めていくクラスメイトの姿を目にしてしまった。

 自分だって頑張れば、もしかしたら。

 ゆえにそんな期待を抱き、彼らに少しでも近づこうと努力し続けた。

 

 キョウジが推測をまとめて言葉にすると、タイチは鋭く息を吸い込んで担任を見つめた。

 

「な、なんで、おれのこと……」

「俺も同じようなもんだったからな。間近で同い年の、才能ある人間を見てきた。パイロットと技術者……違いはあれど、同じ境遇だった」


 矢神キョウジは今でこそ『レジスタンス』内で多くのメカニックから尊敬される人物になったとはいえ、最初からそうではなかった。

 月居博士の門下には彼より優秀な者が多くおり、中でも伊達メガネをかけた快活な女性研究者は群を抜いた才能を周囲に見せつけていた。

 SAM発案者にも拘らず、研究者・技術者として遅れを取りがちだったキョウジ。

 そんな彼が心を折らずに夢に食らいついたのは、その女性が笑みを向けてくれたから。

 野性的な鋭い眼を細め、凛とした顔に柔和な色を醸し出す彼女の笑顔は、「君ならもっと出来るわよね?」と挑発しているようにキョウジには思えた。

 彼女の本心は定かでない。が、そのひと時の笑顔がキョウジを動かしたのは確かだった。

 自分には夢がある。努力しようという心意気がある。足りないのは、その心意気を実行に移す精神力だ。

 昼夜を問わず懸命に勉強を重ね、才能ある彼女の背中を追い続けた。その結果として、今の矢神キョウジがある。

 

「……天才を目指すのはやめなさいと、俺が憧れた女性は言った。それは自分の能力を知らない馬鹿がすることだ、本当に賢い者は自分の出来不出来をきちんと把握して、出来る点に特化するものだと」


「ヒーロー」に憧れているタイチにはその視点が足りていなかったのでは、とキョウジは考える。

 大抵の場合、ヒーローは何でもよくできる。それは見る者の憧れとなり、物語をより彩る一要因となっている。

 夢を追う姿勢は応援すべきものだというのがキョウジの持論だ。だが、道標もなしに闇雲に突っ走っていっても、そこに辿り着けるかは分からない。

 だから教師は道を示すのだ。子供たちを少しでも、夢に近づけるために。


「何でもできるヒーローだけがパイロットのあり方じゃない。銃撃に特化した者、支援に特化した者、魔導士といって魔法に特化した者、現場には他にも色んな兵士がいるんだ。兵士だけじゃない、彼らを支えるメカニックだって立派な戦士なんだ。宮島くん、君は確かに他人より劣る部分があるのかもしれない。だが、これまで様々な分野に費やしてきた訓練の時間を、比較的得意な一分野に集中させれば――」

「道は、開ける?」


 目を見開き、顔を輝かせるタイチに、キョウジは力強く頷いてみせた。

 宮島タイチに足りなかったもの、それは彼に共感できる者からの導きだったのだ。

 ユキエたちは劣等生である彼よりも、シバマルやリサなど伸びしろのある者を優先して鍛えていた。見込みある者から育てるやり方は間違ってはいない。レイやマナカの思いを継いで上へ上へと進んでいこうとしているユキエたちからしたら、そのスタイルは最適なものだ。

 それを踏まえたうえで、キョウジはユキエたちとは違った手段で劣等生たちにアプローチをかける。


「宮島くん、残酷な話だが、君の今の実力ではパイロットとしてやっていくのが難しいのは確実だ。今の君が戦場に放り出されれば、第二級【異形】にも呆気なく狩られてしまうだろう。 だが、まだメカニックの道に進むという選択肢がある」

「で、でも、おれは……」


 少年は唇を噛んで俯いた。震える声をこぼすタイチの肩にポンと手を置き、キョウジは穏やかな口調で語る。


「言っただろ、メカニックも立派な戦士だって。メカニックの整備がなけりゃパイロットは満足に戦えない。必要不可欠な存在なんだよ。決して、逃げ道なんかじゃない」


 眼鏡の奥の目を細め、男はにっと笑った。まるで少年に戻ったような表情をする彼は、それでも年相応の嗄れた声で言う。


「揶揄する奴がいたとしても、そんなの無視しろ。お前は何も分かっちゃいないってな。優秀なパイロットは皆、メカニックのありがたさを存分に理解してるんだから」


 小太りの少年は顔を上げた。

 新たに示された道を行くということは、これまでの夢を諦めるということ。それに、道を変えたとしてもその先で上手くいくかは分からない。落ちこぼれの彼が目覚しい活躍を遂げられるとは、正直キョウジにも考えづらい。

 だが――やる前から諦めるくらいなら、やってからダメだったと認めるべきだ。

 決して後悔のないように、それは湊アオイも言っていたことだ。


「……今日は、ありがとうございました。お、おれ、来年からメカニックコースに行くの、考えてみます」

「そうか。……そうだな、もし君が望むなら、放課後の時間を割いてメカニックに必要な知識を先んじて教えることもできる。どうする、宮島くん?」


 決断したタイチに、さっそくキョウジはそう提案した。

 それはキョウジの賭けだった。それも、分のいい賭け。やる気を燃やし努力するということは、皆が皆できることではない。タイチのその姿勢は、それだけである種の才能なのだ。

 先天性の資質がモノを言うパイロットの世界よりも、勉強を懸命にこなせば結果を出せるメカニックの世界のほうが彼には向いているはずだ。


「は、はい! 教えてほしいです!」

「よし、決まりだな」


 宮島タイチという少年の進む道は見えた。

 A組の問題はまだまだ残ってはいるが、一つが解消できたのなら一日の成果としては上々だろう。

 沈みゆく太陽を見つめながら、キョウジは笑みとともに紫煙を吐き出した。

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