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暁の機動天使《プシュコマキア》  作者: 憂木 ヒロ
第二章 嘘と真実

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第三十一話 対人戦闘 ―Mysterious girl―

『カナタくんおはよー(*´∀`*) 昨夜ゆうべの学園からのお知らせ見た? 月居司令の特別講義だって! あの司令が来てくれるなんてすごいよね!』


 まだ重い瞼を擦りながらベッドでスマホを開いたカナタは、マナカからのメールに目を丸くした。

 眠気がすっと引いていく。

 ――母さんが、来る。母さんと、会えるんだ。

 つい先日の訓練の際、母親と面会して自身の『力』について訊ねようと思っていたカナタにとって、それは非常にタイムリーなニュースであった。

 時刻は八時。いつもよりもだいぶ遅い起床だが、それでもまあいいとカナタは呟く。

 ごそごそとベッドから抜け出した彼は、それから二段ベッドの上を確認してみた。


「れ、レイ。もう八時だよ、そろそろ支度して食堂行かないと」

「んー……まだ寝てたい……」


 担任の矢神キョウジに頼んで『第二の世界ツヴァイト・ヴェルト』のフリーパスを発行してもらったカナタは、昨晩レイと共に訓練を行っていた。

 日中は他の生徒の指導に付きっきりで自分たちの練習が出来なかったため、その補充である。

 銃撃戦、白兵戦、魔法や魔力を使った戦闘。旧世代機【ゾルダート】との模擬戦は、二人とも殆どミスすることなく勝利していた。

 このところの調子は悪くない。ラウムを撃破し、雨萓ユィシュエンとの試合に勝った今のカナタは順調すぎるほどに勝ち星を重ねられている。

 次も必ず勝とう――もう何度目とも知れない誓いを胸に刻みつつ、彼は梯子を上って寝ぼすけのレイを揺り起こそうとした。


「お、起きて、レイ。このまま起きないなら、さ、先行っちゃうよ?」

「むにゃ……やだーっ……」


 日々の疲れが蓄積しているのか、レイはなかなか起きてくれない。

 意趣返しに本当に置いていってしまおうか、と一瞬考えるカナタ。しかしただでさえ雨萓のことで険悪になりかけているのに、そんなことをすれば取り返しのつかないことになる気がした。

 

(気持ちは分かるよ、レイ。でもここは心を鬼にしなきゃ……!)


 眠りこける相棒の女の子のような寝顔を見下ろし、カナタは深呼吸した。

 ええい、ままよ! ――そんな心意気で布団に手を伸ばし、引っぺがす。

 が、次の瞬間視界に飛び込んできた肌色に、少年は顔を赤らめた。


「なっ……れっ、レイっ……!?」

「え? ……はっ!?」


 ぶるりと身震いしたレイは数秒遅れて現状を理解し、頬を紅潮させた。

 今のレイの格好は下着パンツ一枚だけを身につけてうつ伏せに寝ている状態だったのだ。

 長い髪を下ろしている彼の姿は、前が隠れているため完全に女の子にしか見えない。

 滑らかな白い肌や、細身ながらも筋肉の程よくついた身体は彫刻品のように美しく、カナタはうっかり見惚れてしまった。


「っ、この、馬鹿カナタ!! 何じろじろ見てるんですか、変態ッ!」

「そ、そんなつもりじゃ……ぼっ僕、き、き、君がそんな格好でいるなんて、しっ知らなかった、から」


 顔を真っ赤にして怒鳴るレイに、カナタは動転しながらも弁明した。

 布団を被って顔だけ出し、早口で思いつく限りの悪口を連ねていく金髪の少年。

 思わぬ事態に平謝りしてくるカナタに満足するまで散々言ったあと、レイは相棒が若干涙目になっているのに気づいた。


(……言い過ぎましたかね)


「れっ、レイっ……き、君が言ったことが全部事実だとしたら、僕はとっくのとうに刑務所にぶち込まれてるような性犯罪者ってことになるんだけど……」

「……冗談です」

「じょ、冗談で済ませられるレベル超えてたよ!? よ、よくもまあそんな色々言えるよね!」

「…………すみませんでした」


 よくよく考えたら暑いからってパンイチで寝た自分レイにも非があるし、カナタには一切の悪気はなかったかもしれない。

 冷静になったレイは、嫌われちゃったでしょうか、と急に不安になってカナタの顔を上目遣いに窺った。


「あ、あの……今日の朝食代、奢ります」

「い、いいよそんなの。と、取り敢えず服着てよ。その……目のやり場に困るし」


 カナタは梯子を下り、クローゼットからレイの制服を引っ張り出して放り上げる。

 男同士なのに目のやり場に困るというのも変な話だが、レイの見た目が女性的なのだから仕方がない。

 テキパキと着替えを済ませて降りてきたレイの立ち姿を眺めたカナタは、「やっぱり綺麗だな」と内心で呟いた。

 この学園は制服に関する規則が緩い。そのためお洒落を楽しもうと自分なりにカスタマイズする生徒も多いのだが、レイもその一人だった。

 少し短めなブレザーの裾の丈――腰のラインがちらりと見える――や、細い脚にフィットしたスキニーパンツなどがそうだ。


「……君も支度したらどうですか?」

「あ、そ、そうだね。かっ、顔洗ってくるよ」


 カナタに見られているのを気にしているのか、居心地悪そうにレイは言う。

 そそくさと洗面所へ向かって言った銀髪の少年を見送り、その場に残されたレイはほっと息を吐いた。


(朝起きたら同じ場所に大切な人がいてくれて、他愛のない会話をして……そんな当たり前の幸せがボクに戻ってくるなんて、姉さんが知ったらどう思うのでしょう)


 過去は少年を抱き締めて離さない。

 喜びや楽しさの裏には常に罪悪感が付きまとい、時折激しい痛みに喘ぐこともある。

 それでも――今のあり方を手放したくないとレイは思ってしまう。

 心に矛盾を抱えたまま、自らを許せずにいるまま、彼は相棒との絆を望んでしまうのだ。


(ボクは、ボクの心が分からない。いいえ――分かりたくない)


 孕んだ矛盾を直視してしまえば、何もかもが崩れ去る気がした。

 自分を殺したくなるほど憎む気持ちが決壊して、止められなくなるような予感がした。

 だから――彼は今日もSAMに乗るのだ。そこにいれば精神はロボットと重なり、自己の内側に沈み込むこともなくなるから。


「せっ、洗面台使っていいよ。ぼ、僕外で待ってるね」

「先に行ってていいですよ。その……外でベタベタくっつかれても、困りますから」

「そ、そういうとこは相変わらずだね。わ、分かった、じゃあ先行ってるよ」


 身支度を終え、鞄を持って部屋を出ていくカナタに、軽く手を振ってみる。

 レイが初めてみせたアクションにカナタは驚いたように足を止めたが、すぐに微笑んで手を振り返してくれた。

 優しい笑顔。少年のそれがかつての姉の笑みと重なって、胸がきゅっと痛くなる。


「嗚呼、姉さん……この『好き』は一体、何なのでしょう」



「なぁなぁツッキー、今朝レイ先生と喧嘩したってほんとかよ?」

「け、喧嘩っていうほどでもないよ。と、というか何で知ってるの?」

「ツッキーたちの隣室の『みやっち』――同じクラスの宮島ってやつなんだけど、そいつが教えてくれたんだよ。何かめちゃめちゃレイ先生が『変態』だとか怒鳴ってたって話だけど、何かあったん?」


 その日の昼休み、シバマルがカナタの席まで足を運んでそんなことを訊いてきた。

 彼は先日、カナタとレイがユイについて意見を対立させ、険悪になった場面を目撃している。本気で心配しているような口調なのも、それがあってのことだろう。

 

「い、いや……いっ、色々手違いがあったというか……。とっとにかく、その『変態』っていうのは誤解だよ。そっそれだけは、【ラジエル】に誓って本当なんだ」

「そうなの? ならいいんだけどさ……お前ら、うちのクラスのエースじゃん? あんまギスギスされると、おれたちとしても少し困るからさ。そこんとこ、頼むぜ」


 そう言うと、カナタの肩をポンと叩いて別の友達のところへ移動していくシバマル。

 彼の言葉に、カナタは初めて不安を呼び起こされた。

 今まで考えたこともなかったが、もしレイとの関係が修復不可能なまでに壊れてしまったら、自分はどうなるのだろう。

 パイモンは言っていた。カナタは『ワタシたちと共にある』存在なのだと。

 それが真実だとして、カナタに【異形】にまつわる何らかの秘密が隠されていたとしたら――それが露呈したとしたら、レイはどう接してくるのだろうか。


(僕は……君と対立したくなんかないし、同じ道を進みたい。でも……僕が抱える『力』が、その絆を引き裂くならば――)


 そんな力など、要らない。

 だが結局は、真実を手に入れない限り判断さえつかないのだ。

 

(司令の講義は一週間後の水曜日。その日に何としても、聞き出すんだ。僕の力の秘密を)


 唐揚げ弁当をかっ込んで食事を済ませ、『VRダイブ室』へと足早に向かった。

 力を知るには実際に使わなくてはならない。自分の意思で制御できるようにするために、とにかくSAMに乗って試せることは全部やる。

 レイもマナカもシバマルも、誰も敵にしたくないから。

 と、そこで――。


「あぅっ!?」

「きゃあっ!?」


 カナタは廊下の前から歩いてきた誰かと正面衝突して、尻餅をついた。

 

「ごっ、ごめんなさい……」

「いえ、こちらこそ悪かったわ……って、王子様じゃない」

「みっ、ミユキさん……!?」


 同じく尻餅をついたミユキは落としたスマホを拾い上げ、カナタに気づくと素早い所作でその画面を暗転させた。

 その動きに一抹の怪しさを覚えながらも、それは顔に出さずにカナタは立ち上がる。

 少年の手を借りて立ったミユキは、スカートを叩いて埃を払ってから言った。


「今日も早めの『VRダイブ室』入り? ね、あたしとちょっち、付き合ってくんない?」

「え、つ、付き合うって……?」

「これはあたしの勘なんだけど、君、今何かに悩んでるでしょ。実はあたしもそうでね、ここでぶつかったのも同じもの同士引かれあったからじゃないかって思うの」

「ま、まぁ、そうですけど……」


 赤縁メガネの下の鋭い眼差しに射抜かれ、バツが悪そうにカナタは俯く。

 彼の答えにパチンと指を鳴らしたミユキは、決まりね、とウィンクして言った。


「試合、やるわよ。心のモヤモヤは激しいバトルで全部吹き飛ばす! 戦ってこそ見えてくるものもあるわ。特にあたしたちのような()()には」


 人間。その一単語が心に突き刺さる。

 ミユキはパイモンとカナタとの間に会った問答を知らないはずだ。そこに他意はないのだろうが、カナタはどうしても猜疑心を抱いてしまった。

 

「さ、行きましょ。急がないと昼休み終わっちゃうわ」

「は、はい」


 自分より背の高い少女に手を引かれ、少年は仮想世界へといざなわれていく。

 不破ミユキが迷いを取り払ってくれる天使か、それとも彼の心をかき乱す悪魔なのか――それすらも、今のカナタには判別できなかった。



『第二の世界』は日本の領土全体を模した広大なジオラマのようなものだ。 

 ウィンドウを開いて見られるマップの地名が示されたアイコンをタップすれば、生徒たちは一瞬でその場へと転移することができる。

 自由自在な訓練の場として『レジスタンス』と政府が提供しているこの仮想世界は、もう一つの日本と言っていいほどの規模とリアルさを誇っていた。


「ギャラリーとか要らないわよね? 戦うなら人気のなさそうなところにしましょうか」


 そう確認してミユキが指し示したのは、地図上に映る小さな島であった。

 カナタはそのアイコンに触れて、詳細をざっと見る。百年ほど前に無人化した、今は名もなき島と記されていた。

 

「じゃあ機体を呼び出して、搭乗してくれる? SAMごと転移するから」

「わ、分かりました」


 呼び出しコマンドを打ち込むと、殆ど間を置かずに少年の背後に銀翼のSAMが出現する。

 初めて至近距離で見上げる【機動天使プシュコマキア】にミユキは目を細め、その白銀の輝きに恍惚とした吐息を漏らす。

 彼女は【ラジエル】の側へと歩み寄り、その脚の装甲を指でなぞった。


「やっぱ、あの人の機体なのね。【輝夜カグヤ】の面影がある」

「えっ? な、何か言いました?」


 SAM背面に幾つもある足場を伝ってコックピットへと上るカナタは、ミユキの呟きにそう反応した。

 黒髪の少女は首を横に振り、「何でもないわ!」と声を張る。

 すぐに【ラジエル】から離れて自分の機体を呼び出した彼女は、慣れた手付きで目的地を設定し、カナタと共に『転移』していった。


 

 降り立ったのは鬱蒼とした森に囲まれた、広々とした祭壇のような場所。

 おそらくは過去に島に住んでいた民たちによる、宗教儀式の場だったのだろう。

 地下都市ジオフロント内では決して見られない光景を珍しがるように【ラジエル】がカメラをひっきりなしに動かす中、【イェーガー】に乗るミユキは落ち着いた佇まいでいた。


「……こ、ここで戦うんですね……」

「そ。ここは仮想現実だから、どれだけ壊そうが後で勝手に修復されるわ。だから、こういう場所だけど気にせず戦っていいの」


 相撲の土俵のように地面から張り出した祭壇の端へと、ミユキは足を運ぶ。

 カナタも彼女と反対側の端に移動し、ミユキが独自に改造した【イェーガー】と相対した。

 通常【イェーガー】の体色は黒だが、彼女の機体はワインレッド。手から肘までを覆う篭手こて等、通常機と比べて装甲が多く、がっちりとした見た目となっている。


(見たところ、防御力に比重を割いているって感じかな。だけど、機体スペックでは【ラジエル】が圧倒している。丁寧に戦えば、負けはしない)


 対峙する機体の赤い眼を見据え、カナタは胸中で呟いた。

 ミユキは【機動天使】を前に高揚した口調で、勝負の始まりを告げる。


「王子様の【ラジエル】と、あたしの【イェーガー・ミユキカスタム】との試合。機体が大破したら負け、10分を過ぎても決着がつかなかった場合、引き分けとする。それでいいかしら?」

「は、はい。だ、大丈夫です」


 ルールは単純。他に邪魔する者もない、一対一の真剣勝負だ。

 カナタの快諾にミユキは不敵な笑みを浮かべる。――面白くなりそう、そんな興奮が口元に滲み出ていた。

 

「んじゃ、行かせてもらうわ!」


 ワインレッドの機体が抜く得物はカッターナイフ。

 胸の前で構えた銀の刃が日光を受けて煌めき、カナタの視界に白い光を差す。

 駆け出した【イェーガー・ミユキカスタム】に、カナタも迎撃せんと【白銀剣】を中段に構え――そして。


「ふッッ!!」

「ぐっ――!?」


 薄い刃からもたらされた衝撃の大きさに、少年は瞠目する。

 激突するナイフと剣。かろうじて受け止められているが、そこらの【イェーガー】だったら確実に得物を破壊されている威力だ。

 武器自体は軽量なはずなのに、一撃があり得ないほど重い。少しでも気を抜けば押し通されてしまう、そうカナタに確信させる力をミユキは持っていた。


「ま、魔力を燃やせば……!」

「そう来るわよね。だったら、あたしも同じことをするまでよ!」


 魔力のブーストによる脚部の推進力の増加。

 これを利用してカナタはミユキの攻撃を押し返し、反撃に出ようとしたが――彼女はそれを許しはしなかった。

 脚の装甲に【力属性】の白い魔力を纏わせ、ワインレッドのSAMは前進する。

 

「押し通すッ!」


 少女は吼える。赤縁メガネの下の両眼を獰猛に輝かせる彼女は、格上の機体に対しても恐れずに強行突破を図った。


「あッ――!?」


【ラジエル】の身体がぐらりと揺らぐ。

 バランスを崩しかけたカナタは懸命に踏ん張るが、仰け反った上体はすぐには戻せなかった。

 

「真正面からぶつかってくる相手と戦った経験、殆どないでしょ!? 受け方がぎこちない――そんなんじゃ、対SAM戦で勝てないわよ!」


 叱咤してくるミユキに、冷や汗を流すカナタは歯を食いしばる。

 対SAM戦。その単語が彼の中で引っかかっても、それに関して言及する余裕は既になかった。

 

「はあああッ!!」


 鋭く気合を迸らせ、カナタの剣を弾いたミユキは自身のナイフを一旦引き、再度の刺突のために力を溜める。

 脚部から全身へと広がっていく【強化魔法】の白い光を帯びる【イェーガー・ミユキカスタム】は、渾身の一撃を【ラジエル】へと叩き込んだ。

 急所である胸の『コア』を狙った攻撃。命中すれば確実に勝負が決まる。

 ――取った!

 黒髪の少女がほくそ笑む。だがしかし、体勢を崩してもなおカナタはまだ諦めてはいなかった。


「うッ――おおおおおおおおッ!!」


 焼け付くような激痛が少年の腕に走る。

 カッターナイフが『コア』を穿つ寸前、少年は自身の左腕を盾にその攻撃を防いでいたのだ。

 痛みさえ力に変えてみせる――そんな気概を感じさせる雄叫びがミユキの耳朶を打つ。

 少女は舌なめずりして目を細め、感嘆の声を上げた。


「へぇ、やるじゃない。痛みを恐れて機体の欠損を避けるパイロットは数多いけど、あんたは自己犠牲も厭わないってタイプなのね。ふふっ……ますます燃えてくるわ! あの人とまた戦えてるみたい!」

「あ、あの、人……!?」

「おっと、戦闘中の余計な詮索は良くないわよ。今はSAMこっちに集中しなきゃ」


 左腕に突き刺さったカッターナイフの刃。

 カナタはその刺さった部位に【硬化魔法】を発動、傷口付近の筋肉を固めることで引き抜けないようにする。

 これで得物を一つ封じた。そう思ったカナタだったが、


「頭にぶってるよ、王子様。普通の剣になら通用した策だろうけど……あたしのはカッターだから」


 ガキン――刃の根元が折れ、太めの柄の中から新たな刃が顔を出した。

 刃自体は脆く、強固な皮膚を持つものが多い【異形】相手には滅多に使われないカッターナイフ。だが、対人戦においては異なる。【異形】に比べて防御力で劣るSAMの装甲に確実にダメージを与えられ、ダメになろうが替えの刃が出てくる機構は、まさに対人特化の武器と言えた。


「対SAMで大事になるのはとにかく手数! 攻め手を決して緩めず、継戦能力に優れた武器を選択する! 覚えておくことね、王子様!」


 不破ミユキはSAM同士の戦い方を知っている。学園では対【異形】戦をメインに教えているにも拘らず。

 振り下ろされた刃に腕が刈り取られる直前、【ラジエル】の飛行能力で上空へ退避したカナタはミユキをいぶかしんだ。

 月居カグヤを見知っているような口ぶりからしても、彼女が普通の生徒であるとは思えない。

 

「み、ミユキさん、あなたは……何者、なんですか」

「あら、ここでそれを聞く? いいわ、答えてあげる」


 ナイフの届かない上空の【ラジエル】を見上げ、ミユキは明快な口調で言った。

 意外な返答にカナタが眉をぴくりと動かす中、黒髪の少女は「ただし」と付け加える。


「あたしに勝ったらね。――さぁ、勝負はここから!」


 カッターナイフを投げ捨てた少女は、背に搭載されている『格納庫』を開放。

 肩までせり上がった箱から長い銃身のライフルを取り出し、【ラジエル】を見据えてそれを構えた。 

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