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暁の機動天使《プシュコマキア》  作者: 憂木 ヒロ
第二章 嘘と真実

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第二十八話 ユイ、来日 ―"Where are enemies?"―

 地下都市ジオフロントの気候制御システムが一層気温を高くする、七月。

 初夏を過ぎ、いよいよ夏真っ盛りになろうとしている中、教室を目指して廊下を歩くカナタはワイシャツの胸元をパタパタと仰いでいた。


(あ、暑い……母さんに頼んで、校内全域にエアコン整備してもらおうかな)


 非常識な担任キョウジの言いそうなことを胸中で呟きつつ、申し訳程度に歩くペースを速めていく。

 廊下には彼以外の人影は一切ない。それもそのはず――既に朝のホームルームが始まってしまっているのだ。

 常に早起きなカナタにしては珍しい、遅刻だった。


(どうしてレイは起こしてくれなかったんだ……ううん、寝坊した僕が文句を言う資格なんてないんだけど、僕とレイの仲じゃないか。せっかく優等生として頑張ってきたのに、これじゃ僕のイメージに傷が――)


 文句を言う資格がないと一度言ったのをさっそく棚上げするカナタ。

 まさか意地悪のつもりで起こさなかったのか――と相棒に猜疑心を向ける彼は、廊下の角を曲がって階段を上がろうとしたところで、見慣れない女子生徒をみかけた。

 まず目を引いたのは、背中に流れる青みがかった黒髪。その背丈はカナタより高く、170センチ以上はある。この学園は学年ごとに制服の色が黒、白、紺と分かれているが、彼女はカナタたち一年と同じ黒を基調とした制服を着用していた。

 彼の足音に気づいて振り返った青髪の少女は、たいそう困りきった顔でたどたどしく訊ねてくる。


「わたし、教室、行き方、分からない、です。教えて、ください」


 透き通った碧色の大きな瞳に、すらりと通った鼻梁。高い背丈や抜群のスタイルに反して、どこかあどけない雰囲気を帯びている整った顔立ち。

 片言の言葉遣いからして外国人に見受けられる。髪色はかなり珍しいが、顔つきからしてアジア人――韓国人か中国人だろうか。


「あ、あの……何組、ですか?」

 

 カナタが聞くと少女は胸ポケットから折りたたまれた一枚の紙を出して、それを広げて見せた。


「1年A組、刘雨萱リウ・ユィシュエンさん……ぼ、僕と同じクラスだね。てっ、転校生?」


シー(はい)」


 カナタが同級生だと分かった途端、雨萓ユィシュエンは安堵に表情を緩めた。

 外国から日本の『レジスタンス』のお膝元へ学びに来る生徒は、レイのようにその国でもトップクラスのエリート――と、入学したばかりの頃にマナカが言っていたのをカナタは思い出す。

 長身ながら幼い印象の彼女が実力者だとは、にわかには信じ難いのだが。


「ぼ、僕が案内するよ。つ、ついて来て」

是了解シーリィアォヂィエ


 階段を上がって手招きするカナタに、雨萓ユィシュエンはこくりと頷いた。

 人懐っこそうな垂れ目を細める彼女は、軽い足取りで少年の後に続く。


「緊張、している、ですか?」

「え? えっと……」


 青髪の少女に訊ねられ、カナタは答えに窮した。

 全く緊張していないと言うと嘘になるが、別にそこまで怖気づいているわけでもない。彼がどもってしまうせいで、知らない人からは緊張でガチガチになっているように見られがちなのだ。

 

「う、ううん。あの、えと……僕は――」


 踊り場で足が止まった。彼は振り向いて、少し驚いたような顔の少女を正視する。

 自分のことを明かすのには抵抗がまだ残っている。だが、彼女はこれから仲間になる人だ。試験を放棄して学期末には退学処分が下されるような者たちとは異なり、折り紙つきのエリート。おそらくは、卒業まで付き合いの続く相手。


「どう、したの?」


 心配してくれる雨萓ユィシュエンの瞳をじっと見つめ――カナタは、彼女を信じてみようと決めた。

 まだ一言二言交わしただけの相手。それでも彼女の優しさは伝わってきたから。

 短い言葉で簡潔に事情を告げたカナタに、少女は穏やかな表情で頷いた。


「わかりました。では、行きましょう」


 少女の温かい手が、少年の手を握り込む。

 連日操縦桿を握っていたことを思わせる、タコの出来た少し大きな手。

 

「ゆ、雨萓ユィシュエン、さん……あ、あの、そのっ、手……」

「? 何か、変ですか?」


 知り合ったばかりの少女と手を繋いでいる状況に、カナタはどぎまぎしてしまう。

 肌と肌が触れ合う感覚がどうにも照れくさい。子供のように手を引かれ、気づけば彼女のほうが先を歩いていることもそれに拍車をかけていた。


「へ、変では、ないけど……先、歩いても、道分からないでしょ?」

「んー、そうですね」


 苦笑する雨萓は階段を上がるペースを緩め、カナタに先を譲った。

 それでも手を繋ぐのは止めない。初めて訪れる国や、未体験の日本での学校生活に臨む彼女は不安でいっぱいだった。だから、その気持ちを誤魔化したくて少年との触れ合いを求めたのだ。

 彼女の瞳の奥から憂いを見て取ったカナタは、恥ずかしいと感じながらも手を離しはしなかった。

 廊下を少し歩くとA組の教室にたどり着く。教室前方の横開きドアの覗き窓から中を窺うと、キョウジが頭を掻きながら腕時計を睨んでいるところだった。


「は、入ろっか」


 少女が頷くのを確認してから、カナタは教室のドアを控えめに開けてみた。

 それに気づいたキョウジが視線をドアのほうへ送り、咎めるような目を向けてくる。

「す、すみません」と小声で詫びつつ、銀髪の少年は青髪の少女の手を引いてクラスメイトの前に出た。


「来るのが遅くて心配していたんだが、連れてきてくれたか。月居、遅刻の件はそれでチャラにしてやるよ」


 カナタの後ろに雨萓の姿を認めたキョウジは、にやりと笑ってそう言い渡す。

 彼は雨萓に手招きして教壇に上がらせ――なぜか雨萓が手を離してくれないので、カナタまでそこに立つことになってしまった――、転校生を紹介した。


「彼女は北京ジオフロントより『特別招待生』として招かれたパイロット、刘雨萓リウ・ユィシュエンくんだ。皆より一つ年上になるが、この学園では同じ一年。まだ日本語や日本の文化に不慣れなところがあるが、仲良くしてやってくれ。――月居くんみたいにな」


 普段いい加減な彼らしくなく真っ当な教師っぽく言い、最後に意地悪な一言を付け加える。

 顔を赤らめるカナタに対し、シバマルたちが冷やかしたりレイが溜息を吐いたりと反応は各々違ったが……その中でもマナカだけは、顔を青くしたり赤くしたりでかなり忙しそうにしていた。

 もちろんカナタに悪気はない。それは雨萓も同じだ。しかし、自分が心を寄せる男子とよく知らない転校生の女子が手を繋いでいるとなれば、マナカとしては緊急事態である。

 

(どーいうことなの、カナタくん!?)


 立ち上がって問い詰めたい衝動が湧き上がる。だが、たぐいまれなる自制心を発揮した彼女はそれをどうにか堪え、続くキョウジの言葉に耳を傾けることが出来た。


「刘くんには『レジスタンス』の最新機、【ミカエル】が支給される。もとより、このために彼女は来日したんだ。贔屓だとかそういう文句はなしで頼むぞー。

 ――んで、月居くん、今日の訓練では君に彼女と試合をしてもらう。刘くんの実力は既に資料に目を通して知ってはいるが、俺個人としても一度この目で確かめておきたいからな」

 

「は、はいっ。わかりました」


 実力者と手合わせできると純粋に喜んでいるカナタを横目に、キョウジは「三体目の【機動天使プシュコマキア】」を扱うことになるパイロットの横顔をうかがう。

 緊張で若干硬くなりつつも、優しげな雰囲気を漂わせる微笑み。

 カナタやレイと並ぶ才能を持つとされる少女であるが、そのあどけなさを醸す姿はパイロットというよりモデル然としていた。

 

「刘雨萓です。みなさん、よろしくお願いします」


 深々と頭を下げて挨拶する雨萓。

 クラスメイトたちが笑顔をもって彼女を迎え入れる中、レイだけは彼女に猜疑の眼差しを鋭く向けていた。


 

 その日の一時間目から、さっそく雨萓は皆に混じって授業に参加することとなった。

 海外からの転校生が来たことはその日のうちに学園中のニュースとなり、珍しい青髪の少女というのもあって彼女をひと目見ようと教室を覗きに来る野次馬も少なくはなかった。

 そして午前の座学を終えた昼休み。

 弁当を持ち寄ってカナタの席の側へと集まったレイとマナカは、クラスメイトに囲まれて質問攻めに遭っている雨萓を眺めて呟く。


「あの子が人気出るの、分かるなー。おしとやかで物腰低くて、それでいて美人さんだもん。さらにSAMパイロットとしても実力者と来れば、『ミス・パーフェクト』って感じだよね」


 唐揚げを頬張りながら言うマナカは、午前中の雨萓の振る舞いから彼女のひととなりの良さを認めざるを得なかった。

 カナタへの恋のライバルになりうる少女の出現に気を抜けば焦燥に駆られてしまう彼女は、ヤケになったかのようにガツガツと弁当をかっ込む。

 それを呆れた目で見やるレイは、BLTサンドをぱくりと口の中に放り、水で流し込んでから二人に訊いた。


「カナタ、瀬那さん。君たちはあの転校生をどう思いますか?」

「どうって……いま言った通りのイメージだけど」

「ぼ、僕もそんな感じかな。朝、ちょっと話したんだけど、ぼ、僕のこと気遣ってくれて……優しい人だなって思ったよ」


 率直な感想を口にする二人に、レイははばからず舌打ちした。

 その態度にむっとするマナカが文句をつける前に、それを先回りしてレイは小声ながらも強い口調で言う。


「いいですか。ボクらは先月末に研究所で、例の【異形】に関する情報を得たんです。敵が人に紛れて外部から侵入してくる可能性がある以上、外から来た者は全て容疑者。転校生が物珍しいのは分かりますが、皆のようにはしゃいでいる場合ではないんですよ」


『パイモン』のような知性を持つ【異形】が、魔法で人に化けて『新東京市』に侵入してくるかもしれない。

 警戒はするべきだと訴えるレイの言葉にまず頷いたのは、意外にもマナカだった。

 性格からして仲間を疑うのを最も躊躇うのは彼女だと、レイは思っていたのだが。


「そう、だよね。この学園の中でその真実を知っている生徒は私たちだけだもん。その私たちが猜疑心を捨ててしまったら、身近なところから彼女を観察する人がいなくなっちゃう」


 恋のライバルに嫉妬の炎を燃やしている場合ではないのだ、と少女は自分に言い聞かせた。

 銀髪の少年は長い前髪の下から雨萓を一瞥しつつ、煮えきらない口調で言う。


「み、味方の中に敵が潜んでいるのかもしれないっていうのは、分かるよ。で、でも……僕は、雨萓さんは悪い人じゃない、気がする」


 彼女のタコだらけの手は努力を重ねてきた人の手だった。

 優しい微笑みも、あどけない雰囲気も、カナタを騙そうとしているようには思えなかった。

 彼女ならば信じられると直感的にカナタは感じ、自分の事情を素直に明かせたのだ。


「……どうだか」


 人を信じることを知り、マナカのようなお人好しに傾きつつあるカナタへ、レイは吐き捨てる。

 カナタを睥睨するレイは続く言葉を数秒間、探していたが――少年の呑気な声に邪魔されてしまった。


「よっ、レイ先生。顔怖いけど、どしたの?」


 見上げると突然現れた上下逆さまの顔に、レイはびくっと肩を跳ねさせる。

 通りがかりにレイの背後で足を止め、顔を覗き込んできたのは犬塚シバマル。彼は本気で心配しているのか、軽い言葉に反して真剣な声音で訊いてきた。


「そういう問い、なんて言うのか教えてあげましょうか?」


「お、なになに?」


「余計なお世話、といいます。……ボクは先に『VRダイブ室』へ向かいますから、君たちも遅れずに来てくださいよ」


 嫌味たっぷりな声で突き放し、まだ食べ終わっていないにも拘らず席を立つ。

 足早に教室を出ていくレイの背中を呆然と見送るシバマルは、カナタたちに訊ねた。


「レイ先生、めっちゃ機嫌悪くね? ツッキーたち、あいつと何かあったの?」

「い、いや、何も……」

「そうだねー、特に思い当たることはないかなー」

「んー、じゃあ何だ? もしかして生理?」

「それも違うと思うなー。あの子、男の子だし」


 事情が事情なので、部外者のシバマルには何も言えないのがもどかしい。

 要領を得ない二人の答えに首を傾げる茶髪の少年。彼に内心で謝るマナカは、どう誤魔化すのが果たして正解なのかと考え――とりあえず、話の矛先を変えることにした。


「あ、そういえば! 雨萓さんとは仲良くなった?」

「おう、『ユイ』とはさっそくアドレス交換したぜ! ……ところでツッキー、朝ユイと手繋いできたけど、どういうわけだよ? もし彼女と仲が良いのなら、その……俺と彼女との仲を取り持ってくれると嬉しいんだけど」


 雨萓に『ユイ』と渾名をつけていたシバマルは、頬を仄かに赤らめてカナタに頼む。

 先ほど雨萓を疑うべきだとレイが言い、マナカも素直に従った手前、カナタとしては何とも言い難い話だったが……シバマルも、彼にとって大事な友達だ。

 その頼みとあらば、断れるわけもなかった。


「わ、わかったよ。上手くやれるかはわからないけど……それでも良かったら」

「お、サンキュー! やっぱ、持つべきもんは頼れる友だな!」


 一目惚れしたらしい女子の話題になったことで、シバマルの頭はそれでいっぱいになったようだ。

 鼻歌を口ずさみながら「ユイ」に話しかけに行った彼を見届け、マナカは溜め息を吐く。


「知らないほうが気が楽だったとは思うけど……私たちの理想を目指すには、目を背けられないことなんだよね」


 疑心暗鬼になることで友を失いたくはない。

 その意思を胸に刻む少女は、最後の一個の唐揚げにがぶりと食らいつくのであった。



 昼休みを経て、普段通り始まった『第二の世界ツヴァイト・ヴェルト』での訓練。

 仮想世界に降り立った生徒たちは各々のSAMに搭乗し、教官のもとで射撃や障害物を乗り越えての走行などの練習をこなしていく。

 入学したばかりの頃はSAMに不慣れだった生徒たちも、三ヶ月が過ぎた今ではすっかりそのロボットに順応していた。この調子ならば二学期からの応用的な訓練もこなせるだろう――と、禿頭に黒いサングラスをかけた通称「鬼教官」は評価する。

 カナタら他のクラスメイトが通常の訓練に取り組む中、そこから外れて【ミカエル】に初搭乗しているユイは、中国産SAMと比較して広々としたコックピットに嘆息していた。


(長期の任務を見据えて、居住性を確保したデザインということでしょうか。祖国の機体は小型化で敏捷性を高め、戦闘の早期決着を狙った型でしたが……)


 操縦席に座り、豊満な胸に指を添わせて青色の『アーマメントスーツ』の滑らかな感触を確かめる。

 仮想現実での訓練も彼女にとって初めてだったが、何ら違和感はない。現実世界と遜色ない感覚でSAMに乗るユイは、用意されたヘッドセットを手に取り、にやりと口元に笑みを刻んだ。


「ふんふふーん♪ 请那么さあ让我大闹腾おおあばれさせてもらいます


 

 ユイとの試合を控えて一人準備していたカナタは、ヘッドセットを装着して【ラジエル】との接続を果たした。

 頭の中に流れ込んでくる情報の数々を、機械的に処理していく。生理現象を脳からの指示で身体が勝手にこなすのと似たイメージだ。

 眠っていた機体を「起こす」のに必要な手続きを済ませていく間、カナタはあの『パイモン』が口にした言葉について考えていた。


 ――あなたはワタシたちと分かり合えるニンゲンです。あなたの魂はワタシたちと共鳴しています。あなたは、ワタシたちと共にあるべきなのです――。


 その根拠として、仮想空間内でカナタが異形と相対した際、「力」を覚醒させたことをパイモンは挙げていた。

 彼自身にも未だ正体を掴めていない、「異形を喰らってその力を得る」能力。

 自分がなぜそんな力を宿しているのか分からない以上、パイモンの発言を完全に否定する材料もない。自分が【異形】と何の関わりもない、とカナタが言うのは彼の願望でしかなかった。


 ――もしかしたら、自分も雨萓のように疑われてしまうのだろうか。


 生じた恐れを、頭を振って掻き消す。

 月居カナタは人間である、それは確かなはずだから。彼が自身を人間だと信じ、周りの者たちがそれを信用する限りは。

 

「ぼ、僕は人だ。そ、そうだよね、レイ、マナカさん」


 そう独りつ少年は『第二の世界』での操作ウィンドウを開き、慣れた手つきで試合が行われる『スタジアム』へと機体ごと自身を転移させた。

 クラスメイトや教官も一旦訓練を中断し、観戦のために同じ場所へ移動する。

 そのフィールドに降り立ったカナタは、モニター越しに【ミカエル】の姿を認め――そして、瞠目した。


 異様に、小さいのだ。【イェーガー】をはじめとする通常のSAMは体高六メートルほどであるが、この【ミカエル】の体高は三メートル程度。メタトロンも【イェーガー】の二倍という規格外のサイズであったが、【ミカエル】は真逆の「規格外」だ。

 ロボットでありながら装甲に加えオプションで銀の甲冑を纏い、背から三対六枚の白翼を生やした姿。この翼は【サハクィエル】や【ラジエル】のような飛行機のそれに似たものではなく、鳥のごとく羽毛に包まれたものとなっている。翼の一対は頭を、もう一対は胴体を隠し、残る一対で飛行できるようになっている。翼に隠れて見えづらいが鎧の胸元には天秤を象った衣装があり、腰には長剣が一本下げられていた。

 頭を覆う二枚の翼の隙間から覗く目は、四つ。数キロ先までも鮮明に見通せ、夜でも昼間と変わらない明度で見られるという最新鋭のカメラが搭載されている。ちなみにこのカメラは【ラジエル】や【メタトロン】にも共通するものだ。

 

「ほぉ、なかなかデザイン性の強い機体に仕上がったようだな」


 観戦席にやって来ていた矢神キョウジが感想を言うそばで、レイは目を鋭く細めた。

 見たところ、デザイン重視で機能性に欠けているようにも思える。頭部や胴を隠す翼や、装甲の上からさらに被せられている甲冑などは、機体の滑らかな動きを阻害してしまいかねない。羽毛が生えた翼なども前代未聞だ。


『この機体、わたしの身体、脳に合うよう、「レジスタンス」の人たち作ったものです。あなたのSAMとの「シンクロ」が素晴らしいものと聞いていますが……わたし、負けません』

 

「ぼ、僕もさ。ぜ、全力で戦おう」


 ここは仮想現実。どれだけ本気で戦っても、機体はデータであって実物が破壊されるわけではなく、パイロットも死なない。

 本当の意味で手加減なしでぶつかり合える舞台。

 そこに立つ二機は向かい合い、開戦の号砲が鳴り響く時を待っていた。

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