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暁の機動天使《プシュコマキア》  作者: 憂木 ヒロ
最終章

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第二百七十七話 レリエルVSアザゼル ―Sepia-toned fate―

「君を殺すのは忍びない……ちょっと眠っといてもらうよ、アスマくん!」


 セピア色のSAM【レリエル】を駆り、その槍の一振りに連動するように幾つもの黒い球を生成するマシロ。

 命中すれば途端に相手を昏睡させる魔法を前に【アザゼル】は踊るような高速機動で回避、接敵を図るが――。


「近づかせるわけないよね? 【ブラックオーロラ】」


 黒き魔力のカーテンがアスマの視界を遮った。

 これはほぼ全ての魔法攻撃をシャットアウトする防御魔法であるが、単純な障害としても扱うことが可能だ。

 肉薄を防いだ【ブラックオーロラ】に舌打ちする。

 右腕の手首より先を格納し、代わりに出したドリルを以てアスマは漆黒の防御を突破せんとした。


「させないよ」


 マシロは淡々と拒絶する。

 自我を持つ生き物のごとく黒い魔力の球が飛び回り、【アザゼル】に一撃を浴びせようと包囲陣を敷いた。


「『シールドビット』!」


 一斉に飛びかかってくる漆黒の球を三基の『アームズ』を用いて受け止める。

 瞬間、盾の表面に走るのは稲妻にも似た白い光。

 マシロの闇をアスマの光が相殺した。


「少しはやるじゃん、アスマくん! 多少は楽しめる戦いになるかもねっ?」

「楽しめる、だって? お前のせいで第一師団の一万を超える人たちが死んだ――それだってのに、どうして笑っていられるんだ!?」


 怒りを露にアスマは叫ぶ。

 感情に呑まれてはいけないと理性では分かっている。それでも激情をぶつけずにはいられない。


「だったら、何だっていうのかな?」


【レリエル】の腰部と背面部に接続されていた武装が――『アームズ』が機体と分離する。

 空に浮かぶのは十個のクリスタル。闇の魔力を孕んで黒曜石のごとき光沢を纏う宝玉が輝き、瞳のようなそこからどす黒い魔力光線を射出した。

 音もなく『シールドビット』を狙い撃ち、攻め立てる【レリエル】。

 その攻撃はアスマの盾には通らない。しかし、アスマ側も間断なきマシロの攻撃を受けて攻めに転じられずにいた。


「人がっ……人が死んでるんだぞ! お前の裏切りのせいで、万を超す数のパイロットたちが無残に死んでいった! 赤城中佐も――」

「だからどうしたっていうの? 第一師団の奴らはぼくたちの作戦の邪魔だから殺した。それだけだ。でも、恨むのは筋違いだよ? 君たち人類がぼくらを殲滅しようとするから、ぼくは『ダウンフォール作戦』を止めなければならなかった。全ての文句は蓮見タカネに言え!」


 黒きクリスタルの輝きが一層強まる。

 視界を塗り潰すほどの闇にアスマが瞠目し、『シールドビット』に『アイギスシールド』を重ねがけしたその時――天空より暗黒の槍が降り注いだ。

 虹色の防壁をすり抜けて盾の表面まで至る、漆黒の魔力光線。

 その火力は絶大だった。もはや光魔法での中和も間に合わず、『ビット』の表層がどろりと融解されてしまっている。


「『ピコ魔力』による攻撃。旧式の【レリエル】じゃ突破できなかったであろう防御もこれを使えば……こうさ」


 唇を噛み、アスマは一旦マシロと距離を取った。

 自分で自分の首を絞めてしまっている。【異形】を討つためのその新技術が適用されているのは、開発期間が足りなかったために単純な攻撃魔法と必要魔力の少ない通信魔法のみとなっている。衝撃を殺す力属性の魔力と、敵の攻撃に相反する属性の魔力――少なくともこの二つを組み合わせなければならない複雑な防御魔法は『ピコ魔力』の適用範囲外なのだ。


「だから、この戦いはぼくの勝ち。最初は眠らせて【アザゼルΧ】を鹵獲してやるつもりだったけど……防がれるのならしょうがない。圧倒的な火力をぶつけて、消し炭になるまで追い詰めてあげるよ」


 攻撃側が防御側を完膚なきまでに叩きのめす、パーフェクトゲーム。

 仄暗い笑みを浮かべてその実現へと次なる攻撃を仕掛けんというマシロに対し、アスマは腹を括った。


「――おおおおおおッ!!」


 雄叫びを上げ、突き進む。

 頭部と両腕、それぞれを守るように『シールドビット』を身につけて【アザゼル】は翼部推進器スラスターを最大出力で稼働させた。


「自棄になったかな!」


 突撃してくる【アザゼル】との安全マージンを保つために後退しながら、【レリエル】は『対SAMライフル』に得物を持ち替え乱射する。

【イェーガー】ならいざ知らず、【アザゼル】の装甲にはその弾丸は傷一つ付けられない。

 当たったそばから弾き、無効化する――そのはずだった。


「――!?」


 着弾。そして、爆発。

 装甲を抉る痛みにアスマは顔をしかめた。

『ピコ魔力装甲』はSAM本体に攻撃が達する前に威力と衝撃を減衰させる。魔法でもないただの弾丸がどうして、ダメージを与えることができたのか。


「銃弾に力属性の『ピコ魔力』を込めておいたんだ。()()開発した新しい規格の魔力、なかなか便利だよね」

「減らず口を――ッ!」


 無理矢理に推進器の魔力を爆発させ、超加速。

 一気に【レリエル】の眼前に躍り出た【アザゼル】は『シールドビット』を再び自由の身にさせ、敵へと差し向けた。

 唸りを上げながら激突せんとする三つの大盾。

 せせら笑うマシロは長槍を振るい、殴りつけんとしてくる盾を無情にも叩き落とした。

 セピア色の腕が帯びるのは紅のオーラ。パイロットのマシロ自身もその目を赤く燃やし、真っ白い髪を逆立て、口元に牙を覗かせている。

『獣の力』だ。マシロは土壇場で自分に本気を出させたアスマの予想外な瞬発力に、胸中で喝采を送った。


「でも、その程度じゃ――」


 盾の二つ目を真下に叩き落とす。

 三つ目――槍の穂先を突き込み、破壊する。

 発生した爆発から身を守るよう飛びすさり、マシロは哄笑した。

 魔法による攻撃など効かない。物理攻撃も『獣の力』で強化した膂力と長いリーチがあれば阻んだ上で反撃を食らわせられる。

 マシロの勝ちだ。

 体内から湧き上がる魔力を制すことの出来る機体。敵の防御を無視できる『ピコ魔力』による攻撃の手段。哀れな九重アスマ少年は己が生み出したSAMと技術の手にかかって死ぬのだ。

 可哀想だとは思うが残念だとは微塵も思わない。手中に収まらない財産などゴミと同じだ。

 

「不要だよ。君の全ては」


 引き抜く体勢のまま槍を後方へ引き絞り、突き込む。

 瞬間、穂先に煌めくは赤き光粒。

 盾を手放した【アザゼルΧ】にもはやこれを防ぐ手立てはない。

 終わりだ。蓮見タカネの狗に過ぎなかった赤城ケイトと同じように、九重アスマも終焉を迎える。


「はあああああああああああああああッッ!!」


 が、勝ちを確信するのと同時に鼓膜を震わせた少年の叫びに、マシロは瞠目した。

 本能が鋭く警鐘を打ち鳴らす。

 防御魔法【ブラックオーロラ】を発動したその時には既に、身体を僅かに捩って槍の一突きをすんでのところで躱していた【アザゼルΧ】の右腕が、【レリエルL】の胸元まで至っていた。


「――――!?」


 突き出された右腕の勢いが、腕を巻き込むような形で出現した漆黒のオーロラによって削がれる。

 しかし激しく唸りながら回転するドリルは止まらない。胸部装甲を穿孔せんとする不快音にマシロは顔を歪め、脳へフィードバックされる機体の骨肉を抉られる痛みに呻吟した。


「ぐぅッッ……!」


 ここで終わるつもりなどマシロにはこれっぽっちもなかった。

 人類を滅ぼす。滅ぼさなければ【異形】はこの星で生きられない。

『バエル』のようにヒトへの憎しみも、『プルソン』のようにヒトへの憤怒も抱いているわけではない。そんなものはどうでもいい。彼が望むのは――自分たちの生存、それだけだった。


「【ブラックオーロラ】ッ!」


 黒きカーテンがくしゃくしゃに歪んでいき、巻き込まれた【アザゼルΧ】の右腕は抗えず捻じ切れる。

 肘から先を奪われる激痛に悶え叫ぶ少年の声を聞きながらマシロは後退し、敵との間合いを十分に取った。

 胸部の損傷は致命傷にまでは至っていない。魔法での修復ですぐに戦線復帰できる程度の規模だ。とはいえ今ここで亀裂に強打をもらえば一溜まりもない。


「――っ、今度は――!」


 第六感で察知した肉薄する気配に背後を振り仰ぐ。

 アスマではない。彼はまだそこにいる。ならば誰が――


「人類を裏切ったツケ、ここで払わせてやるよ!」


 大きく振りかぶった拳の殴打。

 真横に飛び退いてそれを回避した刹那、真正面から撃ち込まれる第二の衝撃。

『ピコ魔力装甲』もその下の胸部装甲をも貫いて胸部の『コア』まで達していたのは、桃色の光輝を纏った一枚の刃であった。


「『テールブレード』――【ラグエル】、か……!」


 マシロは遅れて気づいた。

 敵が有する第三の腕というべき武装、『テールブレード』。太くしなやかなワイヤーは伸縮自在かつ、縦横無尽の機動を実現する。

 飛行ユニット【アラエル】を装着した、筋骨隆々な黒々とした体躯。大型の類人猿を想起させる、長く太い両腕。顔に比して小さな眼を赤く光らせ、剣山のごとき牙の並ぶ口許に笑みを形作るのは【機動天使】が一機、【ラグエル】だ。


「ナイスかっちゃん! とどめはおれが!」


 風切り音を鋭く響かせて急迫し、一振りの剣を構える銀翼のSAM。

 もう一機の【機動天使】の出現にマシロは舌打ちし、体勢を立て直そうとした。

 しかし――間に合わない。

 桃色の光芒を帯びる【ラジエル】は音速を超え、少年の声が届いた時にはもう【レリエル】の頭上を取っていた。


「ちっ――!」


 マシロは天を仰ぎ漆黒のベールを再度、展開せんとする。

 加速の勢いを乗せ、回転しながら【ラジエル】は刃の一撃を浴びせかけた。


「おらあああああッ!!」


 白刃が閃き、闇のオーラが切り裂かれる。

 露になったうなじへと叩き込まれる鋼の刃。

 衝撃がコックピット内のパイロットを襲う。マシロは『ヘッドセット』による機体との神経接続を解除し、即座に操縦席から跳ね起きた。


「まさか【レリエル】でここまで追い詰められるなんて。やっぱ、ヒトの身体じゃ本来の力は出せないか……」


 モニターに映る【ラグエル】の鬼神のごとき相貌を前にして、マシロは小さく溜め息を吐いた。

 

「君は本当によく働いてくれた、マシロ。長いこと君の中にいたからね……別れは惜しいけど、ここまでだ。……さよなら」


 最後に「香椎マシロ」へとそう告げて、その者は彼の体内から姿を消した。

 するとマシロの真っ白い髪がもとの黒髪に戻り、赤かった目も茶色く変じていく。

 ぼんやりとした眼差しでモニターを見つめる彼は、現在の状況が理解できずに硬直していたが――目の前にいる【ラグエル】の顔に気づいて悲鳴を上げた。


「うわああああッッ!!? いやだっ、くっ、来るなッ!? ぼくらは敵じゃない! 君たちを調査しに来ただけなんだ――」


 彼の中での時系列は、カグヤの部隊で富士山麓の調査に赴いたときと地続きであった。

 眼前のSAMを未知なる【異形】と誤認しているマシロの切羽詰まった叫びに、シバマルは思わずカツミを制止していた。


「やめろ、かっちゃん! なんか様子が変だ!」

「ッ、罠かもしれねえぞ! こっちの油断を誘うための――」


 そうこう言っている間にも操縦者のコントロールを失った【レリエル】は飛行を続けることができず、落下していく。

 拳を振り上げていた【ラグエル】を肩で押しのけ、【ラジエル】は一直線に降下しながら【レリエル】へと手を伸ばした。


「いま助ける!」


 がしっと腕を掴み、引き上げる。

【ラジエル】と同程度の体格の【レリエル】を横抱きにしつつ、シバマルはカツミに指示を仰いだ。


「あのさかっちゃん! 敵機を鹵獲したときってどーすればいいんだっけ!?」

「まずは動きを封じる! それと可能ならパイロットを機体から摘まみ出せ! ……ってかそれくらい予習しとけ! 『新人』の乗ってるSAMを捕らえる可能性だってあるんだからよ!」

「分かった! ご教授感謝!」


 シバマルは魔法で生み出したワイヤーで【レリエルL】の手足を縛っていく。

 その作業を手早く済ませ、周囲の戦闘状況を鑑みてマシロをコックピットから出すのを断念した彼はすぐに【エクソドゥス】への帰投を目指そうとして――掛けられた声に、顔を上げる。


「待て! ……【レリエルL】は『レジスタンス』の機体だ。その所在は『レジスタンス』に帰属する」

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