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暁の機動天使《プシュコマキア》  作者: 憂木 ヒロ
最終章

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第二百六十七話 宥和への道筋 ―Preparation and Transactions―

「――マトヴェイ総指揮官の予測通り、富士山麓付近に理知ある【異形】の拠点が存在する可能性が高いことが裏付けられました」


『小田原基地』内の会議室にて、皇ミコトはそう発表した。

 この場に集っているのはマトヴェイ・バザロヴァを筆頭とする『リジェネレーター』の主要人物と、ミラー大将ら海軍の高級将校たちである。

 二〇四七年七月下旬。『リジェネレーター』はマトヴェイの推測のもと、理知ある【異形】の拠点を捜索すべく『対異隊』を編成。四度にわたる日帰りの調査作戦を実行した。

 薄暗くした部屋の中、スクリーンを背後にする桃髪の皇女はその調査の報告を進めていく。


「調査は富士山麓の『進入禁止区画』周辺に対象を絞って行いました。ニネルとテナ、『新人』両名の『交信クロッシング』能力やSAMの魔力探知機能を用いて探った結果――富士山麓の南西部より、特殊な魔力の波形が認められることが判明いたしました」


「まずはこれをご覧ください」と、ミコトは手元のリモコンでプロジェクタを操作する。

 スクリーンが見えるようミコトが横に一歩引いた、その直後。

 表示された波形のグラフを目にし、すぐに違和感に気づいたグローリア中佐が声を上げた。


「これは……! 既に確認されている【異形】が放つ魔力波よりも、格段に周波数が高い。いえ――そもそも、既存の魔力探知機マナ・レーダーでは観測不可能な値です」


 彼女の指摘に、たちまち士官たちの間にざわめきが伝播していく。

 未知の【異形】か、或いは【異形】以外の未確認の何かか。


「一体何なんだ、この波形は!?」

「SAMでは通常感知できないはずの周波数……『新人』の『交信』能力はそれすらも捉えられるのか」

「『侵入禁止区画』周辺でこの周波数の波形が確認された――何らかの関連は疑わざるを得んな」

「周波数はとんでもなく高いですが、似たパターンの魔力波も探せばあるかもしれません。その点をまず洗い出してみるのは如何でしょう」


 思うところを口々に表明していく士官たちに、ミコトはこほんと咳払いする。

 盛り上がりかけた彼らはそれで一瞬にして静まった。

 それからミコトは部屋の隅のほうで縮こまっているニネルとテナへ、声を掛けた。

 

「もう一つ、この魔力波にはこれまでの【異形】のそれとは異質な属性があるのです。……ニネル、テナ。あのとき感じたことや思ったことを、そのまま言葉にしてみてください」


 突然ミコトに指名され、びくりと肩を震わせるテナ。

 そんな彼とは対照的に、ニネルは大勢の大人の前でがちがちに緊張してしまっている彼を押しのけ、どんと胸を張ってみせた。


「え、えっと……その……」

「もう、テナったら! しょうがないから、わたしがお話しする!」


 数度繰り返した地上での調査の中で、彼女は見違えるほどの度胸を身に着けたようだ。


「あのね、この前、ふじさんのふもとを歩いていたとき……前のほうから、何だかかんじたことのないリズムで、波みたいに魔力がながれてきたの。それも、ずっと……」

「ずっと、ですか。あなたは常にその魔力を感じていたということですね?」


『新人』相手でもつい普段と変わらぬ淡々とした口調になってしまうグローリアに、ニネルはおずおずと「はい」と頷いた。

 そこにミコトが補足を入れる。


「ある一定の範囲内――計測できた限りでは円弧を描くように、その波形が捉えられた場所は決まっていました。おそらくはある一点を中心として、円状に広がっているものと思われます。その中心であろう地点へ向かえば、そこに何があるか分かるはずです」

「それを探るのが次なる君たちの任務……そういうわけだな?」


 訊ねてくるミラー大将にミコトは首肯する。

『新人』の存在があってこそ初めて掴めた、未知なる存在の痕跡。

 それが何であれ理知ある【異形】にまつわる事物の可能性が一つでもあるならば、『リジェネレーター』としては調査に臨みたい。

 それから次に発言するのはマトヴェイだ。

 

「知っての通り、地上で最も魔力や魔法に順応した生物は【異形】よ。故にアタシは彼らが未知なる魔力波に関わっている可能性が高いと考えるわ。その推測の正否を明らかにするため、アタシたち『リジェネレーター』は『第一次地上探索作戦』と同規模の調査を実行したい。迷惑をかけるのは承知ですけれど、海軍の皆様方にもご助力をお願いしたいわ」


 起立し、組織の長として海軍の面々へ頭を下げて要請する。

 その懇願に対し、まずはじめに口を開いたのはグローリア中佐であった。


「私たちとバザロヴァ総指揮官の間柄です。気持ちとしては二つ返事で承諾したいところですが、我々は『レジスタンス』海軍。組織として協力に値するメリットが十分になければ、あなた方の要請には応えられません」

「メリットならありますわ、グローリア中佐。調査の結果、発見された全ての物的財産に関して、その所有権の半分は海軍に譲渡する。物的財産でないものについては、海軍にもそれにまつわる発言権があるとする。これでどうかしら?」


 条件を提示され、グローリア中佐はミラー大将を見遣った。

 最終決定権は彼が持っている。全ては大将の一存しだいだ。

 

「理知ある【異形】の拠点がそこにある可能性がゼロではない以上、作戦としてはそれ相応の装備を整えねばならんだろう。『レジスタンス』の動きが気がかりであろうが、最低でも一週間、時間をくれ」

「ミラー大将……!」


 ミコトは神妙だった表情を輝かせ、海軍大将の名を呼んだ。

 マトヴェイも頷き、黒い肌の大将に礼を言う。


「感謝いたしますわ、大将。一週間という短い準備期間……無理を言わせてしまって、ごめんなさい」

「おいおい、マトヴェイの坊主。お前さんはちょいと、我々海軍を甘く見ているようだな? 常に厳しく牙を剥く海と隣り合わせてやってきた私たちだ。それくらい、海の怪物どもを相手取るのに比べりゃあ、遊びのようなもんだ」


 心配を豪快に笑い飛ばすミラー大将につられ、ミコトやマトヴェイ、シバマルたち『リジェネレーター』側の面々からも笑みが零れる。

 それに対して海軍の者たち――特にグローリア中佐は、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえるのであった。


「せめて一ヶ月ほどあれば、日常の業務と並行してでも余裕を持って行えたでしょうに……全く、こちらの気苦労も知らないで……」

「それは……申し訳ありません、グローリア中佐」

「ミコトさまが頭を下げることはございません! 私どもが身を粉にする覚悟で働けば良いだけの話ですので」

「いえ、海軍の皆様は普段の仕事を優先なさってください。これはわたくしたちの戦い。出来ることはわたくしたちで進めますわ」


 海軍に迷惑ばかりかけるわけにはいかない。ミコトとしてもそこだけは通さねばならない筋であった。


「……『レジスタンス』が理知ある【異形】の拠点に攻め込むまで、もう一ヶ月もない。それまでに何としても、アタシたちで彼らのもとに辿り着くのよ。対話を捨て、戦いの道を選んだ結果起こる悲しみや怒り、憎しみの連鎖……それを断ち切るのが我々の使命です。共に頑張りましょう、皆」


 そう覚悟を言葉にして、マトヴェイはこの場を締めくくった。

 会議の後、彼らはさっそく急ピッチで遠征の準備を進行していく。

 飛空艇やSAMのメンテ、装備の補充、糧食の積み込み――そのほか山積みのタスクを、『リジェネレーター』と海軍の兵士たちは慣れた手つきで片づけていくのであった。

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