TS幼女は置き手紙される
“TS幼女は~”シリーズの、おまけ追加分です。
今回は茂木さんが失踪。
気落ちする幼女(中身はハタチ過ぎた男)はどう動く?
『実家へ帰ります』
「はぁ!?」
初手から失礼!
所用が済んでダンマスルームへ戻ってきたら、変な置き手紙が置いてあるのを見つけてしまった、妙な縁でバ美肉転生しちゃったTS幼女だぞ!
見た目は薄ピンクアホ毛付ポニテ髪青目、体格調整機能で身長最低胸最大にした、一番やり込んだゲームキャラそのもの。
〈変な方向の現実逃避してませんか?〉
「っ!?……してないぞ!!」
タマちゃんから妙に鋭い突っ込みをもらい、正気に戻る。ピーーーンと張ってた俺のアホ毛もへにゃっと垂れた。
〈家へ帰ってきたら、離婚の定番みたいな置き手紙。 そうなってもおかしくないと思いますよ〉
……なんか、なにもかも見抜かれている感。
いやね? 本当に同棲中の茂木晴夏と何かがあった記憶なんて無いんだよ。
つい最近やった、クリスマスイベントダンジョンだって仲良くやってたぞ?
茂木発案でレアドロップとして、クリスマスプレゼントチケットとか言うガチャ券をまぜた。 これが結構良い評価をもらった。
ガチャは2種。 ダンジョンアタックお役立ち消耗品ガチャと、シャイな紳士淑女用オモチャガチャ。 ダンジョンへ挑む条件に年齢制限があるから、そんなガチャも入れられたんだとよ。
ちなみに普段から俺を事案から護ってくれる、対ダンジョントラブル用お巡りさん達には、ガチャ景品一覧表。
その中から欲しい物をひとり3つまで選んでもらって、それをプレゼントした。 ……シャイ紳士グッズを選ぶお巡りさん達、結構居るのな……夫婦で使うんだろうなぁ。
ダンジョン管理を補佐させる為に作った魔物、俺と茂木の子供の姿予想大会してるドッペルゲンガーや、俺を模したリビングドールにクリスマスコスプレさせたのは冒険者達から好評だったし。
双方の家族が集まって行われたクリスマス会で遊ばれたし。
……なんなんだよ。 去年着させられたミニスカサンタ、今年は茂木が着てくれたは良いが、代わりに俺はサンタのプレゼントが入ってる袋(顔だけ出る)ってさぁ。
袋の口を縛るヒモは俺のアホ毛だし、茂木からお米様だっこされるし、袋と一緒に家族から「下に着てね」とかって渡されたのは、アダルトなプレゼントヒモ。
プレゼントはわ・た・し(はぁと)ってか? 俺の心は男だぞ!? まあ着てなかったと家族(主に母と妹)に知られたら、後が怖いからおとなしく従ったけどさぁ。
…………なんか脱線したな、ダンジョンの話に戻る。
サブマスの茂木がこっそりと仕掛けた、ダンジョン突入すぐの床トラップが挑戦者達にどれだけ不評だったとしても、理不尽に叱るとかしなかったし。
……どんなトラップだったか? 警報トラップの応用で、権利関係に配慮したクリスマス音楽が響き渡るやつ。
茂木はゲームみたいに雰囲気を盛り上げるBGMとしてぶっ込みたかったみたいだけど、ダンジョン内の魔物が動く音とか聞こえなくなるし、音で魔物がわんさか寄ってくるし、音楽にノるどころか呑気な曲でむしろ集中力が削がれて大迷惑だと散々だった。
失敗だったと落ち込む茂木をしっかり励ましたし、それでもまだイジケるから膝枕してなでなでしてやったし。
それ以降は特に様子がおかしくなる事は無かったぞ?
……なお夜に発情して襲いかかってくるのは、様子がおかしくなる候補から除外する。 いつもの事だし。
クリスマス後のイベントダンジョン内容を決める相談でも普通だった。
出来たのをざっくり説明すれば、クリスマス商戦の売れ残りを捌こうと必死になりながら、年末年始用商品にも力をいれなきゃならん大型店舗。
あの何とも言えない生々しくも複雑な気分を意識した魔物やドロップ、それに背景。
顔を真っ赤にして千鳥足な魔物がいたり、消費期限本日まで!とかホールケーキ大特価!とか書かれた看板を振り回してくるのがいたり、まれにサンタ衣装をまだ着させられている狼系のがいたり。
代表的なドロップ品は、今それを手に入れても、使うのは来年のクリスマスだね。 でもしまっている内に忘れそう……って微妙な品々。
あと年末年始の飲み会でこんなの使ったら恥ずかしい系の宴会グッズや、タネ丸見えの手品道具。 用途不明だが、最後尾はこちらとか書いてあるプラカードを茂木から言われて用意した。
クリスマスイルミネーションの片付けが中途半端になってる壁や木々と言う背景が、生暖かい視線を誘う。
この最新の思い出で、茂木を不機嫌にさせる事態にはならなかった。
んで、結構ほったらかしてる希少動物保護ダンジョンへ様子見しに行って、戻ってきたら置き手紙。
「俺、なんか嫌われる事したのか?」
〈その結論まで辿り着くのに、随分かかりましたね〉
「いやいや、手紙を発見してからここまで1~2分位しか時間は経ってないだろ?」
〈思考を加速するスキルとか使ってるはずなのに、数秒でも物思いにふける時点で予想できます〉
「うわー、色々お見通しで怖いわー。 アホ毛が怖がって頭に巻き付いてきてるわー(震え声)」
〈晴夏さんに逃げられた、ダメ配偶者の思考なんて考えるまでもなく読めますよ〉
「いや、俺達結婚してないから。 っつか同性で出来ないから」
〈グダグダ言ってないで、身の振り方を考えなさい〉
最近のタマちゃんはいじり倒してこないで、冗談抜きにキツい物言いが増えた。 なんか涙が出そう。
~~~
茂木が居なくなって、大晦日まで来てしまった。
もちろん即行で茂木の実家まで行って、所在の確認をしたさ。
でも返ってきた言葉が「ウチには居ませんよ?」だ。
なんか含みがある言い方をされた気はしたけど、どうせ俺を非難する気持ちたっぷりな意味だったんだろう。 向こうさんの目付きが厳しかった上、口の端がひくひくしてたし。
わずかな可能性で俺の実家へ何か聞いていないかと連絡してみたが、しばらく忙しいから連絡してくるなと拒否の姿勢。
それからのアホ毛は常に元気がなく、空元気を出して頑張ろうとしても、ピクリともせず垂れていた。
……んん? これアホ毛が普通の髪の毛、髪のひと房に戻っただけか?
っつーか俺のアホ毛は変なやつだよな。
帽子とか頭に載るやつはゲームキャラだった当時の仕様をきっちり貫いて透過する癖に、異世界転生と言う形で召喚されてこの体になってからはアホ毛による干渉が可能。
異世界から帰還して以降も感情直結で犬の尻尾みたいになるだけじゃなく、伸びたりグネグネ動くのは当然として物を巻きとって掴んだり、魔物相手なら簡単にコロコロしてしまう凶悪武器と化したり。
今は力なく垂れてるだけだが。
まあいい、今はそんなことより今日の事を考えよう。
今日は基本実家。
本当は大晦日にやっちゃいけないと聞く大掃除を、魔法でパッと済ませてからグダグダ過ごして、年越しそばを手繰ってから自分の本拠地ダンジョン内神社エリアで鐘突き。
茂木の家族とも過ごす予定だったが、どうなのだろうか……。
色々ウダウダ考えてしまう所だが、ひとまず実家へ。
場所は俺達が本拠地としている低級ダンジョンからそれほど離れていない。
玄関まで到着して、呼び鈴を鳴らす。
「はーい!」
………………んぁ??
返事した声が、毎日聴いていた声なんだけど?
パタパタ鳴らして玄関まで近付いてくるスリッパの音。
鍵が開けられ、開いた玄関には…………。
「あれ?」
「どうしたの? 早く上がりなさいよ」
なんで置き手紙して居なくなった茂木が、実家にいるんだ? 多分アホ毛は?になってるぞ。
「ちょっと待って」
「なによ?」
「実家へ帰るって置き手紙はなんだったんだ?」
「実家とかで年末の内にやりたい事が有ったから、1度戻るって意味よ?」
「手紙見て、そっちの実家へ行ったけど居ないって言われた」
「いや、ここ(幼女の実家)と往復してたから、今は居ないって意味だったんじゃない?」
「……知らない」
「タマちゃんにも念のためにその辺言っといたはずだけど」
「……聞いてない」
「はぁ? あんたが紙を見たら、補足で伝えといてってお願いしたはずだけど?」
〈あえて伝えない事にしました〉
「タマちゃん!?……と離れてても話せる道具が有ったわね。 それで?」
〈それはもう……あの手紙を残して居なくなって、ひどく取り乱していましたよ〉
「へぇ?」
「おいコラ! その辺を茂木にチクらないでってお願いしたよね!?」
〈すぐ晴夏さんの実家へ行って、居ないと知って戻ってきた時の憔悴ぶりはもう、肉体が有ったらずっとニヤニヤしていたでしょうね〉
「すぐ……ああ。 戻ったらお母さんがわたしの顔を見るたび、ニマニマぷすぷす笑ってたのはそれか」
「やめて! 勘違いで頭グルグルし続けた日々を思い出させないで! 顔から火が出るからっ!」
「アホ毛を嬉しそうにフリフリさせちゃってまあ。 ニヤニヤ」
「口で言うな、バカ!」
〈ところでお二人さん。 今どこかは分かりませんが、そんなに騒いでいたら周りに迷惑をかけているんじゃないですか?〉
『あぁ?』
ニヨニヨニヨニヨ×たくさん(両家家族含む)
『うわぁっ!?』