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ヒトノモノ  作者: Kusakari
ケイタ パート1
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ヒトノモノ その5 疎外

 帰りの電車でスマホをずっと見ていた。これといって、目にとまるツイートなどありはしなかった。ただ、視点を一点に集中させたかった。「疲れた」という報告。「勉強が嫌だ」という不満。なんだか、自分よりも気楽に見えた。誰も孤独には悩んでいないようだった。「寂しい」とツイートした。


 家に帰っても、いつものように人気がなかった。惰性で夕食を食べ、惰性で二階に上がる。同じことの繰り返しでしかない日々が恨めしかった。何も出来事がない。正確に言えば、出来事は生じているけれども、なんだか単調でしかない。この日常に華をそえて欲しい気がした。


 ついスマホに意味もなく触った。誰からメールもラインも来なかった。そんなの当たり前のことだった。けれども、数分おきにスマホを見ては閉じてを繰り返した。より一層、切ない気分になった。仕方なく、宿題を解き始めた。


 22時になった。母が帰ってきた。母は塾で仕事をしている。だから、帰ってくるのが遅い。そのせいで、母と会話をすることはなかった。けれども、今日は寂しくなって、二階に下りた。


 「お帰りなさい」

「ただいま」

母はそう言って、僕を横切って、テーブルに座った。なんだか、無視されているような気がした。母は作り置きのカレーを食べていた。母の視線には僕なんて写っていなかった。これといって、何を話してよいのか分からなかった。僕は二階に上がるしかなかった。


 また、スマホを見た。けれども、何の表示もなかった。自分の家にいるのにもかかわらず、寂寥感に襲われた。この嫌な感じは毎度のことだった。けれども、今日はいつも以上に寂しかった。自分はこの家にいてよいのかが幼い時から理解できないのだ。


 僕はずっと保育園に預けられていた。表面的には母の仕事の都合だと思われるが、母は僕と一緒にいたくないのだ。今もそうなのだ。だから、親子らしい会話をすることができないのだ。


 「なんで生んじゃったのかしら」

母は小学校の時に僕にそう言った。きっかけは、僕が部屋中に落書きをし、家を汚くしたからだ。そんな折、母は仕事から帰ってきた。その時、僕はどういう意味だか分からなかった。母はビールを飲み、ため息をついた。おそらく、酔っていた。おそらく、素面ではそんなことを言わないはずだ。つい本音が出たのだろう。成長するごとに、僕は母の言葉が持っている残酷さを知った。僕は生まれることを望まれなかったのだ。


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