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UNSUNG HERO  作者: 二宮シン
17/21

運命の交差する場所

 その夜、フリージア率いる旧国派と、ついてきたエルフ達を加えた一団が、無理やり城門をこじ開けて、アイルデンの外に出た。新王派の見張りも国のすべてを見切れるはずもなく、その隙をついて抜け出したため、誰にもばれなかった。

「それでは先ほど決めたグループで、各所についてください」

 サスーリカの声に、皆が馬に乗り動き出す。しかし、もうすぐ初夏だというのに、夜は冷える。ここが日本だということは、もしかすると、ここは北海道かもしれない。

 風に当たってしばらく待つと、空から鳩が降りてくる。

「各地から伝書鳩が帰ってきました。順調に検問を”封鎖”したようです」

 フリージアがサスーリカに伝えると、作戦が始まった。


 その日の朝、国内の旧王派がいなくなったと声高に叫ぶ声が、外にも響いてきた。そして、朝一で魚や麦を国内に輸送する商人たちの前に立ちふさがり、サスーリカ王子の名のもとに全てを買い取ると、米粒一つも国内には入らなかった。

 これこそがサスーリカの立てた作戦だった。東西南北すべての検問を封鎖し、国内への物資の供給を断つ。当然国の内部では怒りが積もり、いつしか暴動が起こるだろう。だが、国内に旧国派が多いということは、こちらは攻められずに、新王派だけが追い込まれる形となる。いよいよ厳しくなってくれば、こちらの要望も通るだろう。

『スティーリアを含む国の執政たちとの対等な話し合いの場を設ける』。それが、サスーリカの計画の終着点だった。

「エルフは均等に各所について、私が作った氷塊が解けないように魔術をかけてください」

 検問を封鎖、といっても数で押されて通り抜けられる可能性があるので、サスーリカは最高硬度の氷塊を各検問所に生み出し、通行をせき止めた。サスーリカ曰く、炎でも解けない氷とのことで、後は時間を待つだけだった。

 しばらくは暇なので、物資をひも解いてパンとミルクを食べていると、クリマが隣の芝生に座った。

「ねぇ、前から気になってたんだけど、あんたとリンってどういう関係なの?」

 飲んでいたミルクを吐き出しそうになりながらせき込むと、なぜそんなことを聞くのかと返した。

「だって、あんたにとってリンは奴隷でしょ? 記憶がどうだとかはよくわかんないけど、後はエルフとサスーリカたちに任せればいいじゃない」

「それを言うならお前だってそうだ。ナイフ一本で復讐するなんて、無謀にもほどがあるだろ」

「それとこれとは別! とにかく今聞きたいのは、あんたがリンの事をどう思っているのかよ」

 いつになく真剣なクリマの問いに、腕を組んで考える。元々は、鬱陶しい泣き声を止める為だった。しかし、リンと共に過ごしたこの時間は、二千年前よりも楽しく、輝いていた。どこに行っても、誰といても、その中心には、いつもリンがいた。もしかしたら、俺はリンに恋でもしているのか?

 いや、違う。リンはあくまで俺の奴隷で、俺が主だ。そして、この世界で出会った友だ。性的な目で見ることは出来ない。

「……リンは仲間で、一緒にいると楽しい奴だ。そして俺の奴隷だ。俺もお前と同じように、やられたらやり返すんだよ」

「あら、そう。てっきり恋人だと思ってたのに」

 また飲みかけのミルクが噴き出しそうになる。断じて違うと説明するが、クリマは口笛を吹いて誤魔化していた。

「でも、お似合いだと思うけどなぁ」

 クリマの戯言は聞き流して、ミルクを飲み干した。


「では、あの日に現れた謁見者がユベルということで間違いなさそうだな」

 アイルデンから逃げた日、王子にと謁見があった。その場にはフリージアも居て、話し合いの内容を聞いている内に、正体が露呈した。

「あのユベルという輩ですが、相当な魔力を持っています。戦いになった際はご注意を」

 フリージアからの報告を聞いた後、ついでに持ってきた、ここまで私たちを運んでくれた馬車に寝転がると、空を見上げた。

「スティーリアはどこまで内乱を抑え込めるのだろうか」

 ここまで来て、未だにスティーリアと戦う抵抗感が拭えない。同じときに生まれ、同じように育てられ、同じように力を付けた双子の弟。母が早くに亡くなって、父グラキエースが殺害されたとあっては、もう身内はフリージアとスティーリアとかいない。出来る事なら、三人でアイルデンを作り直したい。だがそれには、クリマの復讐心があり、戦いは避けられない。

「父上、どうか見守っていてください」

 空へと消えた父に両手のひらを合わせて祈りを捧げる。無血開城とまではいかなくても、一人でも命を落とす者が少なくなるように。


 アイルデンの物流を止めて五日。市壁の上から、矢が一本地面に突き刺さった。紙が括り付けられていたようで、開いて皆で目を通す。

『そちらの要求は受領した。北の門より王城へ参れ』

 スティーリアらしい厚顔な文面は、字が殴り書きの様に記されている。余程この五日間が堪えたようだ。

「私たちエルフが先に入り安全を確認します」

 そう言って十人のエルフが抜けた後、すぐに入っても大丈夫だと合図があった。

「おお、これは」

 国民たちが壁となり、王城までの道を作っている。痩せ細った老人ですら杖をついて立ち続けている。これなら、道中襲われる心配はない。

「王子として、次期国王として、皆に感謝の念を伝えます」

 王子が頭を下げた。どよめく人々だったが、サスーリカは覚悟を決めた顔で頭を上げ、国民の中を進んでいく。

「たぶんだけど、あたしこの経験は忘れないわ」

「俺も同感だ」

 サスーリカを先頭に進んだ一団は、王城にたどり着くと、重量感のある大門の大扉が開いた。木々や花が植えられ、池もある。そんな王国城前まで来て、ここがKの領域の代表国であると再認識した。


 庭園を抜けて、王城の扉が開くと、常に周囲に気を配りながら案内され、通されたのは、縦長の机と椅子が置いてある会議室だった。

 そして、その椅子の向かい側に座るサスーリカとそっくりな男――スティーリアは、その赤い瞳にこちらを映すと、他の者は下がれと命令した。

 今この場には、スティーリアの味方はいない。こちらのエルフとサスーリカとフリージアが一斉に襲えば事態は収まるんじゃないか? とも思ったが、ユベルの存在もあるので、静観に徹した。

「いやぁ、よくやってくれたねぇ、”お兄様”」

 今の言葉だけで、スティーリアの不気味な雰囲気は伝わってきた。

「てっきり、どこか遠くへ逃げたかと思ってたのになぁ。――そこまでして、玉座に座りたいのかなぁ?」

 嫌にねちっこい声にイライラしていると、サスーリカが口を開いた。

「もうこんな争いはやめましょう。父上グラキエースを殺害したことは、我々だけの秘密として、新たな国を作りましょう!」

「なぁに言っているんだい? 父上を殺したのは、お兄様だろう?」

「違う! お兄様はあの時庭園に居ました! それに、私は見ています。あなたがユベルと呼ばれる男と共に父上を殺害したことを」

 フリージアがそこまで言っても、スティーリアはピクリとも動かなかった。

「水掛け論という奴だねぇ。いくら話しても答えが出ない例えだよ」

 そう言いつつ、スティーリアは机の上に用意されていたティーカップから紅茶を注ぐと、角砂糖を五つも入れて飲み干した。

「それに、お兄様は長い事この国をほったらかしていた。その間にこの国をもたせていたのは、僕なんじゃないかなぁ?」

 そう言われ、サスーリカは大きく息を吸い込んで吐き出すと、静かに語りだした。

「私はたしかに、あなたとユベルに追い詰めなれ、死にかけました。ですが、神は私を生かしてくださり、このような素晴らしい仲間に出会えました。そして、ここまで来る旅で色々な人に出会い、様々な経験をし、王となる覚悟を決めました。私はここに、アイルデンの王となる事を宣言します」

 エルフ達も、クリマも見入っている。しかし、スティーリアだけは不敵に笑っていた。

「どちらにせよ、父上を殺した犯人を決める必要があるねぇ。だから、こういうのはどうかなぁ」

 スティーリアが指をパチンと鳴らすと、壊れたラジオの様な音が部屋に響いた。すると、エルフ達が一斉に苦しみ、悶え始めた。

「エルフにだけ効く魔術の一種だよぉ。ソワサントにいる”あの方”から受け取っていてねぇ……三十分もすればエルフ達は死ぬよ」

 冷徹な言葉で死を告げたスティーリアに、サスーリカは身を乗り出した。

「彼らは関係ない! やるなら私をやれ!」

 必死に説得するサスーリカに、スティーリアは不敵な笑みを浮かべると、もちろんだと答えた。

「このエルフ達は人質だよぉ。僕とユベルが待つ舞台の壇上に上がってもらうためのねぇ」

 スティーリアは立ち上がると、両手を開いて、歓迎するジェスチャーをすると、背後の扉が開かれた。

「この先で、ユベルも待っている。カイムとお兄様だけがここを通っていいよぉ! フリージアは、エルフの介護でもしてなぁ」

 腹の立つ喋り方だ、それに卑劣な手を使ってくる。

「いいだろう、俺たちに喧嘩を売ったことを後悔させてやる」

 マグナムを取り出して弾丸を込めると、サスーリカを見やった。

「どうやら、俺の記憶にある戦いが始まっちまうようだ。覚悟決めろよ」

 言われなくとも、と青いマントを脱ぎ捨てたサスーリカの瞳には、強い闘争心を感じる。しかし、それと同じくらいの悲しみに溢れていた。

「カイム、もし私がスティーリアを殺せなかったら、その武器でとどめを刺してください」

「早速勝った気でいるのは、自信過剰という物じゃないかなぁ?」

 そう言いつつ、スティーリアは扉の先に消えて行った。

「フリージア、ここから先は私たちで行きます。クリマと共に、エルフ達を守ってください」

 本当なら自分も戦いたいのだろうが、事態はそう動いてくれない。歯がゆい気持ちでいっぱいであろうフリージアの頭に、サスーリカがポンと手を置くと、必ず帰ると約束した。

「さて、こればっかりはクリマの出番はないな」

 スティーリアが指定した俺たち二人以外が行けば、エルフ達を救えなくなるかもしれない。だが、クリマは全く落胆してなかった。

「チャンスは自分でつかみ取るものよ。たとえどんな状況でもね」

 何か考えがあるのか、クリマはその言葉を残すと、スティーリアの飲みかけの紅茶に手を伸ばした。

「流石は王子様、使っている茶葉が違うわ」

 そしてティーカップからもう一杯注ぐと、砂糖を一つ入れてかき回している。

「ほら、とっとと行きなさいよ。決着をつけるためにわざわざ過去から来たんでしょう? あの胸糞悪いサスーリカの出来損ないの顔面にぶち込んでやりなさい」

 そう言って紅茶を飲み始めるクリマ。とりあえず、無理やりついてくる気はないようで安心した。

「行くぜ」

「ああ」

 マグナムを右手に持ち、サスーリカは意識を集中させている。扉の先には張り紙があり、『玉座の間にて待つ』と記されていた。


 煌びやかな装飾が施された部屋で、二人の男が殺意を持って待っていた。欲望と狂気に染まったスティーリアと、カイムへの怒りに染まったユベル。玉座の間は広く、天井にはシャンデリアが吊るされており、ステンドグラスが日の光を受けて鮮やかに輝いている。

ついに、決着の時が来た。

「俺がユベルを、お前がスティーリアを頼む」

「一人で大丈夫か?」

「どうせ二人しかいないんだ。仕方ないだろう」

 そのまま銃口をユベルに向けると、一つ問いただした。それは、今も怒りで震えているユベルが、なぜ自分を恨むのかが分からなかったからだ。

「――知るわけないか。そんなことは分かっている……だがな、神話の時代から、我らは戦う運命にあったのだ!」

 怒声と共に聞こえた、『神話の時代』という言葉。その言葉の意味はなんなのか。

「まだ耳と目と口がまともな内に、あの女に変わって教えてやる」

 ユベルは俺を睨みつけると、その唇を開いた。

「貴様が来た二千年よりも遥か過去、この世界そのものを創造主である神……Uが創り上げた。そして、神は楽園を創ると、二人の人間を創りだし、やがて楽園を出た二人に子供が生まれた。その二人が俺と貴様の祖先だ」

 ……待て、こいつが話すことを、どういうわけか俺は知っているぞ? 

「二人の男が、人類初となる人間から生まれた人間となった。そして、二人の兄弟は神に均等に愛されることなく、弟のみが寵愛を授かっていた」

 ああ、この話は、そうだ……。

「それに不満を抱いた兄に弟は殺され、兄は神から末代まで続く呪いを受けて、地に蠢く人間の一人となった。その二人の名は――」


「カインと、アベル」


 ハッキリと思い出したと口にする。

 とはいえ、ユベルはこちらから答えが出たことに驚いている。自分でも、よく覚えていたものだと不思議に思った。

 あのロシアンルーレットの場で渡された旧約聖書。そこに記されていたカインとアベルの物語。二千年前の偶然が、見事に重なった。だが、

「アベルは死んだはずだ。お前か俺のどちらかがアベルの血を引いているのはおかしくないか?」

 事実、カインはアベルを殺した罪として焼き印を押された。しかし、ユベルは翼を背中に生やすと、天井近くまで飛び上がり、高らかに叫んだ。

「神は命を奪われた我が祖先アベルを復活させ、その末代まで愛してくださった! それがこの翼だ!」

 そう言ってユベルは剣を引き抜くと、こちらに向けてきた。

「この世界でカインと呼ばれていたが、あえてカイムと呼んでやろう! 今ここに、神に逆らい、呪いを受け継いだ愚かな兄の血筋は終わらせる! そして我はあの方と共に、ソワサントから新世界で生きていくのだ!」

 ユベルの言葉を聞いている内に、頭の中の霧は完全に晴れた。間違いなくスティーリアとユベル相手に、俺とスティーリアが戦うこと。それと、俺に施された呪いに関してもだ。

「その神とやらは、俺の祖先を呪ったつもりなんだろうが、逆効果だったな」

 なに……? とユベルが顔を曇らせると、マグナムをユベルに向けて構えた。

「俺はお前やニオみたいに長いセリフは嫌いでね。知りたかったら”殺す気で”かかってこい」

 二人とも、そろそろいいかい? とスティーリアが口を挟むと、その場の全員が動き出す。

「記憶の通りなんていかせねぇ! この世界の俺の敗北も知ったこっちゃねぇ! 俺は生きて、旅を続ける! この楽しい世界でな!」


 サスーリカとスティーリアが氷柱を飛ばして、それを氷の壁で防ぐ。こちらも、空中を舞うユベルを狙って数発撃つが、見事にかわされてしまう。

「言ったはずだ! 我は神に愛されていると! 貴様の鉄は我には届かない!」

「神だなんだとうるせぇぞ! 男なら逃げねぇで立ち向かってこい!」

 そうは言うものの、ユベルは宙を舞い、時折飛び込んできては、剣で斬りつけようとしてくる。

 スティーリアの方は、流石は双子らしく、拮抗していた。

「この勝負、どちらが先に相手を片づけて、相方に手を貸すかが勝敗を分けるな!」

「だとしたら我々の勝ちだ。貴様は我に殺されるのだから」

 ……どうやら、ユベルは気が付いていないようだ。俺に施された呪いの真の意味を。おそらく、神はカインがどこかでのたれ死ぬと思って、この呪いを授けたのだろう。だが残念ながら、俺は生きている。呪いを力に変えて、この戦いを終わらせる。

「グッ!」

 と、活路を見つけたと思ったら、スティーリアが片手間で、こちらの足を氷漬けにして、動きを封じた。

「終わりだな、カイム……いや、カイン! 遥か祖先の復讐が、ここに結実する!」

 剣を真っ直ぐに構えたユベルが飛び込んでくる。足が動けない以上、避けることは出来ない。

「カイム!」

 サスーリカの声が聞こえる頃には、もう切っ先は胸元にまで達していた。しかし、あとほんの少し力を加えて剣を押し込めば俺は死ぬというのに、ユベルは力を加えるどころか、震えながら剣を落とした。

「なんだ……なんなんだ!? この感覚は……恐怖? 我が恐怖しているとでもいうのか! こんな神に捨てられた愚か者の末裔に!」

 この反応を見た時、呪いの正体について確信が持てた。

「そら、もう一回来いよ! 剣を持って突き刺してみせろ!」

 しかし、ユベルは震えたまま立ち上がらない。

「何を、したんだ?」

 当然の疑問に答えるなら、それは神がカインに掛けた呪いのおかげだ。

「神は、カインを殺す物に七倍の報いを与える呪いをかけた。それは俺にも伝わっていて、俺を殺そうとする奴に、圧倒的な恐怖を植え付けているんだろうさ」

「そんな……そんな馬鹿な事があるか! 我はKが無理やり時間を戻す前の戦いで貴様を倒したはずだ! だというのに、なぜ……」

「答えは簡単だ。俺の記憶にも残っている通り、俺も倒されはしたが、殺されていない。たったそれだけの事なんだよ」

 言うと、ユベルは震えながら立ち上がった。

「ならば、殺さない程度にいたぶればいい話だ」

「そうだな。俺も丸腰で倒れている奴を撃つほど趣味は悪くねぇ」

 ユベルが剣を構え、こちらはマグナムを構える。持ち手に力がこもるのを見ると、両手でマグナムを握った。

「俺の」

「我の」

勝ちだ!


 踏み込んできたユベルの切っ先が、頬に一筋の傷を作った。思わず膝を付いたこちらをあざ笑うユベルは、思うように声が出ない事に気が付く。俺が放った弾丸は、ユベルの胸元に風穴を開けたのだ。

 大量の出血と共に倒れるユベル。翼も消え、その息は今にも途切れそうだ。

「我は……神から愛された……」

「もういいだろ、勝負はついた」

 倒れているユベルに近づいて、その脳天目掛けてマグナムを構える。

「これで、俺がここに来た意味が叶った」

 トリガーを引くと、轟音と共にユベルの額を貫いた。

「悪いな兄弟。俺は過去に縛られず生きていきたいからよ」

 数千、数万……いったいどれだけの時間を超えて決着がついたのだろうか。カインとアベルの物語は幕を閉じた。


 こちらの戦いは幕を下ろした。もう一つの戦いは、どうなっているだろうと目を向けると、サスーリカが圧倒していた。

「スティーリア、もうやめましょう。あなたでは私に勝てない」

「そ、そんなの分からないよぉ!」

 氷柱が飛び交う二人の戦いに参加しようとした時、サスーリカが手で制した。

「これは、私たち双子の問題です。決着は私が付けますので、あなたは手を出さないでください」

 そうは言う物の、戦況は圧倒的にサスーリカに傾いている。スティーリアが肩で息をしているのに対し、サスーリカの呼吸は乱れていない。飛び交う氷柱の数も、サスーリカの方が多い。記憶の中の戦いでは、恐らくユベルの存在によって敗北したのだろう。それほどまでに、サスーリカが優勢だった。

「はぁ……はぁ……仕方ないね、奥の手を使うよ」

 言うと、ステンドグラスを割って、三十名ほどの騎士が降り立った。

「騎士と僕を相手に、どこまで戦えるかなぁ!」

 心底汚い野郎だ。負けそうになったら仲間を呼ぶとは。

「おいサスーリカ、雑魚の相手は俺がする。お前はこの馬鹿げた戦いを終わらせろ」

 サスーリカは頷くと、少しずつスティーリアとの距離を詰めていく。俺も、騎士たちを片端から片づけていき、あっという間にスティーリアを守る騎士はいなくなった。

「に、逃げれば!」

 と、玉座の間の出口に走っていくスティーリアを、サスーリカが魔術で止めると、その場に倒れた。

「お前には聞きたいことがある。正直に答えれば、命までは取らない」

 歩み寄ってそう言うと、リンの居場所を問い詰めた。しかし、スティーリアは顔を歪ませて、笑ってみせた。

「あのエルフはねぇ、”選別”されたんだよぉ! 新世界で生きていく有能な存在として、ソワサントに送ったよぉ」

 ソワサントといえば、Uの領域の代表国だ。なぜ、そんなところに送られたのか……それに、ユベルもソワサントの事を口にしていた。

 そう考えていると、君たちは遅かった! と壊れたおもちゃの様に笑うスティーリアを、サスーリカは抱きしめた。

「もう終わりです。父上の事は隠し、アイルデンを作り直しましょう」

 抱き着かれたスティーリアはポカンとしている。出来る事なら、このまま話し合いで解決してほしい。まだ、ソワサントへ行かねばならないのだから。

「そうだねぇ……お兄様の言う通りだ」

 スティーリアがそう言うと、サスーリカはより強く抱きしめた。

「――だけど、僕の勝ちなんだよぉ!」

 スティーリアはサスーリカを強く抱きしめると、その手に鋭利な氷を作りだした。

 まずい! そう思いマグナムを向ける頃には、氷は突き刺される寸前だった。


 チャリン、チャリン……無数に、その音が響いた。


 その場にいた全員が、一瞬動きを止めた。そして辺りを見回した。

「王子様だってなんだって、この音には逆らえない」

 スティーリアが逃げようとした扉の先から、クリマが金貨をばらまいて立っている。

「なぜなら人間はみんな、お金の為に生きているから」

 金貨が跳ねる音に無意識に反応したスティーリアは、サスーリカに蹴飛ばされてクリマの足元に転がる。

「お母さんの仇は、あたしがつける!」

 そう言って、クリマはナイフでスティーリアの胸を貫いた。

「賭けには勝ったわ」

 そして一気にナイフを引き抜くと、雨の様に血が噴き出した。

「スティーリア……」

 もはや、スティーリアは言葉もうまく出ない。そんなスティーリアを、サスーリカはもう一度強く抱きしめると、血反吐を吐きながら、スティーリアは一言残した。

「王様に、なりたかったなぁ」

 それを最後に、スティーリアは死んだ。

「俺たちの、勝ちだ」

 二千年先の未来での戦い、遥か過去の因縁の戦い、玉座をかけた戦い。その全てに決着がついた。

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