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バイト先は地獄でした。  作者: ナベ
第7章 作戦は順調でした。
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7-2.交渉成立はしました。

 作戦は第二段階、天使との交渉へと移る。

 以前出会ったラファエル、サンダルフォン、メタトロンの三天使は信じてみてもいいと思うが、その話を完全に「はいそうですね」と易々受け入れるほどUDの警戒は甘くない。

 そのためにはまず三天使との交渉の場を設け、直接会って話をする必要があった。


 次の日、大広間の作戦本部で天使との通信が行われた。

 紋章での会話は、俺たちが普段使ってるテレパシーと同じような感覚だ。違うことといえば、手の甲を口に近づけて話し、手の甲から向こうの声が聞こえてくることか。


「こんにちは、サンダルフォンさん。俺です、ユキナガです」

『どうも、ユキナガくん。どうしました?』


 俺はベルさんとグレシルと目を合わせ、お互いに頷いて確認する。


「先日の協力の件ですが、もう一度詳しくお話ししたいと思いまして」

『なるほど。では、ベルゼブブさんに代わっていただいても?』


 さすがと言うべきか、ベルさんが隣にいることに気付いていた。感心と驚きをしつつ、手の甲をベルさんの顔に近づける。


「ベルゼブブだ。その協力とやらを、詳しくお聞かせ願いたい。会談の場を設けることは可能だろうか」


 サンダルフォンは結構な低姿勢で快く受けてくれた。


『こちらこそ、直接お話ししたいと思っていました。そちらから提示していただけるとは、願ってもないことです』


 その後、会談の約束を無事取り付け、場所と日時も同時に決定した。

 このUD臨時拠点で、明日の昼ごろ。

 丸一日後の実施は少し遅いとも感じたが、向こうにも用意しなければならないこともあるだろう。今日はわずかながら休暇の日になった。



 午後は特にすることもなく、グレシルとスウと、街の散策をして過ごした。

 途中、ふとミカさんの言葉を思い出し、街の中央にある巨大なビルを訪ねた。

 ビルの中はいわゆる複合施設になっていて、案内を見てみると、下の方にはレストランや雑貨やなどの商業施設、上の方はこの街の中枢ともいえる本部が入っていた。

 他のメンバーからのおつかいを済ませつつ、ビルの中をゆっくり回っていく。


「そういえば、ユキナガとグレシル姉さまは、いつからお付き合いしてるんですか?」

「え? いや、別に」

「誤魔化してもバレバレですよ。前よりも一緒にいる時間が長くなってます。それに、距離も近いですし。どこまで進んだんですか?」

「天国に連れ去られる前くらい。これもらったし、一緒のベッドで寝てる」


 スウにニヤニヤと茶化されて戸惑う場面もあった。グレシルは星の髪留めを指さしながら正直に答えるもんだから、スウのいじりはヒートアップした。まさに火に油を注いだように。

 グレシルの白い頬が少し赤くなっているがはっきり分かった。恥ずかしいなら言わなければいいのに。つられて俺まで恥ずかしくなってきた。

 その夜もグレシルと同じベッドで寝たわけだが、スウからの視線に敏感になって寝辛かったのは、別に掘り下げて話すことでもないだろう。



 翌日、俺とグレシルは拠点近くのゲートまでサンダルフォンたちを迎えに行くという小任務を任された。唯一相手と会って話をした俺たちが任されるのは、至極当然だ。

 ゲートの守衛には天使が来ることが伝わっているようで、万が一のために守衛は三倍増しだそうだが、それは杞憂に終わり、何事もなく三天使は街へと足を踏み入れた。


 他の悪魔からの視線を浴びながら、悪魔の領地を天使が歩く。

 何とも奇妙な光景だが、この状況は向こうが提案してきたこと。俺たちの生活の場に赴き、害がないことを示したい、と。

 そして臨時拠点の応接室では、長い間敵対していた天使と悪魔が相見える、まさに歴史的な出来事が起きている。


「会談を承諾していただき感謝する。私が今回の作戦の指揮を執るベルゼブブだ」

「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。私はサンダルフォンと申します。こちらはメタトロンとラファエルです」


 紹介に合わせて、二人は軽く会釈をする。

 スウとリンさんが椅子とお茶の用意をし、森定さんがベルさんとサンダルフォンの会話の内容をパソコンに打ち込んでいく。俺とグレシルは、当然同席することになる。


「話は二人から聞いている。どうやら天使長のミカエルと対立しているとか」

「おっしゃる通り、我々は反ミカエルの姿勢を取っています」


 ベルさんはサンダルフォンの目から一切視線を逸らさず、相手に噓偽りがないか警戒しつつ話に耳を傾ける。


「続けてくれ」

「かつて天使が地獄を支配していたことは周知の事実です。そのときのミカエルによる独裁政治がいかに非情であったかも、悪魔の皆さんはご存知だと思います」


 以前サルバさんが泣き泣き話してくれた、悪魔にとっては辛い過去だ。


「その後のかの戦争で天使が敗北し、身を潜めて反撃の機会をうかがっていたときも、ミカエルの部下に対する圧政は酷いものでした。以来、ミカエルを抑えられるものはいません」


 サンダルフォンがUDで打ち明けたのは、俺たちが天国で聞いたものとほぼ同じ内容。

 俺とグレシルだけでなくUD全体を欺きたいというのなら、今までの天使たちの行動は完全に信じられるものではない。

 俺たち二人が天国で見聞きしたことをUDに戻って伝える、ということが想像できないほど、向こうも馬鹿じゃないだろう。この場で同じ情報を流し交渉はリスクの少ない内容にしておけば、さらに信憑性は増して騙しやすくなる。

 加えて手の甲の紋章で連絡が取れるようにしておけば、結果、俺たちUDはまんまと罠にかかるわけだ。


「近日開始される作戦では、地獄のみならず人間界をも支配下に置こうとしています。その復讐が始まる前に、何としてでも作戦は阻止したいのです」


 だが、俺たちにとって有利、かつ天使たちにとっては不利な情報をわざわざリークするのは、敵を欺くためには必要ない。

 そうなるとやはり、この三天使の話と立場は信じていいものになるだろう。


 しかし俺一人が考えたところで、最後に決めるのは指揮を執るベルさんだ。下の者は上の者の命令に従うのが世の常。

 頭の中で議論を交わしているうちに話は進んでいたらしく、結論から言うとUDと三天使は協力することが決定した。つまり、ベルさんが信じたということだ。


「さて、協力する上で交渉といきたいのだが、率直に訊こう。君たちの要望は何だ」


 ベルさんはわずかに威圧しながら、交渉を持ちかける。それに対しサンダルフォンは、その威圧を押し返す形で前のめりになり、真剣な面持ちで要望を声に出す。


「私たちの要望はただ一つ。それは打倒ミカエルです」


 それに付け加えるように、今まで静かに待機していたメタトロンが口を開いた。


「ミカエルのやつは、底辺階級には目もくれないのさ。やつの独裁政治に苦しんでいる天使は大勢いる。そんなやつらを放っておけねぇ。だから俺たちの要望は、ミカエルを絶対王者から引きずり下ろす、ただそれだけだ」


 その声と表情には、明らかにメタトロンの気持ちが乗っかっていた。不良のようなその見てくれから熱いものが伝わってくる。

 それに感化されたのか、目をつぶってお茶をすすっていたラファエルも、コップを置いて目を開けた。


「これは私たち三人の総意、三人で決めたことよ。それ以上のことも、それ以下のことも求めない。それに、あなたたちも同じ屈辱を受けた種族なのでしょう? 利害は一致していると思うのだけど」


 三人に口を揃えて言われてしまえば、今さら断ることもできない。ベルさんもそれを理解しているどころか、当然承諾するだろう。


「無論だ。君たちがそれを望むのならそれで構わない。むしろありがたい。その代わりと言ってはなんだが、この臨時拠点を自由に使ってもらっていい。困ったことがあればUDの構成員に言ってくれ」

「では、お言葉に甘えさせていただきます」


 こうして、交渉の場は幕を閉じた。

 だが、何か大事なことを忘れているような気がするのは、俺だけだろうか。


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