はじめのいっぽ
「お、お邪魔します…」
「どうぞー。あ、その辺に適当に座ってていいよー、今お茶でも入れるから」
「あ、おかまいなく。」
……至って普通の家何だね。ちょっとびっくりだ。
「ほい、お茶」
「あ、ありがとうございます」
……あ、ちょっとクセが有るけど美味しい。やっぱり色々違うんだ。
「とりあえずは自己紹介しようか。俺は霧雨咲だ。」
「あ、僕は…」
「大空薫……だろ?」
「……はい。」
やっぱり知られている。この人……咲さんは僕がどうして此処に来たのか知っているのかも……!
「はっはー。まずは何で知ってるか、だったね。」
「はい」
「簡単な話だ。薫くんが零に自分の名前言ってたのを聞いてたからな。」
「は……?」
え、あのときに…?でも、あのときは零さんしか居なかったような……
「つまりこう言うことさ、【気配図らし】」
「……?」
ステルス?姿が見えなくなるって奴かな?でも全然消えてないけど……
「あー!!」
「えっ!?」バッ
……何も無いな。急に大声だして後ろを指さすから何事かと……!?
「あ、あれ?」
咲さんが居なくなった?何で?さっきまでちゃんと目の前に
「薫くん薫くん」
「えっ、うわぁ!」
い、いつの間に後ろに!
「自分を意識されない限り姿を認識されなくする魔法……それが【気配図らし】。これを使ってたから、あの場面に俺が居たのに気づかなかったワケさ。」
「な、なるほど……」
「ちょっと用事があって森に入ってな。帰りに零を見つけたから脅かしてやろうと思ってたんだが、薫くんと出会ってたからタイミングを逃しちまってな。」
「な、何かすみません。」
「いーよいーよ」
……この人、意外と子供っぽいぞ。
「さて、本題に移ろう」
「え?」
そうだ、重要な話って言ってたな
「薫くんってあれだろう?どっかから此処に迷い込んだんだろ?」
「なっ……!」
やっぱり知られている!?て言うか軽いな!
「ちょっと詳しく教えてくれないか?」
「…」
どうする?
素直に話して信じてもらえるのか……?
でも、多分この人は僕の事に気づいてる……
それに、僕はこの人に助けて貰っている。
……うん、大丈夫だ。きっと、何とかなる。
「実は…」
かくかくしかじか……
ーーーーー
「……なるほど。」
「何か……分かったんですか?」
「いや、全然」
「……はぁ?」
ええ?じゃあ何で知っているような口調で『どっかから迷い込んだ』なんて……
「いやー、てっきり違う大陸から迷い込んだもんだと思ってたんだがねぇ。飛行船辺りから落っこちたとか」
「…………」
なんてこった。結局僕が此処に来た理由は分からずじまいか……
「しかし、『ここじゃない世界から来た』か……」
「やっぱり信じてくれませんよね…」
僕だっていきなり異世界から来た。なんて言われても信じないだろうし。
「……いや、信じるよ。」
「ですよね……って、え?」
今、なんて?
「昔、本で読んだが<この世界と違う世界>が繋がる確率とやらは0ではなく、何百、何千年に一回有るか無いか、らしい。薫くんはその繋がりにたまたま巻き込まれた……と、考える。」
「ふむ……?」
「しかし、そうなると……」
「……そうなると?」
「……薫くんはもう元の世界には帰れない。と断言しても良いかも知れない。」
「……そうですか」
……うすうすそんな気はしてたけど、やっぱりなのか。いやしかしそれはそれで……
「……何でちょっと嬉しそうなんだ…?」
「い、いやー、やっぱり僕としては『魔法』とかには憧れがあると言うか、こんな世界で暮らしてみたいとか考えてたりしてたので……」
「……くっ」
「え?」
「あーっはっはっはっ!!」
「ええぇ?」
な、何でそんなに笑われなきゃならないんだ!!
「いやー、面白い。気に入ったよ、薫くん。」
「はぁ、それは、どうも…?」
「いやー、帰れないのを嘆く所か喜ぶとはねぇ……」
「は、ははは…」
「まあ、とりあえず異世界の件はあまり他の奴らに話すなよ。信じてもらえ無いだろうし。」
「あ、はい……」
……そりゃそうだ。そもそも咲さんが信じてくれたのも奇跡みたいな物だし
「とりあえず、零には俺から後で話しとくよ。」
「え、でも……」
「いきなり知らない場所に放り出されて、訳も分からない内に襲われて、疲れてるだろ?」
「……」
確かに、それは有るけども……
「ゆっくり休んでればいいさ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
人の好意には甘えとけって誰かも言ってたし
「いやーしかし、思ったより重要な話になっちゃったなぁ」
「え」
「ここまで大それた話とは思わなかったよ。」
「……じゃあ、何で重要な話だって言って零さんを帰らせたんですか?」
「そりゃあ……」
「それは…?」
「【気配図らし】で驚いてる顔が見たかったからな!」
「………………」
果たして、僕の境遇をこの人に話したのは正解だったのか…?
「とにかく、薫くんはこの世界での始めの1歩を踏み出した訳だ。」
「……ですね。」
「これからよろしくな、薫。」
「……はい!」
まあ、なる様になるよね。頑張ろう……!