天使の羽と羽根
僕の前に天使が舞い降りた。
灰色の世界だったから、羽の色はわかんなかった。
でも、どっちでも良かったんだ。
連れていかれる世界が、
天国でも地獄でも。
今、僕の目の前に広がる
灰色の世界から連れ出してくれるなら。
ごめんなさい、と跪く罪びとを、天使は優しく受け入れた。
跪き、悔悟の涙を流し続ける僕を、天使は掻き抱き口づけた。
掌に感じるぬくもりに、これからの希望といつか来る絶望を覚えた。
羽は、雪白と漆黒に明滅し、
心は、希望と絶望に引き裂かれ、
時は、無常に過ぎていく。
僕に天使の羽は見えなくなった。
数多の色が炫く世界、数多の羽が舞い降りてる。
でも、どっちでも良かったんだ。
白い羽でも黒い羽でも。
いま、僕の目の前に広がる
燦然たる世界へと導いてくれたのだから。
ありがとう、と伝える前に、天使は俗世に融けてった。
僕は気づかぬうちに、天使の両翼をちぎってしまっていた。
掌に残ったのは、哀怨と哀慕、そして一枚の羽根。
羽根をペンに、心をインクにして、
白い紙には、黒いインクを含んだ羽根で
黒い紙には、白いインクを含んだ羽根で
灰燼のごとき言葉を、僕は書き撲っていく。