死、とは。
猫が死んでいた。
会社からの帰り。
私はその小さな背中を見つけた。
こちらに背を向けて、ぴくりとも動かない黒い塊を。
近づいても鳴きもしないそれに、私はしゃがんで、手を合わせた。
「かわいそうに、」
それだけ言うと、私は立ちあがって、再び帰路を歩き始める。
死とはどういうものだったか。
私は家に着くまで、それを考えることにした。
死、とは。
常に、生き物には必ず隣り合わせにあるものである。
一歩間違えればすぐその境界線を越えることができるし、
また、時間がくれば訪れるものでもある。
けれど、
(理不尽なものだな)
私はふと思った。
だってそうだろう、と誰もいない脳内のなか、
誰かに話しかけるように声に出さずに言葉を繋ぐ。
人は、死んだら関係のあるやつらが泣いて、同情して、手厚く葬ってくれるのに、
さっき道端で倒れ死んでいた猫はどうだ。
花すらも手向けられず、ただ同情してもらうだけで、人々は通り過ぎていき、
誰かが連絡して、たぶん業者が来て処分するのだろう。
生まれる場所、存在が違えばすぐこうなる。
もし私が野良猫に生まれていれば、きっと業者に引き渡されていただろう。
しかし、
「私も同罪か」
同罪、というと、重苦しく聞こえるが、
実際そういうものだろう。
同情するだけ同情して、邪魔になれば誰かが処分する。
そう、自分はしない。
誰かがやってくれると無意識に思っている人々は、
そうやって死んでいる生き物の横を平然とおり過ぎていくのだ。
平等であるはずの生き物は、
ニュースで取り上げられたり、誰にも知られないで死んだり、
その横を通り過ぎて行かれたり。
なんて、恐ろしい世界だろう。
死、とは。
あまりに残酷で、虚しく儚いものだと、
小さな背中を振り向きながら、呟いた。