表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

本日も天気が良い様ですが一部は雨みたいです 2

遅くなりましたが、続きです。まだチキンハートなので感想等は受け付けません。

ノックは三回。

でしたよね?

こちらではあまり関係無いのですが、とりあえず僕はノックは三回する事にしています。

はい、という麗しくも可愛らしくも何ともない、楽しみのない声にため息を堪えつつ、ローズマリーです、と答えて入室の許可を貰います。

頑張れ僕。癒しは目の前だ。

当然、どうぞ、との声。

ですよねー、と思いながら格式って面倒とか用心大事とか思いながら扉を開けて入室します。

部屋の中には眉間に皺の寄った美しくも可愛いくも無いつまらないおっさ…素晴らしい、格上の存在の上司様方が椅子に腰掛けたり立ったりしております。

あと、一番奥まっている場所にある木目の美しい机の上にはお猫様。

お猫様です。

伯爵様です。

伯爵様の隣には第一夫人であるエリーザ・アンジェリカ・マートル様が鎮座しておられます。

正嫡であられるエリック様は反対側に。

麗しいです。

陽光に照らされた金色が。

その碧眼が。

大変麗しいのです。

猫伯爵様。

麗しいです。

癒しですね。はい。

癒しですが…僕は猫伯爵様がお仕事をしている姿を見たことがありません。

 ただしサイン替わりの猫の手形を何度か見たことがあります。

 まあ、それが本当に伯爵様のサインかどうかはわかりませんが。

 ですが、今はそんな事は関係ありません。 

「マリーゴールド・ローレル様の書類をお持ちしました。」

 笑顔では差し出しません。

 真顔で差し出します。

 だって、これは領収書とか請求書とかその他諸々なんですよ。

 笑って差し出せるものではありません。

 ドレスとか宝石とか侍女を雇い直した経費とか。

 ばっか高いんですよねー。

 本当にばっか高いんですよ。

 マリーゴールド・ローレル様の侍女、僕の給与より高いんですよ。 

 残業無しなのに。

 残業無しでご飯お風呂毎日入れるのに。

 まあ、大変そうなお仕事ですけどねー。

大変そうでも給料いいし、降嫁した王女様に仕えていた…何て嫁入り先を探すにも次の仕事先を探すにもいい飾りでしょうに。

 でも短期間で辞める人がいる、と。

 あはー。

 どれだけマリーゴールド・ローレル様が…て事ですね。

 人の上に立つには人格…まあ、そう言った素振りは必要なんだと僕は思います。

 僕は、そう思うだけなんですけど、実際今迄仕事して来た中で周りが一生懸命上司を支えようとしている場合、ある程度部下にかっこいい背中見せる必要があるみたいで。

 上があれだと下もあれなんですよね。

 経験上は、ですが。

 それはともかく渡された書類を一番最初に見たのは美しくないおっ…じゃなかった偉い宰相様です。

 その隣には第一夫人であるエリーザ・アンジェリカ・マートル様とその御子息であり後継と確定されているエリック・マートル様。

 この家はマートル伯爵家なので家名だけを名乗るのは成人前ならともかく成人後はマートル伯爵家の後継とマートル家に残ると決めた者のみ。また、このエリック様も若輩ながら有能だと名高いのでここに長く勤めるのはある意味安心と言えます。

 伯爵が猫伯爵様と言われる様になって2年ですが、混乱が生じなかったのはこのエリック様とその母君でありアンジェリカ商会の長であるエリーザ様のお陰であると言っても過言ではないのだそうです。

 純粋な見目ならばマリーゴールド・ローレル様の方が優れており、エリーザ様の顔形姿は飛び抜けて美しいわけではないのですが、没落寸前だったマートル家を伯爵様と共に再興させた功績はこの国中に知られる程の有能さ。息子もそれを継ぐ有能さ。

 その自信と誇り、気概がエリーザ様を美しく魅せているのだと僕は思います。

書類を回されて読みだしたエリーザ様はため息を吐かれました。

「まだこちらに勤めだして短いというのに多忙にさせてごめんなさいね。あなたが一番間違い無く書類を作成してくれるものだからついつい頼ってしまうわね。数字にも強い、書式も強い。アガサ商会にはいい人を紹介して貰ったわ。」

「いえ、私もアガサ会長が辞任する際職探しをせずに助かりました。それにマートル領には興味もあったので。」

「興味?」

「はい。若輩ものながら住まいを転々としておりましたので色々な噂話も聞きました。その時、マートル領は住みよいと。」

 私の言葉に猫伯爵様は僅かに毛に埋もれた口元を綻ばせ、それを見たエリーザ様も満面の笑みを浮かべられました。

「それは嬉しいわ。どんな噂を聞いたの?」

「はい、それは治安の整った商業都市であるから異端の者にも優しい都市だと聞きました。犯罪を犯さなければ流浪の者も元奴隷も出自が知れないものも放逐されたものも暮らして行けるのだと。」

「そうなれば良いと旦那様は頑張られたのよ。だからその噂はとても嬉しいわ。それで、ここに来たあなたは噂との差をどう思っているの?」

 微笑みながらの問いには頑張って答えねばなりませんが、嘘は吐く必要などないでしょう。

「まだこちらに来て短い上に外出をしていないのですが…」

 僕の言葉に申し訳なさそうにするのはエリック様。若さゆえですかね。

「異端の者に完全に優しいというわけではないので勝手に理想郷だと定め定住を決めた人の不満はほうっておくとして、罪を犯したものに厳しいのも良いですね。性犯罪の罪が重いのも他領には無い法律があるのも、女性の地位が比較的高いのも良いです。税金が多少高いのは不満があるでしょうが、収入の三割と決められているのは分かりやすいです。もう少し税金の用途と詳細を明らかにすれば不満も減るのではないでしょうか?個人的には温泉は大事ですね。温泉と食べ物と風光明媚な景色があるのですから観光にも力を入れるべきなのでしょうが治安維持が難しいので観光客は少ないのでしょうかね?まあ、特産物もある事ですし今すぐ観光に力を入れる程ではないのでしょう。」

 考えながら言うのでゆっくりとした口調になってしまう僕の言葉にエリーザ様は真顔で頷く。隣の猫伯爵様はヒゲを僅かに動かし、話し終えると同時にしっぽが机を叩いたのだがあれはどうった意味があるのでしょうか…。ちょっと気になります。それよりも朝日に照らされて金色の毛が益々輝いており麗しいですね。何でなのでしょうか、もふもふの魅力三割増です。まあ、うちの縞君、蓬君、山葵ちゃんのもふもふっぷりも大変に麗しいし、癒されるのですがね。特に蓬君。ああ、考えていたら蓬君に会いたくなってきました。縞君は連れてこれるしお仕事手伝ってくれるから一緒に出勤出来るのですが、家事その他を任せている蓬君と自由奔放で腕の立ちお仕事を頑張ってくれている山葵ちゃんとはもう何日も会っていいないので益々会いたくなってきました。特に蓬君は大きな体に優しい心を持った癒し系なので…癒されたいです。

 目の前でエリーザ様やエリック様、上司が何か話していますが、目の前をスルーしていきます。早く退出できませんかねぇ。いい加減帰りたいですし。もう何日帰れていないか目の前の高貴な方々は分かっていないのでしょうね。正直こんな激務が続くなら辞表書いて帰りたいですね。とりあえず当座のお金はあるのでなんとかなりますし、別の所に行ってもいいですし…この国の中でももう少し南も方もいいかもしれない…と考えながら直立していますと、やっと上司がこちらを向きました。

「観光促進はすべきだと君は考えているのかね?」

「そうですね…ある程度はそうですが、必要ないとも言えます。この領土は観光以外でも成り立つでしょうから。あと観光で成り立つには警備費用、法改正、地下社会への配慮、娼館等の取締など面倒な事が目白押しでしょうね。」

 いい加減眠気が限界なので口元さえもあまり動いていない気がしますが、一応頑張って答えます。

 上司はふむ、と頷き下を向いております。

 いい加減帰りたいのですがね。

 沈黙は金、沈黙は金と自分に唱えておりますがいい加減我慢というか睡眠欲を抑えるのが限界といいますか…。

「あの、もう、宜しいでしょうか?」

 上司が顔を上げてこちらをみますが、そんな顔を見せられても心は潤いません。せめてこの中でなら猫伯爵様がこちらを向いてくれれば良いのに。

「ああ、ご苦労下がりなさい。」

 僕は、言質はとったとは言わずに言われた瞬間言葉を返す。

「では僕は三日こちらに徹夜でしたので明日は休ませていただきます。」

 頭を下げると誰かの口が開く前に素早く、そう、まるで忍者の様に、滑り込むようにドアの外へと出てから小走り、いえ僕なりの全速力で仕事の部屋へと戻り、何かぶたご…誰かの叫ぶ声を無視して既に纏めていた荷物と縞君を片手に走り続けて屋敷入口玄関まで走り抜ける。

 目の前にはエマさんがいたので、お疲れ様でした!と叫ぶとエマさんは素早く左手を上げて応えてくれる。流石です、空気読める人は人生いい感じで歩めますよ!

 そうして外に出ると用意しておいた仕掛けの紐を思い切り引っ張り大きな水音とぶたの叫び声を聞いてから再び今度は厩まで走りました。

 目指すは我が家です。

 お風呂、ご飯、睡眠、蓬君、山葵ちゃん!


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ