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帝国士官冒険者となりて異世界を歩く  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
俺が大陸から異世界に流れる事までの話
9/82

昭和十七年三月十八日 福岡県 秋月

 ある日、村に銀髪で褐色肌の耳の長い女性がやってきました。

 軍服を着た長い耳の女性は村長と話をし、たくさんのお金を払って村の外れの荒地をもらう事になりました。


「ここに森を作るの」


 何をするかと聞かれた女性はそう答えました。

 トラックが数台やってきて、苗木を植え、夜でも明々と灯りをつけて荒地に沢山の苗を植えました。


「お願いがあります。

 聞いてくれたらその分だけお金も払います。

 決して、森に入らないでくださいね」


 苗木を植えた女性は、そう言って更にお金を村長に払って去っていきました。 村長ははなから女性の頼みを聞くつもりはありませんでした。


「彼女の植えた苗木を刈って薪にしよう」


 そう言って、男の人と共に彼女の植えた苗木を刈りに外れの荒地に向かいました。

 そして、誰も帰ってきませんでした。

 次の日、村の者が心配になって見に行くと、衣服や鉈だけが荒地の外れに落ちていました。

 男の人が誰もいなくなったので村はだんだん生活が苦しくなっていきました。 森は村の生活が苦しくなるのなど構わずどんどん大きくなっていきます。


「あの森を刈って畑にしよう。

 あれだけ森が大きくなったのだ。

 豊かな土があるに違いない」


 新しい女村長はそう言い、女の人を連れて森に行きました。

 そして、誰も帰ってきませんでした。

 次の日、村の者が心配になって見に行くと、衣服や鉈だけが荒地の外れに落ちていました。

 女の人もいなくなったので、残された子供達は更に苦しい生活をしなければならなくなりました。

 森は更に大きくなっておいしそうな実をつけています。


「あの森の実を食べて生きていこう」


 子供達の一人がそういい、子供達を連れて森に行きました。

 そして、誰も帰ってきませんでした。

 森はそのまま大きくなり、動物達の住む楽園となったそうです。


--大陸で流行した御伽噺より--



 ある日、銀髪で褐色肌の耳の長い女性がやってきました。

 軍服を着た長い耳の女性は村長と話をし、たくさんのお金を払って村の外れの荒地をもらう事になりました。


「ここに森を作るの」


 何をするかと聞かれた女性はそう答えました。

 トラックが数台やってきて、苗木を植え、夜でも明々と灯りをつけて荒地に沢山の苗を植えました。


「お願いがあります。

 聞いてくれたらその分だけお金も払います。

 決して、森に入らないでくださいね」


 苗木を植えた女性は、そう言って更にお金を村長に払って去っていきました。 村長は村人に、


「入っちゃなんねぇだ」


と言いました。

 ほとんどの村人が村長のいいつけを守りましたが、意地悪太郎が、


「そんなん守らんで薪にするべ」


 と言って森に入っていきましたが、意地悪太郎は帰ってきませんでした。

 次の日、村の者が心配になって見に行くと、意地悪太郎の衣服や鉈だけが荒地の外れに落ちていました。


「森の神様が怒ったっぺ」


 村人達は恐れおののいて、もらったお金で村と森の境目に社を作り、ねんころに祭る事にしました。

 十年が過ぎました。

 森は大きくなり、豊かな水を村にもたらし、冬の北風を防いでくれました。

 二十年が過ぎました。

 森は更に大きくなり、鹿や猪が住み着くようになりました。

 けど、鹿も猪も森の中だけで生活できるのか村に悪さをするという事はありませんでした。

 三十年が過ぎました。

 国全体で「工業化」という波が押し寄せ、若い者が皆街に行ってしまいました。

 森はさらに大きくなり、恵みを村に与えているのにもうその恵みは村人だけでは使えなくなっていました。

 四十年が過ぎました。

 高く、深く、神々しい森が村を見下ろしています。

 森の近くからは温泉も湧き出て、村人達の疲れを癒してくれます。

 村にいるのは年を取った者達と幼い子供だけで、大人たちは皆街に働きに行っています。

 ただの言い伝えですが、それでも誰も森に入ろうとはしませんでした。

 そして五十年が過ぎたある日、森の中から金髪白肌の耳の長い巫女さんが現れてこう言いました。


「ありがとう。

 今まで森に入らずにいてくれて。

 お礼に何か贈り物をしたいのですが?」


 残っていたお年寄りが弱々しく口を開きました。


「ワシ等はこの森の恵みで生きていけるだ。

 お礼を言うのはこっちの方だよ。

 ただ、神様をお祭りするのにもうこの村には人がいないだ。

 神様を代々祭る為にこの村に人が帰るようにしてくれたらと」


 金髪の長い耳の巫女さんはその老人の願いを叶えてあげました。

 村に残った若い者、村出身の若い者達を社に呼んでこう言いました。


「この村に人が残るように、

 子達もその子達も森を守る為に協力していただけませんか?」


 そう言って、金髪の長い耳の巫女さんは巫女服を脱いで……


 その後、この村は森と温泉と共に栄え、改築された社には多くの耳の長い巫女さん達が日々森の為に祈っているそうです。


--日本の田舎のむかし話より--



 上海から長崎まで船でおよそ二日。

 長崎での停泊は三日あるというので、俺は故郷らしき場所に行ってみる事にした。

 長崎本選から鳥栖を経由し、できたばかりの甘木線へと乗り継いで、さらに乗合バスに揺られて着いたのは山の中。


「ここが、あなたの故郷?」


 上海の摩天楼や大陸の地平線を見慣れていたマダムには、この緑の山々は興奮に値するものだったのだろう。

 ヴァハ特務大尉も同じだったらしい。

 仕事の顔を忘れて、周囲の緑を見つけて喜んでいる。

 何でも、彼女たちの種族は森に住んでいたのだが、その森を追われた為に新たな森を探して放浪し迫害を受けていたという。

 そして、その森を帝国が与えることを約束し、彼女たちは帝国に組み込まれたのだ。

 この二人が何でついてきたのかいまいち分からないのだが。


「正確には爺さんの故郷だな。

 福岡県、秋月。

 爺さんはこの山の中で侍をやっていたそうだ」


 眼鏡橋をマダムとヴァハ特務大尉を連れて歩く。

 筑前の片田舎で、銀髪・褐色肌・長耳で巫女服を着て歩く極上美と、東洋の魔都にて洗練されたモダンガールであるマダムを引き連れるのだから目立つ事夥しい。

 こんな目立つ里帰りをするつもりは無かったのだか。


「あんた、観光かい?」 


 ほら、警戒されて警官がやってくる。

 こういう時に、見た目が日本人でないヴァハ特務大尉が説明をすると大体ややこしくなる。

 私服から軍隊手帳を取り出して理由を大雑把にでっちあげる。


「おつとめご苦労様です。

 自分は私服勤務中で、こちらの神祇院のお偉いさんの護衛任務についている者です」


「おや、陸軍さんだったか。

 こりゃ失礼。

 じゃあ太刀洗の基地の人かい?」


 こんなときの嘘は、相手に合わせつつこちらの情報を小出しに、そして嘘ではないが真実でもない事を堂々と言うのが肝心である。


「正確には、これからお世話になる予定で。

 大陸帰りでね。

 長崎からあがったばかりなんだ」


 詳しく手帳を見られたらばれる嘘なので、手帳をポケットにしまいながら笑みを浮かべて話をヴァハ特務大尉に振る。


「はい。

 内務省神祇院巫女局の者で、所用でこちらに来た次第」


 ヴァハ特務大尉が俺の口車に乗る。

 警察の所轄官庁は内務省。

 見た目日本人ではないが、この場合、人種より組織が勝つのが日本人。

 その組織の高官らしい人物が、護衛に陸軍中尉を連れて歩いている。

 俺の予想通り、警官はとたんに態度を変えた。


「それは失礼しました。

 何か御用がありましたら交番のほうに」


 すまじきは宮仕え。

 ため息をついて坂道を登る。


「あまり長居はできませんね。

 所用があるのでしたら早く済ませていただけると助かります」


 目立つ二人が居なかったら、長居できたのだがという言葉を飲み込んで城跡にたどり着く。

 その前の馬場はおりからの暖冬によって桜が満開だった。


「綺麗……」

「本当ですね……」


 美女二人が花吹雪の中で微笑む。

 なんて絵になるのだろう。

 そして、なんで俺の爺さんはこの場所を捨てたくせに信念を貫けなかったのだろう?


「俺の爺様がここで侍をしていたのは話したよな。

 その爺様がここを出て行ったのは、時の政府に逆らって逃げ出したからなのさ」


 秋月の乱と呼ばれるそれは明治維新後に士族が起こした反乱の一つで、最後は西南戦争という大規模反乱となったが鎮圧されて帝国は近代国家の道を歩む事になる。


「爺さんは乱鎮圧後に名を変えて東京で暮らし、そこそこ成功したらしい。

 でも、逃亡の結果、元の名前は断絶。

 その事を最後まで悔やんでいたらしい。

 俺が士官学校に送り込まれた理由の一つがそれさ」


 俺の呟きにマダムが背中から抱きついて尋ねる。

 わざと豊満な胸を押し付けるあたりあざとい。


「じゃあ、ほかの理由もあるって言うの?」

「まぁ、女にも色々あるとおり、男にも色々あるのさ。

 行こうか。

 爺様への義理立ても済んだ」


 そう言って、来た道を帰ろうとする。


「なぁ、そこの別嬪さん!

 良かったら見ていかないかい?」 


 坂道の途中にある骨董品店で店番をしていた若者から声をかけられる。

 間違いなく、二人に声をかける事が狙いだろう。


「あら、うれしいわ。

 何かいいものがあるのかしら?」


 マダムはそのあたりの男のあしらい方が物凄く上手い。

 適当に若者に相槌をうって中に飾っている骨董品を眺めてゆく。

 買う気はないが、こうやって一緒に買い物をするのが、女の楽しみらしい。

 付き合う男はたまったものではないが。


「ん?

 これは……」


 店に飾っていた一振りの刀に目が行く。


「旦那。

 いい物に目をつけたね。

 それ虎徹ですよ。虎徹。

 昔、ここであった士族の反乱で没落した家の質流れ品で」


 若者の声を聞かずに手にとって刀を抜いてみる。

 下の脇差しも手にとって見るが、虎徹は偽者が非常に多く俺には偽者かどうか分かる訳がない。


「あ、これいい!」


 マダムは飾っていた簪に興味を引かれたらしい。


「じゃあ、買うか。

 二つ頼む。

 いくらだ?」


 まったく蚊帳の外だったヴァハ特務大尉の分も入れたので、彼女自身仕事を忘れてきょとんとしている。

 このあたりの機微もマダムの教育の賜物である。


「二つで五十円?

 じゃあ、その虎徹とやらも買うから、百円?

 まけなさいよぉ……」


 あ、俺が適当に手を取った虎徹も買われるらしい。

 マダムの奮闘の結果、簪に櫛、ついでに本物かどうか分からない虎徹の大小までついてしめて八十円の支払いとなった。

 高いのやら、安いのやら。



 今日中に長崎に戻れないので、近くの原鶴温泉にて一泊。

 大刀洗飛行場という陸軍の拠点がある事から、ここでは陸軍はお得意様である。

 一番高い宿の一番高い部屋に泊まり、のんびりと湯につかる。

 当たり前のようにマダムとヴァハ特務大尉が入っているのはもうなれた。

 便利である。人払いの結界。


「いいお湯ね。

 体が温まるわ」


 タオルで体を隠す事無く湯につかるから、二人の豊満な胸が湯に浮かんでいる。

 二人のものは見慣れたものではあるが、やはり男としてちらちら見てしまう訳で。


「何見ているのよ。

 散々見て触り倒したじゃないの」 


 湯で赤くなった顔を緩めてマダムが笑う。


「私は見られたのは二回ぐらいですが」


 淡々とヴァハ特務大尉がばらすが、まぁ、据え膳食わぬは……という事で、一・二回ほどヴァハ特務大尉の体は味わっていたりするのだが、やばい。

 マダムの妖艶さとは違う、はまったら抜け出せない魔性のものを感じる。

 特務機関の人間というのもある意味納得してしまう。

 マタ・ハリなんてのが前の戦争で活躍したぐらいだから、この戦争でもそういう人間が要るだろうとは思ったがそれが目の前にいると困る。

 そして、俺は成り行き上、国家機密を知ってしまった人間な訳で、色仕掛けを仕掛けられているのかもと考えると慎重にならざるを得ない。

 という訳で、実は上海からの船から個室に篭って現在禁色中だったりするので、目の毒だったりする。


「ふーん。

 で、彼女と私、どっちが良かった?」


 マダムの質問に、俺は黙秘する事を選んだ。

 だが、勘違いした旅館の女中の罠によって、湯から出て部屋に戻ると布団が三つ並べられていた。


「邪魔よ。

 早く入りなさいよ」 


 後ろには、湯上り浴衣姿のマダムとヴァハ特務大尉の二人。

 湯上り後に髪を風の魔法で乾燥させて整えたそうで、買ったばかりの簪と櫛が髪に輝いている。


「いや、布団が並べられていたから女中を呼んで離してもらおうと……」


 そう言って、部屋を出ようとする俺の両手をマダムとヴァハ特務大尉がそれぞれ掴む。


「これでも、殿方を喜ばす術は長けていると自負しているつもりですが、中尉は何故か避けている様子。

 よろしければ理由をお聞かせ願いたいのですが?」


 これは天然なのか?

 それとも策なのか?


「あのさ。

 私に気を使ってくれるのはありがたいのよ。

 だけど、私は男を他の女に取られて嫉妬するほど安い女じゃないの!」


 いやまて。マダム。

 その怒りはちょっと理不尽ではないだろうか?

 それを口にするのはやばいと本能で感じた。

 というか、二人の笑顔が怖い。

 湯気ではない色気がほのかどころではなく、だだ漏れで浴衣から溢れているのですが。

 で、どうして二人は互いの顔を見なくて笑みを浮かべているのだろう?


「いや待て。

 俺の体は一つしか無い訳で」


 俺の最後の抵抗も ヴァハ特務大尉がぽんと叩いた手によって阻まれる。


「なら、三人ですればいいのでは?」

「え?いいの?」


 この時、俺は確信した。

 ヴァハ特務大尉は天然で、マダムは確信犯だと。



「あら、こっちのお弁当シューマイなのね?」

「マダムのお弁当も、かしわめしでおいそうですよ」

「いやぁねぇ。

 マダムなんてかたばった呼び名しないでよ。ヴァハちゃん。

 姉妹の契りをした仲じゃないの」

「ありがとうございます。春麗さん」

「……」

「もぐもぐ……どうしたの?

 食べないの?」

「ぱくぱく……美味なので冷めないうちに召し上がった方がよろしいかと」

 二人の仲よさそうな声を聞きながら、二人の姉妹の契りの杯代わりに使われた俺は、宿を出る直前まで二人に搾り取られ、二人の姦しい声を子守唄に長崎までの旅に眠る事を決意した。

 そして、帝亜丸に戻り、船は逃げ場が無いと悟るのはその日の夜の事である。

主人公の過去回。

真面目に作ったら爺様からの話になった罠。

異世界に向かう前に刀を買わせたかっただけだったのに、話が膨らむ膨らむ。

なお、秋月の桜は今が見ごろだそうです。

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