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永田町大走査線 その一

 襲撃場所がおよそ特定できたので、今度はそこから襲撃部隊の状況を想定する。


「皇居から、赤坂御所にかけて黒長耳族が地下通路を作っています。

 他にもいくつかの地下通路を依頼されて作ったと」


 ボルマナの説明を聞きながら地図にいくつかの線が引かれた永田町を眺める。

 皇居と赤坂御所の線はどこにも繋がっていないが、官邸の敷地からは地下鉄赤坂見附駅まで地下道が繋がっており、警視庁からは国会議事堂経由で首相官邸の方に地下道が伸びていた。

 よく見るとトンネルは陸軍施設には繋がっていない。

 いかに、二・二六事件での不信が大きいか、いや、東条総理が陸軍を信頼していないし、信頼されていない証拠だろう。


「この手のやつって、逃げ道を逆手に使われて襲撃されるのがよくあるのよねー」 


 ベルの言葉にはしたのかされたのかその両方か分からないが実感がこもっていた。

 その言葉にめずらしくリールが賛同する。


「ですね。

 信頼できる者がいない以上、この通路もばれているかと」


 場所が場所だけに、襲撃する場合一番手っ取り早いのは警官になりすます事。

 バックにかなりの大物がいる以上、可能性はあるものと考えたほうがいいだろう。


「襲撃は起こす事が大事であって、対象の生死はこだわらないのかもしれないな。

 そうなると、地下道でかれらを抑える必要がある」


 俺の言葉にアニスは質問をなげる。


「地上を通ってくる可能性は?」

「特高に黒長耳族もいる。

 少数とはいえ、ぬけるのは難しいと思う。

 下手すれば陽動に他所で騒動を起こされるかもしれない」


 考えれば考えるほど最適解が見つからない。

 総理は投票前に皇居に参内する事になっている。

 狙うのはそこの行き帰りだろう。

 首相官邸のルートはさすがに使わないだろう。

 そうなれば、ルートはおのずと一つに絞られる。


「おそらく、赤坂見附駅から地下道に潜るつもりだろう。

 出口は三宅坂の参謀本部地下。

 大物が絡んでいる以上、そのあたりはどうにでもなるだろう。

 ここから桜田門は目と鼻の先だ」


 内海審議官からもらってきた永田町周辺の地図を眺めていたベルが猫耳をぴんと立てて一枚の地図に気づく。


「ねぇ。

 これ繋がってないの?」


 差し出したのは地下鉄丸の内線の計画で、獣耳族の協力で赤坂見附駅周辺から分岐してトンネルが作られる工事が記載されていた。

 その結果、国会議事堂あたりまでトンネルが掘られていた。


「これは迷宮ですね……」


 とリールが嘆くのも無理はない。

 赤坂見附から国会議事堂あたりがトンネルでつながり、秘密通路も入れれば、皇居、赤坂御所、参謀本部まで視野に入ってしまうからだ。

 帝都の地下にこれほどの大迷宮が存在するとは思っていなかった。


「これ、つれてきた人たちで足りるの?」


 アニスの淡々とした質問に俺は首を横に振った。


「赤坂見附駅に司令部を置こう。

 動かせるのは二個小隊だから、一個小隊を赤坂見附駅に、もう一個小隊はこの建設途中のトンネルに配備する。

 ここが防衛線だ」

「他の場所からこられたら?」


 リールの質問に俺は渋い顔をする。

 特にやっかいだったのが日比谷公園で、選挙に合わせて大陸浪人や社会主義者、英独の支持者達が集まっては集会を開いており、警視庁もその動向に神経をとがらせていたのだった。

 日比谷公園と桜田門は目と鼻の先で、しかも総理が参内する為に通る祝田橋交差点は日比谷公園の隣にある。


「当日は特別警備隊を投入して、日比谷公園の群集を完全に排除するつもりらしい。

 うまく行けばいいが、ここで騒動が広がったら他の場所がおろそかになりかねない。

 特に、俺たちが陣取るこの裏手はね」


 もう一つ楽観的に考えた事として、桜田門側に迂回できるという点があり、それも襲撃ポイントとして対象の動向が確実に分かるという襲撃者側からの利点になっていた。

 とはいえ、これは賭けである。

 総理の身はどうであれ、襲撃事件そのものが発生したら政治的波及がはじまってしまう。

 だからこそ、襲撃が発生しないように事を収める必要がある。

 そして、日比谷公園の方は俺達で抑えきれる規模ではない。


「あとは……勘だな。

 片桐少尉とは長い付き合いだ。

 色々教えてもらったけど、あの人は正面から攻める人じゃないよ」


 匪賊から鉄道を防衛する際、匪賊の機動力に手を焼いたからこそ、鉄道傍の要地に陣を敷いて待ち構える作戦を多用した。

 動きがつかめない敵を相手にする場合、確実に敵の位置が分かる所で仕掛けろは片桐少尉から教えてもらった事だ。


「ご主人様に接触してきたあの方々は?」


 リールが言っているのは特高の事だろうが、彼らはこの手の実行戦力を持っていない。

 片桐少尉たちの襲撃犯が少数だろうから動くならば話は別だろうが、


「リールが腰ふっている時にベルが横から乗り出したら?」

「排除します。

 なるほど。そこの発情猫に取られるのは気分が悪いですね」

「ちょっと、ご主人!

 そのたとえはひどくない!!」


 ベルの抗議を無視してリールが納得する。

 これが、特高だけでなく警視庁や陸軍すら完全に信用できない最大の理由である。

 それぞれの組織がそれぞれの勝利を狙って動いているから、連携が取れる訳がない。

 しかも、国政に重大な影響を与える選挙後の襲撃事件。

 影響が計り知れないからこそ、誰もが思い切った手を打てずに居る。

 で、そんな中他の組織を出し抜いて総取りを狙おうとするのだから、内海審議官もかなりの悪党である。


「移動は前に移動したとおり船で浅草まで出て、そこから地下鉄で赤坂見附駅に移動する。

 営団の方には内海審議官が話を通しているので、これから交替であの周囲を警備する。

 地理感覚を早めに掴んでおくんだ」


 俺が続きを話す前に扉がノックされ、特高の刑事を名乗った男が待っている事を伝えてきたのである。


「ようこそいらっしゃいました。

 さすが特高ですね。

 この場所は多くの人間には教えていないのですが」

「仕事柄、人探しは得意でしてね。

 ましてや、あれだけ大っぴらに動いているのですから、探してくれと言っているようなものでしょう」


 メイドとしてお茶をリールが出しながら、そのまま部屋の端に控える。

 ベルとボルマナは周囲を警戒した結果、遠くから監視している怪しい人間を四人ほど発見している。

 アニスはこういう時動かないが、だからと言って仕事をしない訳ではない。

 部屋全体に魔法をかけて音が漏れないようにしている。


「そろそろ仕事の話をしましょうか。

 我々に接触してきた理由は?」

「警戒しないでくださいという方が無理でしょうな。

 我々も事態を穏便に解決したいと思っており、情報の提供をしたいと思っているのです。

 同時に、現場でのライン確保で余計な混乱を起こしたくない。

 それが今回の訪問の理由です」


 互いにお茶を飲み干した後、俺が口を開いた。


「確認したいことがあります。

 我々は内海審議官の命を受けて、神祇院いや、内務省の者として動いております。

 同じ内務省として協力は惜しまないつもりですが、何故特高が我々まで手を差し伸べるのですか?」


 正確には神祇院だが、あえて上位組織の内務省の名前を出して来訪の真意を探る。

 刑事はゆっくりと煙草を取り出して紫煙を部屋に漂わせた。


「我々はある組織の内偵を進めています。

 国粋主義者や陸軍軍人、独逸関係者に財閥や政治家等の寄り合い所帯なんですが、戦争回避後、混迷を続ける欧州・大陸情勢において動員解除に走るこの国に危機感を抱いて、政治的茶番劇を思いついた。

 それによって一気に国防意識を高め、バスに乗り遅れるなと戦争に参加を目指す……まぁ、そんな連中の集まりなんですが、竜神様の降臨前に大失態をやらかしましてね。

 現総理が未だ総理の椅子にしがみついていられる理由の一つです」


 そういって、刑事は一枚の写真を取り出す。

 外人である事は分かるのだが、どこの国の人間かまでは分からなかった。


「リヒャルト・ゾルゲ。

 独逸大使の友人であり、近衛政権の側近尾崎秀実と共に、ソ連のスパイ。

 彼らと接触した政財界関係者は数知れず、軍内部も神祇院の監査と共に調査中。

 ようやく組織の全容がわかってきだしたのですが、この一件で彼らの組織は壊滅的打撃を受け、はねっかえりがどう動くか分からない。

 そういう事で手打ちがすんでいると」


 その言葉を聞いた時の俺の感情を言葉にする事ができない。

 片桐少尉達をはねっかえりとして切り捨てた彼らへの怒りか、その彼らを手玉にとってこの国を戦争に導こうとしたスパイへの怒りなのか、片桐少尉を止める役目に異世界島流しを食らった俺が選ばれた事に対する運命への怒りか。

 とにかく、怒りで言葉が出なかったことは間違いない。

 湯飲みの中にお茶がない事に気づかずに湯飲みを傾け、それを置いてしばらくしてからやっと俺は赤坂見附、溜池山王両駅への警備とその協力を求め、向こうは了解したのだった。


 翌日。

 世界が竜によってまた動いたなんて知らない俺は早朝から叩き起こされて、神祇院に出頭を命じられると、いつもの沈着冷静な顔すら失っている内海審議官が外電の束をさしだして、重々しくこう告げたのだった。


「確定情報だ。

 ハワイの竜によって、サンフランシスコが爆撃された。

 被害は未定だが、金門橋が竜によって落とされたそうだ」

溜池山王駅はまだこの時期できていなかったので、そのあたりの文章を修正。

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